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THEME マネジメント/リーダーシップ

インタビュー東京都立大学 高尾義明氏

自分なりの意志で上や周りを動かせるマネジャーになろう

これからのミドル・マネジャーの役割を考える上で、組織における相互作用の観点は外せない。そこで、経営組織論に詳しい東京都立大学の高尾義明氏に、現代日本のミドル・マネジャーはどのような状態にあるか、今後どう変わっていけばよいか、といったことを伺った。

ミドル・アップダウン・マネジメントのすすめ

先日、イノベーションをめぐるディスカッションの場で、次のような話になりました。「今こそ、日本のミドル・マネジャーは、自分なりのビジョンやコンセプトを示すことで部下の心理的安全を高め、イノベーション創出に向けて上司や上層部、他部署、社外などを動かすことが求められているのではないか。しかし、彼ら・彼女たちは、総じて自分なりの意志をもつことを苦手にしている」。そのとおりだと思うのです。そこで今回は、「自分なりの意志をもち、人を動かせるミドル・マネジャー」についてお話ししたいと思います。

業種を問わずどの会社でも、資源やタスクの「相互依存性」がどんあんなどん増しています。1つの組織で何かを完結できることは減っており、他組織とのさまざまな依存関係のなかでビジネスが成り立っています。当然、社内も状況は同じで、1部署だけで完結する業務は少なく、他部署との連携が欠かせない仕事が多いはずです。社内外のタスクの相互依存性が高まっているのです。

こうした現状では、ミドル・マネジャーが意志をもっているかどうかが、部署全体の働きを左右します。マネジャーが自分なりの意志をもっていなければ、上司や上層部の考えを過剰に忖度しようとしたり、周りの部署や社外の動きに翻弄されたりすることが起こってしまいます。もっといえば、業務の優先順位をつけることすら難しいはずです。当然、そうしたマネジャーは部下の信頼を勝ち取ることもできず、部署の働きを十分に高められないのです。

自分なりのビジョンやコンセプトをもって、組織を動かせるミドル・マネジャーを考える上で参考になるのが、野中郁次郎先生が『知識創造企業』(東洋経済新報社)で提唱した「ミドル・アップダウン・マネジメント」の概念です。

野中先生のミドル・アップダウン・モデルでは、トップは大きなビジョンや夢を描き、ミドルは第一線社員が理解でき実行に移せるようなもっと具体的なコンセプトを創り出します。ミドル・マネジャーは、ビジネスの実情に精通する部下たちの情報を吸い上げて、その情報を有用な知識や概念枠組みに変えて部下たちに与えることで、自らの経験の意味を理解できるように彼らを助けるのです。そこには、トップのビジョンを単に現場に降ろしていくのでも、現場の情報を上に挙げていくだけでもない、それらを結びつけるべく知識創造するミドル自身の意志が強く感じられます。

問題はネットワークの弱体化や業務の繁忙にある

しかし、ミドル・アップダウン・マネジメントは決して簡単ではありません。また、実行するのはどんどん難しくなってきています。そこには幾つかの理由が考えられます。

第一に、タスク依存性対処に活用できるネットワークが弱体化していることです。社内についていえば、かつては同期などの非公式なつながりを活用して、自分のもつコンセプトを形にするための調整の糸口がみつかったかもしれません。しかし、私の実感では、雇用の流動化などに伴って、非公式なつながりを豊富に有しているマネジャーは減っているように思います。社外とのつながりについても同様で、依存性への対処は難しくなる一方です。

第二に、こちらの方が本質的な理由かもしれませんが、ミドル・マネジャーが忙しいからです。昨今の日本のミドル・マネジャーの大部分はプレイングマネジャーです。マネジメント業務だけでも大変なのに、プレイヤー業務も加わるわけで業務量は膨大です。さらに、最近は部下の成長支援業務がより重視されるようになるなど、ミドル・マネジャーの仕事はますます増えており、忙しくてミドル・アップダウン・マネジメントなどしていられない、というのが多くの本音でしょう。

