上智大学 川西 諭氏 コミュニティ内の関係を変えたいなら
「NVC」を勧めたい

1990年代から、アメリカを中心にソーシャル・キャピタル研究が進んでいる。信頼関係やネットワークをソーシャル・キャピタル(社会資本)と捉え、その影響を測る学問だ。その延長線上で「コミュニティキャピタル」を研究する川西諭氏に、その経緯や成果などを伺った。


居場所と仲間を感じるコミュニティを増やしたい

私たちは今、学校・企業・地域などの比較的小さなコミュニティ内のソーシャル・キャピタルに注目しています。それを「コミュニティキャピタル」と呼び、コミュニティキャピタル研究会を立ち上げて、その影響を調べています。

私たちがコミュニティキャピタル研究会を立ち上げたきっかけは、私が呉哲煥さん(NPO法人CRファクトリー代表理事)と出会ったことにあります。呉さんは、「居場所と仲間を感じるあたたかいコミュニティを世の中にあふれさせること」をミッションとして、さまざまな方面から良いコミュニティを増やす活動を続けている方です。

彼は、あたたかいコミュニティを作るノウハウをいくつももっているのですが、その効果を目に見える形で提示できないことに悩んでいました。そんなときに彼は私と出会い、「コミュニティを良くする方法の効果を科学的に測定できないでしょうか?」と私に相談したのです。一方の私は彼のミッションに共感し、すぐに意気投合しました。そうして研究会を始めたというわけです。

現在、私たちは、「理念共感と貢献意欲」「自己有用感」「居心地の良さ」の3つの因子を使い、多様な集団の状態の良さ(これをコミュニティキャピタルと呼んでいます)を計測しています。同じ理念に共感し、仲間に貢献したいと思っている集団は状態の良い集団です。同様に、メンバーが集団の役に立っていると思えることも重要です。そして、人間関係が良好で居心地が良く感じられることも集団の好ましい条件です。3つの因子は相互に関連しながら、コミュニティの状態を規定しているというのが、私たちの仮説です。

私は、なかでも最も重要なのは、「自己有用感」だと考えています。NPOなどに入る動機の大半は、理念への共感です。しかし、特に無償ボランティアが顕著ですが、理念に共感し貢献したいという思いだけではなかなか長続きしません。実は、長くコミュニティに参加するメンバーの多くに共通するのは、理念への共感に加えて、「自分が仲間たちの役に立っている」と思えていることなのです。ですから、もし長期的に活動するメンバーを増やしたいならば、メンバーに誰にでもできる楽な仕事ばかりさせるのではなく、多少大変であっても得意なことで活躍できるような機会を作ってあげることをお勧めします。自己有用感が高まれば、集団の居心地は自然と良くなっていくはずです。

公助の充実によって共助の必要性が下がった時代

ところで、なぜソーシャル・キャピタル研究が世界中で行われているかといえば、「人間関係の希薄化」が世界的に進んでいるからです。日本も例外ではありません。2010年に生まれた「無縁社会」という言葉に象徴されるように、社会から孤立する人が無視できない数になっています。地縁血縁社会はかなり崩壊しており、昔は正月やお盆ともなれば、地域には多くの親戚が集まって賑やかな家が普通に見られましたが、今やそれは少数です。また、町内会や自治会などに参加する人数も減っています。お互いを仲間だと思えるようなコミュニティは確実に少なくなっています。

職場のコミュニティも、全体的には同様でしょう。一昔前の日本企業では、運動会や社員旅行などのイベントが盛んでしたが、最近はこうした催しは間違いなく減っています。飲み会の数も少なくなった企業が大半で、プライベートには関わらない、仕事以外のメンバーの姿はよく知らないという職場の方がもはや一般的だと思います。

私たちの研究活動の根底には、そうした現実のなかで、助け合い支え合う関係や、居場所と仲間を感じるあたたかいコミュニティをなんとかして増やしたいという思いがあります。

