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新入社員オンボーディング再考

  • 公開日:2021/03/15
  • 更新日:2024/05/20
新入社員オンボーディング再考

未曽有の環境変化のなか、新たに社会人になった人たち、なろうとする人たちがいる。彼・彼女たちが組織の一員となっていく過程は、果たしてこれまでと同じものなのだろうか。また、受け入れ(オンボーディング)を行う職場はどのような心構えをしておけばよいのだろうか。本稿では、2015年4月から2020年11月まで約6年間にわたり収集したのべ2万人を超える新入社員のコンディションデータの分析から、これからのオンボーディング施策のあり方について考察する。

目次
新入社員を取り巻く環境変化
入社1年目のコンディション推移
入社年度間での傾向比較
自社のオンボーディング見直しへの活用
これからのオンボーディングに必要なこと

新入社員を取り巻く環境変化

上司に求めるものの変化

「最近の新入社員は何を考えているか分からない」。このような声が新入社員を受け入れた現場では毎年聞かれる。弊社が毎年行っている新入社員を対象とした調査によれば、10年前に求められたのは厳しさをもって周囲を引っ張るリーダーシップであったのに対し、2020年には、一人ひとりの考えに耳を傾け丁寧に指導をする上司像が望まれている*1。上司がこの変化を踏まえずに、自身の考える「良い上司」として新入社員に関わった場合、まったくの的外れとなる可能性がある。そのずれは最悪の場合、早期離職の引き金にもなる。

仕事に求めるものの変化

価値観のギャップは、若年層の仕事に求めるものの変化にも表れている。

就職みらい研究所が毎年発表している大学生の考える「働きたい組織」の特徴として、ここ数年で顕著になってきているのは、「どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身につく」「仕事と私生活のバランスを自分でコントロールできる」という要素を積極的に選択する人の割合が高まっていることである*2。この結果からうかがえるのは、最初に就職する会社で経験を積むことにまったく価値を感じていないわけではないにしても、次なるキャリアやプライベートを優先した選択を最初から視野に入れている人が増えているということである。

加えて、以前に比べると外部労働市場が流動化したことも誘因となっている。短期的・自社視点のみでコミュニケーションをとっていたのでは、人材をとどめておくことが難しい時代となってきているといえる。

職場環境の変化

2020年には、新型コロナウイルス感染症対策の影響で多くの企業でテレワークが推進された。新入社員の入社式や導入研修もすべてオンラインで行った企業も少なくないだろう。新入社員にとっては、出社の負担が少なくて済む、チャットツールなどで周囲とコミュニケーションをとりやすいといった声も聞かれるが、先輩社員を見て学ぶ、周りが新入社員の様子を捉えてタイムリーにフォローをする、そうしたことを通じて関係を深めるといったことは起きにくい。その結果、成長の速度や、組織に対するコミットメントに課題が生じる可能性がある。

ここからは、新入社員の変化の実態について、データ分析をもとに考察を行う。

入社1年目のコンディション推移

入社後1年間の全体傾向

図表1は月別の5段階の総合判定による各コンディションが占める割合である。コンディションは良好な順に、「イキイキ」「イキイキ(要注意)」「モヤモヤ」「ギリギリ」「ヘトヘト」である。年度の後半になるにつれて徐々にコンディションが良好な社員の割合が減少していることが分かる。一般的に入社直後(4~6月)のケアが重要視されるが、新入社員のコンディションはそれ以降も悪化する傾向があるため、年間を通したケアが必要であるといえる。

<図表1>入社後1年間の月別コンディション推移(累計)

入社後1年間の月別コンディション推移(累計)

一方で、入社直後のケアが特に重要であることも事実である。図表2は入社後3カ月間(4~6月)で状態が悪化した回数と7月以降の9カ月間で状態が悪化した回数の関係を示しており、入社後3カ月間における悪化回数が多いほどその後も悪化する傾向にあることが分かる。例えば、4~6月の3カ月とも状態が悪化した社員は、以降の9カ月間においても、平均6.7カ月悪化した状態となっている。このことから、入社後3カ月間は状態悪化者に対して、集中的なケアが求められる。

<図表2>コンディション悪化回数 4~6月と7月以降の関係

コンディション悪化回数 4~6月と7月以降の関係

5パターンのコンディション推移

新入社員のコンディションは全体傾向で見ると、4月から3月にかけて徐々に悪化していくが、全員が同じように悪化しているわけではない。分析の結果、コンディション推移にはさまざまなパターンがあることが分かった。

