東京未来大学 角山 剛氏 目標と報酬のないところにモチベーションは起こらない

評価やフィードバックを通して、部下のモチベーションをどう高めればよいのか。
これはマネジャーにとって永遠の課題である。そこで、東京未来大学 モチベーション行動科学部 学部長 モチベーション研究所 所長の角山剛氏に、「モチベーションを高める評価」について詳しくお話を伺った。


モチベーションを高める評価とは

結論から言えば、マネジャーが評価を通じて部下の内発的モチベーションを高めたいのなら、最も欠かせないのは「評価に見合った報酬」と「目標の受容」の2つといえます。

言い換えれば、評価面談のとき、過去1年間の成果を適正に評価し、その成果に値する報酬を与え、その上で次の1年の目標をしっかりと受け入れてもらえば、多くの部下は内発的な意欲を高めて、気持ちよく仕事に向かえるということです。

個人が目標を受け入れることができたら内発的モチベーションは高まる

最近のワーク・モチベーションでは、自らの意欲や関心から行動する「内発的モチベーション」にフォーカスが当たる傾向があります。自分のやりたいことを主体的に考え、行動するのが良いというわけです。それはそのとおりで、内発的な意欲が強力だという点に異論はありません。

しかし、だからといって、外部の評価や報酬を起点として行動を起こす「外発的モチベーション」を軽視するのは間違っています。なぜなら、外発的モチベーションがきっかけとなって、内発的モチベーションが高まることがよくあるからです。

確かに、デシが「アンダーマイニング現象*」で示したとおり、金銭や賞などの外発的刺激によって内発的な意欲が下がるケースはあります。しかし一方で、評価や報酬が有能感や自己効力感を高め、内発的モチベーションを引き出すことも頻繁にあります。つまり、多くの人は成果を評価され、昇給・昇進するうちに、仕事がもっと面白くなったり、影響力の大きさにやる気が高まったりするものなのです。経験の豊富な人事やマネジャーの方なら、そうした例を何度も見ていることでしょう。

*内発的に意欲がもてる課題に、金銭・賞などの外発的報酬をつけてしまうと、好きだからやっているという気持ちを阻害してしまう現象が起こることがある。それをアンダーマイニング現象と呼ぶ。エドワード・L・デシなどが発見した。

では、評価の際、外発的モチベーションが内発的モチベーションを上げるケースと下げるケースでは、何が違うのでしょうか。一言で言えば、それは「目標の受容」です。部下が目標を受け入れることができたら、内発的モチベーションは高まるが、与えられた目標に納得できなければ、反発心が起こり、意欲が下がってしまうのです。

なお、ここで言う「報酬」は、給与やポジションだけでなく、賞賛や評判などの心理的報酬も含みます。単に褒めることも有効なのです。とはいえ、金銭的な報酬はやはり重要です。高い給与にも早々に慣れてしまい、内発的モチベーションが高まらなくなるといった問題はあるものの、それでも給与の効果は決して無視できないものです。

モチベーションを測る一般的な尺度は存在しない

なぜ私が目標と報酬を重視するのかを、少し別の角度からも説明してみましょう。

私のところには、時々「従業員たちのモチベーションを測ってほしい」という企業からの依頼がやってきますが、実は、その期待に応えるのは難しい。なぜかといえば、モチベーションを測る一般的な尺度が存在しないからです。

数多くの仕事に対して意欲や関心が高い資質をもつ人はいるでしょう。しかし、「その人のモチベーションは高い」とはいえない。なぜなら、何らかの「目標」に対して抱くのがモチベーションだからです。目標なしのモチベーションなどあり得ないし、目標が多様な以上、モチベーションは1つの尺度では測れない。多くの仕事に対する意欲が高いことはパーソナリティに関係することで、モチベーションとは少し別の話なのです。これを踏まえれば、目標の受容が内発的モチベーションに欠かせないのは当然でしょう。納得のいく目標がなくては、誰しも意欲など湧くはずがないのです。

目標とモチベーションのこうした関係を明確にしたロックとレイサムの「目標設定理論」、ヴルームやローラーの「期待理論」など、ワーク・モチベーション研究では数々の理論が生まれてきましたが、多くが報酬とモチベーションの関係を扱っています。目標と評価の裏には、必ず報酬がついて回るのです。

相手のパーソナリティをよく見た評価とフィードバックが大切だ

以上を踏まえて、部下のモチベーションを高める評価の具体的な方法を紹介しましょう。

まずは、どうすれば部下に目標を受け入れてもらえるか。一番確実なのは、部下自身が目標を設定するか、マネジャーと部下が一緒になって目標を設定するやり方です。当たり前ですが、自己決定すれば目標を受け入れやすくなるからです。それができない場合は、十分なすり合わせが必要でしょう。

その上で、面談時には、部下が目標を受け入れたことをよく確認することをお勧めしたい。ちなみに、ギリギリ達成できるくらいの目標が、最もモチベーションを高める効果があります。

次に、評価の際に欠かせない「フィードバック」ですが、相手のパーソナリティをよく見て行うことが大切です。例えば、自信のない従業員に強いフィードバックをすれば、不安を高める恐れがある。こうしたことに慎重になる必要があります。

心理学者マーティン・セリグマンは、楽観的な生命保険営業の方が、悲観的なタイプよりも売上が多いことを明らかにしました。実は私も日本で同様の実験をしましたが、やはり楽観的な営業の方が契約件数も契約高も有意に多かったのです。この結果を踏まえると、少なくとも、保険営業のように対人ストレスがかかっても行動量を増やすことが成果につながる仕事では、楽観的な気持ちをもたせるようなフィードバックが効果的だと思われます。

それから、フィードバックは早めに行うことが肝要です。改善しても間に合わないほどフィードバックが遅くなると、個人の努力が無駄になってしまい、かえって逆効果になる可能性があります。

他には、言うまでもないことかもしれませんが、上司と部下の「信頼関係」が評価やフィードバックに大きな影響を及ぼします。信頼ある上司のフィードバックは効果が高く、部下は目標を受け入れやすくなる。日頃の関係構築が問われるわけです。

最後に伝えたいのは、目標を達成するとモチベーションは終息するということです。新たに喚起するには、次の目標が必要となります。だから、部下が目標を達成したら、すかさず新目標を用意するか自ら立ててもらい、受け入れてもらうことが、モチベーションマネジメントの重要なポイントです。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.45 特集1「心理学からみる人事評価」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属・役職等は取材時点のものとなります。


PROFILE

角山 剛(かくやまたかし)氏
東京未来大学 モチベーション行動科学部 学部長 モチベーション研究所 所長

立教大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得。立教大学社会学部助手、東京国際大学人間社会学部教授を経て現職。専門は産業・組織心理学、社会心理学。研究キーワードはワーク ・モチベーション、楽観・悲観主義。著書に『産業・組織』(新曜社)、『最新心理学事典』(共同編集、産業心理学領域編集委員兼執筆、平凡社)など多数。

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