連載・コラム
2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第2回
新人・若手の早期離職問題といかに向き合うか
- 公開日:2023/12/18
- 更新日:2024/05/16
第1回を通して、早期離職問題は、特定の条件を整えれば改善するような問題ではなく、社会の大きな変化や、そのなかで醸成された個人の仕事観や人生観と密接に関係してくる問題だということが見えてきました。第2回は、新人・若手の早期離職問題との向き合い方を考えていきます。
早期離職といかに向き合うか
まず、現状を捉えるために、本人・企業・労働市場が置かれている環境を整理していきます。
■ 本人(新人・若手)について
新人・若手本人の仕事観を見ていくと、「この会社に入りたい」という就社の価値観より、「この仕事がしたい」という就きたい職のために入社する価値観の方が強くなりました。この傾向は、2023年の新入社員意識調査でも傾向として出てきています。例えば、本調査で、「新入社員時代に身につけるべきこと」のなかで、「特に重要だと考えるもの」について聞いたところ、「会社の理念や価値観に沿った行動」という就社を意識した項目の選択率は1%を切る結果となりました。
■ 企業について
企業の状況を見ていくと、年功序列・終身雇用は崩れ、同じ会社にいるメリットが減りました。以前は、長期にわたり雇用が保障されるだけではなく、長年同じ会社で働けば賃金が上がる傾向にあり、「就職できたら安泰」という感覚を持つ人も多かったかもしれません。しかし、現在はそうはいかないため、会社の基盤に頼るというよりも自分の力で、将来の雇用や賃金を維持していくという考え方を持つ人が増えたと想定できます。
■ 労働市場について
労働市場を見ると、就職先の選択肢の増加と売り手市場の傾向が顕著です。選択肢の増加としては、さまざまな特徴を持つ企業の出現や、外資系企業の参入も盛んになったことが挙げられます。また、NPOやフリーランスなど労働形態自体も多様性が増しているといえるでしょう。加えて、少子化により売り手市場が続き、労働者が就職先を選びやすくもなっています。選択肢のバリエーションが増加しただけではなく、かつてよりも競争率が下がり、希望した場所に入りやすい状況下で、1つの企業に所属し続けるという前提はなくなりつつあるのです。
前提が変わりゆくことを念頭に、企業は、離職に対して、どう向き合うか、何をするかを検討していく必要があります。
3つの離職パターン
次に、離職にはどのようなパターンがあるかを考えていきます。本稿では、離職のパターンを3つに分類しました。
パターン1:理由明確パターン
やりたいこと・ありたい姿が明確にあり、それを叶える手段として、転職を選ぶパターンです。このパターンの場合、周囲も理由に納得することが多く、本人の決断が受け止められる可能性が高いです。
パターン2:環境比較パターン
本人もやりたいこと・ありたい姿は何となく持っていますが、自分の選択軸が明確化する前に、環境要因により意思決定をするパターンです。
例えば、「何となく今の仕事がうまくいっていない」「何となく上司との相性が悪い」という日常で感じる些細な違和感や、「今の業務は、理想とするキャリアの方向性とずれている気がする」「友人よりも、自分の成長スピードは劣っている気がする」といった漠然とした不安感に後押しされて、もっと良い環境があるのではと早期に今の環境を見切り、外部のより好ましそうな選択肢に移ることが考えられます。
パターン3:状況回避パターン
本人のメンタルや体力が限界を迎えたことが理由での退職は、転職を引き止めることが難しいと想定します。パターン3の離職が頻度高く生じている場合、社内に改善すべき要因がある可能性が高いです。かつ、要因が明確な場合が多いので、問題に早期に手を打つ必要があるといえるでしょう。
今回は、パターン2の離職を扱っていきます。環境比較パターンにおける離職の場合、要因が特定しにくい退職理由が多く、そもそも何に手を打っていいか分からなかったり、まだ手を打たなくても大丈夫と思ってしまったりしがちです。しかし、手を打たないのは大変もったいないと考えています。
焦点を合わせるべき“もったいない離職”とは
さて、今回、パターン2の環境比較による離職をなぜ取り扱うべきかというと、この離職は、本人・企業の双方にとって“もったいない離職”につながってしまうからです。“もったいない離職”とは、今の職場にいる意味が見つかる可能性があるにもかかわらず、早期に見切りをつける離職です。
例えば、近年企業から、このような新人・若手離職に関するご相談をいただくことが増えています。
「新入社員・若手社員の退職理由を聞いたが、転職をするほどの理由ではないように思い、腑に落ちなかった。せっかく力をいれて育てていたのに、意気消沈してしまう」
「価値観として『転職ありき』で入社しているように感じる。転職を考えながら業務をしているので、目の前の業務にコミットしている感覚が弱い。このようなスタンスでは仕事はいつになっても面白くならないのではないか。それなのに『やりたいことができないから辞める』と言われても……正直困惑する」
「社内に魅力的な業務や本人に適した機会があるにもかかわらず、それに気づかないまま離職してしまい、もどかしい。本人が辞める決断をする前に、何らかのフォローができていれば……」
増加している相談内容
ご相談いただいた企業と対話を重ねていくと、本人側・企業側の要因が複合的に絡み合い、 “もったいない離職”が起こりやすい状態になっていることが分かってきました。
次回、“もったいない離職”を引き起こす要因と、解決策についてお伝えします。
執筆者
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
研究員
武石 美有紀
2014年大学在学中に個人事業開始。 2016年リクルートキャリア(現リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は、リクルートマネジメントソリューションズ にて、主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。
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