経営者が語る人と組織の戦略と持論 学校法人三幸学園 理事長 昼間一彦氏

GPTWが毎年発表している「働きがいのある会社」ランキングの常連という教育組織がある。学校法人三幸学園とその関連会社で構成される三幸グループだ。
2016年には従業員1000人以上の大規模部門で20位、2017年は同14位、2018年は同16位。他は企業ばかりだから異彩を放つ。そのトップが昼間一彦氏だ。
働きがいのある学校法人づくりをどう進めているのか。


毎年200件集まる提案制度

三幸学園は東京・本郷に本部があり、1985年に学校法人化した。医療秘書、歯科アシスタントから始まり、医療・保育系、スポーツ系、美容・ブライダル系、調理・製菓系など、現在、全国で61の専門学校と1大学1短大、2つの高等学校と41の保育施設を運営する。

教員および職員の働きがい向上に注力するのはなぜなのか。昼間氏が答える。「教育はサービス業です。人が話したり動いたりする姿勢そのものがサービスなのです。その品質を上げるには、自分たちの仕事に誇りをもち、その意義をしっかり理解してもらわなければならない。それが働きがいにこだわる理由ですね」

そのために力を入れているのが、ミッションとビジョンを大切にすることだ。ミッションは「人を活かし、困難を希望に変える」、ビジョンは「人を活かし、日本をそして世界を明るく元気にする」。それまでも組織に脈々と受け継がれてきた精神を、こうした形で成文化したのは昼間氏で、理事長になった2013年のことだった。

「この他に教育理念などさまざまな規範があり、全教職員必携の手帳にすべて記載しています。私からも折に触れて話題にし、理解と共感を深めています。採用時も、これらに共感してくれる人を求めています」

上意下達ではなく、何でも言い合える風通しの良い組織づくりも心がけている。「肩書で呼ばず、『さん』づけを徹底しています。仕事はどしどし任せ、失敗も許容します。イノベーションの原動力になるのは若い人たちなので、彼らの発想や発言は特に大切にしています」

そうした発想を生かす機会も用意されている。毎年行われる、業務改善と新規事業の提案制度だ。教職員からの提案に対し、役員がS・A・Bの3段階で評価。S評価案は事業化がスタートし、SおよびA評価案は表彰されて特別賞与が支給される。毎年200件程度が集まるという。

上が絶対、反論不可能の組織

穏やかな物腰で話す昼間氏は元銀行員だった。大学時代、アルバイトで不登校の子どもの家庭教師をしているうちに教育の意義に目覚め、中学校に社会科の教育実習に出かけた。当時をこう振り返る。「人生で最高に楽しい3週間でした。ただ、指導教官がまったくやる気のない人で、一気に熱が冷め、あまり深く考えずに地元の銀行に入ったのです」

入社後は人事部、企画部を経て、当時、最年少で支店長を経験。そこでこんな出来事があった。「現場を任された行員が現状の課題解決に向け皆で取り組んでいくのが、あるべき仕事の姿です。それなのに、上層部には他行との横並び意識が根強く、クレジットカードの獲得枚数といった目標が機械的に各支店に下りてくる。私は納得がいきませんでした」

昼間氏はある行動に出た。支店長会議で、目標は最も現場をよく知る自分たちで決めさせてほしいと発言したのだ。その途端、上役から怒鳴られた。「お前がそんなことを言ってどうするんだ。部下がついてこないぞ。支店長は苦しくてもやると言わなきゃ駄目なんだ」と。

そのまま、支店長同士の慰労会へ。予想外のことがあった。意気消沈していた昼間氏のところに大先輩の支店長が次々にやってきて、「君の言うとおりだ」「よく言ってくれた」と酒を注いでくれるのだ。「じゃあ、あなた方はなぜあの場で賛成と言ってくれなかったのですか」。昼間氏は口から出かかった言葉をぐっとこらえた。

「一事が万事でした。上の決定は絶対に正しくて反論はもってのほか、情報共有が不完全なので自分たちの置かれている状況を客観的に把握できない、『現実を見つめチャレンジする』風土がないのでイノベーションが起こらないという悪循環でした」

そうこうするうち、同行は大変な危機に見舞われる。バブル崩壊の余波を受けて不良債権が積み上がり、経営破綻に至ってしまったのだ。すべての行員が職を失う。次の就職先を各自が一刻も早く見つけなければならない。「不満はありましたが、私は職場と仲間を愛していました。いてもたってもいられない。業務ではなかったのですが、あらゆる人脈を使い、最終的に60名ほどの再就職先を私が提供しました」

