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インタビュー

九州大学大学院 山口裕幸氏

心理的安全性を高め対等な対話でチームの活力を引き出す

  • 公開日:2019/12/09
  • 更新日:2024/03/22
心理的安全性を高め対等な対話でチームの活力を引き出す

組織開発のなかでも、特に「チーム力」の開発を中心に研究しているのが、九州大学大学院教授の山口裕幸氏だ。その山口氏に、チーム力を高めるにはどうしたらよいのか、なぜ今チーム力が注目されているのか、チーム力が注目される背景にはどのような変化があるのか、といったことを伺った。

目次
成果を高めるためのチーム力向上の鉄則はPDCAを回すこと
メンバーがよく話し合うことがチーム力の向上につながる
喫茶スペースを作っただけでコールセンターの業績が向上
今後のリーダーに必要なのは心理的安全性を高める力だ

成果を高めるためのチーム力向上の鉄則はPDCAを回すこと

現在、私が進めているチーム力研究は、大きく4種類に分けることができます。

1つ目は、生産性や創造性などの成果を高めるためのチーム力開発です。2つ目は、世代間の技術・知恵の継承を促進するチームコミュニケーションの活性化方略の研究。3つ目は、ミスやエラーを極力少なくして組織で安全を守るためのチームマネジメントの研究で、4つ目はモラルハザードやコンプライアンス違反を防ぐために、CSRの側面からチーム力を高める手法の研究です。これらのチーム力開発について、企業の協力を得て施策を実施し、効果を測定しながら理論を構築しています。

このうち、1番目の成果を高めるためのチーム力向上には、すでに鉄則が存在します。「PDCA」を回すことです。PDCAをしっかり回すことで、チーム成果は着実に上がります。ただしその際、PDCAの各プロセスを分業してはなりません。企画者、実行者、チェック者、改善者と役割を分担してしまったら、成果はあがりにくいのです。チーム全員で、一緒になってPDCAを回せば、自然と仕事の質が高まり、チーム成果も良くなっていきます。

では、チーム全員でPDCAを回すにはどうしたらよいのか。みんなで話し合い、意見の違いを調整し、全員で目線を合わせながらPDCAを進める必要があります。つまり、チーム内の対話と調整が欠かせないのです。実は、この2つが他の3種類のチーム力にも強く関与しています。

メンバーがよく話し合うことがチーム力の向上につながる

結論からいえば、チーム力開発の最大のポイントは、チーム内の「対話(ダイアローグ)」にあります。チームメンバーがよく話し合い、人間関係を良好にして相互理解を深め、その上で全員が1つのビジョン・ミッション・目標を共有できれば、調整・連携・協調がうまく行き、チーム力は高まります。全員でPDCAを回せるようになって成果があがりますし、技術・知恵の継承も進み、ミスやエラーを減らすこともコンプライアンス違反を防ぐこともできます。チーム内の対話が進めば、冒頭で掲げた4種類のチーム力のすべてを高められるのです。

さらにいえば、メンバーが主体的に動いてチーム内の隙間を埋めたり、助け合ったりする「コンテクスチュアル・パフォーマンス(文脈的な功績・状況に即した行動)」が起きやすくなり、その一方で、誰かが手を抜いてチームに迷惑をかける「社会的手抜き」や「フリーライディング」が起きにくくなります。対話が増えることで、良い効果がいろいろとあるのです。

喫茶スペースを作っただけでコールセンターの業績が向上

こう語ると、チーム力向上は簡単に思えるかもしれませんが、実際はそうではありません。コミュニケーションには大きなエネルギーを費やしますし、人間関係を良くするのも手間がかかります。チーム力向上にはコストがかかるのです。そこで私は、これまでの研究から、チーム力を比較的効率よく高めるには2つの手法が有効であることを見出しました。

その1つは、「1on1ミーティング」とチームミーティングの連結です。チームリーダーがメンバー一人ひとりと対話し、その想いや考えをすくい上げて、それらをチームミーティングでみんなで共有する方法です。

