首都大学東京 高尾 義明氏 仕事の意味や関わり方を自分らしくする

「ジョブ・クラフティング」は、「働く上での自分らしさ」を考えるときに欠かせない概念の1つだ。組織と個人の関係を長年研究し、ジョブ・クラフティングにも詳しい高尾義明氏に、ジョブ・クラフティングの定義や思想的・社会的背景、組織がジョブ・クラフティングを促す際のポイントなどを伺った。


ジョブ・クラフティングとは

「ジョブ・クラフティング」は、2001年に生まれた割と新しい概念で、「ジョブ・デザイン」と比較すると分かりやすいと思います。

1970年代頃から、従業員のモチベーションを高めるために、人事や上司が従業員の仕事を計画的にデザインし、働く個人に仕事の意味を感じてもらおうとする施策が広まりました。これがジョブ・デザインです。対して、ジョブ・クラフティングは、働く個人が“主観的・主体的”に、仕事に新たな意味を見いだしたり、仕事内容の範囲を変えたりすることを指します。もう少し詳しく説明すると、ジョブ・クラフティングを提唱したレズネスキーとダットンは、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義しています。

ジョブ・クラフティングの例として、レズネスキーとダットンは、よく病院の掃除スタッフの話をします。掃除スタッフの仕事はもちろん掃除ですが、そのうちの1人が「掃除スタッフとはヒーラー(治癒力を高める人)だ」と考えたら、そのスタッフは掃除をするだけでなく、自ずと患者やその家族を癒やそうとするでしょう。このように、仕事に新たな意味を見つけ、タスク境界(仕事内容の境界)や関係的境界(人間関係の境界)を自ら動かせば、働き方は変わるのです。

一人ひとりが仕事の意味を
見つけた方がよい時代になった

ジョブ・クラフティングの提唱は2001年でしたが、関連論文が増えたのは2010年頃からで、特にここ4、5年は研究が盛り上がっています。その背景には、世界が不確実・不安定になり、社会の変化が速くなっていることがあると思います。

なぜなら、ほぼ同じタイミングで「プロアクティブ行動(未来を先取りして前向きにする行動)」も注目されてきたからです。誰もが未来の変化を読みにくい時代だからこそ、従業員一人ひとりのプロアクティブ行動に注目が集まるのです。そしてジョブ・クラフティングには、プロアクティブ行動と重なる部分が多くあります。最近では、かつては仕事の意味が自明だったプロフェッショナル職の方々ですら、存在意義を見いだしにくくなっています。だからこそ、各自が自分の仕事の意味を見つけ、自分なりの仕事を創っていった方がよいのです。そうした時代になったのです。

また、少し難しいことを言うと、ジョブ・クラフティングは「社会構築主義(社会構成主義)」という思想の影響を強く受けています。社会構築主義は、人間社会とは、私たち人間が言語で構築してきたものだという見方をとります。私たちが築き上げたものだからこそ、それは私たち自身の手で変えることができるのです。社会構築主義の立場で見れば、掃除スタッフがヒーラーの役割を担っても、何の問題もないのです。

役割と自分らしさを両立して
ワーク・エンゲージメントを高める

ジョブ・クラフティングには、いくつかの効果があることが分かっています。まず、おおざっぱにいえば、多くの場合、ジョブ・クラフティングを行うと、仕事のフィット感が上がり、仕事の有意味感や満足感、自己効力感が高まります。そして、何よりも「ワーク・エンゲージメント(熱意や活力をもって働き、仕事に没頭する充実した就業態度)」が高くなります。当然、パフォーマンスも基本的には良くなります。ジョブ・クラフティングによって他者とのやり取りを減らすケースもありますから、常にプラスとはいえませんが、多くの場合には良い方向に働きます。

大きくいえば、私は、ジョブ・クラフティングには仕事を長続きさせる効果があると考えています。なぜなら、ある仕事のなかの自分に合わない部分を改良したり、自分に合う部分を拡張したりすることができれば、役割と自分らしさを両立しやすくなるからです。さまざまな理由で不本意な仕事に就いたとしても、どこかに自分らしさを込められれば、働きやすくなります。これは、自由度の高い仕事はもちろん、マニュアルで行動が細かく決められているような業務でもいえることです。掃除スタッフが良い例ですが、どのような仕事でも、対人業務などに自由度があれば、そこにジョブ・クラフティングの余地があるのです。そして、少しでもジョブ・クラフティングした従業員の方が、やはりワーク・エンゲージメントが高まり、仕事が長続きするはずです。

ジョブ・クラフティングしやすい
環境を作ることならできる

これまで述べてきたように、ジョブ・クラフティングは個人が主観的・主体的に行うものですが、組織や上司がジョブ・クラフティングしやすい環境を作り、ジョブ・クラフティングを促すことならできます。それは、ワーク・エンゲージメントを高める上で役立つ施策でしょう。例えば、従業員一人ひとりが普段の業務を見つめ直し、自分にとって何が大事なのかを深く考える場を設けることは、ジョブ・クラフティングの促進に効果的です。ただ一方で、組織がジョブ・クラフティングの行きすぎをチェックする必要もあるでしょう。現実的には、ジョブ・クラフティングの許容範囲はありますから。

私は最近、ジョブ・クラフティングの日本語訳として、「私事(しごと、わたしごと)化」という言葉を候補に挙げています。この言葉には抵抗感のある方も多いと思うのですが、私は長い目で見れば、「私事」をする従業員が増えた方が、その企業にとってプラスになることが多いのではないかと考えています。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.47 特集1「職場での「自分らしさ」を考える」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
高尾 義明(たかお よしあき)氏
首都大学東京 都市教養学部 経営学系 経営学コース・経済学コース
首都大学東京大学院 社会科学研究科 経営学専攻 教授

京都大学教育学部教育社会学科卒業。大手素材メーカーを経て、京都大学大学院経済学研究科修士課程、同博士課程修了。2009年4月より現職。専門は経営組織論・組織行動論。著書に『組織と自発性』(白桃書房)、共著に『経営理念の浸透』(有斐閣)などがある。

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