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多様化する学習手法と受講者のニーズとは

変わる企業研修 —オンラインがもたらした新しい学びのあり方—

  • 公開日:2022/01/24
  • 更新日:2024/05/17
変わる企業研修 —オンラインがもたらした新しい学びのあり方—

コロナ禍は企業研修のあり方を大きく変えた。オンライン研修はもはや「対面研修の代替手段」ではなく、十分な効果をねらえる有効な学習手法の1つとして認知されつつある。
一方で研修の企画においては、対面か/オンラインか、何時間か/何日間か、集中実施か/分割実施かなど、実施形態のバリエーションが増えたことで、学習のデザインはより難しくなってきている。 本稿では、オンライン学習の手法や実施形態についての学び手のニーズを調査結果から確認しながら、オンライン時代の学習デザインのあり方について考察する。

コロナ禍で進む研修のオンライン化
受講者はオンライン学習をどのように捉えているか
学習手法の多様化と目的に応じた学習デザイン
具体的な設計例

コロナ禍で進む研修のオンライン化

新型コロナウイルスの感染拡大という外的要因のため、2020年から企業内研修のオンライン化が大きく進んだ。受講者が一堂に会して学習と交流が行われる従来型の集合研修は感染リスクが高いとされ、そのようなリスクのないオンライン学習(動画学習またはWEB会議ツールを活用したオンライン研修)へと切り替えられた。

オンライン学習の流れは、コロナ禍以前から一部では進んでいた。2010年代から、高機能なスマートフォンデバイスの登場やモバイル通信の高速化などによって視聴環境が大幅に改善し、動画見放題などの動画学習サービスが広がった。こうした新しい動画学習サービスでは、従来のeラーニングと異なり、マイクロラーニングと呼ばれる5~10分程度に細分化された動画が多数あり、隙間時間に自分に合った内容を自分のペースで学習することができる。またユーザーの属性や学習行動からAIが次の動画をレコメンドするといった、よりパーソナライズされた学習が行えるというメリットがある。当初は個人利用を中心に徐々に市場を伸ばしていたが、コロナ禍を契機に法人利用も増大してきている。

受講者はオンライン学習をどのように捉えているか

このように主に外的な要因で企業研修のオンライン化が大きく進んだが、受講者はそれをどのように捉えているのであろうか。人事部門以外の方を対象にインターネット調査を実施した。調査概要は図表1のとおりである。

<図表1>調査概要「オンライン学習に関する意識調査」

<図表1>調査概要「オンライン学習に関する意識調査」

オンライン学習の受講意欲は対面研修と同等

図表2は対面研修、オンライン研修、動画学習という3つの実施形態に対する受講意欲を5段階で聞いたものである。

<図表2>実施形態別の受講意欲 〈単一回答/n=400/%〉

<図表2>実施形態別の受講意欲

「利用したい」「どちらかというと利用したい」をポジティブ回答、「どちらかというと利用したくない」「利用したくない」をネガティブ回答と分類すると、対面研修はポジティブ回答が30.5%でネガティブ回答が33.0%、オンライン研修はポジティブ回答が33.8%でネガティブ回答が28.3%、動画学習はポジティブ回答が35.8%でネガティブ回答が28.8%と、受講意欲に大きな差はない。オンライン研修や動画学習も、従来の対面研修と同等程度には受講者から受け入れられているといえる。

オンライン学習では短時間・分散型が好まれる

図表3は12時間分のカリキュラムがある場合に希望する時間配分を実施形態別で聞いたものである。

<図表3>実施形態別の時間配分希望 〈複数回答/n=400/%〉

<図表3>実施形態別の時間配分希望

対面研修は研修会場への移動などの手間も考慮してのことか、2日間連続で集中的に行いたいというニーズが受講者側からも高い。一方でオンライン研修や動画学習では1~2時間程度の短時間の分散型で実施したいという回答が多い。画面の前では長時間集中することが難しい一方、場所の移動は必要ないことから、細切れで学習したいという意見になるのはもっともである。

つまり、コロナ禍前に対面研修で行っていた内容・日程をそのままオンライン研修や動画学習に切り替えるのは、暫定対応としては仕方がないにしても最適な形ではないといえそうだ。短時間分散型のオンライン学習は、企業研修以外の学びの場ではすでに普及している。オンライン化は、従来の企業研修設計の慣習を見直す良い機会となるかもしれない。

学習テーマによって好まれる学習形態は異なる


図表4は、学習テーマごとにどのような学習形態で学びたいかを聞いたもののうち、20代・30代の回答を集計したものである(なお、図表に掲載していない40代・50代の回答はテーマごとの違いが見られなかった)。

