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インタビュー

特別座談会 グローバル人材の要件と育て方

貨幣以外の価値を生み出せるネットワーク力のある人材を

  • 公開日:2018/07/23
  • 更新日:2024/03/22
貨幣以外の価値を生み出せるネットワーク力のある人材を

少子高齢化で国内市場が縮小するなか、海外で稼ぐことの重要性は高まるばかりだ。その尖兵となるグローバル人材には何が求められ、どう育てればよいのか。自身がグローバルリーダーであるJFEエンジニアリング社長の大下元氏、日揮副会長の川名浩一氏に、75カ国、4万5000人のビジネスパーソンと接し、教育やコンサルティングを行ってきたグローバルインパクト代表の船川淳志氏が切り込む。

座談会登壇者
大下 元氏(JFEエンジニアリング株式会社 代表取締役社長)
川名 浩一氏(日揮株式会社 取締役副会長)
船川 淳志氏(株式会社グローバルインパクト 代表パートナー)

リーダーシップのあり方は各自のコアによって決まる
外国人が見た日本人の欠点 決断の遅さとリスクの過大視
リーダーに必須の達成力と教養力
MBAはもう古いこれからはMFA

リーダーシップのあり方は各自のコアによって決まる

船川:本日は日本のプラントエンジニアリングメーカーを代表する企業のトップ2人にお越しいただきました。まずお2人のこれまでの経歴を教えてください。

川名:学生時代から将来は海外で大きな仕事をやりたいと思っていました。当時、人口増大に伴い、エネルギーや水、食糧が足りなくなるという人類の悲観的未来を予測した『成長の限界』という本が話題になりました。

いざ就活となったとき、海外で働けて、そうした課題も解決できる産業という意味で選んだのがエンジニアリング業界でした。入社3カ月後にインドネシアに赴任してから、15年を海外で過ごしました。インドネシアに4年、イランに4年いて、それぞれプロジェクトを担当しました。それから営業に変わってアブダビに4年駐在し、ロンドンにも3年いました。

船川:その間、最も苦労した経験といえば何ですか。

川名:イランに行ったときですね。社会の仕組みや物の考え方がわれわれとまったく違うんです。われわれの目標はとにかく良いプラントを作ってお客様に納めることですが、かの地にはお客様の他に、重要なステークホルダーとして政府関係者や住民もいるわけです。それこそ、われわれとは別の価値観を大切にしている人がたくさんいる。われわれのプラントは大きなメリットがあるんだということを、その人たちに理解してもらうのに非常に苦労しました。でもおかげで辛抱強く、あらゆる物事に関して簡単には諦めないようになりました。

大下:私は第2志望の人生を送ってきたんです(笑)。大学は文学部に行きたかったけれど、落ちて法学部に行き、せっかくだから司法試験を受けたのですが、2年留年しても駄目で、地元のテレビ局に入ろうとしたのですが、それより前にうちの会社(旧日本鋼管)の内定が出て、入社を決めました。

決め手となったのは、川名さんと同じく「海外で大きな仕事ができる」ということでした。実は就活の前に、日本鋼管に入った大学の先輩がメキシコで世界最大の電気炉製鉄所を作るというプロジェクトに関わっていて、「見にこないか」と言われたので、現地を訪れ、「面白そうだ」と思って帰ってきていたのです。

船川:現地を踏むと気持ちが変わりますからね。

大下:はい。テレビ局よりいいと。最初は静岡県清水市の造船所の経理に配属されたのですが、そこは第2志望どころか第5志望でした(笑)。それでも諦めず、「海外に行きたい」と周囲に触れ回っていたら、2年目、わずか数カ月の応援業務でしたが、マレーシアのプロジェクト現場に行くことができました。それ以降はずっと国内の仕事に従事し、LNGプラントの営業、川崎製鉄との統合推進業務などを担当しました。社長になる前の2年間、念願の海外事業担当になり、客先の東南アジアに頻繁に足を運びました。現地の会社を買収したものですから、ドイツのデュッセルドルフにもよく行きました。

船川:同じ質問ですが、最も苦労されたことは何でしょうか。

大下:苦労というより辛かったのは、清水の造船所で当時2000人いた従業員を300人に減らすという大リストラを目の当たりにしたことです。入社3年目の私でも「これはやってはいけない」と痛切に思いました。川崎製鉄との経営統合も難しい仕事でした。同じ鉄鋼会社だからスムーズに行くだろうと多くの人が考えたはずですが、とんでもありません。企業買収や経営統合の難しさを肌身で痛感しました。

