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事業環境の変化と新世代の若手の強みを機会に

これから求められる「個を生かすオンボーディング」

  • 公開日:2022/03/07
  • 更新日:2024/05/17
これから求められる「個を生かすオンボーディング」

厳しい人材獲得競争のなかで苦労と努力の末、ようやく仲間として迎え入れた若手たちがスムーズに立ち上がり、定着し、早期に戦力化してくれることはすべての企業に共通の願いだろう。しかし、さまざまな環境変化から、オンボーディングをスムーズに進めることが簡単ではないという実感も、同時にもっているのではないだろうか。本稿では、そのような状況下で「オンボーディングをどのように捉え取り組んでいくことが効果的なのか」について、各社と取り組むなかで見えてきたことを踏まえながら、そのあり方について考察する。

ますます高まるオンボーディングの難しさ
各企業はどのような課題感をもっているか
今後求められるオンボーディングの鍵となる考え方とアプローチ
機会を積極的に生かし事業の変革スピードを高める
自社・自組織・各個人に対する最適なオンボーディングに向けて

ますます高まるオンボーディングの難しさ

事業環境はVUCA*1度合いを高め、コロナ禍がそれに拍車をかけ、ますます難しさを増している。一方、新しく仲間になる新世代の若手(Z世代*2)たちもその成育環境の変化から価値観や強み、行動スタイルが大きく変わってきている。

これらの変化が相まって、その接続点となるオンボーディング(スムーズな立ち上げ)が非常に難しくなっている。この構造的な難しさを乗り越えるためには、もはや本人任せや現場任せではうまくいかない状況であることは間違いないだろう。負荷を偏らせ、どこかにひずみを生じさせてしまっては、この問題は解消できない。

*1 「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をつないだ、今日的環境を形容する言葉
*2 1990年代中盤以降に生まれた、新たな価値観をもつ新世代

各企業はどのような課題感をもっているか

各社は、試行錯誤を重ねている。弊社機関誌RMS Message 63号 特集1「変わるオンボーディング」で紹介した、パナソニックやアカツキも優れた例だが*3、私たちが企業をお手伝いするなかでも本テーマは課題となることが少なくない。例えば以下のとおりである。

A社:活躍を基準にした採用を推進しているが、若手の早期離職と戦力化のバラつきが生じているため、立ち上がりも踏まえた採用要件の見直しや入社後の立ち上げ支援策を実行したい

B社:事業環境の急速な変化に対し、新人の感性やチーム力をDX系ビジネスに生かし、その機会を通じて新人をスピーディに成長させたい

C社:旧来型の価値観でのマネジメント慣性が働くなかで、自社の未来を創る人材を新しく採用し活躍へと導くために、採用基準や配属の仕方を変え、その後のスムーズな立ち上げも行いたい

D社:経験が少ない若手中心の組織において、チームリーダーを基点に人材育成を機能させることで、多様な背景の人材をスピーディに立ち上げ、当面業績達成と戦略推進の同時実現を果たしたい

各社の取り組みに触れるにつけ、オンボーディングは課題の一側面であって、未来を創る採用との接続、マネジメントの変革や強化、さらには事業戦略の推進など、さまざまな経営テーマと密接に絡み合っていることがよく分かる。こうした複合的な課題に取り組んでいくために、各社がオンボーディングをどう捉えて取り組みを進めているのか、そのアプローチの仕方をご紹介しながら、考えを深めていきたいと思う。

*3 機関誌 RMS Message 63号 特集1「変わるオンボーディング」事例の詳細はこちら
パナソニック「若手の心の状態を定期的に把握した上で定着・活躍に生かす
アカツキ「新卒も中途もつながりを大切に 全社で成長をサポート

今後求められるオンボーディングの鍵となる考え方とアプローチ

冒頭で述べたとおり、事業環境と新世代の若手の変化は構造上のものであり、一過性のものではない。もはや前提といえる。そのため、若者たちの強みは大いに生かし、やる気の源に強く働きかけることで積極性を引き出していく(図表1)。そう捉えることによって、若手の「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高めること」をオンボーディングのコアに据えて進めようとしている。

