学習院大学 竹内倫和氏 個人が組織によく適応するためには、受け入れ側の努力も重要である

個人が新たな組織へ適応していくのは、なぜ難しいのか。個人がいち早く組織に適応していくためには、何がポイントとなるのか。組織が個人の適応を促すためには、一体どうしたらよいのか。組織社会化研究の専門家・竹内倫和氏に、最新の研究成果について伺った。


組織社会化とはなにか

新卒入社者や中途入社者は、入社後、組織と仕事にいち早くなじむ必要がある。その適応プロセスを「組織社会化(社会化)」と呼ぶ。社会化は難しく、うまくできないと離転職に発展することも珍しくない。そこで、人々が組織へ適応する要因を明らかにしていくのが組織社会化研究だ。

組織社会化研究には、「プロセスアプローチ」と「コンテントアプローチ」の2種類がある。プロセスアプローチとは、新規参入者がどのように組織に適応していくかに注目するもので、コンテントアプローチとは、新規参入者が組織適応過程でどのような知識や態度を獲得すべきかという観点からの研究だ。

就職活動や採用活動も入社後の社会化に影響を及ぼす

プロセスアプローチには2つの時期区分(入社前・入社後)があり、さらにそれぞれ2つの対象(個人・組織)に分かれている(図表1)。

入社前の組織にフォーカスした研究では、例えば、RJP( Realistic Job Preview)・ROP (Realistic Organization Preview)の効果がある。募集などの入社前段階で、企業が応募(予定)者に対して良いことも悪いことも含むリアルな職務情報、組織情報を伝えることが、入社後の社会化を促進するというものだ。

また、私が今年学会などで発表した研究では、新卒入社者の帰属意識(組織コミットメント)や職務満足度が、入社1年間、全体的には線形に下がっていくことを明らかにした。1年ごとの調査および3カ月ごとの調査の双方において、帰属意識や職務満足度の値が下がり、転職意思は上がるのだ。しかし、この組織適応の低下を抑制する要因が2つある。1つは、入社前の就職活動時における業界・会社研究(環境キャリア探索行動)で、これを頑張った人ほど、入社後も帰属意識などが維持される傾向がある。もう1つは入社後の導入研修で、導入研修の内容を高く評価した人は、帰属意識や職務満足度が他の人に比べて低下しない。

2つの研究から分かるように、入社後だけでなく、入社前の就職活動も採用活動も、やり方次第で社会化に影響を及ぼす。

3つのプロアクティブ行動が組織への適応を速める

入社後、個人が主体的に働きかけて組織に適応していくプロセスは、「プロアクティブ行動(自発的な適応行動)」の研究として、さまざまな成果が発表されている。プロアクティブ行動は、大別すると3種類ある。私が学生によく話す説明が分かりやすいと思うので、そのままお伝えしたい。

【1】入社後、自分から「仕事のやり方や成果に関する質問」をすること。
【2】職場で上司や同僚とのより良い「人間関係」を構築すること。
【3】自分の思い通りにならなくても、ネガティブに考えず、物事の良い面を見ようとすること(これを「ポジティブフレーミング」という)。

3つの行動を起こしていけば、自ずとスムーズに組織に適応できるはずだ。プロアクティブ行動のレベルには個人差があり、パーソナリティの5大因子説における外向性や開放性の高い人ほど積極的に行う傾向がある。しかし、上記以外のパーソナリティの人でも、行動を変えればよいのだから改善は十分に可能だろう。こういった個人の努力が社会化を左右することは、紛れもない事実である。



職場の上司や同僚による情動的サポートに効果がある

入社後、組織が個人の適応をどのように支援すべきかについては、「組織社会化戦術」の研究成果を見ればよい。組織社会化戦術とは、集合研修などの導入研修、キャリアパスやキャリアラダーの提示、ロールモデルによる指導といった、会社側の幅広い教育訓練施策のことだ。以上に挙げたような組織社会化戦術が充実しているほど、新卒入社者の社会化が促されることが分かっている。個人の努力に期待したい気持ちは分かるが、最初は会社側から手を差し伸べるということも考えるべきだろう。

