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調査レポート

成長企業における人材・組織マネジメントに関する実態調査

成長期の企業の経営者・事業責任者は何に悩むのか?

  • 公開日:2019/09/18
  • 更新日:2024/05/16
成長期の企業の経営者・事業責任者は何に悩むのか?

事業拡大にともない、組織規模を拡大していくと、組織の各所でさまざまな「ひずみ」が生じるといわれています。事業を拡大することで人員も増加。一方で個人や組織マネジメントの成長がその拡大に追いつかず、各所で不整合が起きることがあります。私たちは、これを組織の「ひずみ」と呼び、その実態と乗り越え方を探求しています。 このたび、拡大期にある企業の経営者・事業責任者・人事責任者の組織づくりにおける苦労の現実に迫りたく、定量調査を実施しました。拡大する組織の人・組織づくりを担う責任者たちは、何に腐心しているのか、その一端を紹介したいと思います。

調査概要
成長企業の組織構造は?
新卒採用者・中途採用者の割合
採用と育成の悩みが連鎖する苦悩
成長企業が目指す組織の姿とは
導入している人事制度の工夫
終わりに

調査概要

組織マネジメント上の課題が顕在化し、人・組織づくりの体制を構築する必要性に迫られることが想定される従業員規模50名以上~1,000名未満の、組織規模が拡大している企業の、人・組織づくりの責任者(経営者、事業責任者、人事責任者)を対象としました。

調査概要

成長企業の組織構造は?

組織が一定規模に拡大すると、管理・統制を担う「中間管理職」という役割が必要になります。一定規模に拡大した組織を効率的に推進する上では、重要な役割機能です。

管理職の4つの役割

上記機能を1名ですべて担うのか複数名で担保するのか、アプローチやマインドを指示型にするのか支援型にするのか……など、そのあり方や方法については長年活発に議論されています。

今回の調査では、組織人員が50~99名で8割以上、100名以上では9割を超える組織に、中間管理職(役員クラス・一般社員クラス以外、課長・部長層)がいる組織構造となっていました。さらに上級中間管理職(部長)がいると回答した比率も5割弱という結果となりました。

新卒採用者・中途採用者の割合

組織が一定規模になると、中途採用で専門性の高い人材を含め即戦力を確保していたことに加えて新卒採用を開始するようになります。新卒採用は、特定の専門職種を除き、すぐに即戦力とはなりませんが、効果性(文化伝承が強化しやすい・次世代リーダー層の長期的育成につながる など)・効率性(一度に多くの人材を獲得可能 など)の点から、今も活発に行われています。今回の調査でも、組織規模が大きくなるにつれて、組織成員のうち新卒採用の割合が高いとの回答割合が高まる結果となり、全体としても、「中途採用社員のみ」の組織であると回答したのは、わずか8%にとどまりました。

新卒採用社員と中途採用社員のおおよその割合

なお、離職率は・離職率は5~10%と10~20%に集中する結果となりました。

採用と育成の悩みが連鎖する苦悩

経営者、事業責任者、人事責任者が今まさに直面している各種HRM課題(採用、異動・配置、評価・報酬、育成、代謝、組織開発)について、それぞれあてはまるものを回答いただいた結果は以下のとおりです。

人事・組織戦略上の課題

約5割の人が、「自分の後任を担える人材・次世代リーダーが育っていない」という課題を選択、ついで「採用ブランドが低く欲しい人材が集まらない」(45.3%)、「採用した人材のパフォーマンスが上がらない」(40.7%)と、採用および採用した人材のパフォーマンスに関する課題が多く選択されました。また、そのなかで最も解決すべき課題として認識しているものを1つ選択してもらったところ、「採用ブランドが低く欲しい人材が集まらない」を選択する人が20.7%と最も多い結果となりました。

長期的な育成に効果的な新卒採用に取り組んでいながらも、採用が期待どおりにいかず、上手く育成できないことが結果として「次世代リーダーが育っていない」という状況につながっている経営層の苦悩がうかがえます。

成長企業経営層の悩み

また、具体的に課題と感じている点を自由記述で回答いただいたコメントをカテゴリ別に分類し、集計した結果が図表5です。多く挙げられたのは「マネジメント」に関することであり、特に管理職の成長が期待に届かないこと、管理職のメンバーマネジメントに不足があること(権限移譲の不足/部下育成の不足など)に関する言及が多数みられました。

「管理職の意識レベルやスキルがまちまちであり、管理職とは?という水準が不明確」
「部下を育てられない管理職が増えてきた」

などのコメントが一例です。

また、2つ目に多く挙がったのが「採用・定着」についてです。採用については、人材が集まらない悩みに加え、採用した人材が定着しない、受け入れ態勢を整えられないといったコメントがみられました。
3つ目に多かったのが人材の「育成」についてです。多くは、人材の成長スピードが遅いことや、育成体制・方法が整えられないことについてコメントが寄せられました。

図表4・5の結果からは、採用に苦戦し、必ずしも期待どおりの人材ばかりを採用できるわけではない中で、さらにリーダーや管理職層がうまくメンバーを支援・育成できず、採用した人材の定着や活躍が難しい実態が垣間見えます。