そしてその具体化のため、オンボーディング自体を改めて定義し、因果を含め関係する要素の構造化を行いながら取り組んでいる。

<図表1>Z世代の特徴

<図表1>Z世代の特徴

オンボーディングのターゲットとゴール

オンボーディングは「新入社員が定着し戦力化するために組織が行う取り組み」であり、組織が主語として語られることが多い。しかし、注目すべきは新入社員本人である。他方で実際に課題を強く感じているのは現場のマネジャーや指導担当であり、人事である。これらの登場人物すべてを考慮して、オンボーディングを組み立て実行したい。

一方、ねらうゴールの状態は、周囲の視点で「本人が職場になじみ期待する職務にも適応している」ことが1つである。それに加え、本人の視点で「自分らしさを発揮し期待に応えられている」と感じられていること(自己適応の状態)が必要である。そして、ゴールに到達するスピードは職務内容によってさまざまであり、1年間であるとは限らず、数年を要することもある。

ただ実際はこの求めるスピードや、周囲の視点と本人の視点にズレが生まれることが少なくなく、意識して全体が良い状態になることをねらいたいと考えている。なぜなら、その認識のズレが重なることが双方のストレスを高め、コンディションを悪くしてしまい、定着問題やメンタル問題を引き起こしかねないためである。

さらにオンボーディングには、このような新入社員の適応に対する「直接的な効果」の実現に加えて、それが土台となって従業員全体のエンゲージメントが高まり、採用のアトラクトにつながり、その循環が企業ブランドの向上をもたらす「発展的な効果」があることも意識したい。

個を生かすために心理メカニズムに着目する

以上のゴール実現のために、本人の心理メカニズムに注目しプロセスを構造的に捉えたいと考えている。図表2にある[1][2][3][4] のサイクルに加えて、その土台(Base)として[B] 、回転の結果(Result)として[R] 、この 4 2 の仮説プロセスを置いている。これらがバランスよく高いレベルにあると、「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高めること」につながり、逆に目詰まりが起きると、停滞や低下につながると考えている。

<図表2>本人の心理メカニズム(成長サイクル)

<図表2>本人の心理メカニズム(成長サイクル)

こう表現するメリットは、得たことを次に生かし成長につなげるというプロセスを重視できることにある。また、成長のスタートは学ぶことからだとか、自分らしさを発揮することからだといった二項対立議論ではなく、取り組む内容や、個性の違いによって最適な形で考えることができる点にある。新しい世代の「自分らしさを重視する」価値観を踏まえる意味でも、この柔軟性をもつことは重要になる。

構造化とデータ活用によって可視化する

このサイクルで各企業の状態を捉えると、どのようなことが見えてくるのだろうか。前述の企業A~D社のうち3社のデータを用いて分析した結果が図表3である。心理メカニズム(4+2要素)にそって、その状態を本人に5段階で聞いたものを、上司による5段階の評価指標(将来性:今後、さらに上位グレードのコア人材として期待できる度合い)でHigh(5)、Middle(4・3)、Low(2・1)に分類し平均値を比較したものである。

<図表3>3社のデータ分析結果

<図表3>3社のデータ分析結果

すべての項目においてH>M>Lという関係にある。またLとHの間には有意差があることからも、この心理メカニズムが本人にとって全体的に良好な状態は、上司から見て将来を期待できる状態につながるといえる。

一方、評価が高いHigh群も含めて全体的に[1][2]<[3][4]の関係にあり、自分らしさの発揮は、学び自分を高めることよりも値が低い。High群でもその値が3.5程度にとどまることからも、自分らしさを発揮していると感じることは現環境下では簡単ではないことが分かる。

新しい世代の若者をより生かし、活躍に導くためには、 彼らの「自分らしさを重視する」特性も踏まえ[1][2]の数値が高まってくることが、より必要になるのではないだろうか。

今回は3社の合計データを用いた分析結果を紹介したが、同様の分析を会社ごと、部門ごとに行うことで、成長サイクルの実態を可視化し課題点を明確にすることも可能になるだろう。

