武蔵野大学 島田徳子氏 「経験から学ぶことができる」個人ほど異文化への適応能力も高い

新しく入った個人をどう組織に適応させていくか、は企業にとって大きな課題の1つである。とりわけ、相手が外国人だった場合、異文化への深い理解も必要になる。日本人と比べて、元留学生社員の組織社会化にはどのような特徴があるのだろうか。異文化コミュニケーション研究の専門家・島田徳子氏に、最新の研究成果について伺った。


上司の支援内容が職務満足度を大きく左右する

個人が組織に適応していくプロセスを、「組織社会化」と呼ぶ。学術的には「個人が組織の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を習得し、組織の成員となっていく過程」と定義されている。

新卒で入った日本人と留学生で、そのプロセスに大きな違いはない。ただし、留学生を取り巻く環境には特殊なものもある。元留学生社員の組織社会化は、そうした環境の違いや異文化コミュニケーションを考慮に入れながら検討していく必要がある。

元留学生社員ならではの特徴を探るため、まずは2010年に4社を対象にした予備調査を実施した。入社2〜3年目の元留学生社員4人とその上司に対してそれぞれインタビューをし、お互いにどのような影響を与え合っているのか、を分析した。元留学生社員4名にはそれぞれ就職活動開始時点から調査時点までのライフラインを記入してもらい、大きな変化が見られた部分に関して「なぜ、グラフが変化したのか」を探った。

その結果、元留学生社員の場合、同僚とのコミュニケーションや同期からのサポートよりも、上司から受ける支援の内容が、彼らの職務満足度に大きな影響を与えていることが分かった。会社全体として異文化に対する許容度が高く、上司が海外赴任経験者である元留学生社員は、職務満足度が高く、組織への愛着心も強かった。一方、社内に海外赴任者が少なく、ふだん、あまり文化的差異を意識することのない職場の元留学生社員は、そうでない場合と比べて職務満足度が低い傾向が見られた。

では、具体的にどのような上司とのやり取りが職務満足度を左右しているのだろうか。それを探るため、次にWEBアンケートによる量的調査を実施した。アンケートの実施時期は2011年9月から2012年1月にかけて。分析の対象としたのは日本の大学・大学院を卒業・修了後、日本の民間企業に就職し、正社員として2年以上勤務した元留学生社員、102名である。出身国・地域は中国、韓国、台湾、マレーシア、ベトナム、インドネシアなど14カ国にまたがるが、そのうち過半数にあたる62名が中国の出身者だった。

組織社会化は大きく、「学習内容」と「適応成果」の2段階に分けられる。このうち学習内容はさらに仕事のスキルなどを覚える「技能的」な学習と、日本企業ならではの仕事の進め方や企業文化を理解する「文化的」な学習に分けられる。意外だったのは、技能的な学習と個人の組織への適応成果には相関関係がほとんど見られなかった点だ。適応成果の中身である「組織コミットメント」「(当該組織内での)キャリア展望」「職務満足」へ結びつきやすいのは、むしろ、「文化的」な学習の方だった(図表1参照)。

これは裏を返せば、上司がどんなに一生懸命に仕事を教えたり、業務の相談に乗ったとしても、文化面での社会化が十分でないと職場になじめず、早期の離職につながりやすいことを示唆している。元留学生社員の組織社会化は日本文化に適応しなければならないと同時に、企業人として組織に適応していかなければならないという二重の壁を同時に越える必要があるところに難しさがある。

上司に必要な「問う力」と個人に必要なソーシャルスキル

ならば、個人の文化的社会化を促すために上司はどのような働きかけをすればいいのだろうか。大事なのは「問うこと」だろう。自国の文化において、相手が理解できないような態度をとった場合、それを一方的に批判したり、拒絶したりするのではなく、「なぜ、そのような態度をとったのか?」を聞き出し、互いの文化の違いを理解した上で適切な表現でアドバイスできるか。部下育成にも通じるが、これが上司がすべき「文化面での支援」の第一歩であり、元留学生社員の適応において大きな鍵を握るポイントの1つでもある。企業としては、こうした支援ができる上司を適切に配属するか、研修などでそうした上司を育成していくことが必要になってくる。

