立教大学 中原 淳氏 マネジャーの育成には役割への動機づけと変化への伴走が必須

ベンチャー・成長企業の新任マネジャーにとって、実践的な学びのあり方とはどのようなものだろうか。『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)などの著書があり、一貫して「大人の学び」を科学している中原淳氏に、そのポイントを伺った。


マネジャーのポジションに魅力がないことが根本的な問題

厚生労働省が2018年に発表した「労働経済白書(労働経済の分析)」では、一般社員の61.1%が、「管理職に昇進したいとは思わない」と回答しています。その理由は「責任が重くなる」が71.3%、「業務量が増え、長時間労働になる」が65.8%でした。これは私の実感とも合っています。マネジャーになるのを嫌がる若者が多いのです。

今、日本企業のマネジャーはますます大変になっています。コンプライアンスを守り、多様な部下を扱い、部下に残業をさせず、自分も残業をせず、組織のパフォーマンスを高め、個人の成果も上げ続けることが求められているのです。その大変さは残業量からも明らかで、私たちの調査では、残業の集中傾向が一番強かったのは上司層でした。

待遇面にも問題があります。『Works』151号(リクルートワークス研究所)によれば、大手日本企業と外資系企業では、課長で約250万円、部長では500万円もの年収の水準差があるそうです。さらに、将来の不透明感が増す現代、管理職昇進よりも、プレイヤーを続けて専門性を高めた方がリスクが減ると考える働き手が多いはずです。

つまり、日本企業のマネジャーは、さまざまな面で魅力のないポジションになっているのです。ここに、新任マネジャー育成問題の根本があります。本人にとってのインセンティブがない限り、マネジャーの育成は難しいでしょう。

目標咀嚼・部下育成・評価を苦手とする管理職が多い

ベンチャー・成長企業の場合は、それ以外にも新任マネジャーにまつわる課題が複数あります。

1つ目に、「マネジャーの成長が事業成長に追いつかない」という問題があります。特に急成長企業はマネジャーが一気に足りなくなり、比較的若くして、ある日突然マネジャーになることはほぼ避けられません。また、研修や育成体系が整っていないケースがほとんどです。その結果、マネジメントスキルの未熟なマネジャーばかりになりがちなのです。

2つ目に、ベンチャー・成長企業の管理職の多くは、目標咀嚼やリフレクションが苦手です。いちいち説明したり、振り返ることよりも、とにかく早くやることを重視するのです。また、分業が進んでおらず、管理職もプレイヤーと渾然一体となって動くことが多いこともあって、誰よりも長時間働くことで周囲をリードしようとするマネジメントになりがちです。しかし、これではうまくいきません。会社の目標を部下にかみ砕いて説明し、納得を得る「目標咀嚼」をしない限り、部下が思うように動かないからです。また、適切なタイミングでフィードバックして内省を促さない限り、部下育成も進みません。こうしたマネジメントの原則を知らない管理職が多く見られます。

3つ目に、ベンチャー・成長企業には、部下を評価することを苦手とするマネジャーが珍しくありません。これまで友達感覚で一緒に働いてきたメンバーを、上司として評価することに抵抗感をもっているのです。そうした意味でも、マネジャーの原則や役割をよく理解してもらう必要があります。

フォローアップの充実が研修の実効性を高める

以上を踏まえて、ベンチャー・成長企業では、どのように新任マネジャーを育成していけばよいかを考えます。

まずは「マネジャーという仕事の魅力化」を進めることです。待遇をできるだけ改善しながら、マネジャーになるメリットや期待を具体的に伝え、意欲を高めることが欠かせません。なお、研修に経営者が出席することも重要で、モチベーション向上に大きく寄与します。

その上で、担当者からマネジャーに移行する時期に、集中的に研修や学習機会を設けます。そこで重要なのは、「原則を伝えること」と「フォローアップ」です。マネジャーの仕事は、結局はやってみないと分からないものですが、マネジメントの原則や起こりがちな現象はあります。それらを最初によく伝えるのです。その上で、1年間程度、やってみては振り返ることを繰り返していきます。

最近では、さまざまなサーベイデータを利用することも増えています。一人ひとりのバイアスやズレを明らかにしながら、そのつど各自のマネジメント課題を見える化し、最終的には自らアクションを決めてもらいます。ここで留意したいのは、データさえあれば何かが変わるということではなく、置かれた環境の多様性を踏まえてデータを本人が解釈するというプロセスの重要性です。

こうして、フォローアップで彼らを見守り、内省を促して、個別の変化に伴走していきます。このフォローアップの充実が、内省・実践サイクルを定着させ、研修の実効性を高める上で必須です。タイミングを見て、彼らの栄養となるようなマネジメントのヒントを、「サプリ」として追加投入するとより良いでしょう。

なお、働き方改革の影響もあって、研修に使える時間はどんどん短くなっています。そのなかで効果を高めるには、コンテンツをバイトサイズ化し、短くする代わりに回数を増やすといった工夫が必要です。実際、私のプログラムではインターバル研修を増やしています。また、予習・復習コンテンツの充実にも一定の効果があります。

こうした取り組みを通して、新任マネジャーの皆さんに「説明する習慣」「考える習慣」をつけてもらうことがポイントとなります。目標咀嚼・部下育成・評価をスムーズに実践できるマネジャーが増えることが、研修効果が得られたということになるのではないでしょうか。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集2「ベンチャー・成長企業の新任マネジャー育成〜実践的な学びとその定着」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
中原 淳(なかはらじゅん)氏
立教大学 経営学部 教授
リーダーシップ研究所副所長 兼 ビジネスリーダーシッププログラム主査

東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て、2018年より現職。『職場学習論』『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『残業学』(光文社)など共編著多数。

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