首都大学東京 竹田陽子氏 多様な視点の取得と表現の多様化が組織の創造性を高める

昨今、各社の人事課題の上位によく挙がってくるのがダイバーシティ(組織の多様性)だ。ところが、それが実現したからといって、組織が活性化し、創造的な成果があがるとは限らない。多様性が組織にプラスの効果を生むにはどうしたらいいのだろうか。首都大学東京 経営学研究科 教授 竹田陽子氏にお話を伺った。


多様なメンバーのいる組織は創造的な成果をあげるのか

最近、よくこう言われます。性別、年齢、属性、国籍など、多様性にあふれたメンバーがいる組織の方が、創造的な成果をあげやすいと。それは一面では正しく、一面では間違っています。

人間は似た者同士の方が話が通じやすいのはお分かりでしょう。同じような言葉を使い、同じような背景を共有しているため、効率的なコミュニケーションが可能となり、仕事に好都合となる一致団結がしやすくなります。

これが、言語や価値観の異なる人間同士がいきなり同じチームになったらどうでしょう。コミュニケーションは円滑に行われず、無意識の偏見が生じたり、外部から来たメンバーをチームの一員として認めないといったコンフリクトが起こったりするかもしれません。その結果、成果どころではなくなってしまいます。

一方、多様性がプラスになるという点については、人々がもたらす多様な情報が、創造性にプラスの効果をもたらすと一般的にいわれます。私は多様な「情報」というより、他者の多様な「視点」を取得できる、という点を強調したいと思います。

例えば、同じ情報を見ても、性別や国籍が異なると、受け取り方、つまり視点が異なるでしょう。仕事の経歴や専門性に加え、これまでの人生のなかでどんな人と出会い、どう付き合ってきたかという、一人ひとりの生育環境が、そうした個々の視点の形成に色濃く影響していると考えています。

これまでと同じものを同じ方法で作る場合、多様な視点は必ずしも必要ではありません。気心の知れた同質な仲間が集まってとりかかれば、あっという間に終わります。

ところが、ゼロから1を生み出す、今までにないものを作る場合は違います。スティーブ・ジョブズのような図抜けた創造性を発揮できる天才がいる組織は別ですが、そうでない場合、一つひとつのパーツは特段革新的なものではなくても、既存のものを多様性のあるチームでさまざまな視点から組み合わせていくことで、ゼロを1にする活動を持続的に行っていける可能性があります。

他者の視点を取得し認知的共感を促進させよ

例えば、既存の製品を前に、「こういう使い方ができたらいい」「こうしたらどうだろう」と、各自の視点からアイディアを出すだけではなく、1つの視点からの発想を他の人の視点で再解釈したり、組み合わせたりしてアイディアを発展させていくのです。特に大事なのは、使う人の立場にもなってみることです。また、自分の視点は固定的に1つだけあるものではなく、実は過去に出会ったさまざまな人の視点が自分のなかにあるものです。自分自身のもつ多様な視点に気づくことも重要です。

メンバーが多様なだけでは、多様性の負の部分が現れてうまく行かないこともあるでしょうし、創造的な摩擦によってメンバー間で思わぬコンフリクトが発生するかもしれませんが、多様性によって多様な視点を取り入れることができたならば創造的な成果が生まれるという知見があります。

チームで多様な視点を共有しながら、創造的な仕事を成し遂げている組織として、CGを用いた作品を得意とするアメリカのピクサー・アニメーション・スタジオが挙げられます。作品の土台となる絵コンテを前に多様なバックグラウンドや専門性をもったメンバーが集まり、「この登場人物はどういう人なのか」「この人ならこの状況でどう行動するだろうか」「この場面でこの人がこう言うのはおかしい、こういう科白になる方が自然だ」などと忌憚のない意見を出し合いながら、皆で1つの作品に仕上げていきます。

その結果、最初の絵コンテとはまるで違う作品になることも多々あるようです。メンバーが多様だと性差別や人種差別を助長するような表現がないかどうかをチェックできるという面もあるようですが、それだけではない。やはり、世界を驚かせ、かつ、共感されるコンテンツを創造するのに不可欠なやり方なのです。

