東京大学大学院 正木郁太郎氏 「違い」を前提にしたコミュニケーションを心がける

多様性があれば個々人が力を発揮しやすく、業績も上がるのか。東京大学大学院人文社会系研究科研究員の正木郁太郎氏は、多様性がむしろ組織にとってマイナスに作用することもあると指摘する。では、どのような条件があれば、多様性はプラスに作用するのだろうか。


仕事の相互依存性によって多様性の作用は異なる

多様性(ダイバーシティ)とそれを生かす環境について論じる前に、多様性とは何かに触れたいと思います。代表的に2つの分類が用いられます。

1つは表層のダイバーシティと深層のダイバーシティに分ける考え方。表層とは年齢や性別、体の大きさなど目に見える特性、深層とは価値観や態度など目に見えない特性を指します。2つ目は、性別や年齢、人種・民族などが多様であるかという「デモグラフィック特性のダイバーシティ」と、学歴や転職の経験、スキルなど職務に関わる多様性を「タスクに関係するダイバーシティ」と呼んで区別する考え方です。特に表層/デモグラフィック特性のダイバーシティがプラスに作用するかマイナスに作用するかの鍵を握るのが、仕事が相互依存的か相互独立的かという点です。

仕事の相互依存性とは、お互いに密にコミュニケーションをとりながら仕事を進めていかなくてはならない職務特性か否か、ということ。研究結果を総合すると、仕事の相互依存性が低い方が、デモグラフィック特性において多様性のあるチームには向いていることが明らかになっています。例えば、同じIT系でもスマートフォンのアプリケーションを作る場合の相互依存性は低いでしょうが、銀行システムを作る場合は細かなすり合わせが必要となり、相互依存性は高くなります。自動車を作るにしても、エンジンの開発には細かなすり合わせが必要ですが、電気自動車の場合はそれほどでもありません。

同じ会社でも、部署やチームによって相互依存性が高い職場もあれば、低い職場もあるでしょう。仕事が相互に独立していて明確に分業されていれば、お互いの属性的な「違い」があまり気にならないため、コミュニケーション上のストレスも少なく、パフォーマンスを上げやすいのかもしれません。

欧米流のインクルージョンがマイナスになることもある

多様性のある集団や組織の方が個人の力を発揮しやすく、業績も上がるという考え方はこれまで海外、主にアメリカで論じられてきました。その際、よく対になって論じられるのがインクルージョン(包摂)という言葉です。インクルージョンとは、特に表層/デモグラフィック特性において多様な人たちを、属性にとらわれず、社会や集団の一員として取り込み、参画する機会をもてるようにし、支え合っていこうという考え方で、属性よりも個性を重んじた方が個人も力を発揮しやすくなるといわれています。ただし、ダイバーシティとインクルージョンの相性がいいのは、もともと個人主義的文化が強く、差別と長年戦った歴史や制度があるアメリカだからではないか、と指摘する研究者もいます。

これらを踏まえ、性別ダイバーシティの効果と、企業・職場の風土の関係を日本で調べたことがあります。風土を大きく「公平性および包摂性」「女性登用」「多様な働き方」「男性優位」「男性のマッチョイズム(男性に負担が集中しているか)」という5つに類型化して調査しました。いくつかの会社ごとに「どんな風土をもつ職場で、特にダイバーシティの効果が改善するか」を分析したところ、結果は大きく2パターンに分かれました。

外資系企業や大学の教員、小売業など男女関係なく活躍しやすい環境のあるところでは確かに、海外でいわれているように、平等かつ個性を重んじる風土が多様な人々が力を発揮する上で相性がいいという結果が出ました。一方で、逆のケースもありました。代表的なのが伝統的な日本企業で行った調査や、さまざまな企業で働く人を同時に対象としたWEB調査です。「男性は総合職」「女性は一般職」という伝統が長く続くなどして、従業員に占める女性の割合は高いものの管理職に占める女性の割合は低い会社の場合、平等かつ個性を重んじる風土はむしろ、ダイバーシティをマイナスに作用させるという結果が出たのです。

企業がもつ歴史によって打つべき施策は変わる

多様な人々が働く上で、なぜ、平等や個性の尊重がマイナスに作用し得るのでしょうか。例えば、こんなケースが考えられます。もともと長時間労働が横行していて、転勤も多く、あまりワーク・ライフ・バランスを支援する環境が整っていない職場で「平等」や「個性」を重んじてしまうと、結果的に長時間労働や転勤を受け入れやすい男性の方が仕事上の成果をあげやすくなってしまうのです。そのような場合、平等かつ個性を尊重するよりも、女性に対して不足している経験を補う工夫を凝らしたり、短時間勤務の制度を用意するなど、個性よりも属性に応じてサポーティブな環境を整える方が、多様な人々が働く上で重要な要素となります。