船川:お2人とも相当の経験を積んで今があるわけですね。私が思うに、リーダーになる人材はしっかりしたコア(中核)をもっています。その人をその人たらしめているもの、それがコアです。お2人はご自分のコアをどう捉えていますか。

川名:私のコアは好奇心だと思います。相互のつながりや背景を含め、あらゆる物事に関心をもつことです。

船川:その好奇心がリーダーシップにどうつながっているとお考えですか。

川名:ロンドンにいたとき、日本人は私1人で残る全員がイギリス人という環境で仕事をしたことがあったんです。物事をゼロベースで発想し、そこから組み立てていく彼らの仕事ぶりに圧倒されました。思ったこと、考えたことをすぐ口にし、たとえ間違っても恥じません。リーダーの英国人はそれこそむき出しの好奇心を発揮して、技術面、商務面、あるいは客先の嗜好に至るまでさまざまな切り口で議論を沸騰させ、やるべきことを全員が納得する形でまとめ上げていました。

イギリスといえば、2002年にBBC(イギリス放送協会)が「100名の最も偉大なイギリス人」という投票を行い、1位チャーチルに次ぐ2位に、大英帝国のインフラの基礎をエンジニアリングで作り上げたブルネルが選ばれました。「ダーウィンは私たちがどこから来たのかを教えてくれたが、私たちが望むところに連れていってくれたのはブルネルだ」とイギリス人は言います。エンジニアリングは単なる知識ではなく、こうありたいという未来を社会に実現するものです。それには知識を結びつけ、新しい課題を見つけ、解決策を考えなければならない。ブルネルはそれができた。彼も旺盛な好奇心の持ち主だったと思います。

船川:好奇心に駆られて、あの山の向こうには何があるんだろうとまずは歩き出す。振り向くと、後ろについてくる人がいる。そういう人がリーダーたり得るのでしょう。大下さんはご自分のコアを何だと考えますか。

大下:私が一番好きなのは人を喜ばせることなんです。小さいときからそうでしたね。小学校ではサッカー、中学・高校でバスケットをやりましたが、ポジションはそれぞれゴールキーパーとガードです。自ら点を入れるというよりは、敵を阻止して、チームメイトの喜ぶ顔が見たいというタイプです。

船川:そのコアがあるからこそ、多くの従業員を悲しませた大リストラに憤ったのでしょうね。

では次にそれぞれの企業での取り組みについて伺います。グローバルで活躍できるような若手をきちんと採用し、育成できていますか。

川名:うちにはユニークな学生が沢山来てくれるんです。1年間、休学してインドを放浪していました、とか。「面白い奴だ。採ろう」と人事に言うと、「面白いと思うけれど、こういうタイプばかりを採ると会社が潰れますよ」と(笑)。人事とそんな綱引きをしながら、多種多様なタイプを採用できていると思います。

大下:日本鋼管はベースが鉄鋼メーカーなので、採用基準はもっと保守的でした。浪人や留年を2年もしていたら、入るのは難しかった。私の場合は司法試験という名目があったので、大丈夫でしたが。エンジニアリングに分かれてからは多少、冒険するようになりました。

外国人が見た日本人の欠点 決断の遅さとリスクの過大視

川名:採用も重要ですが、入った後、若い人たちが思い切ったことをできないような保守的な風土だったら問題です。アラブの人たちに日本人の悪いところを聞いたことがあるんです。2つあって、1つは決断が遅い、もう1つはリスクから入るところ。2つとも同じことを言っているんですね。その真逆が中国人で、リスクを果敢にとって、何事にもチャレンジ精神を発揮して飛び込んでいくと。

大下:おっしゃるとおりです。採用でいえば、新卒を絶対視し、大学を卒業してしまうと、エントリーできないシステムもおかしい。うちはその撤廃を検討しています。実際、この5年間で中途採用を充実させており、総従業員数約4000人のうち、この5年間では新卒で入った人、中途で入った人がそれぞれ450人と同数です。

船川:新卒一括採用は外国人から見ると奇異に思えるようですね。川名さんの話に関連して、私もつい最近、日本企業で働く外国人相手にワークショップをやり、そこで企業への不満を聞いたところ、まさに同じような答えが返ってきました。

さらに印象に残ったのは、自分の上司への愚痴を、その上司がいないところで自分たちに言うと。現場のガス抜きという意味でそれも時には必要だと思いますが、あまりに頻繁だと、部下からは「あの人は男らしくない」と見られてしまいます。残念な話です。

