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特集意図的な個別支援 コーチングの有効性とは

ハイパフォーマーの孤独

ハイパフォーマーの孤独
執筆者情報
HRD統括部
HRDサービス開発部
シニアソリューションアーキテクト
星野 翔次

プロフィール

短期間で、高い成果を求められる昨今、成果が思うように出せないハイパフォーマーについて、さまざまな企業から相談を受けるようになった。そのなかでも特に多い対象が、中途入社したばかりの方・期待されて異動された方・昇格して役職が変わられた方である。このような方々は、周囲からの期待が大きいあまり、弱みや辛さを社内で見せることができず、孤独感に苛まれている。そこで本稿では、ハイパフォーマーの孤独と題して、ハイパフォーマーが孤独になる構造や、支援策について考察する。

 

環境変化に際し、思うように成果が出ないハイパフォーマー



本稿におけるハイパフォーマーとは、組織の人材構成で引用される「2:6:2」のうちの上位2割を指す。求められる期待役割に照らし、継続的に成果を出し、所属組織を牽引してきた存在である。役職・経歴・年齢について、限定はしない。そのようなハイパフォーマーに対して、前述の中途採用直後・異動時・昇格時の3つの場面で、企業様からの相談が増加している。具体的なお悩みは、以下のとおりである。

「前職でハイパフォーマーだったので中途採用したが、成果が出せず早期に離職してしまった」

「全体最適の視界を身につけるために次世代リーダーを営業部門から企画部門に異動させたところ、既存メンバーとの関係性に苦慮している様子。このままでは不安」

「ハイパフォーマーを管理職に昇格させたが、思うように成果が出ていない。そのような状態で、1年以上経過している」

このような悩みの対象である、ハイパフォーマーに共通しているのは、周囲から期待されており、弱みや辛さを自分から見せづらい状況にあることだ。ハイパフォーマー本人は、自身への期待が分かるだけに、弱みや辛さを社内で吐露することに抵抗を覚え、自身で抱え込み、次第に孤独に苛まれていく傾向にある。

ハイパフォーマーが孤独になる背景とは



最近の相談事例から、ハイパフォーマーが孤独になる背景に、共通の特徴が見られた。この特徴を外部要因・内部要因の両側面から見ていく。

外部要因としては、2つ挙げられる。

1つ目は、リモートワーク環境による、コンディションの捉えづらさだ。出社が前提の時代では、ハイパフォーマーの辛そうな表情や焦っている状態は、周囲から見て取れ、ハイパフォーマーの上司やベテラン社員が、支援することができた。一方、リモートワークになってからは、コンディションが捉えづらく、周囲から、「ハイパフォーマーだったから問題ないだろう」と信頼の裏返しで、放置されることが多々ある。

2つ目は、リモートワーク環境で、さらに強まった成果偏重主義だ。リモートワーク環境では、日常の行動やプロセスが見えづらい分、成果で評価せざるを得なくなる。ハイパフォーマー本人も、成果に重きを置いた評価を受けることを十分理解している。そのため、目に見える成果をいかに高く・早く出すかに注力するのだ。その思いが焦りにつながり、周囲との軋轢が生じ、孤独感に苛まれるケースもよく耳にする。こうしたケースは、高い専門性を求める職種を中途採用した際に、顕著に見られる。なぜなら、「この特定職種で、いつまでに、このような成果を上げてほしい」といった要望をもとに採用されるからだ。

もう一方の内部要因としては、「辛さや弱みを見せることへのためらい」がキーワードに挙げられる。この「ためらい」について、3つの観点から考察する。

1つ目は、周囲からの期待の大きさだ。ハイパフォーマーだからこそ、大きな期待をかけられるが、その期待に応えられない日々が続くと、周囲に失望されたくないという気持ちが強くなる。そのような気持ちが強くなるほど、辛さや弱みを吐き出しづらくなるのだ。特に責任感の強い方ほど、この傾向が顕著に表れる。

2つ目は、人事評価や社内評判への影響だ。辛さや弱みを上司に打ち明けると、その感情や状況を受け止め、支えてくれる上司ならいいが、そうならないこともある。上司からすると、「こんなことで弱音を吐くのか。ハイパフォーマーという話だったが、正直、期待外れだったな」という印象をもつ可能性もあるのだ。そのようなレッテルを一度貼られると、剥がすのに相当の時間と労力を要すことになる。周囲から値踏みされる目線がある以上、社内では容易に本音を出せないのだ。

