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個を生かす安心と信頼のマネジメント

今の時代の新人若手の生かし方・育て方

  • 公開日:2017/06/12
  • 更新日:2024/03/25
今の時代の新人若手の生かし方・育て方

今、企業に限らずさまざまな組織において従来の育成が機能しにくくなり、今の時代に有効な新たな新人若手育成のあり方が模索されている。これは時代の変化が要請する必然の転換であり、本質的には新人若手育成に限らず、これからのマネジメントやリーダーシップのあり方が問われる非常に重要なテーマである。ミレニアルズと呼ばれる新しい世代は近い将来に職場のマジョリティとなるゆえ、その世代を生かし育てる組織づくりは、最優先で取り組んでいきたいテーマの1つである。

VUCAの環境では経験から学ぶ力が重要
困難な環境を苦手とするミレニアルズ
安心と信頼で生かし育てる受信型リーダーの時代
おわりに

VUCAの環境では経験から学ぶ力が重要

図表1に、われわれが考える今の時代の新人若手育成のあり方をまとめた。効果的な育て方が本論の主題であるが、それを考えるキーワードは、仕事の環境を表す「VUCA」と、新人若手の特徴を表す「ミレニアルズ」である。この2つの変化への適合こそが、今日の育成を考えるポイントとなる。

図表1 今の時代の新人若手育成の全体像

VUCAの仕事環境では知識や前例が通用しない。正解がないなかで常に自分で考えさまざまなトライを行い、多くの失敗と少ない成功のなかから学びを深め、成長や成果につなげていける力が求められる。われわれは、このように経験から学び、周囲からの信頼と自己の成長を高め、やがて成果につなげていく仕事の仕方を「実践学習サイクル」というモデルとして具体化し、新人若手時代に育てたい重要な力に位置づけている。

困難な環境を苦手とするミレニアルズ

しかし実践学習サイクルを回すことは、今の新人若手にとっては容易ではなく、職場では以下のような行動がよく見られる。

・ 期待される成果や納期を確認せず自分基準で進める
・ 意味や価値が感じられないことは進んでやりたがらない
・失敗や間違いを恐れ思い切って行動できない ・ うまくいかないと自信を失い学習や改善につながらない

これには、ミレニアルズが生まれ育った環境が大きく影響している。一言で言うと、VUCAとは逆の環境である。少子化やサービス競争の進展は与えられる・選ばれる経験を増やし、個性尊重の教育とあいまって、相手に合わせるよりも自分基準を大切にする傾向を強化する。子どものやりたいことを支援し強みを伸ばす教育は、苦しいなかで我慢したり、失敗し叱られたりしながら学ぶ経験を減らしている。インターネットやゲームの普及は、自分で考え工夫することや不確実な状況に対処する力を養う自由遊びの経験を奪っている(図表2)。よって、VUCAのような困難を自分の力で乗り越えていかなければならない環境ではどうしたらよいか分からず、先のような行動をとってしまうのである。

図表2 困難経験の割合(世代別)<%>

・育成者:過去3年以内に新人育成経験のある人(N=951名)
・新人・若手:入社3年目以内の人(N=361名)

育成の鍵 1 困難を苦手とする新人若手から思い切った行動を引き出す

失敗や間違いの不安があっても、自分なりに考えこれだと思うことをやってみなければ、学びや成長にはつながらない。ゆえに、困難を苦手とする新人若手から思い切った行動を引き出すことは、今日の育成の鍵の1つといえる。

育成の鍵 2 経験からの学びを促進する「ものの見方」を育てる

もう1つの鍵は、行動後に深い学びと成長につながるリフレクションを起こすことである。 VUCAの環境では当面うまくいかない結果の方が多いため、その原因は何なのか、本質的な成長課題に気づき少しずつ改善を積み重ね成長していくことが重要だ。

では、新人若手に学んでほしい本質的な成長課題とは何であろうか。仕事や職場に適応し成長できるかどうかには、入社後の経験や上司の関わりなど、さまざまなものが影響している。そのなかでも特に新人若手の成長に影響を与える要因を特定するため、さまざまな業種や職種の新人若手数百名以上にインタビューした結果、やる気や能力ではなく、「ものの見方」が大きく影響していることが分かった。図表3は、その代表的なものの抜粋である。

図表3 経験学習からの成長に影響を与える「ものの見方」

人は誰しも困難な環境では図表3左列のような自分基準でネガティブなものの見方に陥りやすい。例えば上司や先輩への相談場面では、本当は聞きたいことがあるのに、「こんなことを聞いたらダメな人と思われるかも」という「否定の恐れ」が行動を阻害しがちだ。一方、その恐れを抑え思い切って「素直に出す」ことができれば、信頼・成長・成果につながっていく。

