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インタビュー

経営者が語る人と組織の戦略と持論

フタバ産業株式会社 代表取締役社長 吉貴寛良氏

  • 公開日:2017/07/14
  • 更新日:2024/03/22
フタバ産業株式会社 代表取締役社長 吉貴寛良氏

自動車用マフラー大手、フタバ産業の社長を昨年6月から務めているのが吉貴寛良氏である。同社と関係の深いトヨタ自動車から移籍し、それまでは副社長を務めていた。
自らのキャリアに影響を与えた仕事の修羅場経験を振り返ってもらうと共に、「人と組織」に関する持論を語ってもらった。

無茶苦茶なOJTの洗礼
トヨタの暗黙知を形式知に
経営管理の仕組みを埋め込む
企業力は個人に宿る

無茶苦茶なOJTの洗礼

1982年1月、トヨタ自動車工業(自工)とトヨタ自動車販売(自販)の合併が発表される。正月明けに出勤した吉貴氏はこう言われた。「合併のプロジェクトチームに入ってくれ」

予想外の辞令だった。自工で新卒2年目、社員への住宅斡旋とローンの貸し付けを行う人事部住宅課に配属され、実務経験はたったの1年4カ月。人事が何たるかもよく分かっていなかった。しかもゴールまで6カ月しかない。

早速、先方の自販の人事との交渉に連れて行かれた。2人で先方と話し合うのかと思ったら、先輩が「別の打ち合わせがあるから、お前は1人でやっとけ」と資料だけ渡された。内容を一通り説明すると、案の定、「なぜこれはこうなのか」と質問された。吉貴氏はこう答えるしかなかった。「いや、こうするしかないというのがうちの結論なんです」と。

本人が話す。「針のむしろにいるような時間で、冷や汗ものでした。後日談で、相当なタフネゴシエーターを出してきたな、と先方は思ったそうですが(笑)」

そこからは怒涛の日々。あらゆる人事制度の資料を引っ張り出し、ひたすら読み込んだ。分からない点は先輩をつかまえてレクチャーしてもらった。「いきなり海に放り投げられて泳げ、と。とにかく無茶苦茶なOJTでした」

自社の制度ばかりではなく、相方のそれも理解しなければならなかった。メーカーである自工は高卒の現場労働者、販社である自販は大卒の事務職、と中核となる社員層がまるで違うから、制度も大きく異なっていた。

チームは課長クラス、係長クラス、ベテランの実務担当、それに吉貴氏という4名体制で、その上がすぐ役員だった。「新会社の制度案を役員に提示すると、お前たちがそうしたいのは分かるけれど、これはこんな背景があって作られたものだから、無下に変えるわけにはいかない、と説明してもらったことがあります。制度の本質を理解するには、制定当時の時代背景や経営環境も考慮しなければいけないということがよく分かりました」

その3年後、吉貴氏は再び畑違いのハードなプロジェクトに放り込まれる。

1985年8月、日米貿易摩擦の火が燃え盛るなか、トヨタが初めての北米進出を発表。当時、吉貴氏は社内試験に受かり、MBA留学の準備に余念がなかったが、そこにまた上司から予想外の辞令が下る。「悪いけど、留学は止めて、こっちのプロジェクトに入ってくれ」と。拒否はできなかった。

トヨタの暗黙知を形式知に

同年12月、工場進出先がケンタッキー州と発表され、当然、そこに行くものと思ったが、「アメリカの労働法を学んでこい」と、ワシントンの弁護士事務所に行かされた。そこに1年半、居候して実務を学ぶ。労使交渉の場にも陪席を許された。「アメリカの社会の仕組みや弁護士の生態がよく分かりました。当時はバブル前で日本が絶頂の時代です。日本人の政治家による黒人差別発言も問題になっていました。そういうなかで、いい車を作って売っているだけ、といくら主張しても、企業の問題で終わらず、最後は国同士の軋轢に発展してしまう。立場が変わると、物の見方がまるで変わることがよく分かりました。こういう形で、トヨタを外から見る経験を積めたことは次の仕事で大いに役立ちました」

ケンタッキー工場では、1989年から1995年にかけ、人事労務、そして教育を担当した。

最も骨を折ったのが、トヨタのやり方をいかに移植するか、だった。そのためにはそれを日本語にし、改めて英語に翻訳しなければならないが、その日本語化が困難極まることだった。「特に生産現場がそうなのですが、暗黙知ばかりなんです。なぜそれをやるのですか、と聞くと、分かるだろうと返ってくる。私もベテラン職長の聞き取りに参加しましたが、あまりしつこく聞くものだから、相当、鬱陶しがられました」