一方、量的研究では「どのような個人がそうした上司の支援を得やすいか」という点にも着目した。因子分析の結果、いわゆる日本特有のソーシャルスキルを身につけているか否かが、上司の支援を得る鍵を握ることも分かってきた。この場合、個人が身につけるべきソーシャルスキルの1つは「間接性」である。自分の考えや意見をストレートに表現するのではなく、婉曲的な表現で匂わせたり、相手の本音や希望を言葉に出さなくても察するスキルのことである。これらはいずれも日本的コミュニケーションに見られる大きな特徴だが、留学生が身につけるのはとても難しい。日本の組織では「空気を読むこと」や「あ・うんの呼吸」が求められがちだが、これを留学中に身につけるのは至難の業であり、就職活動においても、この点で悩む留学生が非常に多い。したがって、大学側としては、留学生に対してこのようなスキルを身につけることができる機会を提供し、社会へ送り出すことが課題にもなる。一方で、会社の側としても、異国で働く個人の戸惑いを理解し、それをグローバルビジネスに生かしていくことが必要だと考える。

IQ が高いことと異文化適応能力には相関関係は見られない

じつは、元留学生社員の文化的社会化を促している重要な要素がもう1つある。それは「経験から学ぶ態度や行動」だ。具体的にどういうことかと言えば、うまくいかないときに何が問題かをメタ的に認知して、必要な情報を自分で探索し、次にどう行動すればいいのかを判断しながら行動していく。いわゆる「経験学習行動」と呼ばれる行動を生み出すスキルだ。これが高いと組織になじみやすくなり、仕事を覚えるのも早くなる。結果的に、組織への愛着もわき、長く勤めたいという気持ちになるなど適応成果へと結びつきやすい。

欧米における移民の文化受容(acculturation)*1の研究によれば、知能指数(Intelligence Quotient,IQ)と文化的な適応はほとんど相関関係がないという報告もある。つまり、知能や学歴が高いからといって、必ずしも文化に適応しやすいわけではない。留学生のなかには、知識偏重で正解のある勉強に慣れすぎていて、自ら問いを立てて、積極的に必要な情報を求めたり、みなでグループワークをしたりという経験が不足しているため、組織にうまく適応できないケースもあるだろう。

*1 文化受容(acculturation)は、文化変容と訳される場合もあるが、すでに習得した文化とは異なる文化に接触し、それ以前とは異なる文化的要素を身につけることをいう。

日本企業も最近は、優秀な学生を求めて現地の大学へ直接採用しに行っている。しかし、いくら成績優秀でも、組織文化に適応できないと組織への愛着や職務満足度は低くなり、その組織で長く勤めようという気持ちがもてず、会社を辞めてしまう結果に陥りやすい点には注意が必要だろう。組織社会化とは相互作用のプロセスであり、個人と組織は互いに影響し合っている。外国人社員の適応には、彼らが日本企業に勤務したいと考える動機をふまえた上で適切な文化支援をし、それを職務能力や成果へと結びつけていくことが肝心だ。

考えてみれば、これはなにも元留学生やその他外国人の社員に限った話ではないだろう。新入社員や転職組にも、同じようなことはいえる。いずれにしても、個人にとって重要なのはいかなる環境に置かれても必要な「経験から学ぶ態度や行動」を身につけることであり、企業にとってはそうした個人を見極めつつ採用し、文化的社会化の面から適切に支援していくことが求められるだろう。

【text:曲沼 美恵】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.39特集「『適応』のメカニズムを探る」より抜粋・一部修正したものである。

PROFILE

島田徳子(しまだのりこ)氏
日本アイ・ビー・エムでシステムエンジニアとして勤務した後、独立行政法人国際交流基金で日本語教育に携わる。2012年から現職。2014年、東京大学情報学環学際情報学府文化・人間情報学コース博士課程単位取得後退学。専門分野は日本語教育、異文化コミュニケーション、職場学習。

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