筑波大学大学院 相川 充氏 人づきあいの技術を高めるソーシャルスキルの心理学

ファシリテーションやコーチング、アサーショントレーニングなど、コミュニケーションを改善していく技法がビジネスの場で注目されているが、より広く、人間関係全体を改善していくための技法がソーシャルスキルである。ソーシャルスキルの効果やビジネスとの関係などについて、筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻 教授の相川充先生に伺った。


「人づきあいの技術」を高めれば、誰でも人間関係を円滑にしていける

― 先生が長年研究を続けている「ソーシャルスキル」について、簡単に説明してください。

ソーシャルスキルとは、「人づきあいの技術」、他の人に対するふるまい方やものの言い方のことです。例えば、初歩的なスキルの1つに、話を聞くときには途中で相手の話を遮らないというものがあります。こうしたスキルを身につけ、高めていけば、誰でも人間関係を円滑にしていける、というのが私の考えです。最初は表面的な「フリ」や「演技」でまったくかまいません。聞き手として、相手の話を遮るのを我慢するといったことでよいのです。

ただし、最初はフリで始めたことが、少しずつフリでなくなっていくプロセスが重要です。相手の話を遮るのを我慢するうちに、次第に話に割り込みたいと思わなくなり、傾聴の姿勢が身について、ひいては聞き手としての自信や余裕が生まれてくる。あるいは、主張するスキルを高めることで、最後には引っ込み思案そのものが直る。私はこうした変化や成長を重視しています。ソーシャルスキルとは、行動の変化を通じて、最終的に人の内面を変えていくものなのです。

私は子どもたちに「ソーシャルスキル教育」を続けてきましたが、教育現場でしばしば批判を受けてきました。多いのは、「子どもたちにマニュアルを教えるのか」というものです。ソーシャルスキルは、確かに一種のマニュアルです。ただ、「入った後、マニュアルから出ることに重きを置くマニュアル」なのです。そこが通常のマニュアルやハウツーとは異なる点です。

アメリカ以外では、感謝とウェルビーイングが必ずしも比例しない

― 最近の研究成果を教えてください。

ここ数年は、「ポジティブサイコロジー」を意識しています。人々がより幸せになるにはどうしたらよいのか、困難な状況から自力で立ち直っていく力「レジリエンス」はどうしたら身につくのかといったことを研究する「21世紀の心理学」です。

ポジティブサイコロジーでは、エモンズとマッカローの実験成果などから、「感謝するとウェルビーイングが上がる(精神的、身体的、社会的に状態が良くなり、持続的幸福が高まる)」といわれています。そこで、私もエモンズとマッカローの再現実験を行いました。寝る前に今日感謝したいことを書いてから寝る群、嫌なことを書いてから寝る群、何もしない群を作って、数週間続けてもらった上でウェルビーイングの変化を比較したのです。驚いたことに、私が日本人学生で行った実験では、感謝群のウェルビーイングは上がりませんでした。その後、大塚泰正先生が日本のビジネスパーソンを対象に実験しましたが、結果は同じです。

調べてみると、韓国の心理学者が同様の結果にたどり着き、ヨーロッパの研究でも再現されていないようです。つまり、アメリカ以外では、感謝とウェルビーイングが必ずしも単純には比例しない。これはなぜかを調べたのが、最近の私の研究です。

感謝スキルを高めれば、日本人でも感謝が持続的幸福につながる

― アメリカとそれ以外では、なぜ結果が違うのでしょうか。

原因は、「心理的負債感」にありました。日本人は感謝を伝えるときに「すみません」と謝ることが多いですが、それは感謝に、自分の利益が「ありがたい」気持ちと、相手の苦労が「申し訳ない」気持ちの両方が入っているからです。そのポジティブ感情とネガティブ感情が打ち消し合って、ウェルビーイングが上がらない。アメリカ人と大きく違う点です。

これを解決するには、感謝の感情と行動を分けて考え、「感謝スキル」を高めて、積極的に感謝行動を起こしていくのがお薦めです。感謝の気持ちをそのままにせずに、「ありがとう」と口に出したり、お返しをしたりするのです。すると負債感が消え、人間関係が良くなって、日本人でも感謝とウェルビーイングが比例するようになります。事実、日本の小学生に行った実験では、感謝スキルを高めると互いによく評価し合い、「自分が困ったとき、相手に助けてもらえると思いますか?」という質問に「はい」と答える子が明らかに増えました。ソーシャルスキルを高めることによって、結果的に持続的幸福を高めることにも役立つのです。

負債感を減らすスキルは、他にもあります。例えば私の研究で、助けてと言わないのに助けられると負債感が高まりやすいことが分かっています。ですからリーダーは、部下の方から助けを求めてこない限り、見守るのがいいでしょう。もっといえば、部下が助けを求めやすい環境を整えることや、彼らの「援助要請スキル」を高めることが重要です。「5分だけ助けてほしい」「手伝ってもらえると会議に間に合う」などと感情や効果を具体的かつポジティブに伝えると、相手は助けやすくなる。このあたりの話は、最近出版した『上司と部下のためのソーシャルスキル』のなかで詳しく紹介しています。

ソーシャルスキルを身につければ、リーダーシップも高めていける

― ソーシャルスキルはビジネスシーンでも役に立つのでしょうか。

私は、社会人を対象にした大学院で、「リーダーシップ論」を十年以上、教えた経験があります。内容はソーシャルスキル教育です。相手とオープンに接するための「オープンマインド・スキル」、部下と接するための「コーチング・スキル」などを教えると共に、各自がビジネス経験から得てきたコツをソーシャルスキルとして捉え、磨いてもらう場にしています。ビジネスでもソーシャルスキルが有効で、プレゼンテーションではスキルXとY、チームワークではスキルXとZといった具合に、場面に合わせて上手にスキルを組み合わせ、違った自分を表現していけば、苦手を得意に、得意をより得意にしていくことができます。

さらに、ソーシャルスキルを意識すると、自分のスキルを言語化して相手に伝えることや、相手のスキルを言語化して理解することが上手になります。教育・育成の力が伸びるのです。このように、ソーシャルスキルでリーダーシップを鍛えることも十分に可能なのです。

【text:米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.41 展望「人づきあいの技術を高める:ソーシャルスキルの心理学 ソーシャルスキルは最終的に人の内面を変えていく」より転載・一部修正したものである。
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PROFILE

相川 充(あいかわ あつし)氏
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻 教授

博士(心理学)。1978年茨城大学人文学部卒業。1983年広島大学大学院教育学研究科博士課程修了。専門は社会心理学(対人心理学)でソーシャルスキルの理論とトレーニングを研究。『人づきあいの技術―ソーシャルスキルの心理学』『上司と部下のためのソーシャルスキル』(共著)(ともにサイエンス社)など著書多数。

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