追手門学院大学 浦 光博氏 人間関係が豊かなほど人は健康、かつストレスに強くなる

社会心理学にソーシャル・サポートという研究分野がある。「社会的支援」と訳すと意味がずれるので、そのまま表記されることが多い。平たく言うと「支え合い」であり、社会はもちろん企業においても必須なことだ。基礎的な概念から人事への示唆に至るまで、第一人者である浦 光博氏にお話を伺った。


支え合いが健康を増進させる2つの効果

ストレスに満ちた現代社会においては、人間同士の支え合いが生活の質に大きな影響を及ぼします。

支え合いには、健康を増進させる2つの効果があります。まずは、家族、友人、知人の数が多い人ほど健康になるという直接効果です。逆に言えば少ない人ほど不健康になるということです。

もう1つはストレス緩和効果です。ストレスがない状態では、知り合いが多い人も少ない人も、健康状態に差がないけれども、ストレスが増すにつれ、知り合いが多い人ほど、その影響をさほど受けず、健康を保つことができます。

この2つの効果を巡り、1970年代後半から主にアメリカで発展してきたのがソーシャル・サポート研究です。

人間関係には当然、強弱があります。家族関係は強いですし、一度しか会ったことのない人との関係は弱い。

強い関係は頼りになるけれど、変化に弱い。しかも、維持するのに多大なコストがかかります。一方、弱い関係は大きな支えにはならないけれど変化に強く、コストもかかりません。

これまでの研究によれば、どちらに偏ることなく、両者を手広く、かつバランスよくもっている人ほど、健康を維持できるということが分かっています。

「みんな仲良く」の逆説

このソーシャル・サポート研究から、学校でのいじめがなくならない要因を類推することができます。ずばり言うと、教師が「みんな仲良く」と言いすぎるからなのです。生まれも育ちも価値観もまったく違う、自分以外の級友全員と仲良くできるほど、人間の認知能力は高くありません。そうではなくて、仲良しグループができてもいいけれど、グループ同士、仲違いしないようにと、教師が弱い関係を認めてあげればいい。

そうすれば、1つのグループに居辛くなったとしても、他に移れますから、クラス全部から爪はじきにされることがなくなります。「みんな仲良く」1人をいじめる、ということがなくなるのです。

ソーシャル・サポートには道具的サポートと情緒的サポートの2種類があります。前者はストレスに苦しむ人にアドバイスし、そこからの脱却に必要な資源を提供したり、その資源を自ら入手できるような情報を与えたりすること。後者は、ストレスに悩み、苦しんでいる人を勇気づけたり、そばにいて友情や愛情を示したりすること。それによって、自分は1人ではないことに気づかせ、自ら問題解決に向かえるような前向きの精神状態に戻してあげられるのです。

道具的サポートの方が難度が高いですから、専門家の手に委ねられることが多いのは容易に想像がつくでしょう。情緒的サポートもハードルが高い、と感じる場合には、こんな方法があります。

人間関係が希薄で、孤独に苦しんでいる当事者同士や、悩んでいる当人と、過去同じような境遇にあったものの、そこから脱出できた人を引き合わせてあげるのです。苦しんでいるのは自分だけではない。そう思えるだけで、多くの人は随分救われます。

そうした「つながりの場」は、必ずしもリアルである必要はありません。以前、子連れ再婚家族の研究をしたことがありました。そうした家族は世の中で日陰の存在になりがちです。周囲も差別の意識はないのだけれど、どこかで腫れ物に触るような扱いをしてしまいがちです。

そこで、ある当事者がネット上にコミュニティを作り、同じ境遇の人たちとつながり、互いの悩みを共有し合うようになったところ、効果は絶大でした。今ではそのコミュニティがさまざまな情報収集や相談ができる場として機能し、当事者たちにとって不可欠の存在になっています。

賢い集団は共感し合っている

数年前、アメリカのカーネギーメロン大学で集合的知能に関する面白い研究が行われました。賢い集団とそうではない集団を分ける要因は何か、ということです。

すぐに思いつくのはIQの高さです。そこで、メンバーのIQの平均値をとり、その値が高い集団ほど高いパフォーマンスを発揮するという仮説を立てたところ、成立しませんでした。また、各集団内のIQの最高値とパフォーマンスとの関連も認められませんでした。最終的に鍵を握っていたのは、メンバー同士の社会的感受性の高さでした。言い換えれば、互いに共感し合っている集団ほど賢いという結論です。

他にも、特定のメンバーに会話の機会が集中している集団より、全員が等しく発言している集団の方が賢いことが判明しました。また、女性比率の高い集団の方が賢いことも分かりました。これは女性の方が男性より社会的感受性が高いからだと考えられています。男女雇用機会均等法はやはりきちんと機能させるべきなのです。

人への共感性は支え合いの原点であり、それなくして支え合いは成立しません。いわば、ソーシャル・サポートが機能している集団ほど、より良いパフォーマンスを発揮できるのです。

年功序列、終身雇用が当たり前だった1980年代までは、社内の人間関係への配慮を欠かさないことが、より良いキャリアを積むための必須条件でした。同じ企業に40年も勤めるわけですから、当然だったといえます。

その後、バブル崩壊を経て、年功序列の代わりに成果主義が入りました。終身雇用が崩れ、転職が例外ではなくなりました。その結果、社内の人間関係に配慮するよりも、自らの短期的な成績が大切になりました。社外で通用する力を身に付けたいという人も増え、利己的な行動が蔓延するようになりました。

一方で、例えばアメリカのように、転職市場がきちんと整備され、誰もが生涯で数社を渡り歩くという状況にはまだなっていませんから、転職しようかしまいか、頭を悩ませている人が多いのが現状でしょう。

企業も年功序列の昔には戻れません。成果主義を運用しながらも、互いが配慮し合う人間関係も作り上げなければならないとしたら、個人単位ではない、グループ単位の成果主義を模索すべきでしょう。

最近、一時は廃止した社員寮を復活させる企業が出てきています。その場合、各室にキッチンを設けず、団欒スペースも兼ねた大きめの共同キッチンを設けるケースが多いそうです。各自を部屋に閉じこもらせずに、つながりと支え合いを促進させる、良い試みだと思います。

ソーシャル・サポートは、人間社会になくてはならないものです。その必要性は不変だけれども、合理性や効率性を追求していくと失われてしまう。企業においても社会においても、このキッチンのように、互いが互いを支え合う関係を意図的に作らなければならない時代になったのです。


【text:荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.54 特集1「職場におけるソーシャル・サポート 希薄化する人間関係にどう向き合うか」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
浦 光博(うら みつひろ)氏
追手門学院大学 大学院長 心理学部長心理学部心理学科 教授 博士(社会学)

1979年関西大学社会学部卒業、1984年関西大学大学院社会学博士課程単位取得退学。1995年、博士(社会学)(関西大学)。広島大学総合科学部教授などを経て、2013年から現職。2017年度より2年間日本社会心理学会会長も務めた。主著『支えあう人と人―ソーシャル・サポートの社会心理学』『排斥と受容の行動科学―社会と心が作り出す孤立』(ともにサイエンス社)。

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