早稲田大学ビジネススクール 入山章栄氏 オープン・イノベーションで大切にすべき4つのこと

オープン・イノベーションを進める上で、日本企業はいったい何を大切にすべきなのか。今後注意しなければならないことは何なのか。人事の観点からは、どういったことに着目したらよいのか。世界最先端の経営学と日本企業の実情をよく知る入山章栄氏に伺った。


多くの企業がオープン・イノベーションに取り組む時代に

私は5年以上前から、「日本もこれからはオープン・イノベーションの時代だ」と言い続けてきましたが、当初は反応がほぼありませんでした。ところが今や状況が大きく変わり、多くの企業がオープン・イノベーションに取り組んでいます。その皆さんをさらに後押しすべく、「オープン・イノベーションで大切にすべき4つのこと」をお伝えします。

(1)大企業は「出島」を作るか社員を外に送り出すべし

まず、大企業がオープン・イノベーションに取り組む際は、「出島」の組織を作り、本体から遠いところで行うか、あるいは社員を外部に送り出すのが基本です。なぜなら、本社内で進めると、さまざまな形で抵抗に遭い、画期的なアイディアが日の目を見ない可能性が高いからです。

出島の端的な例が、「ピーチ・アビエーション」です。ピーチはANAグループのLCCですが、全日本空輸と香港の投資会社(ファーストイースタン・インベストメントグループ)の共同事業として始まりました。全日空の経営陣は、LCCを立ち上げるにあたって外資を導入し、アジア中心でビジネスを始めることで、本社からの影響を小さくしたのです。そのピーチが大成功を収めていることは周知の事実。日本の大企業発のオープン・イノベーションとして、素晴らしい事例の1つです。

一方で、社員を外部に送り出すモデルにも大きな可能性があります。代表例が、日本最大のベンチャーキャピタルの1つ、「WiL」の取り組みです。

WiLを率いる伊佐山元氏は、「日本の大企業の場合、社内に知の探索の種が埋もれていることが多い」という仮説を提唱しています。そもそも欧米企業がオープン・イノベーションに注力する主な理由は、社内に知の探索の「種」がないからです。しかし、日本の大企業には、将来性のある技術とその技術をもつ優れた人材が数多く潜んでおり、彼らを社外に出して活躍してもらうことで、イノベーションを起こせる可能性が高いというのです。

その仮説のもと、WiLはすでにいくつかの企業とジョイントベンチャーを立ち上げ、その企業から優秀なメンバーを出してもらって、彼らと共にオープン・イノベーションに取り組んでいます。無事にイノベーションを生み出すことができたら、彼らは本社に戻るわけです。こうやって人材を社外に動かすことで、本社の影響を受けずにイノベーションを起こしていく方法もあります。

私は、このWiLのやり方こそ、「日本型オープン・イノベーション・モデル」の好例だと考えています。出島を作るのが難しい場合、このモデルを積極的に検討することをお勧めします。

もちろん、本社主導でオープン・イノベーションを進められる企業は、それでまったくかまいません。個人的に注目しているのは、大和ハウス工業の「オープンイノベーションプログラム」です。これが画期的なのは、大和ハウス工業の技術や事業構想のテーマを公開した上で、提案を広く受け付ける「公募制」をとっている点です。

オープン・イノベーションのリスクの1つと言われるのは、「自社の技術を他社にとられる」ことです。しかし、大和ハウス工業は、それをリスクとは考えず、先に手の内を見せたのです。オープン・イノベーションの成功を左右する要素の1つは信頼関係の構築であり、彼らは、先に自分たちの技術や考えを公開することで、相手の信頼を得ようとしているのです。オープン・イノベーションの本質をよく理解した上で作られているプログラムだと感銘を受けています。

(2)ブームが終わっても不景気になっても続けるべし

日本経済は良い状態が続いていますが、景気が悪くなることもあるでしょう。そのとき、安易にオープン・イノベーションを止めてはいけません。なぜなら、第一に、オープン・イノベーションは「知の探索」だからです。イノベーションを起こすには、高い次元で知の探索と知の深化のバランスをとる「両利きの経営」が欠かせません。景気が悪くなったからといってオープン・イノベーションを止めてしまったら、企業はイノベーションを起こすための大きな力を失ってしまうでしょう。

第二に、オープン・イノベーションでは「信頼関係」が極めて重要だからです。オープン・イノベーションのアライアンス成功の秘訣の1つは、参加メンバー全員が、自分たちのことを「We」と言える関係を築くことです。全員が、自分がもともと所属する出身母体企業の利益以上に、アライアンスチームが進める新事業の利益を大切にして、同じ目標を目指す必要があるのです。そうした強い信頼関係を築くには、長い時間がかかります。ところが、途中で止めてしまったら、信頼関係はゼロあるいはマイナスになってしまいます。

ですから、始める以上は、ブームが終わっても不景気になっても続けるのだ、という覚悟をもって臨むことが大切です。オープン・イノベーションは、本質的に中長期的な取り組みなのです。

(3)大企業は研究所のロケーションを再考すべし

オープン・イノベーションに関する日本企業の深刻な問題の1つが、「特に製造業の研究所が都市部にないことが多い」ということです。

これまで述べてきたとおり、オープン・イノベーションの主な目的は、知の探索です。知の探索をする際は、移動しやすいところにいる方が確実に有利です。連携するベンチャー企業や、WiLのようなベンチャーキャピタルの近くにいた方が進めやすいのは間違いありません。

その意味では、地方の交通の便の悪いところに研究所がある企業は確実に不利です。そうした企業は、せめて研究所の一部を本社オフィスに移動するなどして、研究所のロケーションを再考する必要があると思います。

(4)成功の鍵を握るのは実は「人事」だと肝に銘ずべし

最後にお伝えしたいのは、多くの方にとって意外なことだと思いますが、オープン・イノベーションの成功の鍵を握るのは「人事」だということです。

なぜなら、オープン・イノベーションの成功確率はとても低いからです。さまざまな挑戦をしても7〜8割は失敗するでしょう。知と知の組み合わせは、どうしても多くの失敗を避けられません。

失敗を減らせない以上、オープン・イノベーションに取り組む際には、「失敗を肯定的に評価する制度」や「失敗を肯定的に受け止める文化」が欠かせません。そして、その制度や文化を作るのは人事です。つまり、人事がオープン・イノベーションを深く理解することが、オープン・イノベーションを進める上で避けられないのです。

ですから、人事の方々は、間違っても「オープン・イノベーションは自分の専門外」と思ってはいけません。むしろ、オープン・イノベーションの専門家になることが、自らの新たなキャリアを拓く可能性があると考える方が実情に近いのです。人事の皆さんには、率先してオープン・イノベーションに詳しくなることをお勧めします。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.53 特集1「オープン・イノベーションを成功させる組織のあり方」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
入山 章栄(いりやま あきえ)氏
早稲田大学ビジネススクール 准教授

慶應義塾大学大学院修士課程修了。三菱総合研究所に勤めた後、2008年ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年からニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に。2013年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)など。

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