入学者の構成を変える

さて最後が自分の番だ。どうしようかと思っていた矢先、知人の紹介で2度ほど酒席をともにしたことがある税理士から、自分の顧問先だという三幸学園を紹介された。

学生時代の夢を思い起こした。昼間氏は「興味があります」と答え、学園の理事長と会うことになった。「その場で話が弾んで、私を応対してくれた、理事長の秘書の話になったんです。しっかりした女性で、入って3年くらいかと思ったら、何と3カ月しか経っていないと。しかも、傘下の学校の卒業生だというので、これは学園自体が相当良い教育をしているのだろうと確信し、『お世話になります』と、その場で入職が決まったんです」。1998年、42歳のときだった。

それから20年が経過した。その間、銀行時代の思いを晴らすかのように、改革に取り組む。まず尽力したのが、入学者の構成を大きく変化させることだった。

三幸学園は2007年に東京未来大学を設立したが、それ以前は、傘下にあるのは専門学校のみだった。「入ってくるのは高校の卒業生がほとんどでしたから、私たちが受け入れる入学者の97%が18歳でした。少子化が進むなか、これでは経営が危ういことになる。それで、社会人も通える東京未来大学、さらに通信制の高校を作り、幼児教育の分野に進出し、ベトナムにも学校を出しました。いまでは日本人の18歳の入学者比率は全体の6割近くまで下がっています」

企業でいえば、ビジネスモデルをすばやく転換させたのだ。「それができたのも、ミッション、ビジョンがしっかりしていたから。例えば、幼児教育は子育て支援につながります。日本の困難を希望に変え、日本を明るくすることだから、われわれがやるべきだと判断したのです。
教育の本質は一人ひとりの可能性を信じ、その人生を側面から支えることです。それさえしっかり認識していれば、教えるコンテンツをどう変えるかに注力すればいいので、新たな分野に進出することはそれほど難しいことではありません」

卒業生と元教職員の組織化を

昼間氏が今後、力を入れていこうと考えていることがある。学校の卒業生および退職した教職員の組織化だ。「企業の終身雇用が薄れ、結婚しない人も増えています。人と人との接点がどんどん希薄化している。そうしたことで生じる課題を解決できるのが、われわれのような教育機関ではないかと考えたのです。

キーワードは愛校心です。学ぶ環境、働く環境の両面をしっかり整えることで、学園を去った人とも積極的につながっていく。それはうちの事業にも好影響をもたらすはずです。そのためには、自分たちの学校をトップが本気で愛さなければならない。最後は私に返ってきます」

最近こんなことがあった。ミス・インターナショナル日本大会で3位になったという経歴をもつ同学園の元教員がいる。その女性が、系列の美容専門学校で毎年行われるビューティーショーという名称の成果発表会に際し、モデルとして出演する学生たちに歩き方の指導をしてくれたのだ。

「他校でもそういう指導をしてくれるモデルさんを呼ぶことはありますが、彼女は元教員なので、教え方が抜群にうまい。その成果がショーに如実に表れていました。こういうOG・OBたちに、限られた時間だけでも、われわれの事業に再び関わってもらうのはお互いにとってすばらしいこと。もっと増やしていきたいですね」

われわれが取材で訪れた場所は系列の専門学校が入っている建物で、行き交う生徒が次々に「こんにちは」とあいさつしてくれる。正直、驚いた。昼間氏いわく、入学直後に教員がずらりと並び、生徒たちに大きな声であいさつするのがすべての出発点なのだという。そのうち、生徒の方から教職員にあいさつするようになり、さらには訪問客にも声をかけるようになるというのだ。

昼間氏は力を込める。「いまの若者は『どうせ』という言葉をすぐに使いたがります。そこを『やればできる』に変えていくのが、日本の将来を左右する大きなポイントだと思います。人の可能性を信じ、何度失敗しても新たなチャレンジを促す。そういう教育を愚直に進めていきたい。もちろん、学生だけではなく教職員に対してもです」

学生時代に教員を志し、銀行員時代も「生まれ変わったら先生に」と思っていた昼間氏にとって、どうやらいまの仕事こそが天職のようだ。

【text :荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.51 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
昼間 一彦(ひるまかずひこ)氏
学校法人三幸学園 理事長

1956年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。都市銀行入行後、人事部、企画部、支店長などを歴任し、98年退職。同年に三幸学園に入職。理事、常務理事を経て2013年より現職。

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