<図表4>20代・30代 学習テーマ別の実施形態希望 〈複数回答/n=200/%〉

<図表4>20代・30代 学習テーマ別の実施形態希望

まずビジネススキル系、コミュニケーション系は対面研修の比率が49.5%、55.0%と最も高く、次いでオンライン研修、動画学習の順となっている。これらのテーマは他の受講者とのグループワークやロールプレイが組み込まれることが多く、それらが実施しやすい対面研修が支持されていると考えられる。マネジメント系では対面研修とオンライン研修が40.0%、41.0%とほぼ同率で高くなっている。

一方でMBA系では、まず幅広い領域の知識のインプットを希望する受講者が多いのか、対面研修の比率が28.0%と最も低く、オンライン研修や動画学習が支持された。テクノロジー系やテーマ系は動画学習がどちらも40.0%と多く、気軽に自分のペースで学びたいというニーズが高いと考えられる。

このように、受講者は学習テーマやその内容によって適した実施形態で学びたいと考えている。例えば講義中心の内容であれば、好きな時間に好みの再生速度で動画視聴したいと考える受講者は少なくないはずだ。受講者の学習意欲や学習効果を高めるために、一律オンライン化するのではなくテーマに合わせて実施形態を使い分ける工夫が求められる。

動画学習では若手・中堅の職場実践が課題


図表5は実施形態別の学習効果を、「学び・気づきがあり、その後の自分の業務に活かすことができた」「学び・気づきはあったが、その後の自分の業務には活かせなかった」「ほとんど学び・気づきがなかった」の3段階で聞いたものである。


<図表5>実施形態別の学習効果(年代別) 〈単一回答/%〉

<図表5>実施形態別の学習効果(年代別)

対面研修とオンライン研修は学習効果に大きな差は見受けられない一方、特に20代・30代において動画学習の業務に活かせた割合が42.3%と低く、学び・気づきがなかった割合が15.4%と高い。つまり、自律的に今の自分に必要な学びを把握し、学んだ内容を実際の業務で活用することは、若手のうちは難しい可能性があるということである。動画学習は手軽に多様な学びの機会を得られることから比較的利用意向が高かったが、職場実践につなげるためには動画以外の学びと組み合わせるといった工夫が必要である。

学習手法の多様化と目的に応じた学習デザイン

ここまで見てきたように、コロナ禍がもたらした企業研修のオンライン化によって学習手法の選択肢は従来よりも広がった。また、学習するテーマや内容に応じて、より良い手法を選択したいという学び手側のニーズも明らかになってきた。

これまで対面研修やeラーニングを対象層に対して一律に実施していた企業も、これからは、対面研修かオンライン研修か、eラーニングや動画をどう使うのかなどを、目的に照らして取捨選択したり、組み合わせたりして、よりフレキシブルに企業研修を設計していくことになるだろう。

では、そのような柔軟な学習デザインを、具体的にどのように行っていけばいいだろうか? 以下にポイントを2つ紹介する。

ポイント1:望ましい学びのあり方から考える

さまざまな学習手法を活用できるようになったがゆえに陥りがちな落とし穴は、手法ありきで研修を考えてしまうことだ。目的(得たい成果)に照らして「どんな学び方がベストなのか」をまず考えることは重要だが、その際にはオンラインか対面かといった実施形態や使用ツールを直接的に考えるのではなく、一段抽象度を上げた「望ましい学びのあり方」を考えることが有効だ。

図表6に、学習成果を高めるために効果的な6つの学びのあり方を集めた。これは弊社が長年企業に研修サービスを提供するなかで整理してきたもので、特に今日のような正解のない時代の大人の学びに必要とされる、人との関わり合いによる相互学習や、越境による学習などの概念も取り入れたものになっている。

<図表6>学習効果を高める6つの「学びのあり方」

<図表6>学習効果を高める6つの「学びのあり方」

このような整理も参考にしていただきながら、実現したい学びのあり方を考えることが学習デザインの第一歩だ。例えば「しる」学びを実現するのであれば、eラーニングや動画学習といった手法が適しているが、「やってみる」や「つづける」もねらうのであればそれだけでは不十分だろう。また、「みつめる」のように自身の内面や価値観に向き合うような学びのあり方が必要と考えるなら、あえて対面で徹底的に語り合うような、合宿形式の研修が手法として適しているかもしれない。実現したい学びのあり方を考えることで、適した手法やツールも自ずと決まってくる。

