経営者が語る人と組織の戦略と持論 公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ
チェアマン 大河 正明氏

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ、通称「B.LEAGUE(ビー・リーグ)」。開幕から3年目を迎え、着実な成長を遂げている。
2019年2月には男子日本代表が8月開幕のW杯出場を決めるなど、盛り上がる日本バスケットボール界。それをリードするB.LEAGUEチェアマンの大河正明氏に、経歴と、人と組織に関する持論を聞いた。


銀行からプロスポーツのリーグ運営へ

2019年2月、バスケットボール男子日本代表がアジア予選を終えて13年ぶりのW杯出場を決めた。開幕4連敗からの8連勝で掴んだ快挙。それを喜び、心待ちにしていた1人に、B.LEAGUEチェアマンの大河正明氏がいる。

京都大学を卒業後、三菱銀行(当時)に入行。銀行には約30年間勤務した。そんな大河氏がなぜ、プロスポーツのリーグ運営に携わるようになったのだろうか。転機は1995〜97年の約2年間、設立して間もない、サッカーのJリーグに出向したことだった。
「華々しく立ち上がったJリーグも、踊り場を迎えていました。そこで、当時の川淵三郎チェアマンから銀行の頭取に、人事や総務に詳しい人材を派遣してほしいと依頼があったと聞いています」

銀行では、支店長会議での発言内容に何人ものチェックが入り、跡形もないほど原稿を直された。ところが、Jリーグに出向してみると、川淵氏はどんなときでも自分の言葉で発言。その姿を見ながら、「経営者というのは、こういうものなのだろう」と感じた。

出向期間を終え、銀行に戻った大河氏は支店長や本部の部長職などを経験。再三請われて、2010年、50代でJリーグへ転職した。そのときもやはり、一種のカルチャーショックを覚えたという。
「銀行というのは、良くも悪くも組織に対するロイヤリティが高い。支店長がこの方針で行くぞと言えば、皆がその方向に向かって進みます。Jリーグは違いました。上の考えに応じて下が動く、という発想そのものがないんです。サッカーへのロイヤリティは高くとも、組織へのロイヤリティはとても低かったのです」

これはB.LEAGUEでも同じだという。日本のバスケットボール界には、もともと実業団ベースとプロベース、2つのトップリーグが存在していた。これに対し国際バスケットボール連盟(FIBA)から改善指令が出て、リーグを統一できなければ国際試合に出場できない事態にも陥っていた。統一への道筋を作ったのがJリーグ設立に尽力した川淵氏であり、大河氏はその川淵氏から託されて、チェアマンに就任したのである。

36チームの試合をすべて観戦

2つのリーグが1つになってB.LEAGUEを設立した経緯もあり、組織づくりには苦労も多かった。各クラブの売上を立てていくと同時に、リーグ全体の求心力も高めなくてはならなかった。
「Jリーグの場合、設立から開幕まで5年の準備期間がありました。B.LEAGUEは15年4月に設立し、16年秋に開幕していますから、準備期間が1年半しかなかった。その間にビジネスモデルを組み立て、スポンサーを集め、人を採用し、組織を作らなければならなかったという意味では、難度の高い仕事でした」と、大河氏は振り返る。

クラブがB.LEAGUEに参加するには一定の条件の下でライセンスを取得し、毎年、審査を受ける必要がある。現在、B.LEAGUEに所属しているのは36チーム。「強くなりたい」「バスケットボールを盛んにしたい」という志は同じでも、クラブごとに置かれた環境も違えば、温度差もある。それをどう調和させ、同じ方向へと進んでいけるようにするか、がチェアマンの腕の見せどころだ。そのために大河氏が最も重視しているのは、「現場百回」だという。
「1シーズンの間、36チームの試合はすべて見ます。地方を訪問した際は極力、クラブチームの社長や、大きなステークホルダーである地元の知事・市長、それと地元メディアの関係者にも会います。マンツーマンで会う機会を増やすことで、いざというときには、『あいつが言うならここは折れよう』という気持ちになってもらえるのだと思います」

リーグを運営する上で大事にしている、「あいうえお」があるという。
「『あ』はアイディア。リーダーとしては短期的にはもちろんのこと、中長期的にこのリーグをどういう方向にもっていきたいのかという考えを常にもっていることが大事です。『い』は員、つまり人。どのような組織も結局は人ですし、極論すればこれが一番大事であり、アイディアを実現できるかどうかはクリエイティブな発想ができる人材を採用し、育成できるかにかかっている。『う』は運。運がいい人はやはり、ポジティブかつアクティブに行動しています。『え』は縁、つまり人との出会いを大事にしながら進むこと。『お』は恩ですね。さまざまな方に支援していただいてリーグを運営できているわけですから、威張ることなく、やはり謙虚でいることは大事だと思います」

