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THEME 人事制度

特集経営・人事と働く社員 双方の視点からの導入ポイント

個の可能性を最大化するタレントマネジメントシステム

個の可能性を最大化するタレントマネジメントシステム
執筆者情報
HRM統括部
HRMサービス開発部
マネジャー
牧園 和修

プロフィール

個人の価値観や働き方の多様化、コロナ禍での新事業の開拓にともない、個を生かすマネジメントがより注目されている。
1人のエンジニアが事業の形を変える時代に、企業と社員の関係性はどうあるべきか。
そのとき、テクノロジーはどのような役割を果たすのか。
本稿では、これまで30社以上の企業にタレントマネジメントシステム(以下、TMS)の導入や活用推進を支援した知見をもとに、これからのTMSのあり方について考察する。

TMSを取り巻く環境変化

「 タレントマネジメントやデータ活用を考えてほしいと社長から言われているが、何から考えてよいか分からない」。このような声を人事担当者から聞くことが多い。

弊社が行った人事を対象としたアンケート(2021年2月25日〜3月5日実施、回答275社)では、重要かつ予算を増やすテーマとして「人事業務のデジタル化・データ活用」「 次世代経営人材の育成」が他テーマより相対的に多く選択されていた。コロナ禍による業績影響があるにもかかわらず、高い関心が寄せられていることが分かる。

従来の課題であるタレントの選抜・育成が業績の低迷により急務になっている、あるいはリモート下で人事業務のテクノロジー活用ニーズが高まっている、と考えられる。

TMSとはどんなシステムか?

TMSとは、社員(=タレント)一人ひとりの持ち味や特性を把握・一元管理し、組織横断的に最適な人材配置や育成を行うことで、事業成長を後押しするシステムである。

出自や特徴は各社各様だが、本稿では労務系の人事システム(給与、勤怠など)とは異なるものとする。また、評価管理や研修管理の目的で使われることが多いため、特定された機能を想定したシステムのイメージをもたれることも多いが、本質的には以下のようなシステムの特性を備えたものであると捉えることができる。

第1に、「データレイク」であるということ。データレイクとは、構造・非構造の多様なデータを多様なユーザーが扱えるデータの湖を指す。基幹と呼ばれる給与系のシステムでは、テーブル構造に縛られ、保存できるデータが制限されてきた。近年のTMSは、SIerや情報システム部門の助けを借りることなく、データを柔軟に保存することができるUI(ユーザーインターフェース)のものが多い。これにより、給与・勤怠・研修管理など人事に関わるさまざまなシステムと接続し、TMSにデータを集約・管理・分析することが容易になっている。

第2に、データの鮮度を保つ仕組みがあること。人事・経営が活用するだけでなく、アンケートやパルスサーベイ、あるいはデータベースを直接編集するなど、現場からデータを更新することができる。

経営・人事から見たタレントマネジメントのテーマとTMSの活用

前述のようにシステム上の本質的な特性を捉えたとして、では具体的にTMSで何ができるのか。経営・人事の観点から見ていこう。

図表1にタレントマネジメントのテーマを図示した。取り組みの対象として「個人」と「組織」の側面、そこに時間軸として「現在」と「未来」を掛け合わせた4つの象限について、状況を把握・分析し、施策立案・推進を行うことが求められる。

<図表1>タレントマネジメントのテーマ分類と活用できるTMSの機能

<図表1>タレントマネジメントのテーマ分類と活用できるTMSの機能

このような多岐にわたる業務をすべてアナログな作業で行うのは現実的ではない。TMSを活用することで、素早く自在にデータを扱うことができ、効果的な打ち手につなげることができるのだ。

働く社員にとってのTMS 社員全員に公平な機会を

一方で、経営・人事の観点ではなく、働く社員にとってTMSが導入されると何が変わるのか。

これまでは、予算や人事リソースなどを鑑み、要所要所で打ち手を施すことが多かった。例えば、異動の検討では経営層候補に対してタフアサインを検討する、管理職では新任のみにマネジメント研修を行う、といったことだ。すべての社員に対応していては時間がいくらあっても足りないからだ。

上記のような機会が自身に与えられないと、会社は自身のことを見てくれていないと感じ、転職をする社員もいる。実際には上司や経営から期待されているにもかかわらず、だ。

TMSには、このような不幸なすれ違いを防ぐ効果が期待できる。テクノロジーを介して、社員本人の希望やスキル、経験を生かしたキャリア計画の立案・検討を行うことにより、社員のWILL・やりたいことを叶える機会を創りやすくすることができるのだ。ハイパフォーマーや次世代リーダー候補といったごく一部の社員だけでなく、広く機会を届けられるようになる。平等性・公平性を大切にしている人事にはとても喜ばしいことではないだろうか。

TMS の活用レベルと効能
取り組みは社員にどのように受け止められているか?

タレントマネジメントのテーマを進めるために導入されたTMSは、実際に社内でどう受け止められているのだろうか。

図表2にTMSの活用レベルと得られる効能例を示した。データの蓄積・評価の効率化という観点では一定の成果が見られるケースが多いものの、個人・チームの持ち味を生かした中長期的な取り組みにつながるケースはまだ少ないと考えられる。また、TMSを導入したものの、うまく活用できず、費用を垂れ流すのみという残念な状態になってしまっているケースも少なくない。

<図表2>TMSの活用レベルと得られる効能

<図表2>TMSの活用レベルと得られる効能

タレントマネジメントの導入
直面する壁と留意すべきポイントは?