他者の視点を取得することを心理学では「認知的共感(empathy)」と呼びます。「あの人の気持ちを想像すると泣けてくる」といった、他人の心の状態に共鳴する「情動的共感(sympathy)」とは似て非なるもので、認知的な共感は、この人の立場になると、このように物事が見えるはずだ、という一時的な「なり代わり」です。舞台で登場人物になりきる俳優と同じことをやればいい。

ストーリーボード、寸劇、映像……多様な表現の効用

私は企業向けに、他者視点の取得に重点を置いて、新しい製品、サービス、ビジネスを創出するデザイン思考のワークショップを行っており、その過程で、ストーリーボードや寸劇、映像作品などで物語を参加者自身に作ってもらいます。

物語では、ある人がある問題に直面し困っている状況をまず表現し、その状況が自社の製品やサービスを使ってより良い方向に変わっていくことを表現します。

物語で表現することで、提案する製品やサービスなどの最終成果をチーム外の人により深く理解してもらえる効果がもちろんありますが、それよりも重要だと考えるのは、物語を作るプロセスで参加者に気づきがあることです。例えば、寸劇で、商品の使い手、作り手など、いろいろな当事者になりきって身体を動かしてもらうと、机の前で座っていただけでは得られない、貴重な視点を得ることができます。

物語だけでなく、現場の写真を撮り、思い浮かんだイメージを絵に描き、紙などの簡単な材料でプロジェクトの初期から試作品を数多く作るなど、表現の多様性が創造性の鍵になると思っています。理屈だけから発想しても、良いアイディアは生まれません。決まりきった言葉や定型的な論理に毒されてしまっている人が多いので、多様な表現によって、それらから解き放ってあげるのです。

また、表現の多様性はチームメンバー間での相互理解にも役立ちます。チームのなかには、言語能力に長けている人もいれば、視覚的な認識が得意な人もいるでしょう。表現が多様であるほど、異なる背景と能力をもった人たちが互いの視点を理解する可能性が高まるのです。

創造性に対する自信とリーダーシップ

私がここまでお話ししてきたことは、1人の天才に頼らない創造性、いわば創造性の民主化です。そのためには何が必要になるのでしょうか。

まずは、一人ひとりが自分自身の創造性に対して自信をもつことだと思います。自分はゼロから1を生み出すことができるのであり、しかも努力と気持ちの持ち方次第で、もっと創造的になれるのだ、と。

アメリカのIT企業、アドビが2012年に創造性に関する調査を発表し、その意外な結果が評判になりました。米・英・独・仏・日の約5000人を対象にした調査で、「最も創造性が高い国」として、堂々の第1位になったのが日本でした。さらに、最も創造的な都市に選ばれたのは、東京でした。一方で、自分自身が創造的だと答えた割合は5カ国中、日本人が最下位でした。他者からはとてもクリエイティブだと思われているのに、自己評価はめっぽう低い。実にもったいないことです。

組織で創造性が発揮されるには、個人の意識改革だけではなく、個人の創造性が発揮できる環境づくりが大切です。例えば、デザイン思考のワークショップを企業内で行うとき、同じチームに直属の上司と部下を混在させるとうまく行かない場合が多いのです。比較的小規模で新しいフラットな組織文化をもつ企業では必ずしもあてはまらないですが、特に伝統的な大企業の場合、上司が「私に気を遣わず、好きなことを言いなさい」と伝えても、部下は本気にせず、縮こまってしまう。

創造性の民主化では、リーダーは自らの創造性でチームを引っ張っていくのではなく、メンバーの創造性を引き出すことが求められます。メンバーが思ったことをのびのびと発言でき、メンバーの発想に他のメンバーがいつも真摯に耳を傾ける雰囲気を作ることがリーダーの責務です。また、チームでせっかく良いアイディアを提案しても、事業化や実際の業務につながらないことがしばしばあります。アイディア留まりにさせず、実現につなげていくリーダーシップが求められます。

【text:荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.56 特集1「多様性を生かすチーム」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
竹田 陽子(たけた ようこ)氏
首都大学東京 経営学研究科 教授

1988年、京都大学文学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了。横浜国立大学大学院教授を経て2017年より現職。著書『プロダクト・リアライゼーション戦略』(白桃書房)、『エンジニアのためのデザイン思考入門』(共著、翔泳社)。

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