近畿大学 堀田 美保氏 アサーティブネスで心理的安全性を形成する

最近、「アサーティブネス(またはアサーティブ、アサーション)」というコミュニケーション技術を研修などに取り入れる企業が出てきている。そこで、アサーティブネスのトレーナーであり、社会心理学の研究者でもある堀田美保氏に、アサーティブネスとは何か、アサーティブネスと日本企業、アサーティブネスと心理的安全性の関係などについて伺った。


問題解決のパートナーとしての上司と部下

アサーティブネスとは、一言で言えば、「自分も相手も大切にして、自分の感情や要求を率直に、誠実に、対等に伝えることのできる自己表現の考え方と方法」のことです。物事の伝え方にはスキルがありますから、上達します。

率直に伝えるといっても、アサーティブネスはただ言いたいことを言うコミュニケーションではありません。本当に自分が伝えたい大切なメッセージを、シンプルかつ具体的に分かりやすく伝え、その上で、相手と会話のキャッチボールをしながら、一緒に問題解決をするのが、アサーティブネスのコミュニケーションスタイルです。その際に最も大切なことは、相手を見下すことなく見上げることもなく、対等な姿勢で向き合うことです。

アサーティブネスが特に有効なのは、意見しにくい状況にあるときです。例えば、職場に怖い上司がいて、いつも怒ってばかりいるとしましょう。若い人たちは恐れて、会議でも誰も何も発言をせず、生産的ではありません。そのときに、「もっと優しくしてください」「もっとみんなが発言しやすい環境を作ってください」などとただ要求しても、上司はなかなか変わりません。「上司が悪い」「上司が何かすべき」と一方的に相手を責める気持ちがある限り、それが相手に伝わってしまいます。そうなると、おそらく相手は聞く耳をもたないか、場合によっては反撃にでてくるでしょう。それでは対話につながりませんし、そもそも多くの場合、上司が100%悪いわけではないはずです。この方法では、問題解決にはつながらないでしょう。

この場合のアサーティブなコミュニケーションは、問題に対する自分の責任をも考えることです。例えば、「これからは私が若いメンバーに意見を出すよう引っ張っていこうと思うので、何かアドバイスをもらえませんか?」と上司に伝えることです。あくまでも両者の間やその場にある問題を見据えて、その解決を目的としてコミュニケーションを進めていくのです。

このとき、何よりも大切なのは「相手を敵と思わないこと」です。アサーティブネスの中心には、加害者と被害者を分けるのではなく、相手と一緒になって問題に注目していく姿勢があります。この例でいえば、上司を敵と見て攻撃するのではなく、問題解決のパートナーと捉えるわけです。その視点を得られれば、アサーティブなコミュニケーションが腑に落ちてくるはずです。

アサーティブネスの導入を進める日本企業が増加

私は大学で教鞭をとる傍ら、「アサーティブジャパン」というNPOで認定講師として活動し、学校の先生や看護学校の生徒など、さまざまな方々にアサーティブネスのトレーニングを行っているのですが、実は最近、企業研修の機会も多くなっています。いくつもの企業がアサーティブネスを採り入れようとしているのです。

それはなぜなのか。私の見方では、日本企業では、ここ数年、「年上部下/年下上司」「異性の上司/部下」「外国人上司/部下」「世代の違う上司/部下」など、職場の人間関係の多様性や複雑さが増し、マネジメントやコミュニケーションに悩みを抱えるビジネスパーソンが増えていることに大きな原因があると思います。また、マネジャーの方がいきなり知らない部署に異動して、マネジメントに行き詰まるケースなどが多いことも問題の1つではないかと感じます。価値観や慣習、立場や経験の異なる相手、つまりは話がしにくい、通じないといった相手に伝えなければならない場面が増えているのではないでしょうか。

さらに、一昔前の日本企業では、人間関係やコミュニケーションの問題はお酒の席で解決することが多かったのですが、最近は飲みに行く機会が減り、オフの時間に信頼を醸成できなくなったことも事態を難しくしています。現代日本のビジネスパーソンは、人間関係やコミュニケーションの問題を勤務時間内に解決しなくてはならないのです。そうした理由から、多くの企業がアサーティブネスを必要としているのだと思います。

