経営者が語る人と組織の戦略と持論 日本精工株式会社 取締役 代表執行役社長 内山俊弘氏

ベアリング(軸受)メーカー、国内シェアトップ、世界第3位の日本精工が今年、創業100周年を迎えた。それを見越して、昨年1月、10年後のあるべき姿を描いた「NSKビジョン2026」を策定。冒頭に掲げられたのはこういう言葉だ。
「あたらしい動きをつくる。」
昨年6月、社長に就任し、2世紀目の最初のトップを任された内山俊弘氏はどんな「動き」を作り出そうとしているのか。


事業への危機感

ベアリングは自動車をはじめ、鉄道、航空機、家電など、あらゆる機械に組み込まれている。その機能は摩擦低減にあり、起源は紀元前700年頃のアッシリアの巨像運搬で重い石材を運搬する際に使われた円柱状の道具「ころ」にあるという。それが今の工業製品の形になって、150年近く経つ。

ベアリングは「産業の米」ともいわれるくらいだから、これから100年も事業は安泰のように思えるが、同社社長の内山氏は危機感を露わにする。「ベアリングは製品の寿命が長い。それはいいことなのですが、逆にいえば社員がそれに安住しがちなのです。これまでは環境変化も緩やかで、お客様から言われたことに真面目に対応していけば何とか事業が成り立ちましたが、そうもいかなくなってきました」

前に出ていく人材が必要

一番大きな要因は、同社の事業分野の7割を占める自動車の変化だ。従来のガソリン車には1台当たり150個ほどのベアリングが使われ、その多くがトランスミッションで使用される。ところが、電気自動車になるとトランスミッションがなくなり、ベアリングの数が激減するのだ。「大きな転換期です。これまでの受け身の姿勢から脱して、前に出ていかなければなりません。われわれの製品を納めるメーカーだけでなく、実際に車を運転する人たちのことも考えて新たな製品やサービスを開発しなければならない。ベアリングにもこだわりません。それができなければ、われわれの次の100年はないと思います」

自ら前に出る人材を育成するにはどうしたらいいか。「同じ人が同じ仕事ばかりをやっていると、人も組織もタコツボ化してしまいます。それを防ぐのがローテーションです。特にリーダー層には40歳くらいまでの間に、3年から5年のスパンで、いくつかの仕事を経験させるべきです。会社の外、日本の外に出てみることも必要でしょう」

実は、内山氏自身がそうしてきたのだ。入社3年目、新潟県にある国際大学に一期生として留学、2年間を過ごした。同大学は財界が中心になって設立した大学院大学で、教授陣の多くが外国人。当時、日本で唯一、すべての授業を英語で行う国際色豊かな教育機関だった。「私と同じように企業から派遣された人が35名と、海外からの留学生が10名ほどいました。冬場のスキーくらいしか娯楽がない地で、仲間たちと寝食を共にし、大きな影響を受けました。私は入社3年目でしたが、他は5年目くらいの人が多く、自分の未熟さを痛感しました」

日米の文化の差に直面

専攻したのは国際政治、なかでも外交史だった。「歴史上の事件を題材に、組織における意思決定プロセスを研究しました。実務には直接は役立ちませんでしたが、発想の源にはなりました。ある企業に営業をかける場合、キーパーソンだけを狙っても駄目で、抵抗勢力にも話をつけなければならないという教訓につなげることができました」

日本での「国際経験」はすぐに実地に生かされることになる。アメリカに渡り、5年間、駐在したのだ。そこで直面したのは、文化の差だった。「日本での経験をもとに、このとおりやってくださいと伝えても、アメリカ人はなかなか動いてくれない。日本語の英訳に細心の注意を払い、この仕事がなぜ必要なのかをしっかり説明する必要がありました。アメリカ社会の厳しさも痛感しました。能力が劣る人、成果をあげられない人はあっという間にクビです。日本では考えられないことでした」

帰国すると、今度は大きな仕事が待っていた。日本精工は1997年、アメリカのゼネラルモーターズ(GM)傘下にあった自動車部品メーカーとブラジルで合弁事業をスタートさせたのだ。日本精工の現地工場の一部を生産ラインとして貸すという形であり、その際の契約交渉から会社設立まで、内山氏が任された。出資比率が半々だったから、先方の文化や体質、仕事の進め方と自社のそれらを調整しながら、合弁プロセスを進めなければならない。しかも、条件面で問題が生じた。