3つ目は、ビジネス社会に感情を排すパラダイムがいまだにあることだ。最近でこそ、感情の発露や共感力の必要性が説かれているが、依然として、理性的であることは正しく、感情的になることは避けるべきというビジネス社会の規範が存在する。実際の調査データもある。弊社では、20〜49歳の会社員826名に対して、仕事場面の感情は職場でどう扱われているかというテーマで、調査を行った。その際に、「自分は、仕事や職場に感情を持ち込むべきではないと思う」と回答した方が、約7割に上ったのである*1

以上、外部要因・内部要因の両側面から、ハイパフォーマーが孤独になる背景を考察してみた。これらの要因は、中途入社者・異動者・昇格者であれば、誰でも直面する可能性がある。ハイパフォーマーが孤独になるのは、当人の精神面の弱さのせいでなく、孤独になりやすい要因が、そこらじゅうに潜んでいることによるのだ。

今までのビジネス社会では、そのような孤独も、自分の力のみで乗り越える壁として、認識されてきた。ただ、本当にそれでよいのだろうか。期待されているハイパフォーマーにこそ、当人のタフさに依存するのではなく、組織として最適なアプローチを提供すべきだと、私は考える。なぜなら、ハイパフォーマーは、組織への影響力が大きく、組織として投資すべき人材だからである。

孤独なハイパフォーマーに必要なアプローチとは



ここからは、孤独を乗り越え、成果を出すために必要なアプローチについて考察する。まずは、アプローチの全体像を示す(図表1)。全体像を整理する観点は、支援者・形式だ。まずは、支援者の有無で分け、次に社内と社外に分ける。最後に形式の観点で、一律(集合)と個別に分岐させた。



<図表1>アプローチの全体像


アプローチの全体像



実際には、各アプローチを組み合わせて提供することが大半だが、本稿では、「社外×個別」に着目したい。それには、2つの理由がある。

1つ目の理由として、社内のアプローチは、継続的に支援できる一方で、本音を吐露することに限界が生じるからだ。1on1の導入支援を各社に行うなかで、私が痛感するのが、評価者である上司と評価される部下が、「すべての本音をさらけ出す」ことは、不可能に近いということである。お互いの心理的距離を近づけることはできるが、すべての本音を吐露できる関係の実現は、相当に難しい。

2つ目の理由として、社外の一律のアプローチは、受講者同士の対話による気づきがある一方で、悩みの個別性が高い状況では、悩みの解消には、ほとんど辿り着けないからだ。

孤独なハイパフォーマーに求められる個別支援とは



ここからは、「社外×個別」のアプローチについて、考察する。図表1のとおり、このアプローチは、プライベートでの悩み相談と、専門家による個別アプローチの2つに大別される。この2つを分けるものは、何だろうか。

結論からいうと、ハイパフォーマーが孤独を乗り越え、成果に至る気づきを得られる確率の違いである。プロのコーチは、相手の気づきを促すことを目的とした対話の訓練・実践を数百時間と積んでいる。その経験と理論をもとに、成果につながる気づきや打開策を引き出すことができるのだ。

では、コーチングによって、どのように気づきを促していくのか、実例をご紹介しよう。


▼新任管理職Aさんの事例

Aさんは、昇格して役職が変わった新任の管理職である。実務能力の高さが評価され、昇格に至った。昇格以降、自身の正しさを証明することに終始し、部下との軋轢が絶えない方であった。

そのような状態で半年が経過したある日、部下から、「すぐに否定するのではなく、私たちの新たな提案を受け入れてほしい」という進言があった。その進言に対して、当初、落ち込んでいたものの、時間が経過するうちに反発。当該部下の改善課題を羅列・指摘するまでになり、さらに関係性が悪化。その後にコーチングを受講するに至った。

3カ月にわたる3回のコーチングにおいて、Aさんの内面とコーチの意図をまとめたものが、図表2である。



<図表2>受講者の内面・コーチの意図


受講者の内面・コーチの意図



▼1回目のテーマ「相互理解・心情の吐露」

部下の進言に反発する背景には、受講者が、そうせざるを得ない理由を抱えていることが多い。Aさんの場合は、「管理職であるからには、自身の優秀さを部下に見せつける必要がある。そうでないと部下が動いてくれない」という、強いこだわりをもっていた。だからこそ、部下の提案の至らない点や課題を意図的に探し、指摘することに終始していたのである。

