リクルートワークス研究所 豊田 義博氏 仕事が見えにくい今、若者に必要なのは語り合いの場

景気のよさも手伝って、若手・中堅の離職が増えている。就職して働き始めた途端、転職サイトに登録する人も後を絶たないという。そもそも彼らはどんな就業観をもっているのか。いきいき働いてもらうにはどうしたらいいか。若者論、世代論に詳しい豊田 義博氏にお話を伺った。


若者の就業観の多面性

今の20代の若者はよくこう評されます。真面目だが指示待ち、リスク回避がうまく、楽な仕事を好み、残業を嫌う、と。でもこれは彼らの一面を捉えた評価にすぎません。

同じ人間が平日の夜や土日に、NPOやボランティアなどの社会貢献活動にいそしんでいたりします。彼らは、会社を、生活費を稼ぐ場として割り切り、自らの成長機会を外に求めているのです。こうした考えは、20代の後半や30代の前半にも見られます。ひと昔前の世代のように、会社が唯一無二の絶対的コミュニティではなくなっています。

また、今の20代、30代には、金儲けを嫌う傾向もあります。志やビジョンが欠如し、儲けの大きさが唯一の成果、という仕事をやりたがりません。もちろん、民間企業の仕事は社会貢献ではないのだから、そうした“青臭さ”だけではやっていけないのは彼らも分かっているはずですが、“腹黒さ”だけの仕事はできれば避けたいのです。

かといって、仕事が嫌いなわけでもありません。この世代向けのビジネス情報誌で社会起業家の特集をしたところ、売れ行きがぐっと上向いたという話を、その雑誌の編集者から聞いたことがあります。自分はまだ社会に出たてのひよっ子だが、将来は何者かになりたいし、なれるはずだ、仕事を通じ、ともかく世の中の役に立ちたい、という自負は前の世代と比べても高いのです。

仕事って1人でやるんだ、という戸惑い

一方、社会人になりたての若者と話すと、こんなことをよく聞きます。「仕事は皆と一緒にするものだと思ったら違っていました。基本は1人でやるものなんですね。最初は慣れずに戸惑いました」

今の中学や高校、あるいは大学でも、課題解決型学習(PBL)に代表されるようにグループワークが重視されています。それに取り組む生徒たちは、忍従を強いられがちな通常の授業より楽しいはずです。その延長線上に会社の仕事を考え、仕事とはそのように、皆でわいわい言い合いながら仕上げるもの、と思って入社したところ、期待が裏切られたというわけです。

新人に孤独を感じさせてしまう先輩や上司に問題があるのはもちろんですが、これには私が入社した30数年前と比べ、職場のあり方が大きく変わったことも大きいでしょう。

パソコンがまだなかった時代は、朝から電話が鳴り止まず受話器を取った先輩や上司が客と延々と話をしており、その内容が耳に飛び込んできました。机の横での雑談は当たり前、目の前で先輩が上司に怒られ、あるいは肩を叩かれて褒められていました。音ばかりではありません。先輩が作った企画書が机の上に無造作に置いてありました。見るともなしに、書かれた文字が目に飛び込んできて、その言葉遣いを自分の企画書で真似たりもしたものです。

このように、以前の職場には、意図したものではなかったにせよ、新人を一人ぼっちにせず、彼らが仕事を覚え、会社という組織に適応していくのを助ける仕掛けがふんだんにありました。しかし、今は、各自がパソコンに向かい、かつてなら仕事の過程で外に漏れてきた音も紙も、すべてブラックボックス化してしまいました。雑談もメールやチャットで行われます。若手が孤独を感じるのも無理はありません。

会社のコミュニティ度を高める工夫を

最近は、優秀な層でも、「やり方をきちんと教えてもらっていないから、この仕事はできません」と平気で言う傾向があります。

その原因は大学以前に存在するのではないかと考えています。今の若者の場合、難関大学を志望する学生ほど高校時代から予備校に通い、その多くが現役で進学する。カリキュラムは素晴らしく、それさえこなしていけば、自然と学力が増進する。用意されたレールに乗れば、特に頭を悩ませることなく、志望大学という山に楽々到着できるというわけです。