トヨタといえば、「なぜを5回繰り返す」という問題解決法が有名だ。これも吉貴氏らは理論化した。「5回にあまり意味はなく、要はしつこく追いかけろ、という意味なんです。いつまでしつこくやるのか、といえば、ナローダウン、つまり、絞り込みが続く限り続ける。ある問題が起こった場合、『なぜ』と聞いていくと、『教えられていなかった』とか『上司が悪い』といった拡散(ワイドアップ)された答えになる。そうなった瞬間止めるべきで、その一歩手前が求める答えなんです。結局、ナローダウンするまで問題を突き詰めよ、と英語化できた。そうやって教育プログラムに落とし込んでいきました」

それらは後に進出した他の国にも展開された。日本にも逆輸入され、さまざまなトヨタ本体の教育プログラムにも反映された。

経営管理の仕組みを埋め込む

満足のいく仕事を成し遂げ、意気揚々と日本に帰国した。ケンタッキー工場は海外のモデル工場だといわれたが、その期間は長くなかった。2001年、再び同地に赴く。社長は初めてのアメリカ人に変わるタイミングであり、幹部社員もほとんどがアメリカ人になっていた。

経営陣や社員にインタビューすると、不調の原因が分かってきた。「経営管理の仕組みが不足していたのです。トヨタでは、三遊間を抜かれないようにしよう、微妙な位置にフライが上がったら、めくばせして、どちらかが必ずとろう、という文化があります。これがアメリカでは違う。きっちりと線を引き、君の守備範囲はここまでだ、とやらないとうまくいかない、ということだったのです」

そこで、各役職の責任権限規定と決裁基準の作成に取りかかった。A3サイズの紙にびっしり、5、 6枚ほどの量になった。内容調整を繰り返し、副社長以上の経営陣全員に了承をもらうまでに1年半かかった。

最初の赴任では、トヨタという会社のソフトをアメリカに移植した。2度目の赴任ではそのソフトを生かす経営の枠組みを新しく構築した。「3度目は絶対にない」というのが2度目の赴任のテーマで、幸い、それは達成できそうだった。

帰国すると、またとんでもない人事が待っていた。愛知県碧南市にある、トヨタ唯一のトランスミッション生産拠点、衣浦工場の工務部長。当時は、トヨタのなかでは労災の件数も多く、課題の多い工場だといわれていた。「組織間のコミュニケーションが悪く、社内での意識調査結果も全社で最下位のグループだった。これなら、ケンタッキーの方がちゃんとやっていると妙に感動した」

みんな自分の仕事の意味が分かっていない。吉貴氏は各組織のミッションを決めさせた上で、顧客は誰か、自分たちが提供している製品やサービスは顧客にどんな意味があるのか、ワークショップ形式で徹底的に考えさせた。若手社員は勉強会で鍛えた。業務品質は改善し、社員のモチベーションも上がっていった。

着任4年目、多い年は2ケタあった労災がゼロになる。トヨタの歴史上、初めての偉業だった。問題工場がモデル工場になったのだ。「衣浦に学べ」といわれ、見学者が絶えなくなった。

企業力は個人に宿る

こうした修羅場経験を積み、トヨタの常務となっていた吉貴氏が2015年6月、フタバ産業に副社長として移籍する。リーマン・ショック後の自動車生産の落ち込みによる業績悪化から抜け出せていない同社だが、「社員がすごく真面目なので、これからは絶対大丈夫だと思っています」と吉貴氏は力を込める。

「目指すのはラーニング・オーガニゼーション。学習し、成長する組織です。組織のパフォーマンスは個人のパフォーマンスの集積です。社員には、あなたたち一人ひとりが学習し、同じ仕事を去年より少しでもうまくできるようにならないと、会社全体のアウトプットは変わらない、と口を酸っぱくして言っています」

そのために、人事や経営、あるいは上司が心しておくべきことがある。「『個』を見ることです。人事制度をいくらいじっても、会社が良くなるわけではない。それよりも、Aさんという個人をしっかり見る。いいところを伸ばし、苦手なところを克服してくれるような仕事の与え方をする。それをやるのが上司であり、その上司を支援するのが人事であり経営なのだと。思えば、私が最初に取り組んだ、社員向けに住宅を斡旋する仕事がまさに個を見る仕事でした。私の原点はそこにあるのかもしれません」

座右の銘は「神は細部に宿る」。吉貴流に言い換えれば「企業力は個人に宿る」ということだろう。

【text :荻野進介】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.46 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものである。
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PROFILE
吉貴寛良(よしきひろよし)氏
フタバ産業株式会社 代表取締役社長

1957年生まれ。1980年京都大学法学部卒業後、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキー副社長、トヨタ自動車常務、衣浦工場長、技術管理本部長を経て、2015年フタバ産業常勤顧問、6月副社長、16年6月より現職。趣味はサッカー。実戦派で還暦となった今でもピッチに立つ。

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