法政大学 新谷 優氏 幸せになりたいのなら誰かのためになることをしよう

誰もが幸せになりたいと思っている。では、いったいどうしたら幸せになれるのか。その鍵の1つとして、最近注目されているのが「自尊心」だ。
そこで、自尊心と幸福の関係を研究している新谷優氏に、私たちは自尊心とどう付き合っていけばよいのか、どうしたら幸せになれるのかを伺った。


自尊心が高いほど幸福感が高いが自尊心を高めようとするのは良くない

─ 新谷先生の研究について教えてください。

私の研究テーマは3本柱で、「甘え」の研究、「失敗から学ぶ」研究、「思いやり目標と自己イメージ目標」の研究です。後者2つに共通しているのは、「自尊心」に関わる研究だということです。自尊心とは、自分に対する好ましい評価や感情のことで、自尊心が高いほど幸福感が高いことが分かっています。自分は価値ある存在だと思える人は、人生もバラ色なのです。

しかし問題は、自尊心を自ら高めようとするのは良くないということです。なぜなら、自尊心を高めようとして自尊心に執着すると、自尊心が下がることを恐れるようになり、自尊心が脆くなるからです。こうなってしまうと、人は傷つくことを恐れ、失敗とチャレンジを避けるようになります。

では、どうしたらよいのでしょうか。私がお勧めするのは、思いやり目標をもつことです。

思いやり目標は対人関係にも自己の成長にも良い影響を及ぼす

─ 思いやり目標について詳しく教えてください。

「思いやり目標」とは、他者の幸福を高めよう、誰かの役に立とうとすることです。反対に、他者に良い印象を与えよう、有能な人・親切な人などと思われようとすることを「自己イメージ目標」と言います。

思いやり目標が高い場合と自己イメージ目標が高い場合では、行動に違いが出ることもあります。簡単に言えば、自己イメージ目標を強くもっていると、他者から良い評価を得ることが重要なので、周囲の目を気にして、相手に嫌われたり、お節介だと思われるのを嫌がったりする傾向があります。一方で、思いやり目標を強くもつ人は、相手のためになるのであれば、恥をかいたり、相手から嫌われたりしても、あまり気にしないのです。

例えば、私の行った研究では、混んでいる電車内で妊娠中と思われる女性を見かけたとき、自己イメージ目標が高いと、明らかに妊婦と分かる場合にだけ席を譲るのですが、思いやり目標が高い人は、妊婦の可能性がそれほど高くなくても、積極的に席を譲ろうとする傾向がありました。

面白いのは、思いやり目標から来る行動なのか、自己イメージ目標から来る行動なのかを他者は敏感に見分けていることです。親切であるという評価を得ようとしている行為を他者は、「自己満足だ」と見抜けることが多いのです。なぜなら、行為者はあくまでも自分が評価を得られているかどうかに焦点が合っているために、相手が求めていないことをしてしまったり、タイミングがずれてしまったり、必要でないときに手を差し伸べたりしてしまうからです。反対に、相手が必要としていることを適切なタイミングで行えば、相手もそれを素直に受け取り、気持ちよく感謝できるのです。

そして何よりも重要なのは、思いやり目標から来る行為が、他者の幸福感を高め、他者も思いやり目標をもって自分の幸福感と自尊心を高めてくれるようになることです。つまり、自分1人で幸せになろうと思っても幸せにはなれず、逆に、他者と共に幸せになろうとすると、自分も他者も幸せになれるというわけです。誰かを幸せにしてあげたい、ニーズを満たしてあげたいと思うことが、私たちの幸せへの近道なのです。

また、思いやり目標をもつ人は、困難に直面したとき、そこから学び、成長しようとする志向が強いことも分かっています。自分と他者をあまり比較せず、失敗の脅威を感じないからです。さらに、思いやり目標をもつ人ほど、他者とのつながりを強く感じ、社会的サポートも増える傾向があります。思いやり目標は、対人関係にも本人の成長にも良い影響があるのです。

それから、思いやり目標は「セルフコンパッション(自分に対する思いやり)」にも関係しています。思いやり目標が高いと、自分の弱さや失敗を許容でき、相手に弱みを見せたり、上手に甘えたりもできるのです。逆に、自己イメージ目標が高いと、弱さを他人に見せることができず、周囲にうまく頼ることができません。当然、思いやり目標をもつ人の自尊心は脆くありません。自尊心への執着が弱いからです。

思いやり目標の高い人と一緒に過ごすと思いやり目標は徐々に高まる

─ 思いやり目標を高めるにはどうしたらよいのですか?

実は、思いやり目標を高めるのは、決して簡単ではありません。実験室で人為的に思いやり目標を高めようとしても、なかなか高まらないのです。

ただ、有力な方法が1つ分かっています。それは、思いやり目標の高い人と一緒に過ごすことです。ある研究者が大学新入生のルームメイトペアを調査したところ、一方の思いやり目標が高いと、もう一方の思いやり目標も徐々に高まるという結果が出ました。自分のニーズに反応してくれる人が周りにいると、自分も相手のニーズを満たしたいと思うようになるのです。

もちろん、1対多になれば、その効果は薄れるでしょう。ですから、例えば誰か1人が職場のメンバー全員の思いやり目標を高めるのは大変なことです。しかし、不可能ではありません。少なくとも原理的には、他者の思いやり目標を高めることはできるのです。

また、「自分と他者を包括的に見る」ことが、思いやり目標を高める上で役立つことがあります。例えば、ある重大な仕事を抱えていたとき、それで失敗したら職場全体に迷惑がかかると思えば、周囲に弱みを見せ、頼ることができるようになることもあるのです。自分が助けを求めることが、集団を助けることにつながることに気がつけば、自分に思いやりを向けることと、他者に思いやりを向けることが同じであることが分かります。

ところで、ここまで一貫して、自己イメージ目標を悪く話してきましたが、自己イメージ目標も時には大切です。なぜなら、社会で生きていくためには、他者に能力をアピールし、他者に好かれる必要のある場面が多々あるからです。

それに、そもそも私たちは全員、思いやり目標と自己イメージ目標の両方をある程度もっており、両者の相関は高いことが分かっています。多くの場合、思いやり目標の高い人は自己イメージ目標も高く、思いやり目標の低い人は自己イメージ目標も低いのです。思いやり目標だけが高い人、自己イメージ目標だけが高い人もなかにはいますが、その数は決して多くありません。

幸せになりたいのなら、ときどき思いやり目標を意識して、自分自身や周囲の人々に良い影響を与えようとすればよいのだと思います。その繰り返しが、何よりも私たち自身を幸せに導いてくれるからです。

【text:米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.49 展望「自尊心からの解放」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
新谷 優(にいや ゆう)氏
法政大学 グローバル教養学部 教授

1998年国際基督教大学教養学部卒業。2001年東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。2006年ミシガン大学大学院心理学部。Ph.D。法政大学グローバル教養学部准教授などを経て2016年より現職。専門は社会心理学、文化心理学。著書に『自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学』(誠信書房)がある。

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