専修大学 チェ インソク氏 組織に残る若手社員を挑発することも重要では

若手人材の社外転出とリテンションを考える際、意識しなければならないことの1つが、「組織内での個人の自由」だ。そこで、組織と自由の関係について独自の考察を深めているチェ インソク氏に、自由とコントロール、若手人材と自由をテーマにお話を伺った。


日本企業も欧米企業も 多くが社員の自由を奪っている

「企業」という言葉から「自由」を、「自由」から「企業」を連想できる方はいるでしょうか。おそらくほとんどいないはずです。2つの言葉には、現状つながりがありません。しかし、それでよいのでしょうか。私にはそうは思えません。

企業が、社員一人ひとりに明確な自由と権限を与え、仕事を任せれば、多くの社員がこれまで以上の成果を上げるでしょう。企業には、もっと自由があった方がよいのです。しかし、それにもかかわらず、多くの企業が依然として、社員を強くコントロールしようとしています。私は、そのことに大きな問題意識を抱いています。

現代日本では、誰もがかなり自由に暮らすことができます。日本だけでなく、世界中の多くの国が、自由な社会を実現しています。

しかし、私たちは、企業のなかでは長らく自由を失ってきました。依然として、多くのビジネスパーソンが決められた時刻に出社し、指示・命令のとおりに仕事をこなしています。マニュアルに従って行動するだけの仕事も少なくありません。ベンチャー企業のような例外はありますが、多くの企業が、社員の自由を奪ってきました。

これは日本企業だけではありません。多くの欧米企業も同様です。むしろ、多くの日本企業には「ボトムアップ」の風土が根づいているため、欧米企業に比べ、職場内で意見を言うチャンスは多いと考えられます。ただし、多くの日本企業には「同調圧力」が強く働いていることも確かです。社内の空気や同僚の目が、個人の考えや行動を縛る風潮があるのは、日本企業ならではだと思います。この両面を加味しても、日本企業の自由の不足は欧米企業とそれほど大きく変わらないと思います。

もし自由を与えれば、大半の社員は、より一層熱心に取り組み、これまで以上の成果を出すに違いありません。なぜなら、彼女・彼らには評価されたい欲望があり、また自由には成果を出す責任がついてくることを知っているからです。

特に「創造性」が求められる仕事の場合、自由を与えれば、きっと多くの社員が、お風呂や朝ごはんの最中にも頭を絞り、アイディアを出そうとするでしょう。なぜなら、それが楽しいからです。自由を与えれば、多くの社員は、より楽しく働くようにもなるのです。それは、彼女・彼らの潜在的な能力を引き出すことにもつながるはずです。これは企業にとって良いことではないでしょうか。

一方、「ルールに従う」ことの落とし穴は、ルールさえ守ればいい、という考えで、人々がもつ可能性を縛ってしまうことです。にもかかわらず、私たちはなぜ「自由な社会」のもとで、「自由な会社」を実現できていないのでしょうか。

企業は自由とコントロールのバランスを追求しなくては

私たちが組織内での個人の自由を得られていない理由は、いくつかあります。

1つ目に、働く個人の側が、「組織では自由を語ってはいけない」と諦めているからです。歴史上、個人に自由を与える組織があまりにも少なかったために、組織は自由を与えてくれないと思い込んでいるのです。私たちはこの思い込みを改めて、企業内での自由を諦めないことが大切です。

2つ目に、企業の方も、社員に自由を与えるとろくなことにならないと考えすぎている面があります。確かに、自由になったら、仕事をしなくなったり、自分の好きなことに時間を使ったりする社員も出てくるでしょう。しかし、そうしたビジネスパーソンは一部にすぎません。

私が個人的に名付けた認知バイアスの1つに「ソロ効果」というものがあります。オーケストラで1人が間違うと非常に目立ちますし、ほとんどが転職しない職場で転職者は目立つものです。同じように、組織内に自由を与えたとき、働かずに遊んだりする社員が出てくると、目立ってしまいます。そのため、経営層や人事の皆さんは、やはり社員に自由を与えてはいけないのだと考えがちなのです。しかし、実際には、ほとんどの社員は自由を与えた方が熱心に働きます。企業には、ソロ効果に騙されず、思いきって社員に自由を与える勇気が必要です。

