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THEME マネジメント/リーダーシップ

インタビュー東京都立大学 西村孝史氏

マネジャーは人材マネジメントと戦略推進の要

多様な価値観をもつ部下への個別対応や働き方をめぐる環境変化への対応など、ミドル・マネジャーに求められる役割は年々、複雑になっている。そんななか、ミドル・マネジャーに求められる本質的な役割とは何か。東京都立大学大学院准教授の西村孝史氏に伺った。

複雑化するマネジャーに求められる役割

人事管理では、働く人々の納得性を少しでも高めるため、公平性に配慮しながら個別管理も求められる場面が多くあります。この公平性と柔軟性は矛盾しがちです。相反する両者のバランスをとるには、人事管理の運用が鍵になります。2018年に発表された海外の研究結果*1 では、フィードバックの回数を同じにするなど、マネジャーが部下への扱いを等しくするときに処遇格差が受け入れられ、成果に結びつくことが明らかになっています。

このように、人事管理を生かすも殺すもマネジャー次第といえます。加えて最近はリモートワーク、兼業・副業の増加、人工知能(AI)を使ったHRテックの発達、生産性向上へのプレッシャーなど、仕事の環境が大きく変化しています。人手不足も深刻化し、属性の多様化も進んでいます。マネジャーに求められる役割は年々、複雑になり業務量も劇的に増えています。そのなかでこれまで以上に求められるのが、ここでは詳しく述べませんが、目標設定能力や1on1などで求められる説明責任能力、コーチングといった対人のソフトスキルです。

抜け落ちがちな「長期性」へのインセンティブ

経営戦略や事業戦略は組織のメンバーを介して遂行され、その結果が組織業績に反映されます。一連のプロセスにおいて、組織の業績管理と個人のキャリアの双方を考える位置にあるマネジャーが果たす役割は大きく、マネジャーが人事制度を理解し施策を使いこなす(運用する)程度や、日々の行動や指導内容、組織を束ねる力量などがメンバーの行動に影響し、ひいては業績を左右します。組織の短期目標と、長期戦略や個人のキャリア開発という時間軸の異なる複数の課題を結びつけ解決していくことが、マネジャーの重要な役割です。

ところが、この短期と長期の課題を結びつける仕掛けが、現状では弱いと言わざるを得ません。例えば「目標管理制度(MBO)」。これは一人ひとりの達成すべきことを明確にし、個人と組織のベクトルを合わせ、最終的に個人の目標と組織の目標をリンクさせるための制度ですが、実際には半期や1年ごとなど目標設定のサイクルが短いことが多く、長期的な組織戦略と個人のキャリア開発を目標に織り込むには、別の仕組みが必要です。

例えば、「後継者が育たないと上がれない」といった仕組みです。こんな方法もあります。ある企業のサクセッションプランを手伝った際、3年後、5年後、5年後以降の昇格候補を3人ずつ挙げてもらいました。もし3つのステージでほぼ同じ名前が挙がれば、その組織で人が育っていないことが分かります。後継者について考えることは、自部署で長期的な時間軸で人が育っているかを可視化し、管理職が認識する有効な手段でもあると感じました。

昨今注目を集める1on1ミーティングにも期待がもてますが、ある企業の効果測定プロジェクトでの分析では、上司は中長期的な組織課題解決のために1on1を活用したいと考える一方、部下は業務遂行やキャリアに関する日々の悩みを相談したいなど期待にズレが見られ、課題が残っています。

マネジャーになるインセンティブを組み込む

マネジャーの仕事が雪だるま的に増えるなか、官民問わず「マネジャーになりたくない」という声を多く聞きます。過去約30年で管理職の部下の人数は半減しています*2。これは、環境変化に対応するために仕事の単位が小さくなり、正社員ではなく非正社員の部下が増えていることを意味します。つまり、マネジャーになっても、1つの管掌範囲が小さくなり、かつてほどの成長実感は得られない可能性があります。仕事の難度が上がり、得られるものが少ないのであれば、マネジャーの魅力度が低下するのも仕方のないことかもしれません。