図表3はコンディション推移を非階層型クラスタリング k-meansにより5パターンに大別したものである。例えば、パターン1は良好なコンディションを通年維持しており、その割合は全体の約4割である。

<図表3>コンディション推移の5つのパターン

コンディション推移の5つのパターン

また、図表3からは初期状態(4~6月)と悪化スピードの2つの側面でパターン間に違いがあることが分かる。まず初期状態では、良好なパターン1、2、4と悪化しているパターン3、 5 に大別できる。加えて、初期状態が良好でもパターン1はほぼ悪化しないのに対し、パターン2は3月にかけて徐々に悪化するがその度合いは小さく、パターン4は8月頃から3月にかけて急速に悪化する。このように、社員全員のコンディションが同じように悪化しているわけではなく、個人によって推移は大きく異なるのである。

入社年度間での傾向比較

コンディション推移の年度間比較

図表1で示した入社後1年間のコンディション推移を年度間で比較したものが図表4である。2015年から2019年までは図表1に示した全体データでの結果と同様に徐々にコンディションが良好な社員の割合が減少している傾向があり、年度間での大きな差異はない。

<図表4>コンディション推移の年度間比較

コンディション推移の年度間比較

一方で、2020年においては、例年に比べて同月のコンディションが良好な社員の割合が多く、悪化する社員の割合が少ないことが分かる。これは、2020年度の新入社員が新型コロナウイルス感染症対策による就業環境の変化の影響を強く受けたことを表しており、次節で負担感とモチベーションの両面からその影響を考察する。

負担感の年度間比較

負担感に関する5つの尺度の年度間比較を図表5に示す。図表5の各値は、高いほど各尺度についての負担感が高いことを表す。負担感の各尺度は2019年までは似た傾向である。例えば、「仕事のプレッシャー」は通年で高く、それ以外の尺度は4月から3月にかけて上昇していく。

<図表5>コンディション尺度別 年度間比較(負担感尺度)

コンディション尺度別 年度間比較(負担感尺度)

一方で、2020年に注目すると、「働く環境」や「周囲のサポート」に関する負担感が例年に比べて上昇しにくいことが特徴的である。意外な結果かもしれないが、これはリモートワークやオンラインでの研修が多かった2020年度の新入社員が、オンラインでのコミュニケーションに十分に適応できているだけでなく、同僚や上司と会わないことでこれまでにあった職場での気疲れが軽減していると考えられる。「職場の人間関係に気疲れするか」という設問に対しても、2019年までは18~21%の社員が「どちらかといえばあてはまる」または「あてはまる」と回答した一方で、2020年はその値が14%と低かったことからも、オンラインを主としたコミュニケーションが負担感においてはポジティブな影響を与えたといえるのではないだろうか。

モチベーションの年度間比較

次に、モチベーションに関する5つの尺度の年度間比較を図表6に示す。図表6の各値は、高いほど各尺度についてのモチベーションが高いことを表す。

<図表6>コンディション尺度別 年度間比較(モチベーション尺度)

コンディション尺度別 年度間比較(モチベーション尺度)

モチベーションの各尺度も前節の負担感と同様に2019年までは似た推移であるが、将来展望については2016年以前と2017年以降で推移の傾向に違いがあることが分かる。将来展望は今の会社・仕事を通してどれだけ自身が成長・活躍できると感じているかを表す尺度であるが、2017年以降は2016年以前に比べて下がりにくくなっている。この要因としては、2017年以降は2016年から本格化した新卒採用の売り手市場で内定を多く獲得した先輩の姿を見て就職活動に臨んだ世代であり、入社自体への満足度が高い層が増加し、将来への不安が減少した可能性があると考えられる。

では、2020年はどうだろうか。将来展望を含むほとんどの尺度で前年の2019年と似た傾向であるが、「成長実感」は特徴的な推移である。例年は4月が最も高く、3月にかけて低下していくのだが、2020年は4月の値が相対的に低く、その後大きな変動は見られない。4月の値が例年に比べて低いのは、オンライン研修が多く、職場でのOJTを通じた働くことへの実感を十分に得られていないからではないかと考えられる。

以上より、2020年の大きな環境変化は、負担感についてはポジティブな影響を与えた一方で、入社直後に経験すべき成長実感を十分に得ることができないというネガティブな影響ももたらした可能性がある。このことから、2020年はこれまでの新入社員が通過儀礼のように直面してきた「壁」を経験する機会が少なかったことが推察されるため、将来的にどのような影響が出てくるのか、今後も注視が必要である。