<図表3>TMS導入 3つのポイント

1.データの鮮度を保つ
第1に、データの鮮度を保つこと。データレイクとしてTMSを活用する上で、欠かせないことはデータが信頼できるもの・新鮮なものであるということだ。システム導入時に担当者が魂を込めてデータを集めたとしても、担当者が代わり、誰もメンテナンスしなくなり、いざ使おうとしたときにデータが数年間更新されていなかったということをよく聞く。そうならないためには、データの特性を踏まえた業務設計が必要だ。

(1)「硬いデータ」を更新する担当業務の割り当て

氏名や社員番号、等級や部署といった日々変わることのないデータを「硬いデータ」と呼んでいる。これらはすでに給与システムなどにて管理されていることが一般的であるため、異動情報などがスムーズに連携できるよう月1回データ連携を行うことを人事業務のうち大切な業務の1つと定め、担当者をアサインし運用する必要がある。

(2)「柔らかいデータ」を取り込むフロー設計

一方、業務の棚卸しや本人の異動希望、1on1の履歴といった、日々変化する可能性のあるものは「柔らかいデータ」と呼べる。これらはTMS上で取得することが多いが、データ入力を依頼しても情報が更新されないことが多々発生する。

そうならないよう、人事イベントと紐づけ、上司との会話のもと、社員がデータを入力するようにするのが望ましい。例えば、期初の目標設定の際に、これまでの業務の棚卸しやキャリア計画の立案を行い(=データ入力)、その上で今期の目標を設定する、というフレームで上司が部下と面談をするようにすると、スムーズに情報が更新される仕組みを作ることができる。

2.活用シーンを設定する第2に、活用シーンを設定することだ。データが新鮮に保たれたとしても、生かす場がないと宝の持ち腐れになる。活用シーンとして2つに分けて見ていこう。

(1)人事イベント

人事イベントでよく活用されるのは、異動配属・昇格検討シーンだろう。例えば初期配属の際、本人の配属希望や適性、上司との相性などを鑑みて配属しているだろうか。組織長同士で話し合い、リソースが不足している部署や育成環境が整っている部署に配属されることが多いのではないだろうか。配属調整の時期に悠長にデータを集約する時間はない。いかにスピーディにデータを並べて確認できるか、が重要だろう。そのためには、「本人の希望は?」「 この部署で活躍している人材の適性は?」といった質問に瞬時に答えられるUIをもったシステムを選定しておき、組織長との会話の際にデータを示すというシーンを鮮明に設定するとよい。

(2)上司・部下のコミュニケーション

上司・部下のコミュニケーションが、業務上の目標や進捗を話し合い、結果を伝えるという場にとどまっていないか。評価にとどまらず、本人のキャリアや育成、動機づけといった目的に沿った場の設計が必要だ。そのためには、期初の目標設定の際に部下のやりたいこと・入社動機やスキル・経験などを棚卸しし、今期の目標に接続していくことが重要になるが、これらに十分に対応できるマネジャーがどれだけいるのか、心配になる人事も多いだろう。そこで、運用の仕組みを作る。面談で本人の強み・弱みややりたいことを一緒に話すシート設計にする、あるいはこれまでの他のマネジャーが設定してきた目標やキャリアプランの例を提示すると、マネジャーの指標になるだろう。

3.施策のPDCAを回す第3に、施策のPDCAを回すことだ。TMS導入時はステップ1-3などと絵を描き、稟議を通すものの、実際に導入して目標設定・評価が一通り回るようになると、それ以上活用しなくなるということが多い。そもそもこのシステムを導入した目的・ゴールは何か、を定期的に見直し、試行錯誤を楽しみながら分析することが大事である。人事のデータ分析は、すぐに結果が出ないことも多い。せっかくやったのに評価されないなら、最小限で対応しよう、となってしまうのはもったいない。より活用が進むように、トップが「今回は反映しないが、良い取り組みだから続けてくれ」と人事のデータ・システム活用を促す発言を続けることが重要だろう。また、人事コンサルタントやHRtechベンダーと定期的な振り返りミーティングを設定し、新たな施策検討を進めるのも有効である。

一人ひとりに目配りできるテクノロジー

テクノロジーというと、冷たいものという印象をもつ人もいるかもしれない。データではなく直接会話することで人となりが理解でき、良い人事施策につながるのだ、と。本当にそうだろうか。ある会社では、人事部長に廊下でばったり会った社員が「どんな業務経験があるか?」と聞かれて答えたところ、次の異動タイミングで本人の希望ではない勤務地に飛ばされてしまったという。それからこの会社では廊下での人事部長との立ち話には気をつけろ、という共通認識ができてしまったという。

社員全員と同じように会話の時間をとることは難しい。けれども、全員から自己申告をとる、マネジャーと社員の会話を記録する、といった日々のデータを集めておき、公平に検討することで、本当の民主的な人事が実現できるのではないか。テクノロジーは、一人ひとりを見ることができる温かいものである、と捉えてみてはどうだろうか。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.62 特集2「個の可能性を最大化するタレントマネジメントシステム」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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