中央大学大学院 佐藤博樹氏 ダイバーシティ経営に求められる管理職とは

ダイバーシティ経営、働き方改革、ワーク・ライフ・バランスに向かう日本企業に必要な管理職(ミドルマネジャー)は誰か。ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトを牽引し、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員などを務める中央大学大学院戦略経営研究科教授の佐藤博樹氏に伺った。


管理職の原則は変わっていない 変わったのは「部下」

結論からいえば、いま日本の管理職に求められているのは、「自己否定」です。これまでの自分の働き方や考え方、生き方を否定し、変わる必要があるのです。簡単ではありませんが、本気で自己否定し、変わらなければ、近いうちに管理職失格となってしまう可能性が高いでしょう。

しかし、それは、管理職の役割が変わったということではありません。ただ、「部下」が変わったのです。その点を勘違いしてはいけません。

もう少し具体的に説明しましょう。管理職の一般的なミッションは、自分の組織に課せられた課題を遂行するのに必要な業務計画を立案し、業務計画に基づいて各業務を部下に割り振ることです。また、部下が各業務を円滑に遂行できるよう、能力開発を支援したり、モチベーションをマネジメントしたりすることも重要です。これは、昔もいまも変わっていません。また、この役割を果たすために、部下をよく理解する必要がある点も同じです。こうした管理職の原則は不変です。

一方で、「部下」は大きく変わりました。一昔前は、部下の多くが管理職と似た価値観でしたから、理解は比較的簡単でした。ところが、いまは管理職と異なる価値観の社員が多くいます。彼らを理解し、マネジメントするには「傾聴」が必須です。一人ひとりの話をよく聞き、丁寧に対話しなければ、適材適所も能力開発支援もモチベーション管理もできない時代になったのです。

それから、以前はほとんどの社員がフルタイムで働いており、いつでも残業が可能でした。ところがいまは、育児で時短勤務中の社員、週2日大学院で学ぶ社員、親の介護で定期的に休みをとる社員などが増えており、いつでも残業できる社員が少なくなっています。部下の勤務時間総量があらかじめ決まっており、残業を前提としたマネジメントができなくなったのです。

私たちは、こうした変化にフレキシブルに対応する管理職を、部下のワーク・ライフ・バランス(WLB)を支援する「ワーク・ライフ・バランス管理職(WLB管理職)」と呼んでいます。WLB管理職になるには、まず自己否定が必要です。

部下の変化・成長を促すためにも管理職が率先して変わろう

では、「自己否定」について詳しくお話しします。いまの管理職は、さまざまな面で従来望ましいとされてきた働き方・考え方・生き方から脱却しなくてはなりません。例えば、自分が上司から受けた評価軸で部下を評価してはいけません。フルタイムで働くAさんと時短勤務のBさんが時間当たりで見て同じ成果を出したとき、よく残業してくれたからとAさんの方を高く評価するのは、Bさんのモチベーションが下がってしまうからダメなのです。しかし、自身の残業を上司に高く評価されてきた管理職の皆さんは、どうしても部下の残業を評価してしまいがちです。こうした点を変えなければ、管理職が務まらない時代になったのです。

先ほど、部下が変わったと言いましたが、実は3分の1ほどは「変われない部下」や「変わりたがらない部下」です。彼らもまた、WLBを大事にする方向に働き方や生き方を変えなければ、将来はビジネスパーソン失格になりかねません。彼らの変化と成長を促す意味でも、管理職が率先して変わることが重要です。管理職がWLBを大事にすると、部下も同じように変わっていくことが多いからです。言い換えれば、WLB管理職は、自分のWLBを大切にしているからこそ、部下のWLBを大切にできるのです。

では、具体的に何ができる管理職が良いのかといえば、例えば、育休に入る社員が出たとき、その社員の業務を若手社員に引き継がせて、メンバー育成のチャンスとして意味づけられるかどうかといったことが鍵になります。こうした工夫ができる管理職を増やすことが、WLBを職場に定着させる上で極めて重要です。制度を整えるだけでは、WLBは決して社内に浸透しません。

変化対応力を高めるならビジネススクールがお勧めだ

とはいえ、働き方・考え方・生き方を変えるのは大変なことです。そこで私から、2つのヒントをお伝えしたいと思います。

1つ目に、私は、管理職自身の人生が大きく変わったときに、本人が自ら働き方や生き方を変えるケースをよく見てきました。例えば、「介護」が突然やってくることもあります。そうした変化に合わせて、あるいは変化に備えて、WLBを重視した働き方・生き方に変えると、残業できない社員の気持ちがよく理解できるようになり、多様性への理解も深まることが多いのです。

2つ目は、「リカレント教育」です。今後、特にビジネススクールなどで社会人が学び直すことの重要性が増すでしょう。なぜなら、これからは仕事や組織がどんどん変わりますが、従来の育成手法の主流だったOJTは、確立したスキルを学ぶのに向いている一方で、部下や社会の変化への対応力を磨くのには適していないからです。

この変化対応力を高めるには、ビジネススクールで自らのスキルを理論的に整理すると共に、5年後、10年後に役立つスキルを身につけることが有効です。また、そこに集う多様な年代・業種・職種の社会人とフラットな関係で付き合うことで発見できることも多いはずです。さらに、学ぶ時間を作るために、働き方を工夫する習慣も身につきます。思いきってビジネススクールに飛び込んでみることが、自身を大きく変えるきっかけになる可能性が十分にあります。

仕事一筋の社員は要らないと経営陣がはっきり伝えたらよい

最後に、管理職や社員の変化を促すために、人事が打てる施策を2つご紹介します。1つ目は、働き方改革によって生まれた時間を有益に使ってもらうために、「情報提供の場」を作ることです。例えば、職場近くのNPOメンバーに「経理を手伝ってもらえませんか?」などと社員に直接呼びかけていただく場を用意するのです。また、ビジネススクールの社内説明会を開くのもお勧めです。そうした場を増やすと、密かにチャンスを求めていた社員が確実に動きやすくなります。

もう1つは、「望ましい社員像」を明確にすることです。特に経営陣が、「仕事一筋の社員は要りません」「仕事以外に打ち込むものをもった社員を求めています」とはっきり打ち出すことが、管理職や社員の変化を促し、ダイバーシティ経営やWLBを前に進めることにつながるはずです。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.51特集1「ミドルマネジャーのワーク・ライフ・エンリッチメント」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
佐藤 博樹(さとうひろき)氏
中央大学大学院 戦略経営研究科 教授

1981年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。法政大学経営学部教授、東京 大学社会科学研究所教授などを経て、2014年より現職。東京大学名誉教授。『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著、日経文庫)、『新訂・介護離職から社員を守る』(共著、労働調査会)など著書多数。

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