3つ目に、一方で企業にとって、コントロールが重要であることもまた確かです。効率性を高めたり、ミスやトラブルを減らして安全性を高めたりするためには、社員をルールやマニュアルである程度は縛る必要があるのです。

現代の自由概念に大きな影響を及ぼしたアイザイア・バーリンは、「われわれは絶対的に自由であることなどできぬ」「自由の程度は、他の多くの価値─おそらく平等、正義、幸福、安全、社会秩序などがもっとも顕著な例であろう─の要求との対比において考量せられねばならない」と述べています(『自由論』みすず書房)。バーリンの言うとおり、自由は価値の1つでしかありません。企業内でも、部署によって自由の優先順位は違いますし、時代や企業の状況によっては、自由の優先順位を下げなくてはならないこともあるでしょう。例えば、1980年代の日本企業では、創造性よりも効率性、自由よりもコントロールが優先されましたが、こうしたことは当然起こり得ます。

現代社会はどうかといえば、企業に高いレベルの安全性や効率性を求めていますから、企業はコントロールを捨てることができません。しかし一方で、企業が現代社会で生き残るには、高いレベルの創造性も必要です。そして、社員が創造性を発揮するには、自由が欠かせません。

つまり現代企業は本来、自由とコントロールのバランスを追求しなくてはならないのです。企業はコントロールすべきところはコントロールしながらも、勇気をもって、社員にもっと自由を与えるべきです。それができなければ、その企業の将来は危うくなってくるでしょう。

上司の方が一度 若者の色に染まってみてほしい

以上を踏まえながら、若手の社外転出とリテンションについて語ると、私は正直に言って、辞める人材よりも残る人材について、もっと真剣に考えた方がよいのではないかと思います。

確かに、優秀な若手人材が何人も出ていってしまうことは問題でしょう。しかし、人材の転出には、「幸せな離婚」の側面もあります。若手でも転職は大きな決断であり、それなりの理由があって辞めるケースがほとんどだと思います。お互いに辞めてよかったということは少なくないのです。もちろん、リテンション施策は必要だと思いますが、リテンションには限界があります。

一方で、組織に居残る人材については、意外に深く考慮されていません。私は、組織に残る若手人材を挑発することが極めて重要ではないかと考えています。残る若手のなかには、ルールやマニュアルにコントロールされることを望む人材が比較的多いかもしれません。しかし、そうした社員ばかりでは、効率性・安全性は担保できても、創造性を強化するのは難しいのではないでしょうか。彼女・彼らに創造性を発揮してもらうには、大きな自由と責任を与え、画期的な仕事をしなさいと挑発する必要があるのではないかと思うのです。

ルールで縛ってコントロールしようとすることは「あなたを信頼していませんよ」というメッセージとして伝わります。反対に自由は「あなたを信頼しますよ。信じます。きっと、いい仕事をしてくれるに違いないでしょう」という暗黙の前提を組織に形成し、成果と成長に向けて若手を発奮させることにつながります。

それから最後にもう1つ、読者の皆さんにお勧めしたいことがあります。それは若者に「組織の色に染まってほしい」というのではなく、上司の方が「若者の色に染まってみてほしい」ということです。一度若者の色に染まってみると、発見が多く、自身の成長のきっかけも得られますし、何よりも若者への理解が深まるはずです。若手人材を的確にリテンションし、挑発するために、いったん彼女・彼らの色に染まって、理解を深めることから始めてはいかがでしょうか。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.52 特集1「リテンションマネジメントを超えて― 若手・中堅の離職が意味すること ―」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
蔡 芢錫(チェ インソク)氏
専修大学 経営学部 教授

1998 年慶應義塾大学商学研究科博士課程修了。慶應義塾大学産業研究所特別研究員、専修大学経営学部准教授などを経て、2009年4月より現職。専門は組織行動論。共著に『マネジメントの航海図』(中央経済社)などがある。

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