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インタビュー

株式会社BOLBOP 代表取締役会長 酒井 穣氏

若手は、できるだけ早く課長を経験した方がよい

  • 公開日:2016/07/15
  • 更新日:2024/03/27
若手は、できるだけ早く課長を経験した方がよい

働き方や組織のあり方が世界規模で大きく変わりつつある今、日本企業でミドルマネジャーになることにいったいどのような価値や意味があるのだろうか。ベストセラー『はじめての課長の教科書』の著者、酒井穣氏に伺った。

課長になりたくない若者のホンネ
社内をマネジメントできなければ 外部をマネジメントできるわけがない
社会課題や社会的弱者の問題を 自分ゴトとして考えられるかどうか

課長になりたくない若者のホンネ

ミドルマネジャー(課長)になりたくない若手社員が増えているということだが、当たり前だと思う。日本のミドルマネジャーの給与は世界と比較すると極めて低い。責任が重いのに給与が低いのだから、なりたくないに決まっている。

なぜ一昔前は皆がミドルマネジャーを目指したのかといえば、権威や権力に惹かれたからだ。また、我慢していれば、高い給与や退職金がもらえたからだ。なりたくない社員は昔からいたが、それが言いやすくなった側面もあるかもしれない。

しかし、年功序列は過去の話で、今は40代以降のリストラがあり得るのが普通だ。それに、優秀な若手ビジネスパーソンの多くは、課長や部長といった肩書きにさほど魅力を感じていない。彼らは権威・権力よりも、クリエイティブでイノベーティブな成果を出すことを望んでいるのだ。

それどころか、彼らは「会社の枠」を窮屈に感じている。インパクトのある成果をいち早く出すために、会社の壁を超えて、外部メンバーとベストなチームを組み、華々しくプロジェクトを推進したいのだ。彼らの感覚では、課長として社内メンバーを育成しながらプロジェクトを進めるのでは、遅いのだ。何よりも求めているのは時間的・組織的な自由で、無駄な仕事には携わりたくない。これが今どきの優秀な若者のホンネである。

社内をマネジメントできなければ 外部をマネジメントできるわけがない

私は、彼らのこうした考え方に、ある程度までは共感している。彼らが早く成果を出したいと思う一因は、やや極端に言えば、3.11を経て、「自分はいつ死ぬか分からない」と感じているからではないか。だとすれば、ごく自然な反応である。

彼らが会社の枠を窮屈に感じるのは、SNSの影響が大きいだろう。『エクセレント・カンパニー』の著者として有名なトム・ピーターズは、1980年に早くも「組織とはソーシャルネットワークのことだ」と喝破したが、若者の多くは近い感覚をもっていると感じる。Facebookなどを通じて、社内よりも社外の友人や知り合いの仕事ぶりに詳しくなっているのだから、彼らと仕事をしたいと思っても何の不思議もないだろう。

さらに言えば、AIやロボット、自動翻訳機といったテクノロジーの急速な発達によって、今後、日本経済は凋落していくか、国内の経済格差が広がると私は見ている。経営側に回らなければ、きっと苦労する。多くの若者は敏感だから、私と同じような未来を予見しているのではないか。それなら、早く成果を出して実力をつけ、シビアな現実の世界で生き残るための準備をしたいと考えるのが当然だ。

しかし、私は、これらの考え方に共感するからこそ、若手ビジネスパーソンはできるだけ早く「課長」を経験した方がよいと断言する。

なぜなら、社内をマネジメントできなければ、外部をマネジメントできるわけがないからだ。課長というのは、年齢、価値観、実力の多様なメンバーを束ねて業績を上げなくてはならない難しい仕事だ。一般の企業においてマネジメントの訓練ができるのは、経営陣を除けば、ほとんど課長だけである。課長になるまでの時間が待てない最も優秀な若者は、就職せずに起業するか、小規模なベンチャー企業に入っているのだ。しかし、経験の足りない若者の起業や、小規模ベンチャーへの参加は、一般にはリスクが大きすぎる。

冒頭でも触れたように、今の日本企業の課長職は給与に見合った仕事ではない。しかし、少ないリスクでマネジメント経験が積めると考えれば、実は、望んで就くだけの価値がある。若手が真に恐れるべきは「経験格差」である。課長職を避けていると、きっと後で厳しい状況に陥るだろう。

人は、困難を乗り越えなくてはならなくなったとき、自分自身の思考・行動モデル(コンピテンシー)に大きな変化を起こす必要が出てくる。非連続的な成長は、そうしたときに起こるのだ。若手ビジネスパーソンにとっては、課長職が困難の1つである。課長を経験することで飛躍できる可能性はとても大きい。

社会課題や社会的弱者の問題を 自分ゴトとして考えられるかどうか

では、課長になったら、どのような力が身につくのか。端的に言えば、「責任をとる力」と「責任を全うできる力」である。具体的には、目標や予算を決して甘く考えない姿勢、自ら必要な知識・スキルを学べる力、さまざまな種類のコミュニケーション力、そして、人材育成力だ。

人材育成で問われるのは、「自分の子どもと同じように部下を育てられるかどうか」である。部下の行動や成長を自分の責任だと考えるマネジャーになることが、真のリーダーとして飛躍するための練習になる。

さらに言えば、今後、マネジャーの能力として最も重要になるのは、強い「当事者意識」だ。これからの経営者は、部下はもちろん、地域・日本・世界のさまざまな社会課題や社会的弱者の問題を、自分ゴトとして考えられるかどうかが厳しく問われる。もし当事者意識が強く、人材育成力のある課長になれたら、その後は起業しても、フリーランスでも、企業に残っても、間違いなく活躍できるだろう。課長になるからには、ぜひそうした高いゴールを自ら設定し、目指していただきたい。

最後に、人事部の方々に申し上げたいのは、本質的には「人材育成」が人事のすべてだということだ。育成力のある会社は自ずと採用力も上がる。そして、そのためには、若手が課長を経験できる体制を作る必要がある、というのが私の意見だ。

横並びの時代は、すでに終わっている。

【text :米川青馬】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.42 特集1「伝えたい マネジャーの醍醐味」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

PROFILE

酒井 穣(さかい じょう)氏
慶應義塾大学理工学部卒業、オランダ Tilburg 大学 MBA 首席卒業。2009年フリービット株式会社に参画、取締役就任。2013年に株式会社BOLBOPを設立。『はじめての課長の教科書』など著書多数。事業構想大学院大学特任教授。認定NPO法人カタリバ理事。

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