こうした変化の結果として、上から降りてきた目標を細分化し、部署メンバーに割り振るだけになってしまっているマネジャーが多いのが現状だと考えられます。

プレイングマネジャーを減らすことが重要だ

私は、さらにもう1つ、ミドル・アップダウン・マネジメントを阻む根本的な問題があると捉えています。それは、「プレイヤーとして優秀な人材がミドル・マネジャーに昇格する伝統」です。優秀なプレイヤーが昇格する傾向は、日本に限ったことではありません。しかし、職務定義が明確でない日本では、プレイヤーとしての優秀さが、上司・部下・他部署などから信頼を得る上でより重要になっており、そのために優秀なプレイヤーが昇格する傾向がより強いと考えられます。

私は、日本企業にプレイングマネジャーが多い理由の1つは、この伝統にあると推測しています。プレイヤーとして優秀だった人ほど、プレイングマネジャーを担い、プレイヤーとしても結果を出したくなる誘惑が強いと思われるからです。もちろんプレイングマネジャーは組織が求めているものですが、実は多くのミドル・マネジャーにとってもリスクが低く安心なのです。

また、プレイングマネジャーであることでイノベーションの幅が狭まっている可能性もあります。既存の知識や技術にとらわれずに新しいやり方を追求する「探索」型のイノベーションがいつの間にか排除され、従来の延長線上の「深耕」型のイノベーションしか受け入れられないようになっているかもしれません。

仕事経験のない部署の経験がマネジメントの専念につながる

この状況を改善するには、社内外の非公式なつながりを増やす仕組みを用意したりする必要があります。何より、マネジャーの負担を減らすことが最も肝要だと思います。

また、プレイングマネジャーの比率を減らし、マネジメントに専念するマネジャーの比率を高める方策の1つとして、仕事経験のない部署のマネジメントを、マネジャーとしてのキャリアの初期に経験させることは有効かもしれません。

自分の経験知を頼れないため、マネジャーは自分の無知を認めざるを得ません。その結果として心理的安全性が高まることで、ミドル・アップダウン・マネジメントに求められる部下の意見の吸い上げが容易になる場合もあるでしょう。また、トップのビジョンをこれまでと違う方向から翻訳でき、新たなビジョンを生み出せるかもしれません。さらにいえば、部署や業務に詳しくないことで、常識にとらわれずに「探索」型のイノベーションに目を向けられる可能性もあります。言い換えれば、他部署出身者だからこそ、新たなコンセプトやビジョンを生み出し、自分なりの意志をもったマネジャーになれるかもしれないのです。

当然ながら、マネジャー全員が他部署を経験した方がよい、と言いたいわけではありません。部署に精通したミドル・マネジャーも必要です。しかし、組織の活性化やイノベーションの創出という観点から見れば、マネジメントそのものを専門とし、自分なりのコンセプトやビジョンをもって周りや上に働きかけることができるマネジャーが、社内にある程度存在する方がよいことは間違いありません。

【text:米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 特集1「マネジャーの役割再考「あれもこれも」からの脱却」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
高尾 義明(たかお よしあき)氏
東京都立大学 経済経営学部 経済経営学科 経済学コース・経営学コース
東京都立大学大学院 経営学研究科 経営学専攻 教授

京都大学教育学部教育社会学科卒業。大手素材メーカーを経て、京都大学大学院経済学研究科修士課程、同博士課程修了。2009年4月より現職。専門は経営組織論・組織行動論。著書に『はじめての経営組織論』(有斐閣)、『組織と自発性』(白桃書房)、共著に『経営理念の浸透』(有斐閣)などがある。

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問題はネットワークの弱体化や業務の繁忙にある
プレイングマネジャーを減らすことが重要だ
仕事経験のない部署の経験がマネジメントの専念につながる
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