個々の状態を立体的に捉えることもできる

次に、個人についても同じフレームワークで捉えてみる(図表4)。本人の状態(評価・メンタリティ)に照らして、要因となる心理面の構造的把握、さらにその要因となる本人の特性との関係の理解につながる。そして本人の特性も踏まえた個々人が良い状態になるための力点の発見や、効果的な打ち手の選択を可能にする。

<図表4>個人の状態の分析例

<図表4>個人の状態の分析例

Oさんは、評価とメンタリティの状態バランスが悪く、特に自身のメンタリティに問題が生じている。一段掘り下げると、本人の成長サイクルの「らしさを発揮」部分に目詰まりが起きている。不満や不安に目を向けると、仕事に対する負荷と、上司からの支援を期待しても得られていない点が、その目詰まり要因であることが推察される。本人の成長観は自己変革重視でそこはプラスに働いていそうである一方で、働く目的が組織貢献重視なのに貢献感(「期待に応える」)が低いことが、今後に向けたケアポイントになりそうだ。

Pさんは、同様に評価とメンタリティの状態バランスが悪いが、周囲からの評価に問題が生じている。一段掘り下げると、成長実感が高いので今は良さそうではあるが、「期待に応える」ことができているとは感じられていない。不満や不安に目を向けると、仕事に対する負荷が大きく、自社の将来性にも不安を感じている。本人の成長観は自分らしさの発揮重視なのでその点はプラスに作用し、働く目的の自己成長重視もある程度満たされているので、成長実感の担保とメンタリティの良好さにつながっている可能性が高い。健全さを保ちながら、業務レベルを高めていくことが大事になりそうである。

いずれも、現場マネジャーや人事が把握できることでもある。しかし、データを併用することによって、現象と要因を多面的に捉え、複数で共有し関わるための一助となるのではないだろうか。

職場ぐるみの育成で成長サイクルを促進する

個々に対してオンボーディングを促進するためにも、効率的に組織としての仕組み化を進める意味でも、「職場ぐるみの育成」で成長サイクルに勢いをつけることが効果をさらに向上させる。

現在もすでに、1on1、上司や指導社員向けの研修、あるいは若手のコンディション把握のためのパルスサーベイなど、さまざまな施策の導入を検討している企業は多いだろう。しかしそれが若手本人の成長サイクルの現状を捉え、目詰まりポイントの的確な把握・解消につながっているか。さらに成長サイクルを加速することにつながっているか。その点を考慮することが、施策を効果的なものにするために重要になる。チェックポイントを図表5にまとめたので確認いただきたい。

この1~5はバラバラな要素ではない。成長サイクルに対して「合いの手」を入れるためのものである。周囲の関わりがあらゆる機会を通じて一貫して行われることで、混乱を生じさせず、本人の目詰まり部分を解消し、成長サイクルを加速していくことにつながると考えている。

<図表5>職場ぐるみの育成でオンボーディングの効果を高める

<図表5>職場ぐるみの育成でオンボーディングの効果を高める

機会を積極的に生かし事業の変革スピードを高める

「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高めること」をオンボーディングのコアに据えて、各社と取り組みを進めている。ただ、昨今の議論からは、もう1つ新しい観点を加えることが重要になると考えている。新世代の力を生かして事業の変革スピードを高め、そのプロセスを通じてオンボーディングを進めるという観点である。

事業の変革に生かしたい新世代の強み

VUCA環境下で求められる事業のスピーディな変革、その中心となるのがデジタルの活用だろう。そして、そのデジタルを使いこなし社会にインパクトを与える中心にいるのが、作り手としても使い手としても、デジタルネイティブである新世代の若者たちである。その力を生かしていくことが、各社ごとの違いはあれ求められてきており、これから加速する一方ではないだろうか。

前出の図表1からも分かるように、彼らの強み・スタイル、価値観・やる気の源泉は、これまでのそれとは大きく違っている。この違いをネガティブに捉えてこれまでのものに染めようとするのではなく、それを彼らの圧倒的な強みとしてポジティブに捉え生かし組織の強化につなげていくことが、今後は欠かせなくなってくる。リバースメンタリング*4はその好例だろう。若手がもっている知識から学び、その発想や感覚を事業に生かし、新しい世代の理解を組織として深めていく。その導入事例としてP&Gジャパン、資生堂、住友化学などが知られている。

