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インタビュー

亜細亜大学 柏木 仁氏

コーリング(天職)は充実した人生をもたらす

  • 公開日:2017/11/13
  • 更新日:2024/03/22
コーリング(天職)は充実した人生をもたらす

「天職」という言葉は昔からあるが、その人にピッタリ合った天職など、本当にあるのだろうか。天職に就いているといないとでは何が違うのだろうか。じつは近年、キャリア研究の領域では「コーリング(天職)」概念が再び注目されている。そこで、2016年に『キャリア論研究』を上梓し、現代的なコーリングに詳しい柏木仁氏にお話を伺った。

コーリングの現代的な意味合い
コーリング感をもてば、よりよく働き、よりよく生きられる
コーリング感が強すぎて燃え尽きてしまうことがある
コーリング感をもつ従業員にはぜひエンパワーメントを

コーリングの現代的な意味合い

「コーリング」とは、もともとはキリスト教で神から与えられた使命、召命を意味する言葉です。そこにプロテスタントが、「天職」という解釈を加えたのが古典的なコーリングです。その後、コーリングの意味合いは、時代と共に変わってきました。私が今研究している「現代的なコーリング」は、宗教色がすっかり薄まり、ほぼ個人の意思に関する概念となっています。

現代的なコーリングとは、「個人がある職業や役割に情熱的に強く惹かれ、自分の人生の目的だと考えている状態」を指します。この状態は人生のなかで強くなったり、弱くなったりすることから、コーリング感と呼んでもいいでしょう。その強弱は質問票でも測れます。また、目標の職業が変わることもあります。現代的なコーリングは宗教に関係なく、誰もがもち得ます。私の調査では、文科系大学生の約3割が天職と思える職業があると答えました。アメリカの先行研究でも同様の結果が出ています。仕事経験のない人でももち得るのです。

コーリング感をもてば、よりよく働き、よりよく生きられる

コーリングには、ポジティブな影響がいくつもあります。まず個人がコーリング感をもつと仕事の関与度が上がり、職務満足度やワーク・モチベーションが高まり、より大きな幸せを感じることができ、精神的・身体的健康が増進することが分かっています。また、失敗・リスクへの忍耐強さ、いわゆるレジリエンスが高まり、変化への適応力が上がります。当然、収入や職位も高くなる傾向にあります。

組織への影響としては、忠誠心が高まり、欠勤が減り、離職の意思が下がり、仕事のパフォーマンスが上がり、組織市民行動(オフィスの自発的なゴミ拾いや仲間のフォローといった役割外行動)が増え、愛着的な組織コミットメントが高まることが明らかになっています。自分のコーリングを実現するために組織を使いこなそうとするその見返りに、愛着的コミットメントが上がると考えられています。

私は、これらの研究を踏まえて、コーリングを「充実した人生を送るための有力な解の1つ」と捉えています。ただし、私は全員がコーリング感をもたなければならないとは思いません。コーリング感をもたなくても充実した人生を送ることは可能ですし、そうした方は決して珍しくないはずです。とはいえ、コーリング感をもてば、よりよく働き、よりよく生きられるのは間違いないことです。

コーリング感が強すぎて燃え尽きてしまうことがある

しかし最近、「コーリングにはネガティブな影響もある」という指摘が出てきました。コーリング感が高すぎると、プライベートの時間を犠牲にしてしまい、燃え尽きたり、健康を害したり、私生活をないがしろにしたりするリスクがあるというのです。さらに、熱意が高すぎて社内の人間関係を壊したり、離職したりして、組織に悪影響を与える場合もあります。これに関しては、興味深い先行研究がありました。その研究では、自己認識のあり方でコーリングを3タイプに分けているのですが、能力・スキルに対する自己評価が高いタイプは、困難に打ち勝てなかったり、組織に満足できなかったりして離職するケースが多いというのです。

コーリング感が強いのは基本的には良いことですが、組織で働くときには、自身の強い情熱や目的意識、高い自己評価をコントロールして、コーリング感をある程度組織に合わせていく必要があります。それができなければ、本人にも組織にも良くないことが起こるかもしれないのです。

コーリング感をもつ従業員にはぜひエンパワーメントを

こうしたコーリングのネガティブ面を抑え、ポジティブな影響を最大化するには、組織がコーリング感をもつ従業員をケアすることが重要です。

具体的には、3つのケアの方法が考えられます。1つ目は、先ほども述べたように、従業員をできるだけ「エンパワー」することです。権限やリソースを与え、働きやすい環境を整えれば、彼らはより高い成果を上げるでしょう。2つ目は、「ジョブ・クラフティング」を促すことです。個人が主体的に仕事に新たな意味を見いだしたり、仕事の人間関係を変えたりすると、コーリング感が高まるだけでなく、仕事のフィット感が高まり、コーリングのネガティブ面を防げる可能性があります。3つ目に「ボイス」という手法があります。「今の仕事は大変だが、やりがいは大きい」などと、従業員に自分の想いを口にしてもらうのです。精神的・身体的に健康に良い影響があり、離職意思の低下にも有効という報告があります。

最後に、働く個人の皆さんへのメッセージとして、「今の仕事に惚れ込んで精一杯取り組むこと」と「新たな挑戦」の重要性を強調しておきます。

私は、寿司職人・小野二郎さんを敬愛していますが、小野さんは生まれつき不器用だったそうですが、与えられた仕事に惚れ込み、天職だと思って取り組んだ結果、世界が認める寿司職人と言われるまでになりました。コーリングは主観的な概念で、客観的に明らかにはできません。だからこそ、目の前の仕事を頑張ることが、じつはコーリング感を高める早道であることが多いのです。

その一方、新たな仕事にチャレンジしたり、新たなキャリアを歩んだりすることで、自分の天職に出合うケースもあります。矛盾するようですが、目の前の仕事を頑張ることも、新たな挑戦も、どちらもコーリング感を高め得るのです。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.47 特集1「職場での「自分らしさ」を考える」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
柏木 仁(かしわぎ ひとし)氏
亜細亜大学 経営学部 教授

1990年早稲田大学理工学部卒業。東北電力を経て、2007年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程修了。産業技術総合研究所ベンチャー開発センター非常勤研究員、亜細亜大学経営学部准教授などを経て現職。著書に『キャリア論研究』(文眞堂)。

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