そのようなAさんに対して、コーチは、守秘義務を伝えた上で、Aさんの行動の背景やこだわりに理解を示し、敬意を払うことで、心情を吐露し合える関係を築いていく。すべてのコーチングが終了した後にAさんにインタビューすると、自身の葛藤・悩みを社内の誰かに吐露することは、優秀さとはかけ離れた言動であり、考えすらしなかったとのことである。しかしながら、利害関係のない第三者という立場で、優秀か否かという判断軸で見ることのないコーチだからこそ、本音を吐露する気になったとのことだ。

以下は、インタビュー時の実際のAさんの言葉である。「コーチング前から、自身が管理職として至らないことは、十分、分かっていた。しかし、どうしてよいか分からないし、周囲に相談もできなかった。相談することは、自身にとって負けだから。まさに八方塞がりで、孤独だった。精神的にギリギリの状態で、仕事をしていた。心の奥底では、この状態を誰かに分かってほしかったのかもしれない」


▼2回目のテーマ「ありたい姿の明確化」

コーチは、Aさんに対して、「大事にしたいことは何か?」「本当はどんな自分でありたいのか?」などの問いを投げかけて、ありたい姿を明らかにしていった。そして、そのありたい姿で生きると、Aさんに何が起きるかに好奇心を向けさせたのである。ここが、コーチングの肝である。

通常のビジネス対話であれば、理想の自分と現状の自分の差を明らかにして、課題設定・原因分析・解決策検討を行い、差をどのように埋めていくかを話し合う。いわゆるギャップ・アプローチである。具体的な問いで表すと、「自身は、何をしなければならないのか」などが挙げられる。これだと唯一の正解を見つけるべきという、思考の窮屈さや苦しさがある。

一方、コーチングでは、理想の状態の自身に浸り、エネルギーに満ちあふれた状態だと、どのような行動を起こすかという対話をする。具体的には、「自身は、本当は何をしたいのか」という問いである。もちろん、ギャップ・アプローチは必要だが、ハイパフォーマーからすると、すでにそのアプローチを試していることが多い。実際にAさんもギャップ・アプローチで、毎日のように考えていた。ただ、それでは打開策が見つからないから、1人で悩み、孤独感に苛まれていたのだ。そこで、コーチングのような、今までとは異なるアプローチが必要となるのである。

ちなみに、打開策を見つけるために、コーチは、問うことに加えて、提案や要望も行う。その方が、受講者の気づきにつながることが多いからだ。Aさんに対しては、「自身の優秀さを伸ばすのではなく、部下の優秀さを伸ばすフェーズに来ているのではないか。プレイヤーとしての優秀さを競うレースをそろそろ降りないか」というような提案をした。

管理職には、プレイヤーとしての優秀さが不可欠という、こだわりを握りしめているAさんからすると、初めは理解できない。ただ、ありたい姿に照らすと、そのこだわりは、「とらわれ」だったことに気づいたのである。


▼3回目のテーマ「行動改善の伴走」

ここでは、受講者自身に、ありたい姿に照らして、どのような行動をとるのかを具体的に決めてもらう。コーチはその伴走を行い、勇気ある新たな一歩を称えて受講者を送り出すのである。Aさんの場合、部下の改善点ではなく、良い点を見つけることが、勇気ある一歩だった。

以下は、Aさんの言葉である。「今まで、部下の良い点を見つけ、認めることは、負けを認めることだと感じていた。全くそうではなかった。コーチとの約束もあり、気恥ずかしさのなかで、小さな勇気をもって、部下の良い点を見出し、伝えてみた。部下の驚きと、はにかんだ笑顔に、なんだか分からないが、涙が出そうになった。温かな気持ちと、今までの申し訳なさが入り交じった感情だ」

孤独なハイパフォーマーを支援するコーチングの有効性



ここからは上記実例を踏まえながら、孤独なハイパフォーマーを支援するコーチングの有効性について考察していきたい。

コーチングとは、コーチと受講者の対話によって、受講者の変容を意図的に促し、目指す姿の実現を支援するコミュニケーション手法である。

コーチングの特徴は、3つだ(図表3)。



<図表3>コーチングの特徴


コーチングの特徴



1つ目が、扱うのは本人が解決したい個別・具体のテーマであること。

2つ目が、利害関係のない第三者との本音の会話ができること。

3つ目が、定期的なコーチング実施による行動と学習のサイクルの促進が実現できることである。

これらの特徴からも分かるとおり、辛さや弱みを見せることへのためらいをもつハイパフォーマーにとって有効なアプローチなのである。

実際にコーチングの受講者からこのような声をいただいている。「社内で相談するには、組織内の利害や、自身の評価につながりそうで、ためらわれる内容も、守秘を前提とするコーチであるゆえに話すことができ、自分の課題や悩みが解決できた」