新会社立ち上げの苦い経験

合併の相手方は全種類のベアリングを合弁対象にしたいと考え、営業機能も不要、と主張した。内山氏もいったんは納得し、要望を上司に伝えると、反対され、逆にこう指示された。「ベアリングの種類を限定し、営業機能ももたせよ」と。種類を限定しようとしたのは、合弁企業をすでにある子会社と競合させないためであり、営業機能をもたせるのは、合弁企業の生産量が減った場合、隣にある日本精工の生産ラインの仕事を回せ、と言われないようにするためだった。上司は事業失敗のリスクも含め、幅広い視野で合弁事業を考えていたのだ。

こちらの言い分が通り、ようやく走り出す。そんな折、内山氏には再度、アメリカ駐在の命が下り、米州副総支配人という立場で、アメリカから、ブラジルにある会社の支援を行うことになった。

ところが、予期せぬ事態が起きた。ブラジルの通貨レアルが暴落、事業の採算が合わなくなったのだ。合併の相手方の担当者と打開策を編み出し、実行してみたが、業績回復の兆しもない。とうとう合弁を解消し、会社を畳まなければならなくなった。 2002年のことである。

成功の暁には、東欧や中国での事業展開も考えていたが、すべて頓挫した。「会社の立ち上げから墓場送りまでわずか5年。わが社で最短記録です。しかし、私にとっては、経営の難しさと厳しさを痛感する、またとない機会でした」

2度目のアメリカ赴任から帰国した2006年、また別の仕事が待っていた。調達本部副本部長。それまではずっと営業系で「売る」という立場だったのが、正反対の「買う」仕事である。付き合う相手は、ベアリングの材料供給先である鉄鋼メーカーや関連商社、あるいは部品の製造会社、鍛造や研削といったベアリング製造の前工程を担当する協力会社だ。

「当時はリーマンショック前の好景気で、あらゆる材料が不足し、値段が高騰していました。そうしたなか、しっかりと物を調達し、しかもコストも下げなければなりませんでした。さらに海外での新たな調達先の確保も重要なミッションでした。今まではフロントサイドばかりにいた私が、会社の活動を裏側から支える経験ができた。営業を『する』立場から『受ける』立場に変わったわけですから、このやり方は駄目だな、とか、このアプローチは見習わなければ、という営業に関する学びもありました」

経営大学によるトップ育成

大学院への留学、アメリカ駐在、海外企業との合弁会社立ち上げと解消、調達というバックヤードでの仕事。そうしたキャリアを積んだ後、内山氏は役員となった。多彩な経験がその昇進を後押ししたと考えていいだろう。

すべての人材にこうした多様な経験を積ませられるのが理想だが、なかなか難しい。

1999年からスタートした次世代リーダー選抜研修「NSK経営大学」が、その一端を担っている。課長クラスと部長クラスにコースが分かれ、期間はいずれも9カ月。前半は座学、後半はグループに分かれて経営課題を探り、その解決策を経営陣に提案する「答申活動」というプログラム。同社の役員はこの経営大学の卒業生の比率が高くなっている。 2011年からは、海外版の「グローバル経営大学」もスタートしている。

2013年から経営大学に他流試合の要素が強化された。外部のセミナーに他社の社員と共に参加し討論するという内容が、前半の座学パートに加わったのだ。「当社はこれまで人材開発にあまり力を入れてきませんでした。その反省に立ち、いろいろな工夫を加え、前例踏襲ではない、将来に向けたプログラムを用意しています」

現在、同社の進出先は29カ国に及ぶ。現地法人のトップは中国とASEAN諸国を除くとすべて現地の人間が担うところまできている。

そうなると、人材育成という面では困ったことが起きる。その国以外の人間がポストを経験することが難しくなっているのだ。

「ナンバー2とナンバー1ではプレッシャーの大きさが違いますから。次の段階として、どこの国の人間がトップになっても構わないグローバルポストをどんどん作っていくことを考えています。アメリカのトップを日本人とアメリカ人、中国人が競い合うわけです」

T型フォードの発明から約100年。電気化、自動運転化と、自動車という製品が新たな局面を迎えた今、その自動車と共に発展してきた日本精工の「あたらしい動き」に注目したい。

【text :荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.43 連載「Message from TOP 経営者が語る人と組織の戦略と持論」より転載・一部修正したものです。
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※記事の内容および社名・所属・役職等は取材時点のものとなります。



PROFILE

内山 俊弘(うちやま としひろ)氏
日本精工株式会社 取締役 代表執行役社長

1958年東京都生まれ。1981年早稲田大学政治経済学部卒業、日本精工入社、海外本部配属。 1983年から2年間、国際大学留学。その後、営業職そして経営職(米州副総支配人)として、2度にわたり、アメリカに計12年駐在。帰国後の2006年調達本部副本部長、2008年執行役経営企画本部副本部長、2010年執行役常務、2013年代表執行役専務を経て、2015年6月より現職。

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