STEP

インタビュー

社会を変えるリーダー

キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎氏

  • 公開日:2020/08/24
  • 更新日:2024/03/26
キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎氏

国内だけで120兆円もの規模があるにもかかわらず、100年以上イノベーションから取り残されていたのが製造業の「調達」だ。なかでもキャディが手がけるのは、少量多品種の直接材。発注者・受注者の双方が抱える課題を、画期的なプラットホームで解決する。キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎氏にお話を伺った。

2017年11月創業 製造業・調達分野のイノベーション
約300の町工場をネットワーク化
影響力の大きなフィールドで起業したい
「目線を上げろ」と言われ続けた
目指す頂を全員で共有する

2017年11月創業 製造業・調達分野のイノベーション

江戸時代、幕府の米蔵があったことにちなんでその名がついたという台東区蔵前。昔ながらの問屋街でもあるこの街には、今なお多くの職人が暮らしている。近くを隅田川が流れ、その向こうには東京スカイツリーが見える。倉庫をリノベーションしたカフェや雑貨店も立ち並び、近年は「東京のブルックリン」とも呼ばれている。

そんな伝統とモダンが共存する下町に東京本社を構えるのが、キャディだ。2017年11月に創業したばかりの注目のベンチャー企業である。

製造業の工程は大きく、「設計」「調達」「製造」「販売」の4つに分けられる。「このうち調達は日本で120兆円くらいの規模があるにもかかわらず、100年以上イノベーションが起きていない分野でした」と、代表取締役の加藤勇志郎氏は語る。

キャディはこの未開拓の分野にテクノロジーを持ち込み、これまでにない画期的な受発注プラットホームを作った。

「扱っているのは、少量多品種の直接材です。具体的には、産業用機械や飛行機・電車・船などの輸送機器に使用する金属加工品など。電車を例にとると、1両あたり約3万点の部品が使用されています。そのほとんどは特注品で、メーカーは毎回、つきあいのある町工場に相見積もりをとり、条件の合う工場を選んで発注をかけていました」

3万点もの部品に関して複数の見積もりをとり、最適な加工会社を選択するのはほぼ不可能だろう。しかしキャディのシステムを使えば、それが一瞬でできてしまうという。いったいどういう仕組みなのだろうか──。

約300の町工場をネットワーク化

キャディは全国の加工会社から設備や人員などに関するデータを集め、ヒアリングをし、取引の実績も加味しながら、どの工場にどんな機械があり、何をどれくらいのスピードと品質で作れるかをデータベース化している。町工場に部品を発注したいメーカーは、キャディのシステムに図面データなどをアップロード。すると機械が自動で見積もりを計算し、最適な工場を選び出してくれる。

「キャディの名前で見積もりを出し、契約が成立すればキャディの名前で町工場に発注をかけ、最終的な品質の責任もキャディが負います。部品ごとの原価を把握しているため、赤字発注はしません。部品を加工する町工場は下請けではなく、パートナーという位置づけです」

取引のある企業数は、発注者側が約5000社で受注者側が約300社。システムの利用料はとらず、発注者に提示した金額とパートナーである町工場から部品を仕入れた差額を、マージンとして得ている。

全国にある町工場は、板金だけで2万社にも上るという。発注者側にとっては調達にかかる業務を効率化できるほか、より多くの候補から最適な工場を見つけ出せるため、結果的に調達コストも下がるなどのメリットがある。そればかりではない。「従来の仕組みは受注者側にとっても、負の側面が大きかった」と加藤氏は語る。

小規模事業者が多い町工場では売上を1社に依存するケースも多く、経営が不安定。取引先から言われたものをすべてこなそうとするため、必ずしも自分たちの得意なものを作っているとは限らなかった。

「町工場の9割は、従業員9人以下です。多くは営業を終えた後、社長自身が夜遅くまでかけて見積もりを作成していますが、ほとんどが相見積もりのため、実際に受注につながるのは2割程度しかありません。キャディのシステムを使えば無駄な見積もりに費やす時間を有効活用できるほか、少ない取引先に依存しすぎることもなく、得意な部品の加工に特化できます」

影響力の大きなフィールドで起業したい

根っからの社会起業家とは少し違う。中学高校時代は、勉強そっちのけで音楽に熱中していたこともある。レーベルに所属したりCDも出したりするほどだったが、東京大学に入るための受験勉強に集中するうちに、音楽への熱は冷めていった。

「人を動かす力があるという意味で、音楽には魅力を感じていました。ただし、向き不向きでいえばビジネスの方が向いているとは思います」

大学へ入るとスタートアップでインターンシップをしたり、自分で事業を起こしたりするなど、ビジネスの魅力に取りつかれていった。

「音楽は一芸の世界。平均して90点とれる人よりも、どこかで900点、1000点とれる人がブレークスルーする。一方でビジネスは総合格闘技に近く、売る力や作る力などさまざまな力が必要で、それを組織的に解決していくのが面白いと感じました」