実はこの「あいうえお」、息子さんの中学校の入学式で校長先生が話しているのをヒントに、考えたものだという。

4団体共同で人材を採用・育成

2019年1月には日本バスケットボール協会(JBA)やBマーケティング、ジャパン・バスケットボールリーグ(B3リーグ)と共同で、「バスケットボール・コーポレーション」を設立した。目的は各団体に所属するスタッフのキャリアの複線化と、クラブ運営の強化だ。
「おのおののクラブが地方でビジネスセンスのある人材を採用するのは難しい。4団体が共同でタフなビジネスができる人材をここで採用し、育成していく。そうした人材を赤字のクラブへ派遣し、資金繰りやスポンサー集めを手助けしていく仕組みを今、作っているところです」

クラブチームはそれぞれ独立した存在であり、チェアマンに人事権はない。そこはB.LEAGUEを運営していく上で最も難しい点の1つだが、これに関しても、銀行員時代、本部で支店統括する仕事をしていたときの経験が役に立っているという。
「当時、担当していたのは70支店くらい。あまり業績の良くない支店を中心に、『臨店』といって一つひとつ支店を訪ね、そこの組織体制を見ながら、どこに問題があり、何を改善すればいいのかを探る仕事をしていました」

いわく、「これはB.LEAGUEのクラブ運営とまったく同じ」。「例えば、債務超過に陥っているクラブがあれば、どうすればそこから脱することができるのか。具体的にどれくらいの金額を資本増強する必要があり、どういう種類の株式を発行すべきか。また、B1リーグに参加するためのライセンスを取得するには5000人収容のホームアリーナを持つ必要もありますが、そのための事業計画はあるのか、図面は完成しているのか、しているとすれば、いつそれを公表できるのかなど、具体的に期限を切って詰めていきます」

目標は高く、ITも積極的に活用

1年目よりも2年目、2年目よりも3年目と、バスケットボール人気も高まってきてはいる。しかし、大河氏は「現状に満足してはいない」。実体のない人気は、いつか弾ける。サッカーのJリーグも、開幕3年目以降は苦労した。大河氏はその経験を基に、今年から観客動員が難しい水曜日に試合日程を組むなどの試みも始めた。「平日に試合を組めば集客面ではマイナスです。それでもなお前年と同等に集客できれば、それは成長している証しになる」と高い目標を掲げ、ストレッチを促した。

ところで、中学高校の部活動で見た場合、バスケットボール人口は最も多い。1試合中、1人の選手が20点から25点入れることもあるバスケットボールは、素人目にも躍動感があって面白いと感じる人は多い。
「その面白さを伝えていくのがわれわれの責任です」と語る大河氏。インスタグラムやVoicyなど、個人が自由に発信できる新しいメディアを活用した情報発信にも、積極的に取り組んでいく考えだ。
「現在、われわれの組織はBマーケティングと合わせて100人くらいの規模になりました。これくらいだと、一人ひとりの影響力も大きい。トップが誰と会って、何を話したか。そういう情報は、組織をどういう方向に向かわせたいのかを一人ひとりが考えて動くヒントにもなります。1、2分のあいさつでも、何を話すべきか20分から30分は真剣に考えます」

各クラブには「オフコートキャプテン」を置き、選手である前にまず社会人としての常識を身に付けてもらうよう、研修にも力を注いでいる。
「研修をしても、リスクがゼロになるわけではありません。しかし、1%あったリスクを0.1%に減らすことはできるでしょう」

しばし考え込んだのは、銀行員とチェアマンの仕事、どちらが向いていると感じるのかと聞いたときだった。「難しい質問ですね」とつぶやいた後に、こう答えた。
「今はもう、向いている・いないにかかわらず、任せられた責任をどう果たすかということしか考えていません。銀行時代の経験は間違いなく役に立っていると思いますし、向いているかは分かりませんけれど、今の仕事はやりがいがあると感じています」

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.54 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
大河 正明(おおかわ まさあき)氏
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ チェアマン

1958年、京都府生まれ。京都大学を卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。95年から約2年間、Jリーグ出向。2010年、請われてJリーグへ転職。2015年、川淵三郎氏の下で新リーグ創設を目指すバスケットボール界に転身、日本バスケットボール協会事務総長として組織再編などを手がける。2015年9月、「B.LEAGUE」チェアマンに就任。

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