調査レポート
2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第1回
なぜ早期離職は起こるのか?離職理由や留まる理由を紹介
- 公開日:2023/12/04
- 更新日:2024/06/07
近年、さまざまな企業から、新人・若手に対して「早期離職」の問題を抱えているという声をよく伺います。悩んでいる企業の大部分は、問題は大きくなっているにもかかわらず、原因が分からないことも多いのが実態です。あらゆる業界や規模の企業を悩ませている早期離職問題。今回は、新人・若手における主な離職要因や現職にとどまる理由、また新人・若手に対してどのような関わりが効果的かを調査しました。以下に、調査結果と考察を記します。
- 目次
- 調査概要
- 退職理由の上位は、労働時間や休日の取りやすさ プライベートの充実を含めた自己の幸福追求を求める仕事観が影響か?
- 退職には至っていないものの、退職を想起したことがある割合は半数以上 次の転職先を意識しながら現職に在籍しているケースも?
- 自分が転職できると思う理由は「高望みしなければどこかは見つかる」から
- 新人・若手は、正解のない仕事に戸惑い、仕事の意味ややりがいが感じられずに苦しむ 的確なアドバイスがもらえ、人間性を認めてくれる上司・先輩になら悩みを打ち明けられる
調査概要
退職理由の上位は、労働時間や休日の取りやすさ プライベートの充実を含めた自己の幸福追求を求める仕事観が影響か?
まずは、退職経験と退職理由をテーマとして扱います。
<図表1>退職経験
結果は、過去3年以内に、自己都合で退職をしたことがある割合は、17.5%でした。 では、なぜ退職を選択したのでしょうか。
<図表2>退職理由
Q:退職理由で、影響の大きかったものを最大2つまでお選びください。
※図表1「退職経験」で過去3年以内に自己都合退職したことが「ある」と回答した人にお伺いしています。
結果は、「労働環境・条件がよくない」(25.0%)、「給与水準に満足できない」(18.4%)、「職場の人間関係がよくない、合わない」「上司と合わない」「希望する働き方ができない」(同率14.5%)が上位となりました。
退職の理由を見てみると、労働時間や休日の取りやすさなどを示す「労働環境・条件」が悪いという理由が上位でした。これは、個人の仕事観として、プライベートの充実を含めた自己の幸福追求が、より叶いやすい組織を選ぶ傾向が高まっていることが背景にあると考えられます。
また、「職場の人間関係がよくない、合わない」「上司と合わない」の人間関係に関する項目も退職理由の上位となっています。自分自身を含む、個々人の意思を尊重する傾向を持つ若手世代ではありますが、この結果から、組織に所属するなかで他者からも大きな影響を受けている可能性があると予想できます。
退職には至っていないものの、退職を想起したことがある割合は半数以上 次の転職先を意識しながら現職に在籍しているケースも?
次に、退職を想起した経験とその理由、辞めずに働き続けている理由をテーマとして扱います。
<図表3>離職を想起した経験
Q:これまで、会社を辞めたいと思ったことがありますか?