そのほかの観点では、公正な人事制度の設計・運用、主体性の意識の醸成、効率的な組織設計や連携、適材適所の実現といった面に、困難を感じているコメントが確認されました。

課題カテゴリごとのコメント数

課題コメント一部抜粋

成長企業が目指す組織の姿とは

では、成長企業の経営者・事業責任者の方々は、理想的にはどのような組織をつくりたいと思っているのでしょうか。今回は、「TEAL組織」※の枠組を引用しながら、組織責任者として、現在の組織の特徴と、理想とする組織の特徴として、あてはまるものを1つずつ選んでいただきました。
結果、現実と理想、どちらにおいても最も選択率が高かったのは、「一定の階層はあるが、成果を上げた従業員が評価を受け出世することができる組織」でした。
また、現実と理想とのギャップが大きかったものは、「特定のリーダーが組織を力強く牽引する組織」(理想-現実-15point)、「一定の階層はあるが、成果を上げた従業員が評価を受け出世することができる組織」(理想-現実 +9point)、「階層的な指示命令系統はなく、組織の目的を実現するために、メンバー全員が独自のルールや仕組みを工夫する組織」(理想-現実 +7point)という結果となりました。

※『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)

現実と理想の組織タイプ

なぜ、それぞれの組織モデルを理想と考えたのでしょう。その理由を記述いただきました。記述内容からは、それぞれの組織モデルにおいて事業推進上の強みや合理性があり、それらを踏まえて選択していることが確認できます。ただし、「組織力をもって業務をこなせるようにならないと今のままでは限界がある」、「1人に頼っては有事に対応しきれない」などのコメントからも窺えるように、事業・組織の成長フェーズや事業特性によっては、「特定のリーダーが組織を力強く牽引する」状態では限界があるため、階層構造やルールで管理機能を組織的に担保することを志向していくようです。加えてメンバーが業績成果に向けてエネルギー高く貢献していく組織としていくために、頑張った人が評価される「一定の階層はあるが、成果を上げた従業員が評価を受け出世することができる組織」を選択した人が多かったことも窺えました。
このタイプは、前述の組織課題のコメントにおいて、納得感のある評価の仕組みがないことも現状の課題として比較的多く挙がっていたことから、成長企業が体制を整えていく1歩目として目指す姿の1つともいえるかもしれません。

また、一人ひとりが自律して活躍できる人材が集まっている前提でいえば、いわゆるティール組織といわれる「階層的な指示命令系統はなく、組織の目的を実現するために、メンバー全員が独自のルールや仕組みを工夫する組織」を理想としたいものの、現在の組織コンディションやマネジメントレベルでは難しいため選択しなかったという声もありました。

各組織モデルを理想とする理由

導入している人事制度の工夫

最後に、導入している人事制度上の工夫についてうかがいました。いくつかの制度について導入有無を確認してみたところ、育児休暇制度や裁量労働制など働きやすさを高める制度に加えて、全社員が一堂に会するイベントが4割、経営陣との交流機会を3割が用意しているなど、経営と従業員との意図的なコミュニケーションの機会を用意していることも確認できました。

導入している人事施策

なお、自社が独自で工夫している人事制度について、自由に記述いただいた結果の一部を抜粋してご紹介します。

人事制度独自の工夫

終わりに

今回、組織拡大にともない、組織を担う次のリーダー・管理職候補の育成が急務であることがあらためて確認されました。優秀な人材の獲得に課題感がありながらも、採用力を一朝一夕で高められないなかで、若き新卒入社者を含め採用したリーダー候補たちの能力をいかに引き出し、権限委譲を進めながら人と事業の両面においてパフォーマンスを高めてもらう組織体制をつくれるかに心を砕く経営者、事業責任者・人事責任者の姿が垣間見えました。
実現に向けては、目の前の課題に対応しつつも自社の事業や組織状態(人材の能力や志向も含めた)に合わせた、ありたい・あるべき組織状態および、それを体現するマネジメントポリシーを設計し、一貫した施策を推進できるかが、鍵の1つになるでしょう。

なお、管理職の成長には、組織の責任者として、自力ではなく、“人”を通じて成果を上げる意識で行動を切り替える、Transition(役割転換)が必要になります。リーダーシップ育成に関する世界的な研究機関CCLは、リーダーの育成には、Assessment/Challenge/Supportが必要と論じています。日々の仕事がまさにChallengeとなりますが、自分が役割転換できているのかを点検・内省するAssessment、および、成長を支援するSupportをうまく組織づくりに組み込んでいくことで、彼・彼女たちのリーダーとしてのトランジションをうまく進めていく確率を高めていくことが1歩となるはずです。

私たちは、そうした成長・拡大期にあるマネジャーの立ち上げを支援しています。

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執筆者

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荒井 理江

ソリューションプランナー、広報・販促・ブランドマネジメントを担当ののち、2011年より「組織行動研究所」研究員として組織・人材マネジメントの各種調査・研究、機関誌「RMS Message」の企画・編集に従事。その後、経営企画部にて人材開発を主導、またベンチャー企業向け新規事業開発、サービス開発マネジャー兼プロダクトマネジャーを経て、現職。人材開発トレーナーの養成を担う。

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