大下:そうした日本人の欠点をなくすためには、本気で仕事にぶつかっていくしかないと思います。うちの会社で、中国でゴミ焼却炉を作ることを目指し、現地企業と一緒に動いています。設計思想から具体的なスペックまで、考え方が日本と大きく違っており、エンジニアは相当なショックを受けていましたが、いい経験でしょう。お互いぶつかりながらも知恵を出し合い、走り始めたところです。

船川:いいですね。人間、知的バトルに飛び込んでいかないと強くなれませんから。海外で仕事をするときはなおさらです。そういう場面で力を発揮するのがバーサタイル(versatile=多能)な人です。英語力はもちろん、自分のことをきちんと語れる自己開示力、物事に動じない度胸、その場を一瞬で和ませるようなジョークを発する能力を備えた知的体育会系です。

――ここで編集部から3人にお聞きします。リーダーとグローバルリーダーというのは同じ存在でしょうか。それとも違うでしょうか。

大下:経験の多寡という問題はもちろんありますが、基本的に同じだと思います。英語が流暢に話せたり、海外経験が豊富だったり、というのがグローバルリーダーの要件ではないと思います。海外で活躍できる人材は日本でもきっちり仕事ができます。逆もまたしかりです。

川名:リーダーシップをとれる人材という意味では同じですが、異なるところもあります。

海外での仕事においてはネットワーキング力がすごく重要になります。国内の仕事では、メーカーや建設会社といったわれわれのパートナーは優秀なところばかりですが、海外に行くとそうとは限りません。人の流動性も激しい。日本とは異なるリソースや環境をよく理解し、フレキシブルな判断や大胆な決断が求められます。そのときに物を言うのがネットワーキング力です。それと達成力ですね。先ほど言ったように、日本企業は決断が遅く、リスクを過大視すると向こうも分かっています。その半面、高品質の仕事を期限内に仕上げてくれることも分かっています。そこが日本企業への絶大な信用につながっているので、守らないと。あとは民族や国籍に関係なく、誰とでもフェアな関係を築ける力も必要です。

リーダーに必須の達成力と教養力

大下:うちのグローバルリーダーのホープがまさにその達成力が抜群なんです。ミャンマーの支店長をやっていて、3年前に橋梁工場を立ち上げ、従業員が今600人います。うち3人のみが日本人であとは全員ミャンマー人です。ミャンマー政府からも絶大な信頼を得ています。

川名:もう1つ重要なのがリベラル・アーツでしょう。ビジネスの分野はお互い詳しいのは当然ですが、政治や文化の話になると何も話せないというようでは、やはり海外ではきつい。

船川:トランプ大統領についてどう思うか。こういう質問がすぐ出てきますからね。私もリーダーとグローバルリーダーの違いは存在すると思います。一言でいうと、コンテクストフリーの状況で活躍できるリーダーがグローバルリーダーです。日本は物事の文脈(コンテクスト)を重視する社会です。年齢や肩書、背景、歴史などです。海外に行くと、それらがまったく関係ない、別のコンテクストに置かれるわけです。そこをたくましく生き抜き、成果を出せる人材こそがグローバルリーダーでしょう。

ダイバーシティという問題ひとつとっても、海外に行くとレベルが違いますからね。

大下:そうですね。日本でダイバーシティというと、女性や外国人活用とほぼ同義ですが、海外ではLGBTの社員がいることが自然に受け入れられています。

――そういうグローバルリーダーはどうやったら育つのでしょうか。

大下:海外含め、とにかく修羅場をいくつも経験させることでしょう。国内で一筋、というようなキャリアだとまず育たないでしょう。

川名:そのとおりだと思います。しかも、そのルートは1つではなく複数あるでしょうね。そういうルートを歩む機会は万人平等に与えるべきだとわれわれは考えており、すべての新人を半年間、必ず海外などの現場に出しています。その後、30代の中堅になったら、日揮とは別の海外の企業に1人で行かせ、1年くらい修業させることもやっています。

船川:完全アウェイの状況ですね。

川名:そのとおりです。日本人も会社の先輩後輩もゼロです。でもそういう状況で揉まれると、たくましくなって戻ってきます。小さくてもいいので、成功体験を作らせるわけです。そうした過程で、本人の能力や気力や、やり抜く力を見極めていきます。新たな仕事が発生したとき、あいつはまだ若いけれど、プロジェクト・マネジャーにどうかというように、リーダーに抜擢していくわけです。

