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インタビュー

慶應義塾大学 中室牧子氏

男子と女子の学習行動に違いはあるのか?

  • 公開日:2016/07/11
  • 更新日:2024/04/01
男子と女子の学習行動に違いはあるのか?

アメリカでは“Men are from Mars, Women are from Venus”(邦訳:『ベスト・パートナーになるために-男は火星から、女は金星からやってきた』ジ ョン・グレイ(著)、三笠書房、2001)という有名なベストセラーがあるし、最近では日本でも五百田達成氏の『察しない男 説明しない女』(五百田達成(著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014)という本がとてもよく売れたらしい。要するに、男と女は違うということだ。連載の第4回は、男子と女子の学習行動の違いについて、最新の研究成果をもとに考える。

男性は競争好き、女性は競争嫌い
男女差にはステレオタイプの影響も
チーム学習の効果は男女で異なるのか
男子は個人戦よりチーム戦で高い生産性を発揮する

男性は競争好き、女性は競争嫌い

最近、経済学では、男女の違いに着目した研究が多い。著名な行動経済学者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校の教授であるウリ・ニーズィーらの『その問題、経済学で解決できます。』(ウ リ・ニーズィー、ジョン・A・リスト (著)、東洋経済新報社、2014)には、こんな実験が紹介されている。

被験者はバケツにテニスボールを入れるように頼まれる。ただし、この実験における賞金の支払い方法は2つある。1つは、バケツに入ったボール1個あたり1.5ドルで支払われるもの、もう1つは1個あたり4.5ドルだが、競争相手よりもボールの数が多くないと賞金は受け取れないというものだ。ニーズィー教授らは、この実験で「誰かと競争することを好むかどうか」をテストしたのである。この結果、驚くべきことに、被験者の男性の50%が競争する方を選んだのに対して、女性で競争することを選んだのはその半分以下であったことが分かったのである。

男性は競争好きで、女性は嫌い―この傾向はかなり幼少期から顕在化するようだ。小学生の短距離走では、男子は競争になるとタイムが上がるのに対して、女子は競争であってもなくてもタイムは変わらなかったことを明らかにした研究がある。

男女差にはステレオタイプの影響も

一方で、男女の間に本質的な差はなく、男女間のパフォーマンスの差は心理的な要因によるものだという研究も存在している。比較的古くからある研究の1つに、「どうして男子の方が数学のテストスコアが高いのか」というものがある。心理学の研究蓄積によると、「ステレオタイプの脅威」といわれるものではないかと考えられている。要するに「女子は理数系が苦手」というステレオタイプを刷り込まれると、自分自身がそれを踏襲してしまうというものだ。

「年齢と共に記憶力は低下する」という記事を読んだ人は実際に記憶している単語量が少なかったことを示す研究や、農村の少年たちにカーストと呼ばれる自分たちの社会的な身分を思い出させてからテストを受けさせると、そうしなかった場合よりも成績が悪かったことを示す研究がある。これも同じく「年齢と共に記憶力は悪くなる」とか「社会的身分が低いと成功できない」というステレオタイプに落ち込んでしまう例なのである。

チーム学習の効果は男女で異なるのか

このように、男子と女子の違いについてはさまざまな面白い研究が出てきているが、最近筆者が手がけた研究でも、男女の学習行動の違いが顕著に表れたものがある。本稿ではそれを紹介したい。

当該の研究では、eラーニング教材「すらら」の学習者を対象に、2015年夏季に実施された学習時間と(ドリルの単元に相当する)ユニット修了数を競い合う「すららカップ」において、チームで参加する中学生と、個人で参加する中学生をランダムに振り分け、チームで参加する場合(=この生徒たちを「処置群」と呼ぶ)と、個人で参加する場合(=この生徒たちを「対照群」と呼ぶ)では、どちらが単位時間あたりのユニット修了数(=学習生産性)が高いかを比較した、というものだ。

実は、「どうすれば労働者の生産性を高められるか」―これは、労働経済学の大きな研究テーマの1つである。そのなかで、労働者個人に対して報酬を出すよりも、労働者にチームを組ませてそのチームに対して報酬を出す方が、労働者のヤル気を引き出し、生産性を高めることを示す研究が出てきている。チームで生産を行えば、お互いに、協調的あるいは補完的な生産活動をしたり、相互に教え合うことによって知識や技術のスピルオーバーが生じたり、社会的な規範・プレッシャーが存在することによって生産性が高まるからだ。これは学習にはあてはまらないのだろうか。

筆者がこの論文を執筆しようと考えたのは、ある学習塾の経営者に次のような話を聞いたことがきっかけだ。その経営者は、「子どもたちにグループを組ませてコンテストをすると、子どもたちの理解度が非常に高まったような気がする。それは、互いに教え合い、協力し合い、時にはプレッシャーをかけ合っているからだ」という。筆者は、この発言は、労働経済学が「チームに対する報酬が労働者の生産性を上げるのか」という問いから得た答えと非常によく似ていると感じ、本研究ではそうした教育現場での観察が、実証的に証明できるのかどうかについて取り組もうと考えた。それで、「すらら」の学習者を対象にした実験を行ったというわけである。

男子は個人戦よりチーム戦で高い生産性を発揮する

結果を見てみると、チームで参加することを割り当てられた生徒たち(=処置群)の方が、個人戦に割り当てられた生徒たち(=対照群)よりも14~20%近くも学習生産性が高いことが明らかとなり、さらには英語・数学の学力テストの成績も高いことが示された。つまり、労働者の生産性に関する研究からいえることは、学習者の生産性についてもあてはまるといえる。

しかし、驚くべきことに、この結果は男女で異なっている。つまりチームでの参加が生産性にプラスの効果をもたらしたのは、男子のみだったのである。女子にはその効果は表れなかった。つまり、平均してみれば効果はあるように見えるのだが、実は効果があったのは男子だけだったということになる。

この男女間の差が、例えば「男子は女子の前でいい格好をしたがる」とか、「女子は集団のなかで積極的に発言することが苦手」などの男女の性質の差によって生じているのか、単に「女子はチームワークが苦手」という「ステレオタイプの脅威」に落ち込んでしまっているだけなのか、についてはよく分かっていない。ただ、データを見る限り、(男女混合や女子だけでチームを組んだ場合に比べて)男子だけでチームを組んだチームが、最もチーム内での協力関係が強く、生産性が高かったことが分かっている。女子の前でいい格好をしたいというわけではないらしい。今回の研究の結果を見ると、どうも男子をヤル気にさせることはあまり難しくなさそうだ、と思われる。しかし、女子については、彼女らのヤル気スイッチがどこにあるのかまだ十分に見出せてはいない。今後の研究に是非期待していただきたい。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.42連載「<寄稿> 中室牧子の“エビデンスベーストが教育を変える”」より転載・一部修正したものである。
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PROFILE
中室牧子(なかむろまきこ)氏
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授。1998年慶應義塾大学卒業。米ニューヨーク市のコロンビア大学で学ぶ(MPA、Ph.D.)。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」。日本銀行や世界銀行での実務経験がある。
主著に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トウエンティワン)など。

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