最後にプログラムを詳細に紹介する。一般的には、3〜9回のコーチングで、受講者の認知・行動変容を起こしていくが、本稿では、実例でも紹介した3回のケースで解説する。3回のコーチングでは、全体の構成が、大まかに決まっていることが多い。

1回目のテーマが、相互理解・心情の吐露。2回目のテーマが、ありたい姿の明確化。3回目のテーマが、行動改善の伴走である。

1回目の心情の吐露は、利害関係のない第三者だからこそ、実現できることだ。コーチングでは、コーチに守秘義務があるため、発注者である上司や人事部に対して、その場で話された内容をコーチから報告することはない。コーチングの場は、評価・判断する場ではなく、受講者の心理的安全性を真の意味で担保できる場なのである(発注者である上司や人事部に対して、受講者の許可をとった上で、最終報告することはある)。

2回目の「ありたい姿の明確化」は、受講者が認知を変容する際に特に重要だ。なぜなら、「人は変わりたくないわけではない。変えられたくない」*2からだ。ありたい姿を自ら明確にすることが、「自身の認知」を変えるための第一歩なのである。

3回目の行動改善の伴走は、具体的な変化を生み出すために不可欠な要素となる。認知を変えるだけや、決意だけをしても、意味がない。行動に起こさないことには、受講者の変容にはならないのである。

コーチングの機会を提供する人事に求められるスタンス



ここまで、受講者に焦点を合わせて、実例をお伝えしてきたが、ここからは、コーチングの機会を提示する方(人事部などの事務局)に注目する。実は、コーチングの機会を提示する方に求められるスタンスが存在する。それは、企業ニーズ(企業からの要望)ばかりを押し付けないということだ。

企業ニーズばかりにコーチングの焦点を合わせると、「このような点を改善すべき」という一方的な要望や、アセスメント要素が強くなり、受講者が本音を出せず、面従腹背になる可能性が高い。そのため、受講者の個人ニーズ(本人の希望)を取り入れるスタンスが求められる。具体的には、受講者の価値観やありたい姿、動機の源泉などが挙げられる。むしろ、受講者が孤独を乗り越え、成果に至る気づきを得るためには、個人ニーズを重視した方がよい。

この点は、弊社がブランドスローガンとしている「個と組織を生かす」の根底にある思想と共通しているものでもある。

さらに付け加えると、コーチング施策を契機に、孤独にならざるを得ない人事制度や組織風土にも焦点を合わせていくスタンスも、人事の方には必要になるのだ。

ハイパフォーマーにこそ、会社からの意図的な支援を



中途入社者・異動者・昇格者をはじめとする、周囲からの期待が大きく、弱みや辛さを社内で見せられない方々は、一見、支援が不要そうに見える。それであれば、本人の意思を尊重すべく、手挙げの支援策の機会を提供するが、それだと機能しないことも多い。なぜなら、手を挙げることは、ハイパフォーマーからすると、「本当は、辛いです」と言っていることと同義だからである。だからこそ、各社ごとに丁寧な施策設計が必要になる。具体的には、施策の伝え方・タイミング・コーチとの相性などだ。

推奨機会としては、立ち上がり時・360度評価返却時である。実際に、期待している人材の立ち上がり時(中途入社時・異動時・昇格時)や、360度評価の返却時にコーチング機会を提示する企業は、増えている傾向にある。ただ、コーチングが、あらゆる場面に適切というわけではない。大切なのは、ハイパフォーマーの置かれた環境や属性ごとに適切なアプローチを選択し提示することだ。そのためには、施策や機会を提供する側は、さまざまなアプローチに対する認識を深める必要がある。

今後も、ハイパフォーマーが、本来の自分を取り戻し、その方にとって、明るい未来を歩めるアプローチを探していきたい。



*1  リクルートマネジメントソリューションズ(2022)「仕事と感情に関する意識調査」
*2  ピーター・M・センゲ(2011)『学習する組織 システム思考で未来を創造する』英治出版

 
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.66 特集2「ハイパフォーマーの孤独」より抜粋・一部修正したものである。
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