ポイント2:研修の場と職場とを使い分ける


調査結果にもあるように、オンライン研修なら短時間で、複数回に分けて受講したいと感じている人は多いようだ。研修を複数回に分けて実施すると、自然と研修と研修との間にインターバルが生まれる。どうせならこのインターバル期間もうまく活かして学習体験をデザインしたい。

具体的には、研修中は集合してやることに意味があるアクティビティやディスカッションに時間を割き、インターバルでは個人でできるインプットや職場での実践を行うようにする。インターバル期間中の実践を次の研修時に振り返ることで、経験学習が促進され、より高い学習効果が期待できる。

また、研修の場と職場とを行き来することが、より効果的・効率的に学習成果に結びつくように、「積み上がり感」のある設計を行うこともポイントだ。例えば職場でやってみるアクションの難度を少しずつ上げていったり、初回研修で検討した打ち手について職場メンバーと話し合い次回研修でブラッシュアップしたり、といった仕掛けが考えられる。

具体的な設計例

以上のポイントを踏まえて、ここからは具体的な設計例を3つ紹介する。

ケース1 : 思考スキル強化のための短期集中トレーニング(図表7)


【学習テーマ】
正解のない時代に必要な考え抜く力を高める(ロジカルシンキング・問題解決力)

【このテーマを学ぶときに陥りがちなこと】
・ 思考スキルは使わないと身につかないが、学んだスキルを日常で使う機会がない
・ 覚えるべき概念(用語)やポイントが多く、一日、二日では記憶が定着しづらい

【設計のポイント】
・ 短期間に8回のディスカッション・演習を繰り返し行い、実際にスキルを使うプロセスを数多く組み込む
・ インプットや個人学習はインターバルに行い、研修の場では知識を実際に活用する議論・演習を中心に行う
・ 学んだ知識を複合的に活用する総合演習を終盤に設けることで、学んだ知識をリマインドし、記憶への定着を促す

<図表7>思考スキル強化のための短期集中トレーニングの設計例

<図表7>思考スキル強化のための短期集中トレーニングの設計例

ケース2 : マネジメント力強化のためのコミュニティ学習(図表8)

【学習テーマ】
マネジメントの原理原則を活用・実践を通して習得する

【このテーマを学ぶときに陥りがちなこと】
・ 学習した知識や原則を現実場面に適用することが難しい(頭では分かるが現実は……という状態になりやすい)
・ 現実のマネジメントには正解がなく、自分の行動や解決策が妥当なのかを確認できない

【設計のポイント】
・ 知識はeラーニングや動画でインプットし、研修時は現実のマネジメント場面を題材にしたディスカッションを行うことで活用イメージを広げる
・ 研修参加者同士のコミュニティを構築し、互いのマネジメントについて相互支援・相互学習できる関係性を作る

<図表8>マネジメント力強化のためのコミュニティ学習の設計例

<図表8>マネジメント力強化のためのコミュニティ学習の設計例

ケース3 : 新規事業検討を題材とした異業種交流型リーダーシップ開発(図表9)

【学習テーマ】
新規事業案の立案プロセスを通じて、共創型のリーダーシップを身につける

【このテーマを学ぶときに陥りがちなこと】
・ 受け身の状態で参加すると予定調和的なアウトプットしか生み出せず、得られる学びも少ない
・ 新鮮な体験ができる一方、終了後の業務で学びをどう活かすのかが不明確になりやすい

【設計のポイント】
・ 開始前に参加者への動機づけを十分に行い、参加の目的や意義を自分なりに納得した上で参加してもらう
・ 研修時間の3分の1程度を、振り返りやチーム内での相互フィードバックに充て、持ち帰る学びをその都度整理する

<図表9>新規事業検討を題材とした異業種交流型リーダーシップ開発の設計例

<図表9>新規事業検討を題材とした異業種交流型リーダーシップ開発の設計例

以上、さまざまな学習デザインの例をご紹介した。「つづける」「 つながる」「 とびこえる」などの学びは、いずれもこれまで、対面研修で実現しようとすると企画側・受講側ともに大変な労力や手間がかかるものだった。企業研修のオンライン化によって、これらの学びがより手軽に実現しやすくなったといえる。この機会に研修や教育施策を改めて見直し、さまざまな手法を組み合わせてより効果的な学びをデザインしていただきたい。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.64 特集2「変わる企業研修 ―オンラインがもたらした新しい学びのあり方―」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら
 
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児玉 結

広告業界などを経て2008年に同社に入り、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員~管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。

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