インタビュー
青山学院大学 繁桝江里氏
配慮をベースに悪い点を伝え合える「ダメ出し環境」のススメ
- 公開日:2017/05/08
- 更新日:2024/03/22
パワハラ、職場うつ、ゆとり世代などの影響もあり、上司のダメ出しは年々難しくなっている。しかし、部下の育成に必須のコミュニケーションで、特に評価時は避けるのが難しいのも事実だ。そこで、『ダメ出しの力』(中公新書)の著者でもある、青山学院大学 教育人間科学部心理学科 准教授の繁桝江里氏に効果的なダメ出しの方法などを伺った。
- 目次
- ダメ出しをする際は冷静になって イイ出しと解決策の提示を一緒に行うと良い
- 相手の気づいていない悪い点を 的確にダメ出しできるかどうかが問われる
- ダメ出し環境を作るための第一歩は 上司が部下に配慮しダメ出しを求めること
ダメ出しをする際は冷静になって イイ出しと解決策の提示を一緒に行うと良い
「ダメ出し」とは、相手に対して否定的な評価をすることです。英語で言えば、「ネガティブフィードバック」です。私は2000年頃からネガティブフィードバック研究を始め、現在はダメ出しをキーワードに使っています。また私は、反意語として「イイ出し」という言葉を使っています。
当然ながら、職場では上司が部下にダメ出しをしなくてはならないケースがあります。しかし、ダメ出しは難しいことですし、上手にやらなければ、部下や職場に悪影響を及ぼす可能性があります。そこでまず、研究を通じて実証的に明らかにしてきた「ダメ出しを行う上で大切な3つのポイント」をお伝えしたいと思います。
1つ目に、ダメ出しの際は「イイ出し」も一緒にするのが良いでしょう。ポジティブな評価を併せて伝えると、効果が上がります。認められている、受け入れられている、ということを担保すると、部下は安心してダメ出しを受け止められます。
2つ目に、ネガティブな感情を抑え、「冷静に客観的に伝える」ことが大切です。その方が、受け手はダメ出しを成長やモチベーションにつなげやすくなります。感情を出すと相手も感情的になってしまい、情報が伝わりにくくなるのです。
3つ目に、ダメ出しの後に悪い点の「解決法」を提示したり、一緒に考えたりすると、相手の意欲が上がります。一方的な批判にせず、共に解決しようとする姿勢を示すことに効果があります。
3つとも当たり前のコミュニケーションだと感じる方が多いと思いますが、そのとおりです。基本を押さえた配慮をするだけでも、良いダメ出しになるのです。問題は、実際にそれをしようとするか、できるかどうかです。
また、これも当然ですが、「信頼」はダメ出しにプラスに働きます。信頼ある上司、部下をよく思いやる上司のダメ出しは効くのです。しかし、信頼が十分でなくても、上記の基本的な3点を配慮すれば、効果が上がることが分かっています。
注意が必要なのは「公平性」で、部下には分け隔てなく接している姿を見せましょう。特定の人をターゲットにした見せしめのようなダメ出しは、相手だけでなく周りの部下にも逆効果です。
相手の気づいていない悪い点を 的確にダメ出しできるかどうかが問われる
ところで、なぜダメ出しに意味があるかといえば、それは誰しも、自分では分かっていないけれど、他人には見えている「盲点領域」があるからです。ダメ出しとは、「自分が知らない自分」を知ることができる貴重な機会なのです。
だからこそ、ダメ出しで重要なのは、実際に悪い点を的確に指摘できているかどうかです。これを「即応性」といいます。先行研究でも私の研究でも、即応性の高さが効果に影響を及ぼすことが立証されています。特に相手が気づいていないことを指摘する際には、それが「悪い点である」と相手に納得してもらうプロセスが重要となります。
私は以前、部下が上司からダメ出しされたときの心の声と実際の声の両方を集めたことがあります。すると、実際には上司にお礼を述べていても、心のなかでは「分かっていない」「もう少し説明してほしい」など、上司のダメ出しを批判的に見ている部下がけっこういたのです。つまり、即応性が低いと受けとめられるダメ出しをしていると、部下からの評価が下がる可能性があるのです。
ダメ出し環境を作るための第一歩は 上司が部下に配慮しダメ出しを求めること
私がダメ出しの研究を始めた理由の1つは、自分自身、ダメ出しをするのもされるのも苦手だからです。また、比較文化の研究では、日本人は一般的にネガティブなことを言うのが苦手という結果が示されています。私は文化差にも興味があるので、日本人にはことさら難しいダメ出しについて、詳しく掘り下げてみたいと思ったのです。
最近はパワハラ、職場うつなどへの懸念が強く、日本の職場では一層ダメ出しが難しくなっています。そのため、私は「ダメ出しなどしない方がいいのでは?」と言われることが増えました。
しかし、ダメ出しは職場に欠かせないコミュニケーションです。部下のパフォーマンスを上げるためには、イイ出しとダメ出しの両方が必要なのです。その証拠に、部下をよく褒める上司は、ダメ出しも頻繁にしていることが分かっています。
そこで私は、上司と部下が互いに悪い点を伝え合い生かし合える「ダメ出し環境」の醸成を促したいと思っています。確かに、日本人はダメ出しを苦手にしていますが、それは単に場の空気を読んでいるだけ。場の規範が変われば、積極的にダメ出しするようになります。実際、ダメ出しに興味をもって研修を受けてくださる企業があり、研修のなかでダメ出しの重要性に対する気づきが見られます。日本でも、適切な配慮さえできれば、ダメ出し環境を作ることは十分に可能なのです。
ダメ出し環境を作るための第一歩は、上司が先に述べた「ダメ出し配慮」をすることに加え、「ダメ出し探索」をすることです。つまり、まずは上司が部下に、自分の悪い点を率先して聞きダメ出しを求めるのです。そうすれば、ダメ出しが機能する職場に変わっていきます。
そもそも部下にとって、ダメ出し探索はプラスに働きます。上司が部下をより観察するようになり、部下はより有益なフィードバックが得られるようになるのです。また、自らダメ出しを受けに行くと、ダメ出しのショックが和らぐという防衛的な効果もあります。なお、「自分は褒められて伸びるタイプです」と言う部下がいて上司が困るというエピソードを聞きますが、「悪いところも言ってください」という姿勢で臨む方が良いようです。上司に言わせれば、褒めることばかりということはまずありませんから。
ぜひ、日常的にイイ出し・ダメ出しを交わし合い、上司と部下が共通の目標に向けて互いを高め合う職場を目指してください。そうなれば、上司対部下という対立構造は弱まりますし、日常的にフィードバックを受けていれば人事評価も怖くなくなるはずです。
【text :米川青馬】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.45 特集1「心理学からみる人事評価」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
繁桝江里(しげますえり)氏
青山学院大学 教育人間科学部心理学科 准教授 博士(社会心理学)
1999年早稲田大学第一文学部卒業。2005年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。山梨学院大学法学部政治行政学科講師、准教授を経て現職。専門は社会心理学、対人コミュニケーション。著書に『ダメ出しの力』(中公新書)、『ダメ出しコミュニケーションの社会心理』(誠信書房)などがある。
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