報酬を上げて金銭的に苦労に報いる方法はありますが、報酬によるインセンティブに頼れば、より高い報酬を求めて人材が流出するリスクも高まりますし、原資の確保が難しいのが現状です。階層をなくしたフラットな組織を志向する場合にも、マネジャーになるインセンティブの設計、管理スパンの増大と業務遂行のバランスは課題であり、そこにテクノロジーを介して管理スパンをこれまで以上に高められるのか、が今後の検討事項です。

部下に権限を委譲しプレイヤー化しない努力を

コミュニケーションの負荷がマネジャーに集中しすぎている、という問題もあるでしょう。その負荷を低減する方法の1つに心理的安全性があります。心理的安全性を高め、職場の同僚になんでも話せる環境を整えれば、メンバーの自発性が触発され、シェアド・リーダーシップが発揮されてマネジャーの負荷は減らせるかもしれません。しかし、なんでも言い合える環境は、心理的にストレスになり得ます。強い光(作用)にはそれだけ強い影(反作用)が生じることを理解しておくべきでしょう。

指揮命令系統の原則論でいえば、例外事項に対処するのがマネジャーの役割です。その負担を減らすには、部下に権限を委譲し、例外処理を減らした方がいいでしょう。ただし、レポートが上がったときには手遅れという事態も起こりかねません。未然に防ぐには、1on1によるこまめなコミュニケーションや「ふだんと違う」状態*3 を見抜く眼、それに代わる可視化・自動化の適切な活用も必要です。

プレイングマネジャー化するケースも増えていますが、本来担うべきマネジャーとしての仕事は手薄になります。人手不足などの理由からプレイヤーを兼任しなければならない場面が増えているのかもしれませんが、その場合、単に突発的なアクシデントで人が足りないのか、それとも人が育っていないのかを考え、根治的な治療が必要です。そうしないと「余人を以って代え難い」という理由の下でキャリアの塩漬けが起きてしまうからです。

人を育てる(あるいは人が育つ環境を構築する)のも、1つのスキルです。マネジャーのなかにも、得意な人と苦手な人がいるでしょう。その場合、「育てる」業務をシェアするのも1つの方法です。シェアする候補は、非管理職の専門職社員です。もちろん「育成」業務がないからこそ専門職の道を選択しているかもしれませんが、組織的には彼ら彼女らの知識や技能はなんらかの方法で継承する必要があります。「育てる」業務の一部を彼ら彼女らに担ってもらえばマネジャーの負担も減らせ、彼ら彼女ら自身のキャリアの幅も広がります。一皮むけた経験という意味で、最初についた管理職の影響は大きいといわれています*4。新任教育に関しても、育てるのが得意な人に最初は多くの新人を割り振ることを考えてもいいのではないでしょうか。

最後に、マネジャー自身に考えてほしいのは、マネジャーの仕事で養われるスキルは、どんな組織でも共通して求められるポータブルなスキルだという点です。社内にそうした力を養う機会がなければ、兼業や副業などを通じて社外に求めてもいい。マネジャーは業務激増の代名詞ではなく、人の育成に大きく携わる成長の伸びしろが大きい役職であると認識して、トライした方がいいと思います。

【text :曲沼美恵】

*1 Fu, N., Flood, P. C., Rousseau, D. M. & Morris, T. (2018) Line managers as paradox navigators in HRM implementation: Balancing consistency and individual responsiveness. Journal of Management, 46(2), 203-233.
*2 西村孝史(2013) HRM. 日本労働研究雑誌, No.633, 46-49.
*3 小池和男(2005)『仕事の経済学(第3版)』東洋経済新報社
*4 守島基博・島貫智行・西村孝史・坂爪洋美(2006) 事業経営者のキャリアと育成:「BU長のキャリア」データベースの分析. 一橋大学日本企業研究センター編『日本企業研究のフロンティア』, 2, 31-52.


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.58 特集1「マネジャーの役割再考『あれもこれも』からの脱却」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
西村 孝史(にしむら たかし)氏
東京都立大学 経済経営学部 経済経営学科経済学コース・経営学コース
東京都立大学大学院 経営学研究科経営学専攻 准教授

株式会社日立製作所にて人事に従事後、2005年退職、進学。2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(商学、一橋大学)。 徳島大学、東京理科大学を経て2013年より現大学に勤務。専門は、人的資源管理論。最近の論文に「戦略的人的資源管理におけるミクロ的基礎の実証研究─2014-2018年度のJ1リーグデータの分析─」『組織科学』(2020年)。

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