本来であれば、志望大学が求める学力水準と現在の自分の実力を冷静に見極め、どうしたらその差が縮まるのか、自ら考えるのが受験勉強の出発点です。そして、それこそが受験勉強に取り組む最大の価値であり、それは仕事にも通じる価値でしょう。ところが、そのプロセスを経験せず、予備校に委ねてしまっている。その結果、「教わっていないことはやらない」という消極的姿勢になってしまうのではないでしょうか。

この現象とコインの裏表かもしれませんが、今の若者は失敗をとても恐れます。私が接した大学生たちも「失敗したくない」と異口同音に言うんです。「もったいないな、若い今だからこそ、失敗できるんだよ」とアドバイスしても、きょとんとしています。

なかなか複雑な性質をもった、こうした若手をうまくつなぎ止め、戦力化するにはどうしたらいいのでしょうか。「石の上にも三年」はもう通じません。会社が絶対的コミュニティではなくなったことを認めた上で、会社のコミュニティ度を上げる仕掛けを工夫すべきでしょう。

例えば、キャリアインタビューで、入社5年目くらいまでの若手に対し、職場の先輩や上司が「この会社に入った動機と、これからやりたいことを教えてくれないか」と聞くのです。これまでは、新人配属のときはともかく、それ以降はあまり発せられない質問です。これによって日頃うかがい知れない本音が聞けるでしょう。その答えは本人をよく知るための貴重な材料になると共に、今後の指導や仕事の割り振りの際にも大いに役立ちます。あるいは、彼らに部署の先輩に向けて同じ質問をさせるのも有効です。若い頃の失敗談を聞かされれば、親近感が増すだろうし、青臭い志を語ってもらえば、腹黒さだけが必要と思えた仕事がそうではないことを理解するかもしれません。

蟻をスケッチさせる 良い問いで考えさせる

そうやって、「ここは確かに私の居るべき場所だ」という意識を高めると共に、目の前の仕事の社会的意味、社内的意味をしっかり認識させ、「わが事」とさせる対話を、若手・中堅と重ねるのです。

今流行の1on1もいいでしょう。ただし、注意してほしいのは、語りすぎないことです。そうなると、上からの命令や指示になってしまい、本人の腹に落ちにくくなってしまいます。

こんな話があります。ある動物学者がシャーレに入った蟻を子供たちに見せ、その姿をスケッチさせると、身体は頭と胴体の2つに分かれ、足が4本といった不正確な絵を描くそうです。そこで改めて、「蟻の身体は頭と胴体だけかな」「足は何本あるかな」と問いかけると、「3つに分かれている」「6本あるよ」と正確に認識し、そのとおりに絵を描くようになるというのです。

マネジャーも同じ。正解を含め、自分ですべてを話すのではなく、若手の頭が動き出す、良い「問い」を投げかけてあげることが大事です。

学習環境の整備もしっかり行いたいものです。先に紹介した、職場の環境変化に対応するための工夫が必要です。自社のベストプラクティスを集め、そのプロセスやノウハウを共有する勉強会を定期的に開いている企業がありますが、仕事そのものが見えにくくなっている今、意義ある試みでしょう。

【text :荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.52 特集1「リテンションマネジメントをこえて― 若手・中堅の離職が意味すること ―」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
豊田 義博(とよだ よしひろ)氏
リクルートワークス研究所 主幹研究員

東京大学理学部卒業後、リクルートに入社。就職ジャーナル、リクルートブック、Worksの編集長を経て、20代の就業実態・キャリア観・仕事観などの調査研究に携わる。著書に『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』(PHPビジネス新書)、『若手社員が育たない。』(ちくま新書)など。

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