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THEME 理論/技術

インタビュー関西福祉科学大学 島井哲志氏

自ら「やる」と決めることがワーク・エンゲージメントを高める

ワーク・エンゲージメントは、ポジティブ心理学と深く関係している。そこで、ポジティブ心理学の創始者・セリグマンに直接学び、「強みの尺度」「幸せの尺度」などの日本語版を作成してきた島井哲志氏に、ポジティブ心理学から見たワーク・エンゲージメントについて伺った。

エンゲージメントはウェルビーイングの5要素の1つ

ポジティブ心理学とは、「ウェルビーイング(幸福)」を研究する学問です。その創始者であるマーティン・セリグマンたちは、ウェルビーイングの5要素を「PERMA」と呼んでいます。【P:ポジティブ感情】【E:エンゲージメント】【R:関係性】【M:意味・意義】【A:達成】の5つです。これらが個人の幸せを左右する。つまり、エンゲージメントの高低は幸せに直接影響します。

私たちのほとんどは、多くの時間を仕事に割いています。ですから、仕事が充実していなくてポジティブな感情をもてなかったり、仕事に意味・意義(やりがいや生きがい)を見いだせなかったり、何も達成できなかったり、ワーク・エンゲージメントが低かったりする状態では、幸せな人生を送るのは難しいでしょう。

このように、ワーク・エンゲージメントは、私たちの幸せに大きく関わっています。

上司のエンゲージメントがメンバーに強い影響を及ぼす

私の考えでは、ワーク・エンゲージメントと関係が深いのは「自己決定理論」です。

自己決定理論とは、取り組むことを自ら選び、自分の意志でやっているのだという実感をもつことが、内発的なモチベーションを高めるという理論です。何ごとも、自己決定しているかどうかでその後のやる気が大きく変わるのです。

例えば、ポジティブ心理学のエクササイズに「3 Good Things」というものがあります。毎日寝る前に、今日うまくいったことを3つ書き出して、それらがどうしてうまくいったのかを書いてみるエクササイズで、これを続けるだけで幸福感が高まります。私は、これを実験として多くの方に取り組んでいただいたのですが、結局長く続いたのは、毎日楽しんで取り組んだ方でした。

3 Good Thingsは無償ですから、やりたい人でなければ続かないのは、ある意味当たり前のことです。問題は、仕事には報酬という外発的動機づけがあり、報酬を得るために「やらされ感」でやってしまうケースがどうしても多くなること。しかし、やらされ感をもっている限り、ワーク・エンゲージメントは決して高まりません。

もし職場のワーク・エンゲージメントを高めたいなら、社員一人ひとりの意志を尊重し、この仕事は自分で選んだのだ、自分がやりたいからやっているのだという実感をもちやすい職場環境を用意することです。それができれば、ワーク・エンゲージメントは自然と向上するはずです。

では、どうしたらそうした環境を作れるのか。確実に言えるのは、「上司・先輩・同僚の姿勢」が影響するということです。私はスクール・エンゲージメント(学校が好きで、学業や行事を楽しむこと)を調査してきたのですが、先生のスクール・エンゲージメントが高くない限り、生徒のエンゲージメントは高まりません。先生が生徒たちのモデルとして率先して学校に誇りをもち、教えることを楽しまない限り、多くの生徒は学校に誇りをもったり、学びを楽しんだりしないのです。

この法則は、職場にもあてはまることが分かるでしょう。尊敬できる上司や先輩、同僚のエンゲージメントの高さが、社員のエンゲージメントを左右します。特に上司の影響が強いのです。

自己決定は「やり抜く力」の源泉にもなる

自己決定理論は、ワーク・エンゲージメントだけでなく、もう1つの重要な力にもつながります。それは「グリット(やり抜く力)」です。

グリットとは情熱と粘り強さのこと、挫折しても絶対に諦めない姿勢のことです。最終的に成功をおさめるには、才能以上にグリットが必要だといわれています。実際、歴史上大きなことを成し遂げたのは、ほぼ全員がやり抜いた人たちです。

このグリットの根底にも、自己決定理論があります。取り組むことを自分で選び、自分の意志でやっているのだという実感をもつことが、情熱の源泉になります。つまり、自己決定はワーク・エンゲージメントを高めるだけでなく、一方でやり抜く力を高め、最終的に大きな成果と成功をつかむ可能性を高めるというわけです。

