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インタビュー

経営者が語る人と組織の戦略と持論

面白法人カヤック代表取締役 CEO 柳澤大輔氏

  • 公開日:2019/12/02
  • 更新日:2024/03/22
面白法人カヤック代表取締役 CEO 柳澤大輔氏

自らのことを「面白い」と公言する人は大抵面白くないが、面白法人を名乗るIT企業、カヤックは違う。事業内容も社内の仕組みも、文句なく面白い。今年3月には横浜に、うんこをテーマにしたミュージアムを立ち上げたほどだ。そのカヤックが地元、鎌倉でまた面白いことを始めたそうだ……。

鎌倉の「まちの社員食堂」
資本主義の限界とは
人のつながりを増やすお金
社員全員が人事兼任
鎌倉の町がオフィス

鎌倉の「まちの社員食堂」

昼時、鎌倉駅からほど近い、前面がガラス張りの2階建ての建物に、三々五々、人が吸い込まれていく。「まちの社員食堂」。2018年4月にオープンした、鎌倉市内で働く人たちが気軽に利用できる飲食店だ。入り口近くにある食券機のボタンには30社余りの社名がクレジットされ、社員はそのボタンを押せば割引価格で利用できる。そのうちの1社が鎌倉に本社を置くカヤックで、この食堂の発案者(社)でもある。

同社代表取締役CEOの柳澤大輔氏が語る。「社員向けに食堂を作りたいと思ったのですが、従来の食堂は閉じているので面白くない。そこで、その場を外に開き、会社の垣根を越えて、鎌倉で働く人が交流できる場にしたらどうだろうかと考えたのです。食べに来る人だけではなく、作る側にも鎌倉を意識しました。地元の飲食店に声をかけ、週替わりでメニューを提供してもらうことにしたのです」。その数は現在、40店にものぼる。

この食堂は、柳澤氏が提唱する「鎌倉資本主義」の重要な拠点になりつつある。

資本主義の限界とは

鎌倉資本主義とは何か。

キーワードが「地域資本」。柳澤氏によれば、それは、地域経済資本(財源や生産性)、地域社会資本(人のつながり)、地域環境資本(自然や文化)の3つで構成される。それらをバランスよく増やしていくことが地域住民の幸せにつながるという考えのもと、企業、行政、NPOといったステークホルダーが力を合わせていく、というのがその中身だ。

そもそも鎌倉にカヤックが本社を置くのは、柳澤氏含め、立ち上げメンバー3名が起業当時から「鎌倉に住んで鎌倉で働こう」という思いを抱いていたからだ。1998年に起業した場所は都内だったが、2002年に鎌倉に移転し現在に至る。

その間、柳澤氏の“鎌倉愛”を強めるきっかけになったのが、カマコン。鎌倉に拠点がある7名の経営者が「鎌倉をもっと元気にしたい」という思いで、2013年に立ち上げた地域団体である。

月に1度の定例会があり、市議選盛り上げのための候補者比較サイトの創設や、市内の寺でミツバチを飼育してとれた鎌倉産ハチミツの商品化など、数々のプロジェクトを形にしてきた。参加者は150名にまで増加した。

2014年、カヤックは東証マザーズに上場。これが、柳澤氏が鎌倉資本主義というコンセプトを思いつくきっかけとなった。

上場すると、会社はパブリックな存在になる。利益を上げ、株主に報いることで、社会に貢献することが求められるのだ。「2005年に合資会社から株式会社になったこともあり、いろいろ調べて、株式会社という仕組みの面白さに気づきました。事業や会社を成長させていくという運動そのものに、ある種のゲーム的面白さがあると。その面白さが、資本主義をここまで発展させたのでしょう。一方で、資本主義に限界が来ているという論調があることも知りました。具体的には、富の格差の拡大と地球環境汚染です」

人のつながりを増やすお金

柳澤氏はそうした問題の根っこに、経済活動を表すGDP(国内総生産)という指標の絶対視があると考えた。「テクノロジーと面白さというカヤック流のアプローチによって、GDPを補完するような別の指標が作れないかと考えたのです」

具体的には、地域通貨だ。通常のお金ではその価値が測れない、人のつながり(地域社会資本)を増やした場合に増える。例えば、人におごると増え、使わずに貯めておくと、価値が減ってしまうようなお金を想定している。昨年8月、そのための会社(QWAN)を設立し、開発を進めている。

通貨というからには、使える場所がなければならない。柳澤氏がその第1号として考えているのが、先の社員食堂なのである。「まずはそこで普及させたい。そのために、カヤックが報酬の一部を地域通貨で支払うようにしたい。『地域通貨で報酬をもらった方が目に見えない価値がプラスされるからいいな』と、社員がその割合増を提案する流れができるといいと思っています」