※図表1「退職経験」で過去3年に自己都合退職したことが「ない」と回答した人にお伺いしています。
退職を想起した経験に関する質問に対する結果は、これまでに会社を辞めたいと思ったことが「ある」(58.8%)が思ったことが「ない」(41.2%)を上回りました。
また、辞めたいと思った理由で、影響の大きかったものを聞いています。
<図表4>辞めたいと思った理由
Q:辞めたいと思った理由で、影響の大きかったものを最大2つまでお選びください。
※図表1「退職経験」で過去3年に自己都合退職したことが「ない」と回答した人にお伺いしています。
結果は、「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「給与水準が満足できない」 (19.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)が上位となりました。
さらに、辞めずに働き続けている理由に関する質問では、辞めずに働き続けている理由で、影響の大きかったものを聞いています。
<図表5>辞めずに働き続けている理由
Q:辞めずに働き続けている理由で、影響の大きいものを最大2つまでお選びください。
※図表1「退職経験」で過去3年に自己都合退職したことが「ない」と回答した人にお伺いしています。
結果は、「転職も検討しているが、リスクもあると感じる」(21.3%)、「会社がつぶれる心配がない」(18.0%)、「転職も検討しているが、条件に合うものが見つかっていない」(14.2%)が上位となりました。
図表3・図表4では、過半数以上がこれまでに会社を辞めたいと思ったことがあると回答しています。また、離職を想起した理由として、「仕事にやりがい・意義を感じない」「自分のやりたい仕事ができない」の現業務に関する選択肢が上位をしめていることが示されています。この結果は、新人・若手が、個性ややりがい重視の教育施策を受けていることや、SNSが発展し、さまざまな価値観や成功事例に日常的に触れられる環境下に置かれていることが背景にあるためだと思われます。かつてよりも、やりがいや意義への感度は上がっているといえるでしょう。
さらに、辞めずに働き続けている理由では、上位3つの選択肢が「転職も検討しているが、リスクもあると感じる」「会社がつぶれる心配がない」「転職も検討しているが、条件に合うものが見つかっていない」でした。働き続けていたとしても、現職に残る大きな理由がなかったり、在籍しながら離職を検討していたりするケースも存在すると考えられます。一方、離職をとどまる理由として、給与や福利厚生などの制度以外の理由では、人間関係の選択率も高い傾向にあります。ここから、組織の人間関係を向上させることも、離職を思いとどまらせる理由になる可能性があると予想できます。
続いて、仕事の価値観をテーマとして扱います。
<図表6>仕事とプライベートの理想的バランス
Q:仕事とライフ・プライベートの理想的なバランス(ワーク・ライフバランス)について、最も近いものを1つお選びください。
仕事とプライベートの理想的なバランスの結果は、属性を問わず5:5という回答率が最も高いですが、新人・若手の方がややプライベートを重視する傾向となりました。
また、仕事で、このためなら労力をかけてもよいと思うものを聞いています。
<図表7>労力をかけて得たいもの
Q:仕事で、このためなら労力をかけてもよいと思うものは何ですか。あてはまるものを最大2つまでお選びください。
結果は、「プライベートの時間が確保できる、さらに充実させる」(24.4%)、「高い収入を得る」(23.0%)、「自分のやりたいことができる」(16.8%)が上位となりました。
これらの回答内容から、新人・若手は、上司・育成担当者と比較して、プライベートへの優先度が高いという特徴がみえてきます。 仕事とプライベートの理想的なバランスに関して、新人・若手は、上司・育成担当者よりもプライベートの比率が高い選択肢を選ぶ傾向が見られました。また、労力をかけて得たいものの上位は、「プライベートの時間が確保できる、さらに充実させる」という選択肢になっています。
新人・若手にとってプライベートは、仕事で一人前になってから充実させるものではなく、仕事の出来栄えに左右されない優先度の高い重要なものとして位置づけられている傾向があると考えられます。 新人・若手が、ワークライフバランスを大切にしていたとしても、それがイコール仕事にやる気がないというわけではありません。いかに、プライベートも大切にしつつ、仕事も前向きに取り組めるかという観点でのフォローが重要です。
自分が転職できると思う理由は「高望みしなければどこかは見つかる」から
さらに、転職の捉え方をテーマとして扱います。
<図表8>自分の転職可能性
Q:今の会社を辞めた場合、次の選択肢(転職・起業など)が見つかると思いますか?