自分が求めていることをまずは具体的にする

では、実際にどのようなトレーニングをしているのか、その一端をご紹介します。

意外かもしれませんが、アサーティブネスのトレーニングは、まず自分に向き合うところから始めます。「自分が本当に求めていること」がいったい何なのか、そこに繰り返し戻ります。このときのNGワードは、「ちゃんと」や「きちんと」です。「報告はきちんとしてほしい」では、相手に伝わらないですし、事実確認の段階で揉めることが多いからです。「いや、きちんとやっていますよ」「きちんとやってないじゃないか」と、水掛け論になってしまいかねません。

それを避けるには、自分が求めていることをできるだけ「具体的」にすることが大切です。「商談の報告は、資料をつけて、翌日に説明に来てほしい」と言えば、何を求めているのか相手によく伝わりますし、「確かに資料はつけてなかった」「4、5日後になっていた」など事実確認で揉めることもありません。その具体的な要求が、お客様や組織にとって必要なことであれば、相手も納得して行動を変え、問題を解決していけるはずです。

この「具体的に伝える」というのは、アサーティブネスの基本の1つで、例えば褒めるときにも具体的に褒めることがポイントとなります。単に「すごいね!」と言うのではなく、何がどのように、なぜすごいと思ったのかを明確にすると、自分の言動を見てくれていて、それが評価されたことを相手は感じます。褒め言葉がしっかり届くようになるのです。

伝えることが具体的になったら、次にロールプレイを通して、「相手に伝わりそうか」「相手と対等なスタンスで向き合っているのか」をチェックしつつ、「これがほんとうに自分の伝えたいことなのか」「解決したい問題なのか」も確認していきます。こういった繰り返しを通して、自分が本当に求めていることを、率直に、誠実に、対等に伝える技術を磨いていくのです。

ここでは少ししか触れられませんが、アサーティブネスにはいくつもの実践的な技術があります。例えば、アサーティブネスでは、時に「NO」と言うことも大切だと考えます。アサーティブなNOは、境界線を引くことです。今日は無理だけど、明日なら大丈夫、などという形で、境界線のあちら側はできないが、こちら側はできるという意志を伝えるのがNOなのです。例えば、新人社員の方のなかには、上司にNOと言えずに業務をため込んでしまい、予定通りに完了できなくなるケースがよく見られます。困った事態になる前に、上司に事実を報告し、相談することができれば、無理を重ねることもなくなりますし、何より組織としての仕事の効率や質も上がっていくのです。

大切なのは諦めずに勇気をもって続けること

アサーティブネスは、職場の心理的安全性を形成する上でも有効です。

心理的安全性は確かに望ましい状態ですし、企業がそのために仕組みを作ることは重要だと思います。しかし、言葉で言うのは簡単ですが、実際には作るのが難しいものだとも思います。最初から能力やスキルやモチベーションが極めて高いメンバーが集まれば、比較的簡単に心理的安全性を醸成できるのかもしれませんが、そうした職場はどちらかというと少数です。多くの職場では、チーム内の信頼関係ができておらず、風通しがそれほどよくなく、心理的安全性が十分ではないのが実情でしょう。

だからこそ、アサーティブネスが必要なのです。心理的安全性が確保されている場であれば、誰でも発言できます。アサーティブネスは、むしろ心理的安全性のない場で、どう伝えるかに関する理論と方法です。言いづらいことを言うという場面で役に立つのです。

一人ひとりがアサーティブネスを発揮していけば、チームに心理的安全性がある状態に近づけていけることは間違いありません。アサーティブなコミュニケーションが増えるよう組織がサポートすれば、その速度はさらに上がるでしょう。特に必要なのは、「モデル」です。最初に誰かがアサーティブなコミュニケーションを率先して始めれば、チームは徐々に影響を受けていくはずです。

もちろん、現実の多くの人はアサーティブではありませんから、アサーティブなコミュニケーションが常にうまくいくわけではありません。しかし、アサーティブネスを実践すれば、人間関係やコミュニケーションで悩む場面が減ることもまた確かです。大切なのは、技術を磨きながら、諦めずに勇気をもって続けること。そうすれば、物事はきっと好転していくはずです。変えるのは相手ではなく、自分自身なのです。そこからスタートします。そして、結果として、相手との関係性や場が変わっていくのです。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.48 特集1「組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。



PROFILE
堀田 美保(ほった みほ)氏
近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 教授

1992年、カールトン大学大学院心理学研究科修了。近畿大学文芸学部講師、助教授を経て現職。専門は社会心理学で、人間関係における不公平感・対等感やアサーティブネスを研究。2001年からアサーティブジャパンの認定講師としても活躍中。

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