大下:上からの抜擢の他に、自ら手を挙げさせるのも重要です。

うちは昨年、ミャンマーで初めてというゴミ焼却炉を完成させました。そのプロジェクト・マネジャーを担当したのが35歳のミドルで、今までゴミ焼却炉の設計をやったことがなかったのですが、自分から手を挙げてきたのです。「別の製品のプロマネは経験があるので、ミャンマー初という意義深いプロジェクトなら、ぜひ自分にやらせてほしい」と。意気に感じて任せたら、無事にやり遂げて戻ってきました。

――なぜその人はそんな難しい仕事をやり遂げられたのでしょうか。

大下:川名さんが言ったように、過去、規模は小さいけれど別のプロジェクトの責任者をやったことがあるからです。その経験がまさに生きたわけです。

川名:そこが重要ですね。われわれも規模の大きなプロジェクトが増えており、効率を求めると、どうしても分業体制になってしまいます。それでは担当する仕事のプロにはなれても、全体を見渡すリーダーの経験が積めません。だからこそ、人を育てるために、プロジェクトの単位を小さくし、これはと思う人間をトップにすえ、責任を負わせながら鍛えるようにしています。

MBAはもう古いこれからはMFA

――では最後の質問です。これまでのグローバルリーダーとこれからのグローバルリーダーを考えた場合、そこに違いがあるのでしょうか。それとも変わらないでしょうか。

川名:基本は変わらないと思いますが、世の中や価値観の変化がかつてないほど早いので、それらをきちんと理解しながら、将来を見通し、新しいビジネスを作り出していく構想力がますます求められると思います。

これからAI(人工知能)が普及していくと、ホワイトカラーの仕事もAIに代替される部分が出てくるといわれていますが、AIは意味を知ることができない。つまり、仕事を意味付けし、価値を作っていくことは人間しかできない。それがきちんとできる人材を1人でも多く育てていくことがますます重要になると思います。

大下:最も評価されるリーダーというのは最も多くの利益を生み出せる人材といえますが、これからのグローバルリーダーはそれプラスαの価値を発揮できる人材であるべきだと思います。

例えば当社の電力小売子会社では、供給する電力のうち再生可能エネルギー由来の電源を100%使うメニューも選択できますが、日本企業のほとんどが「高いから」と関心が低いのです。いくつかの外資系は違います。そのプラスαをもてるか、作り出せるかが企業を含め、これからもグローバルで活躍できるか否かの試金石になる気がしますね。

船川:基礎科学、歴史、言語(英語と日本語)、それに芸術、それぞれに関する幅広い知識と素養がこれからのグローバルリーダーには必須になると思います。MBAはもう古くて、これからはMFA(Master of Fine Arts)の時代なんです。その場合の芸術とは音楽、美術、スポーツ、何でもいい。大下さんが言われたプラスαの部分にも大きく関わることで、それをもっていることがリーダーに必須の、人を惹きつける磁力にもなるはずです。

【text :荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.50 50号特別企画「個と組織を生かす 人材マネジメントのこれまでとこれから」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
大下 元(おおした はじめ)氏
JFEエンジニアリング
株式会社代表取締役社長

1957年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、1982年、旧日本鋼管に入社。
2003年、旧川崎製鉄との統合・再編に伴いJFEエンジニアリングに。2009年、リサイクル本部企画部長、2011年、経理部長、
2012年、常務執行役員、2015年、取締役専務執行役員、2016年、代表取締役専務執行役員、2017年より現職。

川名 浩一(かわな こういち)氏
日揮株式会社
取締役副会長

1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1982年、日揮に入社。
1997年、アブダビ事務所長兼クウェート事務所長、2001年、ロンドン事務所長、
2004年、プロジェクト事業投資推進部長、
2007年、新事業推進本部長、2009年、常務取締役営業統括本部長、2010年、代表取締役副社長、2011年、代表取締役社長、
2017年より現職。

船川 淳志(ふなかわ あつし)氏
株式会社グローバルインパクト
代表パートナー

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコジャパン勤務の後、アメリカ国際経営大学院にてMBA取得。米国シリコンバレーを拠点に組織コンサルタントとして活動。帰国後、グロービスを経て、人と組織のグローバル化対応を支援するコンサルティング会社、グローバルインパクトを設立。著書に『Transcultural Management』
(米国Jossey-Bass)、『ビジネススクールで身につける思考力と対人力』(日本経済新聞出版社)など。

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