この質問では、今の会社を辞めた場合、次の選択肢(転職・起業など)が見つかると思うかを聞いています。
結果は、今の会社を辞めた場合、次の選択肢(転職・起業など)が見つかると回答した割合 (60.0%)が、見つからないと回答した割合(40.0%)を上回りました。
また、転職できると思う理由に関する質問では、次の選択肢(転職・起業など)が見つかると思う理由を聞いています。
<図表9>転職できると思う理由
Q:次の選択肢(転職・起業など)が見つかると思う理由として、あてはまるものを最大2つまでお選びください。
結果は、「条件に高望みはしておらず、どこかは見つかると思う」(44.1%)が上位となりました。
新人・若手のうち6割が、今の会社を辞めた場合、次の選択肢が見つかるという選択肢を選びました。また、次の選択肢が見つかる理由として、「条件に高望みはしておらず、どこかは見つかる」という選択肢が上位となりました。
この結果を見ると、全体的な傾向として、新人・若手にとっての転職はハードルが低い可能性が高く、転職を“人生の一大イベント”のようなものと捉えていない人の割合も増えてきているのではないかと予想できます。
これは、転職が当たり前の時代となり、かつオンライン面談なども可能になった昨今、転職することの心理的ハードルのみならず、転職活動自体の物理的ハードルも下がってきていることが影響していると考えられます。
かつてよりも、社員は現業務と外の選択肢を比較しやすいようになりました。企業にとっては、採用活動時における自社の魅力喚起だけではなく、採用後も社内の魅力づくりやその訴求が重要になってきているといえるでしょう。
新人・若手は、正解のない仕事に戸惑い、仕事の意味ややりがいが感じられずに苦しむ 的確なアドバイスがもらえ、人間性を認めてくれる上司・先輩になら悩みを打ち明けられる
最後に、入社後の壁と助けになる関わりをテーマとして扱います。
<図表10>入社後1年目の壁
Q:(新入社員の)入社1年目では、どのような悩みや壁がありましたか。あてはまるものを最大3つまで選んでください。
この質問では、入社後1年目では、どのような悩みや壁があったのかについて聞いています。
結果は、「仕事に正解がなく、どうすればよいか分からないことが多かった」(27.1%)、「与えられた仕事の意味ややりがいが感じられず、やる気が出なかった」(21.1%)、「仕事が忙しく、プライベートに割ける時間が少なかった」(19.3%)が上位となりました。
また、悩みを話しやすい上司・先輩像に関する質問では、上司や先輩について、どんな人だと自分のダメなところや悩みなどを話しやすいかを聞いています。
<図表11>悩みを話しやすい上司・先輩像
Q:上司や周囲の人について、どんな人だと、自分のダメなところや悩みなど何でも話しやすいですか。あてはまるものを最大2つまで選んでください。
結果は、「仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人」(30.3%)、「普段から自分の人間性や価値観を認めてくれていると感じる人」(25.5%)、押し付けがましくなく、自分の話や気持ちを受け止めてくれると感じる人」(24.8%)が上位となりました。
入社後1年目の壁として、仕事の難しさの選択肢が多く選ばれました。
これは、新人・若手が、社会人になるまでに仕事で必要なスキルを積みにくくなっていることが背景にあると考えられます。同時に、近年、VUCA ※ 的仕事環境といわれるように、仕事自体の難度も上がっています。両者のギャップが拡大したことにより、仕事をこなせるようになる難しさはかつてより上がっているといえます。
悩みを話しやすい上司・先輩像の上位選択肢を見ていくと、新人・若手は上司・先輩に対して、「的確なアドバイスがもらえそう」という仕事での頼りがいのみではなく「人間性を認めてくれる」など人としての信頼感も求めている傾向がありました。
※ Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語
【参考データ】
この質問では、上司や先輩について、どんな人だと、自分にとって耳が痛い指摘やフィードバックでも受け止めようと思えるかを聞いています。
<図表12>耳が痛いことを受け止められる上司・先輩像
Q:上司や周囲の人について、どんな人だと、自分にとって耳が痛い指摘やフィードバックでも受け止めようと思いますか。あてはまるものを最大2つまで選んでください。
結果は、「なぜそれが大事なのかが分かるように伝えてくれる人」(40.9%)、「言うことを本人が実践しており、説得力がある人」(33.6%)、「普段から自分のことをよく見て分かってくれている人」(32.2%)が上位となりました。
第2回では、調査結果をふまえ、早期離職問題にいかに向き合うかについて解説します。
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
研究員
武石 美有紀
2014年大学在学中に個人事業開始。 2016年リクルートキャリア(現リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は、リクルートマネジメントソリューションズ にて、主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。
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