つまり、ダイバーシティの観点からすると、もともとある企業の風土や人材構成、ビジネス環境が昔ながらの日系企業的なものなのか、外資系を含む実力・平等主義に近いものなのかによって、打つべき施策は違ってくる、ということです。

男女の役割が固定化した企業で、属性にかかわらず個性を重んじ平等に扱えば、現状の均衡を崩すことにもつながります。一時的には離職率も上がる可能性が高く、残った人にとっても、あまり居心地のいい環境ではなくなるかもしれません。それでもなお、劇的な変化を起こそうとするのも1つの考え方ですが、別の考え方もあります。女性に対して支援的な施策を打つ必要がある間は、しばらくそれを続け、男女関わりなく働ける環境になったら、次の段階へと移るというやり方です。

男女の役割が固定化した職場で女性に対して支援的な施策を打つと、ますます固定化が進みかねないという懸念は残るでしょう。それでもなお段階を踏み、自社の歴史に沿って無理のない範囲で進めていくのも1つの方法です。すべての企業にあてはまる絶対的な解はありません。

「多様」を前提にマネジメントを工夫する

ダイバーシティに関する施策を打つ際、トップが言い出して無理やり変革するのは分かりやすいのですが、最善策とはいえません。実際はそうであっても、規範を変える主体は「中の人」という状況を作り出すことが重要です。というのも、組織を変えようと言い出し、かつ持続的に行動するのはどのようなタイプか。ある研究では、組織に対する愛着が強く、平時なら現状の文化ややり方を正しいと思っている人たちに、危機意識が加わると、一気に変革の主体へとガラリと変わる場合があるといわれています。重要なのは、組織の中核にいる人たちが「このままでは会社が危ない」と認識すること、かつ、その原因が自分たちの守ってきた規範そのものにあるのだと気づくことではないでしょうか。

好むと好まざるとにかかわらず、時代は大きく多様化の方向へ向かっています。長時間労働の是正を求める声や転勤への抵抗感などは女性に限った話ではなくなってきていますし、新卒か中途かに関しても中途採用の割合が増えるなど、状況は変化してきています。1つの企業あるいはチームのなかで多様な人々が働くことを前提に、その上で業績を上げていくためには、何を意識してマネジメントをすべきでしょうか。

まず、どのような場合も重要だといえるのは、明確にコミュニケーションをとること。自分と相手のバックグラウンドは「違う」のだから、ものごとが簡単には伝わらないことを前提に、分かりやすい意思伝達を心がけることです。上司の立場からすると、部下が今、何を考え、どう感じているかを率直に話してもらえる信頼関係が築けているかどうか、も重要になってきます。

2つ目は、役割分担を明確にすること。どこまでが誰のミッションなのか、が可視化されていることが望ましいでしょう。可視化されている場合、軋轢は生じにくくなりますし、違うバックグラウンドをもつ人でも組織に入り込みやすくなります。もちろん、役割を明確化した結果、こぼれ落ちる仕事も出てきます。それを拾いに行くのがマネジャーの役割になっていくかもしれません。

3つ目に重要なのは、この組織において、守らなければならない価値観は何か、を明確にすること。病院であれば「患者の命を守ること」などがそれにあたります。組織の目的が明確で、そのための行動指針がしっかりしているからこそ、他の特徴は多様であっても1つの組織として機能し、多様な人が力を発揮しやすくなります。

ダイバーシティが重要だと考えた場合、目指すべきは多様な人々が交わり、なおかつ、皆がコミットして働けている状態でしょう。組織の価値観を明確にすることは、組織に対する愛着やそこに居続けたいかどうか、にも関係してきます。ダイバーシティを制約と捉えるのか、それを当然のこととして「連携しよう」と考え、工夫を凝らすのかでも結果は違ってきます。「連携しよう」と思えるためにも、組織の構成員全員が共通した目的意識をもつことは大事でしょう。

【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.56 特集1「多様性を生かすチーム」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
正木 郁太郎(まさき いくたろう)氏
東京大学大学院 人文社会系研究科 研究員

人文社会系研究科博士課程修了、博士(社会心理学)。東京大学大学総合教育研究センター特任研究員などを経て現職。専門は社会心理学、組織行動論。著書に『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(東京大学出版会)がある。

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