なお、グリットを提唱したアンジェラ・ダックワースはセリグマンの弟子で、グリットはポジティブ心理学の強み研究とつながっています。ダックワースの研究では、グリットが高いほど幸福感が高く、健康状態も良いことが分かっています(ダックワース『やり抜く力』ダイヤモンド社)。

24の強みや非認知能力も成功と幸せを左右する

グリットは、最近話題になっている「非認知能力」の1つです。非認知能力とは、IQなどと違って認知的に測れない能力のことで、粘り強さ・誠実さ・自制心・楽観主義など、これまでは性格上の特性と見られてきたものです。実は最近、こうした特性が、人生の成功や幸せを左右する能力と捉えられるようになってきました。

以前、「EQ(心の知能指数)」が流行しましたが、これも非認知能力とつながっています。ポジティブ心理学周辺では、EQ(情動知能)に関する研究が再び増えています。非認知能力や情動知能の重要性は、今後ますます理解が深まるはずです。

ポジティブ心理学は、実は早期から非認知的な側面に注目してきました。クリストファー・ピーターソンが中心になって、PERMAのベースになる「24の強み」を定め(図表1)、「VIA-IS」という診断ツールを開発しています。この24の強みは、従来は世界的に共通して「人徳」と考えられてきたもので、そのほとんどが幸せと正の相関関係にあります。これらの強みは幸せを呼ぶのです。

VIA-ISを受けると、自分がもつ強みが何かが分かります。これらは個々のワーク・エンゲージメントや幸せに強く関わっており、深いところで個人のパフォーマンスや成果を左右しています。当然ながら、強みの組み合わせは一人ひとりまったく違います。職場には、多様な強みの個性をもったメンバーが集まっているはずです。

以上を踏まえると、その会社のミッション・ビジョンや仕事内容を自ら選んだ(自己決定した)メンバーが集い、互いの強みを生かし合える職場を作れたら、個人の幸せとビジネス成長の両方を一挙に実現できるはずです。ただ、そのためには、マネジャーが自らのワーク・エンゲージメントを高め、一人ひとりの強みを見抜き、個人の意志を尊重するマネジメントを行うことが欠かせません。その意味で、マネジャーの役割は今後ますます重要になるのではないでしょうか。

最後に2つのことをお伝えします。1つは、非認知能力は、年をとるほど高まる傾向があることです。情動知能を例に挙げると、私たちは以前、「EQS(情動知能尺度)」(実務教育出版)を開発しました(図表2)。

自己対応・対人対応・状況対応の3側面から情動知能を測るツールです。そのうち「対人対応」のEQ、周囲や次世代のために役立とうとしたりする能力は、年齢が上になるほど高まると考えられます。また、看護師はスキルが上昇するほど、全体を見ながら優先順位をつける「状況対応」EQが上がることが分かっています。企業のマネジャーなども、同様に状況対応EQが高まっているはずです。こうして、私たちの強みや非認知能力は経験を通じて高められるのです。そう考えると、学校だけでなく企業にも、ウェルビーイングを教える「ポジティブ教育」が必要なのかもしれません。企業でポジティブ教育を実践すれば、個人が自らの強みを自覚して非認知能力を強化し、ワーク・エンゲージメントを高めてより幸せになると共に、ビジネス成長にもつながる可能性があります。

もう1つは、「PERMA」の【M:意味・意義】について。面白いことに、米国人の多くは若い頃に人生の意味を探し、1つの意味を見つけたら確定という人生を送っているのですが、日本人には、人生の意味を一度見つけた後、人生の後半になっても意味を探し続ける傾向があるのです。つまり、どうやら日本には、いつまでも人生の意味を考えたり、深めたりしようとする人が多いのです。こうした点にも文化の違いが表れているようです。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.57 特集1「ワーク・エンゲージメントを高める」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
島井 哲志(しまい さとし)氏
関西福祉科学大学 心理科学部心理科学科 教授

関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。日本赤十字豊田看護大学教授 などを経て現職。専門はポジティブ心理学、健康心理学・行動医学、公衆衛生学。『幸福(しあわせ)の構造』(有斐閣)、『ポジティブ心理学入門』(星和書店)など、著書・共著書多数。

自ら「やる」と決めることがワーク・エンゲージメントを高める
エンゲージメントはウェルビーイングの5要素の1つ
上司のエンゲージメントがメンバーに強い影響を及ぼす
自己決定は「やり抜く力」の源泉にもなる
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