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インタビュー

認定NPO法人 サービスグラント

企業人もNPOの人々もプロボノで異世界と出合う

  • 公開日:2017/01/23
  • 更新日:2024/03/22
企業人もNPOの人々もプロボノで異世界と出合う

企業人にとって、「プロボノ」は越境の大きなチャンスの1つである。そこで、日本のプロボノ・コーディネーターの草分けであり、著書に『プロボノ―新しい社会貢献 新しい働き方』(勁草書房)がある 特定非営利活動法人 サービスグラント 代表理事の嵯峨生馬氏に、「越境としてのプロボノ」について詳しく伺った。

3000人以上の企業人がプロボノワーカーとしてスキル登録
働きながら参加しやすいようプログラムの仕組みを整えている
会社や仕事が嫌だからプロボノを始めたという人はほぼいない
企業人だけでなくNPOにも異世界と関わるための準備が必要

3000人以上の企業人がプロボノワーカーとしてスキル登録

プロボノとは、一言で説明すると「仕事で培った経験・スキルを生かした社会貢献活動」のことである。もう少し平たく言えば、企業に勤める人々が、勤務時間外にNPOや地域活動団体などでボランティアとして働くことを指す。嵯峨氏が率いるサービスグラントはプロボノのコーディネートを行うNPOで、2016年9月現在、3000人以上の企業人がプロボノワーカーとしてスキル登録をしており、彼らの活動を通じて400以上のNPO・団体を支援してきた。

働きながら参加しやすいようプログラムの仕組みを整えている

サービスグラントのプログラムの特徴は、必ず “プロジェクトチーム形式”で取り組むことにある、と嵯峨氏は語る。

「プロジェクト型助成」を提供

「ほとんどのNPO・団体は、自分たちが取り組む社会課題の解決力が強い一方で、事業戦略立案・営業・マネタイズなど、組織の土台づくりを苦手としています。そこで、プロボノワーカーの皆さんにプロジェクトチームを組んでいただき、彼らの苦手な部分に臨んでいただくのです。プロジェクトの目的は、WEBサイト制作、業務フロー設計、事業計画立案など、NPO・団体の課題や要望によって異なります。目的に合わせ、プロジェクトマネジャーなどの“マネジメント系”、マーケター・ビジネスアナリストなどの“調査・分析・戦略立案系”、WEBデザイナー・コピーライターなどの“デザイン・クリエイティブ系”、情報アーキテクトなどの“情報・IT系”の方々が、5~6名のチームを組むのです。

参加者は20代から50代まで幅広く、業界や会社もさまざまです。期間は1カ月から半年ほど。稼働時間の目安は平均週5時間で、平日の夜や休日を使って無理なく活動できます。対面の打ち合わせは月1回程度で、あとはメールやスカイプなどでやり取りしていただきます」

一般的なプログラムのほかにも、NEC、パナソニックなどの社員と行う“企業プロジェクト”、育児休暇明けや再就職を目指すお母さんたちのウォーミングアップを応援する“ママボノ”、地元の町内会、福祉団体などをサポートする“ホームタウンプロジェクト”、日本の地域が抱える課題解決を応援する“ふるさとプロボノ”、理事や顧問をマッチングする“ボードマッチ”など、さまざまなプログラムが用意されている。

会社や仕事が嫌だからプロボノを始めたという人はほぼいない

プロボノはボランティアの一種だが、ボランティア精神だけでプロボノを行う人はごく少数だという。「多くの方は、社会貢献に加えて、“自分の経験・スキルを生かしたい”“NPOの現場を覗きたい”“視野を広げたい”“社外の方々と接したい”といった目的をもって始めます。全体的に見て、会社や仕事が嫌だからプロボノを始めたという方はほとんどいません。むしろ、今の仕事が好きで、その仕事をもっと深めるために、外で刺激や学びを得たいという方が大多数です」

参加者の学びは大きく2種類ある。「1つは“チーム内での学び”で、さまざまな方々と協働するなかで、仕事の参考になるスキルを見出す方が多くいます。もう1つは“NPO・団体からの学び”で、よく聞くのが“ニュースを見る目が変わりました”という言葉です。社会課題に立ち向かう現場を見たり、その分野について深く学んだりするなかで、社会の見方が変わっていくのです」

嵯峨氏によれば、一番多いのは、プロボノのせいで本業が疎かになっていると言われないよう、より一層真剣に働くようになる人だという。

企業人だけでなくNPOにも異世界と関わるための準備が必要

嵯峨氏が挙げるキーワードは、“役割”と“生産性”である。プロボノでは、ワーカー各自が職務を全うし、具体的な成果物を生み出すことが重要なのだ。なぜなら、1つには、その方がプロボノワーカーの方々が役立った実感を得やすいからだが、もう1つは、仕事の範囲を明確にする必要があるからだ。

「実は、多くのNPO・団体が人手不足に悩んでおり、優れた方には長時間働いてもらいたいと思っています。しかし、そうなると週5時間では済まなくなり、ワーカーの皆さんが続けられなくなってしまいます。互いに気持ちよく週5時間の程よい仕事量を保つには、どこまで関わるかを線引きした方がよいのです」

このことも含めて、プロボノを行う際は、ワーカーだけでなく、NPO・団体側にも受け入れの準備を十分に整えてもらう必要がある、と嵯峨氏は言う。

「特に大切なのは、目線を合わせることです。例えば、NPO・団体は、実践的に役立つことでなければ受け入れない面があります。いくらクリエイティブなWEBサイトでも、どれだけ優れた事業計画でも、効果につながらなければ、彼らは満足しません。上から目線の抽象的なアドバイスなどは溝を深くするだけです。こうしたすれ違いが起きるのは、互いの価値観を理解せず、目線が合っていないからです。そもそも企業とNPO・団体は価値観が大きく異なります。企業の物差しは金銭的指標、いわば“円”ですが、NPO・団体では社会課題をどれだけ解決できたかが価値基準になります。この違いを理解し合い、全員が大きな目的のために一致団結できたとき、初めて良い協働が起こるのです」

つまり、企業人もNPO・団体の人々も、プロボノを通して異世界と出合うのだ。互いがその境界を越えて一歩を踏み出し、手を結べたら、プロジェクトは成功する。このプロセスを経験することこそがプロボノで得られる一番の学びであり、サービスグラントはそのチャンスを提供しているのだ。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.44 特集1「「越境」の効能」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および社名・所属・役職等は取材時点のものとなります。

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