*4 上司や先輩社員がメンターとして若手をサポートするメンタリングに対し、若手が上司や先輩社員に助言する逆方向の支援活動の仕組み

新世代の強みを生かして新人を立ち上げる ~NTTデータの事例~

若手から学ぶリバースメンタリングを超えて、オンボーディングの機会を活用し、若者の特性を生かす形で事業変革のスピードを高める取り組みの好例ともいえるNTTデータ(以下ND社)の事例を紹介したい(企業事例「新人の可能性を信じて任せる共創型OJTとは」)。

ND社は、デジタル時代のビジネスを牽引するDX人材になること、そして「構想策定」から「ITと業務を統合したビジネスモデル変革」までを実現できる力を短期間で身につけるオンボーディングを志向している。RMS Message63号で提示した、若者の価値観や経験を組織が積極的に生かす「リバース・オンボーディング」の一例ともいえるだろう(RMS Message63号 特集1「変わるオンボーディング」総括 P32)。

その実現のために、ND社では「共創型OJT」として若者の強みや価値観を生かし、刺激する環境を緻密に設計している(図表6)。前述の「職場ぐるみの育成」を仕組み・環境として最初に整え、一定のサポートを行うことで実現していくものであり、それにより新人たち自身が主体的に業務に取り組みながら成長サイクルを回していくことを可能にしている。そして、「小さく簡単な訓練用のワークや業務」をアサインするのではなく、「自社の成長につながる実践的テーマ」を任せることで力強く進めようとしている点が非常に特徴的である。

<図表6>NTTデータの共創型OJT

<図表6>NTTデータの共創型OJT

この事例を本人の成長サイクルの視点に照らして見てみたい(図表7)。「従来型OJT」もトレーナー/トレーニー制を敷いて丁寧に行っていることもあり、成長サイクルの各要素は決して低いわけではないが、いくつかの項目で「共創型OJT」が統計的に有意に上回っている。2つのOJTは目的や置かれたゴールが異なるため単純な比較はできないが、「共創型OJT」において「らしさを発揮」をはじめとして高い成長サイクルが実現していることが推察される。ここに私たちは強い可能性を感じている。その最大の理由は、オンボーディングをスタート地点に立たせるためや安定した状態を作るための準備だけではなく、事業成長を果たすための積極的な攻めの活動として捉えられる点にある。コスト的発想ではなく、投資的な発想ができることは、受け容れ側の組織として非常に重要だろう。

<図表7>NTTデータの成長サイクルの状態

<図表7>NTTデータの成長サイクルの状態

自社・自組織・各個人に対する最適なオンボーディングに向けて

ここまで、事業環境の変化と新世代の若者たちという観点から、さまざまな考え方はあるなかで、「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高める」をオンボーディングのコアに据えること、そして「若者の力を最大限生かしてリバース・オンボーディングを進めていく」を視界に入れる可能性についてお伝えしてきた。ただし、各企業が置かれた環境や事業・組織特性によってオンボーディングのねらいは異なり、さらには個人差もあるものである。その現実も踏まえた上で新世代の特性を生かすという難題に向き合っていくことが求められている。

これまでは効率をとることで、全体共通の施策によって「一律に育てる」という形に陥ってしまうことも少なくなかった。しかし今回ご紹介したような構造化とデータ活用によって、全体施策と個別施策の同時実現、効果と効率の両方の向上を図ることが可能になってきている点に注目し、取り組みたい。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.65 特集2「これから求められる「個を生かすオンボーディング」」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

■関連する企業事例

NTTデータ「新人の可能性を信じて任せる共創型OJTとは」

執筆者

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エグゼクティブコンサルタント

竹内 淳一

1993 年、株式会社リクルート入社。人事部門での採用リーダーを経て、2003 年から「データを活用し個を生かし組織を強くする」をテーマに、採用から入社後の活躍までを一貫して取り組むコンサルティングに従事。組織マネジャー・プロジェクトマネジャーとしてコンサルティングや営業、サービス開発を行い、2011 年より現職。

●メディア掲載
・人手不足で「適材適所」に脚光 人事データに基づく予測ソフトも(掲載/日経コンピュータ)

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