どうせビジネスをするのなら、より多くの人が困っている課題で、かつその人の経営や人生に関わるような深い課題、この2つが関係するマーケットで仕事をしたかった。結果的にそれは社会課題と呼ばれるが、そのような課題を解決したくて起業したというよりも、「変えたことによるインパクトがより大きなフィールドで仕事をしたい」という気持ちの方が強かった。

学生時代の加藤氏には、それがどんなフィールドなのかまでは分からなかった。産業をもっと深く知らなくてはと思い、2014年、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職した。

「目線を上げろ」と言われ続けた

マッキンゼーに入社した時点で、決めていたことがある。それは「3年でインパクトを出し、辞めても誰もが称賛してくれる人になる」ということ。さまざまな業界の戦略やセールスなども見た上で、やはり調達が一番の大きな課題だと感じた。金額の規模が大きく、課題がグローバルで共通しているのも、この分野で起業しようと決めた理由だ。

グローバルなチームで動いた経験は、今も生きている。あるプロジェクトにアサインされた際、リーダーの1人は、スタンフォード大学時代に大統領のゴーストライターをやっていた人物だった。もう1人は、アメリカ海軍の特殊部隊のマネジャーをやっていた人物。

「とにかく目線を上げろ、とひたすら言われ続けました。ゴーストライターは、大統領になったつもりで書く。海軍のマネジャーだった人には、よく車を例に出して、『ドライバーはお前だ』と言われました。『助手席に座っているんじゃない!』と」

徹底して叩き込まれたのは、2つ上の目線をもつことだ。

「会社を経営するようになってからも、このことは常に意識しています。50人、100人規模の会社でも、500人、1000人の組織を動かすつもりで、経営者としてどう意思決定するかを考える」

強烈な2人のリーダーに鍛えられ、入社2年半でマネジャーに昇進。日本・中国・アメリカ・オランダなど、グローバルな領域で多方面から製造業を支援するプロジェクトをリードし、3年半でマッキンゼーを退社した。

目指す頂を全員で共有する

創業から3年目を迎え、キャディは現在、50人規模から100人規模の会社へ成長しようとしている。「組織マネジメントは、コンサルティング会社にいてもなかなか学べないことの1つだ」と言う。大事にしているのは、目指す頂を全員で共有すること。スキルがあっても、目指す頂を共有できない人は採用しない。

「キャディが目指す10年後、30年後と社員が目指す10年後、30年後をすり合わせたときに、将来こうなっていたいから逆算して今これをやっているというのが見えるようにしたい。目の前のことに力を注いでいても、それが何につながっているのかが分からないと、何のために仕事をしているのか分からなくなってしまいます。先々の視点をもてる活動を積極的にしていますし、中間層のリーダーにもそれは大事にしてもらっています」

事業を成長させるには尖った人材が必要だ。一方で、尖った人材を集めると組織がバラバラになってしまいがち。尖った人材を集めつつ組織としての一体感をもって進むためには目指す頂を全員で共有することが重要であり、それがあると組織のマネジメントはしやすくなる、と感じている。

「学生時代にアイスホッケー部の副将をしていました。体育会の目標はシンプルで、優勝することです。ただし試合に勝つことがすべてではない。何のためにチームに所属しているのかの理由は、人それぞれ違います。優勝したくてここにいるのか、心身を鍛えたいのか、ただ単にアイスホッケーが好きなのか、仲間と一緒にいるのが楽しいのか。メンバーから話を聞き、それに合わせてできるだけ個別に対応することを心がけていました」

ビジネスも同じだ。売上や利益を上げることは大事だが、それがすべてではないだろう。会社のミッションと自分が本当に成し遂げたいことが紐付いたとき、人はもてる力を十分に発揮できる。モノづくり産業のポテンシャルを解放するという壮大なミッションを実現するため、加藤氏は社員や取引先に夢を語り続ける。

【text :曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 連載「Message from TOP 社会を変えるリーダー」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
加藤 勇志郎(かとう ゆうしろう)氏
キャディ株式会社 代表取締役

1991年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、2014年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2016年、マネジャーに就任。日本・中国・アメリカ・オランダなどグローバルで製造業企業を支援するプロジェクトをリード。2017年11月、キャディを創業。

SHARE

コラム一覧へ戻る

おすすめコラム

Column

関連する
無料オンラインセミナー

Online seminar

サービスを
ご検討中のお客様へ

電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付/8:30~18:00/月~金(祝祭日を除く)
※お急ぎでなければWEBからお問い合わせください
※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください

SPI・NMAT・JMATの
お問い合わせ
0120-314-855

受付/10:00~17:00/月~金(祝祭日を除く)

facebook
x