私たちは、人間関係の希薄化が進んでいる原因の1つは、「公助の充実」にあると考えています。以前は、公助、つまり行政のサポートが今よりも確実に脆弱でした。例えば、困窮者の生活保護が原則的に国家責任となったのは、1946年に旧生活保護法が施行されてからです。その後、生活保護は少しずつ手厚くなってきました。生活保護があまり頼りにならない時代には、困窮する高齢者などを周囲の人たちが助けていた面があったのですが、生活保護などが手厚くなれば、その必要性は薄くなります。このように公助が充実しているからこそ、互いに助け合う「共助」の必要性が下がっているのが、現代の特徴です。

ただ最近は、手厚い行政サービスがいずれ提供されなくなる可能性が出てきています。財政が破綻して行政サービスの質が著しく下がった夕張市は、その象徴であり第一の例です。そうなったとき、公助に頼り切っている方々が共助できるようになるのか。私たちはそれを心配しています。

その夕張市から市立病院がなくなったことで、住民の皆さんが自分たちの健康に気を使うようになったという話もありますから、楽観的に考えてよい面もあるかもしれません。しかし、共助の必要性を失った私たちは、総じて人間関係構築のトレーニングを受けてきていません。なかでも、定年退職を迎えた高齢男性の方々が、特に人間関係の構築を不得意としており、孤立する傾向が強いといわれています。私たちは、周囲との人間関係を良くする方法を学ぶ必要があると思います。

コミュニティキャピタル向上の方法として有力なのが「NVC」

とはいえ、正直に言えば、私たちコミュニティキャピタル研究会でも、今はまだ、コミュニティ内の人間関係を良くして、メンバーの貢献意欲を高め、あたたかいコミュニティを作る方法を確立できているわけではありません。

ただ、有力な方法は探し当てています。それは「NVC(ノン・バイオレント・コミュニケーション)」です。マーシャル・B・ローゼンバーグが開発したNVCは、「人と人との関係にいのちを吹き込む法」であり、「過酷な状況に置かれてもなお人間らしくあり続けるための言葉とコミュニケーションのスキル」(『NVC人と人との関係にいのちを吹き込む法』日本経済新聞出版社)です。

少しだけ紹介すると、NVCは次の4つのプロセスで行われます。(1)状況を観察する、(2)相手の行動を観察したとき、自分がどう感じるかを述べる、(3)自分が何を必要としているから、そのような感情が生み出されるかを、明確にする、(4)非常に具体的な要求をする。この「観察」「感情」「必要としていること」「要求」の4つに意識を集中すれば、相手と心の底から与え合いながら交流することができるというのが、NVCの考え方です。

簡単に言えば、ローゼンバーグは、相手との関係を良くしたいなら、道徳をふりかざして相手を裁くこと(非難・侮蔑・こきおろし・烙印を押す・批判・分析)や、比較、責任の回避、強制などをする代わりに、自分が観察できた事実と、観察から生まれた感情をベースにして、自分が相手に何を求めるのかを具体的に伝えることが重要だと言っているのです。そうやってお互いに自己開示し、感情の根っこにある欲求を確認し合って、一緒にベストソリューションを考えていけば、あらゆる人間関係は良くなるのです。

私たちは今、NVCを広めることで、世の中のコミュニティキャピタルを高めることができるのではないかと試行錯誤している最中です。ぜひ皆さんにも試していただきたいと思います。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.54 特集1「職場におけるソーシャル・サポート 希薄化する人間関係にどう向き合うか」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
川西 諭(かわにし さとし)氏
上智大学 経済学部 教授

1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。上智大学経済学部助教授を経て現職。主な研究分野は、応用経済分析・金融論。『ゲーム理論の思考法』(中経出版)、『経済学で使う微分入門』(新世社)、『知識ゼロからの行動経済学入門』(幻冬舎)など、著書・共著書多数。

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