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インタビュー

慶應義塾大学 中室牧子氏

2つの重要な非認知能力「自制心」と「GRIT」

  • 公開日:2017/05/08
  • 更新日:2024/03/22
2つの重要な非認知能力「自制心」と「GRIT」

前回の連載では、「非認知能力」が人生の成功の鍵であると述べた。
こうした非認知能力を、基本的な生活習慣が形成される幼少期に身につけておくことが重要であることを示す研究は経済学のみならず、他の分野の研究にも多い。
では、どのような非認知能力を育成することが、社会で活躍する上で重要なのだろうか。

その1「自制心」(我慢する力)
その2「GRIT」(やり抜く力)
才能よりもやり抜く力が大事

その1「自制心」(我慢する力)

最近の研究で重要性が指摘されるものの1つは「自制心」である。この自制心が人生の成功に与える影響について指摘したのが、コロンビア大学のウォルター・ミチェル教授である。

彼が1980年代に実施した「マシュマロ実験」はあまりにも有名だ。ミチェル教授は、当時勤務していたスタンフォード大学内の保育園で、186人の4歳児にマシュマロを差し出し、「食べてもいいけれども、大人が部屋に戻ってくるまで我慢できれば2つにしてあげます」といって大人は部屋を退出する。そして15分後に大人が部屋に戻ってくるまで待てるのかどうか―非常に単純なこの事実で、「自制心」を計測したのである。186人の被験者のうち、 15分間我慢して2つのマシュマロを手に入れられた子どもは全体の約3分の1にとどまった。

しかし、驚くべきはこの先の調査が明らかにしたことだ。2つめのマシュマロを手に入れた子どもは、手に入れなかった子どもに比べて、後の学力や収入、健康状態までもがよかったし、長期的な目標を設定し、それを追求し、達成することに喜びを感じるような聡明で自立した大人になっていることが分かったのである。

大阪大学の行動経済学者、池田新介教授は、もっと面白い方法で「自制心」を計測している。それは「夏休みの宿題を休みの終わりの方にやったかどうか」という質問だ。自制心がないがために、何事も先延ばししてしまい、結局、締め切り間際になって後悔するというのは誰にでもある経験だが、この傾向が強いかどうかを「夏休みの宿題」で測ろうとしたのだ。

池田教授の研究では、夏休みの宿題を休みの終わりの方にやる(ような自制心のない子どもだった)人は、大人になってから喫煙し(=禁煙できない)、借金があり(=貯金できない)、太っている(=ダイエットできない)確率が高いのだそうだ。なんとも耳の痛い話だが、自制心がないと、今やらねばならないことを先送りし、駄目な選択をしてしまうということになるのだろう。

その2「GRIT」(やり抜く力)

最近の研究で注目を集める非認知能力の1つが「GRIT(グリット)」である。これはペンシルベニア大学の心理学者、アンジェラ・ダックワース准教授らの一連の研究によって数値化されるようになった。日本語では、「やり抜く力」と言ったりもするが、自分の目標に向かって粘り強く情熱をもって成し遂げられるかどうか、というようなことだ。

GRITを計測する方法は1つではないが、スコアは図表1のような質問票に答えることで計測できる。そして、図表2にあるようなアメリカ人の成人のスコアと比較してみることによって、あなた自身のGRITスコアが高い方か低い方かが分かるだろう。

図表1「やりく抜く力」を測るGRITスケール 図表2 アメリカ人の成人のGRITスコア

GRITスコアが高い人には「成功している人」が多いことが分かっている。上場企業の社長、単語コンテストで優勝できる子ども、厳しい軍隊の訓練を最後まで生き残れる若者、困難校の子どもらの学力を上げられる先生、オリンピックの選手など、GRITが強い人は、自分の仕事を最後まで成し遂げ、そして成功に導いている。

才能よりもやり抜く力が大事

さらに興味深いのは、このGRITなるものが、もともとの能力やIQとは必ずしも相関していないと見られることだ。つまり、才能があっても、やり抜く力がないせいで、成功できない人は大勢いる。逆に才能がなくても、やり抜く力があれば、粘り強く情熱をもって成し遂げ、成功することができるということなのだろう。

シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授らの最近の研究によると、認知能力の向上は子どもの学齢が上がるにつれて減少する一方、非認知能力の向上は学齢と無関係で、成人後まで可鍛性があるという。さらに、非認知能力は認知能力を向上させるが、その逆は観察されないという。非認知能力の重要性は、どれほど強調しても強調しすぎることはないだろう。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.45連載「<寄稿> 中室牧子の“エビデンスベーストが教育を変える”」より転載・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
中室牧子(なかむろまきこ)氏
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授  

1998年慶應義塾大学卒業。米ニューヨーク市のコロンビア大学で学ぶ(MPA、Ph.D.)。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」。日本銀行や世界銀行での実務経験がある。主著に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トウエンティワン)など。

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