先ほども触れたとおり、導入研修は社会化に効果があるが、その理由は情緒的な側面も強い。役割の明瞭さが高まることも理由の1つではあるが、それに加えて、入社者の意識が、組織と長期的な関係を築こうとする方向へ変わっていく影響が大きいということだ。導入研修で、大切に扱われている、十分にサポートされていると感じた入社者ほど、帰属意識や職務満足度が高まっていく。

また、最近注目されているものに「職場要因」の研究がある。上司のサポートの効果はすでに明らかで、同僚のサポートも有効と判明しつつある。なかでも、落ち込んでいるときなどにフォロー、リカバリーする情動的サポートが有効だ。

実は、新卒者に対して上司が主に仕事情報を伝え、同僚は会社情報を伝える比率が高いことが過去の研究で明らかになっている。意外かもしれないが、少なくとも仕事を教えるのは上司、会社の規範や暗黙のルールを教えるのは先輩の役目として認識し、職場全体でサポートしていくことが重要といえる。配属部署に適応した新卒入社者は、組織全体に適応できることも分かっている。プロアクティブ行動の話でも説明したとおり、入社したら真っ先に職場の上司や同僚との関係を良好にしていくことが、組織になじむ上で重要だ。



中途採用では、採用目的別に戦術を変える必要がある

コンテントアプローチでは、主に3種類の知識・経験に焦点を当てる。
【1】組織の歴史、文化、価値観
【2】職場の特徴、人間関係
【3】仕事のスキル、専門性

新卒入社者が3つすべてを知る必要があるのは言うまでもない。問題は中途入社者だ。
一般的な中途入社者は、【1】組織の価値観と【2】職場の人間関係を、まず十分に理解する必要がある。【3】仕事の専門性は前職から持ち運べるが、【1】組織のこと、【2】職場のことを理解せず、前職での実力を発揮しようとすると、社内から思わぬ反発を受けることがある。前職の価値観を最初から新しい会社に持ち込むのは慎んだ方がよいだろう。

一方で、経営層や人事が中途採用によって組織文化や風土を変革したいと考えている場合、中途入社者をあえて社会化させないという方法もあるだろう。(経営層や人事が変革をサポートしながらも)彼・彼女を異分子のままにしておくことで、変革主体として組織を活性化させていくのである。つまり、中途採用では採用目的によって採用手法や研修などの組織社会化戦術を変える必要があるということだ。このことを経営層や人事が十分に意識していないと、企業にとっても中途入社者にとっても不幸な結果になりかねない。



若者世代への無理解が問題となるケースは多い

ここまでの説明でお分かりいただけるとおり、社会化を促進するには、個人の努力だけでなく、受け入れ側の努力も重要である。特に、組織や職場は若者世代をよく理解する必要がある。若者世代への無理解が問題となるケースが多いのだ。

最近の若者は、ひと頃よりもキャリア意識が確実に高まっており、自己成長への意識も高い。背景には、小さいときからの経済情勢やそれに伴うキャリア教育の浸透が挙げられる。しかし、若者のキャリア意識の変化に対し、多くの企業の対応は旧態依然としており、希望職種に就けない若者が多いようだ。若者は、希望した仕事に就けず、フォローもなければ、モチベーションが下がると考えた方がよい。希望した配属でない場合、なぜその仕事が与えられたか、意義や意味を上司や人事が入社者にしっかり伝え、適切にフォローする必要がある。

もちろん、若者も自ら状況に対応しなくてはならない。最近は、キャリア意識が高い一方で、逆にキャリアに対する視野の幅が狭く、ポジティブフレーミングの苦手な若者が増えているように見える。そのため、私は学生たちに、「想定外の仕事をすることになったら、偶然与えられた仕事の良い面を見る心の余裕が大切だ。希望する仕事以上の適職かもしれないのだから」とよく話すようにしている。

【text:米川 青馬】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.39 特集「『適応』のメカニズムを探る」より抜粋・一部修正したものである。

PROFILE

竹内 倫和(たけうちともかず)氏
明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。その後、他大学での専任講師、准教授を経て、2011年4月に学習院大学経済学部准教授に就任。2013年4月より学習院大学経済学部教授。国際学会・国内学会などで受賞多数。専門は組織行動論(ミクロ組織論)・キャリア論・人的資源管理論。

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