こう書いてくると、柳澤氏が「意識高い系」の社会起業家のようなイメージをもつかもしれない。だが、違うのだ。「僕自身は富の格差も環境汚染も、そんなに深刻な問題とは捉えていません。そうではなくて、世の中が課題だと認識しているのなら、チャレンジしてみようと考えたのです。カマコンを始め、地域の課題を自分の課題として捉えると面白いことが分かってきたから。僕はそれを『ジブンゴト(自分ごと)』化と呼んでいます」

面白法人と名乗るだけあって、面白いかどうかが、あらゆる物事の判断基準になっているようだ。

社員全員が人事兼任

同社の面白さを最初に世に広めたのは、サイコロ給だろう。毎月、「基本給×サイコロの出目分の%」が、基本給に加算して支給される。人間による評価なんていい加減なものだから、最後の最後は天に託そう。そんな考えが背後にあるという。

また、世の中がリモートワークに注目する前から、「旅する支社」と名付けた臨時のオフィスを設けてきた。一定期間、オフィス兼住居を国内外で借り、有志をチームにして送り込み、通常の仕事をこなす。「すべての仕組みや制度を嘘くさくないものにしたいんです。オープンかつフラットな組織を目指し、自分のやりたいことが素でできるようにしたい」

社員全員が人事を兼任するという仕組みもある。同社が大切にしている言葉の1つが、「『何をするか』より『誰とするか』」。その「誰」という仲間を見つけ、入社してもらうことを全員のミッションにしているのだ。実際、柳澤氏の肩書にも「人事部」と入っている。

カヤックの社員は管理部門など一部を除き、全員がプログラマー、デザイナーなどのクリエイターで占められている。「カヤックの経営理念が『つくる人を増やす』なんです。そのためには自らが作る人でなければならない。また、楽しく、面白く働くには、同じような価値観や志向をもった仲間の方がいいだろうし、その方が、組織がシンプルになるだろうとも考えたのです」

どんな人が社員にふさわしいのか。大切にしているのは面接だ。4名の社員が段階を踏んで会い、全員が合格判定を出せば晴れて社員となれる。「見るポイントは、カヤックの社員にふさわしいかで、採用基準は特にありません。それを言葉にしても意味がない。経歴を詳しく聞き、実績を確かめ、課題を与えてテストするような、左脳的な見極めもしません。入ってからも、型にはめて育てることはしない。いいところを伸ばし、その人らしさを発揮してもらう。ただ、面白法人を名乗り、とるのはクリエイターばかり、給料はサイコロ給で働く場所は鎌倉、というのがかなりのスクリーニング効果を生んでいるのでしょう。ミスマッチはほとんどありません」

何ともアナログ的だが、サイエンスを無視しているわけではない。「一時は10名ほどで面接をする時期もありましたが、10名でも4名でも合否の確率は変わらないという他社の事例を知ってから減らしました。そういうデータは利用しますが、ものを言うのはやはり直感です」

鎌倉の町がオフィス

創業時の事業は受託によるWEB開発だったが、20年以上経った今は、オリジナルWEBサービス事業、ソーシャルゲーム開発などに加え、ウェディング、不動産、葬儀や移住支援まで手掛けている。社員も400名まで増えた。

今回、取材に訪れたのは「ぼくらの会議棟」と名付けられた3階建ての建物で、1階の待ち合わせスペースは開け放たれ、床には外の道路と同じアスファルトが敷かれている。町と会社が一体化しているのだ。実際、「まち全体が、ぼくらのオフィスです。」と銘打っており、古民家3軒や先の社員食堂含め、鎌倉市内に10以上の拠点がある。職住近接を推奨し、市内および近辺に住む社員には「鎌倉手当」なる住宅手当が支給される。

柳澤氏がこう語った。「社員の幸福度が高い組織を作りたかったんです。実際、楽しくて幸せだと思いますよ。僕が言うのも何ですが、つくづくいい会社だと思います」

社員の幸福度は、創造性と生産性に直結するという。見習うべき会社は多いはずだ。

【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.55 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
柳澤 大輔(やなさわ だいすけ)氏
面白法人カヤック代表取締役 CEO

1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人と面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、鎌倉からオリジナリティのある“面白い”コンテンツをWEBサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。著書に『鎌倉資本主義』『面白法人カヤック会社案内』(共にプレジデント社)、『アイデアは考えるな。』(日経BP社)などがある。

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