なぜこれに効果があるかといえば、「納得いかないけど、みんなが賛成するなら仕方ない」というように、自分の意見・想いを内に秘めているメンバーが実は多いからです。そのままにしておくと、メンバーのモチベーションが下がり、受身で働くことになってしまいます。それを防ぐには、リーダーが1on1で一人ひとりの意見・想いをすくい上げるのが最も効果的です。1on1は素朴な方法ですが、実効性が極めて高く、多くの社員が意欲を高めるきっかけになっています。

もう1つは「雑談を増やす工夫」です。これは日立製作所の矢野和男氏たちのグループが行った研究ですが、ある企業のコールセンターA・Bは、同じ業務を同じ仕組みで行っているのに、業績には明確な差がありました。調べたところ、両者の違いは、Aには昼食を食べたり、休憩したりできる喫茶スペースがあり、Bにはないというだけでした。そこでBにも喫茶スペースを作ったところ、Bの業績がAに近づいてきたのです。

この研究で分かったことは、喫茶スペースがあると食事・休憩時に雑談が生まれること、その雑談が相互理解を深め、人間関係を良くする上で役立っていることです。喫茶スペースができた後のBではメンバー同士の対話が増え、その結果、アドバイスやサポートの機会も増えたのです。それが業績向上に大きく寄与していました。

1on1ミーティングと雑談を増やす工夫。この2つを実行すれば、着実にチーム力を高められるはずです。私が最も感心したのは、社員がよく通る場所に世界地図を貼り、一人ひとりが行ったことのある場所に名前を書いてピンを刺していた会社の事例です。世界地図の前で、「あの国はどうだった?」といった雑談が頻繁に起きていると聞きました。ぜひいろいろと試してみてください。

今後のリーダーに必要なのは心理的安全性を高める力だ

私は、特段目新しい主張をしているわけではありません。傾聴の重要さは「サーバントリーダーシップ」などの概念でいわれてきたことです。また、雑談が大切だということも、「飲みニケーション」などの言葉でよく語られてきました。

では、私が今なぜ1on1と雑談に改めて注目するかといえば、社会の変化が影響しています。よくいわれることですが、現代社会では多様性が増しており、さまざまな価値観・考え方のメンバーが一緒に働くのが当たり前になりました。誰もが1つの価値観・考え方に従う時代ではなくなり、リーダーが、トップダウンの指示・命令だけでチームを引っ張るのは難しくなりました。大学でも率直に意見を言う学生が多くなっています。リーダーにおとなしくついていく若者は確実に減っているはずです。

そうした時代では、例えばコンプライアンス問題が象徴的ですが、「○○をしてはいけない」と頭ごなしに言ってもほぼ効果はありません。そうではなくて、何をするのがよいか、何をしてはならないかを全員で話し合って共有し、ボトムアップで一丸となってビジョン・ミッション・目標を目指すことが最も効果的なのです。その際、リーダーはメンバーと対等な立場で意見し、最終的には勇気をもって場の結論に従うことが大切です。

その際に効果を発揮するのが、1on1と雑談です。この2つに共通するのは、チームの「心理的安全性」を高め、何でも話しやすい空気を醸成する効果があることです。心理的安全性が高まれば、チーム力が高まる好循環が生まれるはずです。今後のリーダーに最も必要なのは、1on1を丁寧に行ったり、雑談を増やす工夫をしたりして、チームの心理的安全性を高める力ではないでしょうか。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.56 特集1「多様性を生かすチーム」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
山口 裕幸(やまぐち ひろゆき)氏
九州大学大学院 人間環境学研究院 教授

1981年九州大学教育学部卒業、1991年九州大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満 期退学。九州大学大学院准教授などを経て、2009年より現職。『チームワークの心理学』(サイエンス社・単著)、『〈先取り志向〉の組織心理学』(有斐閣・編著)など著書・共著書多数。

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