自社のオンボーディング見直しへの活用

課題を可視化し、一連の人事施策へ視野を広げること

ここまで一般的な新入社員の変化について考察してきた。事業・雇用環境は各社異なるなかで、全体傾向を踏まえて自社の施策をどのように考えていったらよいのか。

自社のオンボーディング施策を見直すためには2つのことが重要だ。1つは定量的な情報を把握し「いつ」「誰の」「何に」手を打つべきかの仮説を立てた上で、定性的な情報を根拠に肉付けしていく。2つ目は、採用~配属~現場OJTのように一連の人事施策として検討することだ。上流から下流まで一貫した施策を取り入れることで、新入社員のスムーズな立ち上がりを促すことができる。

課題を可視化する分析方法

次に同様のサーベイを用いて、自社の課題を明確にする分析方法を紹介したい。ポイントは差を比較したい切り口(属性など)ごとに集計・分析することである。分析の切り口となる属性は、年次・職種などはもちろん、業績評価などの良い群・悪い群で比較できると課題が明確になりやすい。それによって、注視すべき時期と問題が職種ごとに異なることを明らかにすることができる。さらに性格データを掛け合わせることで、必要なアプローチがより具体化される。例えば、営業職と企画職で比較分析した場合、営業職は入社直後の5月から「仕事のプレッシャー」と「仕事・職場への適応」の負荷が高まることが課題だが、企画職は8月以降モチベーションの「成長実感」が低下することが課題となるなど、職種ごとに注視すべき時期と課題を具体化できる可能性がある。

また、図表7はサンプルデータで入社後ぶつかる壁(同サーベイ回答結果)とSPI3の職務適応性の尺度を分析した結果を一覧にしたものである。

<図表7>入社後ぶつかる壁(同サーベイ回答結果)とSPI3の職務適応性の尺度を分析

入社後ぶつかる壁(同サーベイ回答結果)とSPI3の職務適応性の尺度を分析

例えば、「フットワーク」「スピーディー」が低いタイプは「仕事への意欲」「自己研鑽」という壁にぶつかりやすいが、「協調協力」「サポート」が低いタイプは「周囲のサポート」や「仕事・職場への適応」という壁にぶつかりやすい。このように性格特性により入社後にぶつかる壁が違うことを明らかにできる。この結果は、初期配属への活用はもちろん、現場の育成計画にも活用できる。入社前に注意点を把握できることが分析結果の価値である。

これからのオンボーディングに必要なこと

最後に、これからのオンボーディングに必要な論点を提示する。1点目は、オンボーディング期間の設定と経験のデザインの見直しである。先行研究でも入社3年目までの支援の重要性は多く語られてきた。加えて、2020年はこれまで1年目に想定していた経験ができず2年目以降で経験することになり、これは自律的に働けるまでに必要な期間が長くなることを意味する。入社2年目以降もオンボーディング期間と置き直すべきか再検討される必要があるだろう。ただし、これは従来の仕事の経験の積み方を前提とした場合の話である。新たな働き方にともない、若手社員が新たに力を発揮できる仕事も生まれるはずである。そうした側面にも目を向けながら、成長の定義や、成長に向けた経験のデザインについても合わせて見直しを行う必要があるだろう。

2点目は、人事データの積極活用である。テレワークなど新入社員の状況が見えにくい環境では、人事データは個人や集団の状況を可視化し、要因を把握する有用なツールとなり得る。また人事データを用いて個々人の状態をきめ細かく把握することは、昨今の若者の「自分のことを理解し、自分にあった丁寧な指導やフォローをしてほしい」という価値観にも沿うものといえる。これまで経営や人事部門のみが全体施策の検討のために利用していた人事データを、職場でのマネジメントツールとして活用する契機ともいえよう。

以上のような変化を考えると、これからの新入社員の受け入れには、職場や働き方の変化を踏まえた育成プランの設計と関係者の巻き込み、互いの価値観を理解し合うための時間をかけた対話が鍵となりそうである。

*1 リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「2020年新入社員意識調査
*2 リクルートキャリア 就職みらい研究所(2020)「働きたい組織の特徴(2021年卒)

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.61 特集2「新入社員オンボーディング再考」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※本分析に使用したコンディションデータ「ReCoBook」についてはこちら

執筆者

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コーポレート統括部
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宇野 渉

大手電機メーカーの研究所にて、データ解析技術を活用したUXやナレッジマネジメントの研究と新規事業企画を経験後、2019年より現職。
データを活用したプロダクト/ソリューションの開発、HRデータ分析のコンサルティング、データ分析基盤の構築など、データに関わる業務を幅広く担当。

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