しかし今の新人若手は先のような環境で育てられているために、右列のような「信頼・成長・成果につながりやすいものの見方」を十分に身につけられていない。新人研修で図表3を使ったやりとりをすると、「今までの環境だと失敗はよくないことだった」「素直に出すと場の雰囲気を悪くするのでマイナスの行動だと思っていた」などという発言が多く見られる。これは、どんなに優秀な人材を採用している企業にも共通して見られる特徴であり、入社後は図表4のような状況になるケースが増えている。

図表4 ものの見方が転換できない場合のバッドフロー

よってリフレクションにおいては、結果や行動レベルの振り返りにとどまらず、うまくいかない本質的な要因である「ものの見方」へ気づきを促し、いかに信頼・成長・成果につながる「ものの見方」を育てるかが鍵を握る。

効果的な育て方1 行動化のための安心と信頼の基盤づくり

では、具体的にはどのような育て方が効果的なのであろうか。

育成の鍵の1つめである「思い切った行動を引き出す」ために必要となるのは「安心と信頼の基盤づくり」だ。今の新人若手は決してやる気や能力がないわけではなく、経験がない状況に失敗や否定の恐れが抜けず思い切った行動ができていないケースが多い。よってその不安や恐れから解放されれば、本来の意欲や力が発揮され思い切った行動も出てくる。

うまくいっていない状態に対して決して否定やダメ出しをせず、「そうなるのは今の環境では当たり前だし問題ではない」と安心感を与える。そこから、「うまくいかなくても、学べばよい。自分なりにトライする姿勢が周囲の信頼につながり、失敗でも学びさえすれば成長につながり、その積み重ねが成果につながる。あなたには必ずできる力がある」などと、信頼のメッセージを届ける。すると、不安はあるけれど自分にできることは全力でやってみようというものの見方への転換が起こり、思い切った行動が出てくるようになる。

自分で考え決めた行動から学びが増えると成長実感が得られ、モチベーションと自信が回復する。自分を信頼し応援してくれる人への感謝から周囲への貢献意識も高まり、本来もっていた意欲や力がみるみる出てきて、周囲が驚くほど行動が変化し成果を上げていくことも珍しくない。

安心と信頼の基盤づくりには、「知る」「聴く」「見る」の3つの受信型コミュニケーションが有効だ。

自分と違う人を育てるには、まず相手のことをよく「知る」ことから始まる。苦しいときに、このためなら頑張れるというやる気の源泉はどういうものか。自信を失っているときに、小さな成功体験で自信につなげるにはどんな強みを生かすとよいかなど、相手の内面をよく理解しておくことが大切だ。相手のことが分からなければ、育成は「自分流の押し付け」になる。

そして日々の関わりでは、話すよりも「聴く」ことが大事だ。うまくいかない状況の新人若手は自分基準や他責的な発言が増えるが、そういうときこそ否定せず、その発言の背景にある不安や悩みを受け止め聴き役に徹する。すると「何を言っても受け止めてもらえる」という安心感から素の自分を出せるようになり、思い切った行動がとれるようになる。困ったときは積極的に相談するようになり、メンタルダウンや伸び悩みからの脱却も早くなる。

忙しく余裕がないからこそ、「見る」ことも有効だ。育成上手な人は育成にたくさんの時間を割いているのではなく、普段はよく観察し、ここぞという場面で関わっている。それが「自分のことを気にしてくれている」という安心感につながり、頑張る支えになる。また、結果が出ていない場合には、頑張ろうとしている点を見つけ認めていく。結果が出ていなくても姿勢を見てもらえると感じれば、行動し続ける原動力になる。

効果的な育て方2 問いかけ型のリフレクション

育成の鍵の2つめは、「ものの見方」を育てる関わりであった。そのためには、「問いかけ型のリフレクション」が有効である。上司や先輩は、経験が豊富であるため、答えや意見を用意しがちだが、自分のものの見方が行動や結果にどう影響したのかを、本人に気づかせるコミュニケーションが重要だ。

例えば、「なぜ失敗したと思うか」と本人の内省を促すための「問いかけ」を行う。相手が気づかなくても焦らず待ち、必要に応じて「本当はやればよかったと思う行動はあるか。それができなかったのはどんなものの見方があったからだと思うか」などと考える視点だけを提示する。自分で気づくことで学びは定着し、自分のものになっていく。

安心と信頼で生かし育てる受信型リーダーの時代

伝統的なマネジメントは上下関係や権限で人を動かす発信型であったが、今や安心と信頼を軸に一人ひとりの個を生かし育てる受信型リーダーの時代が到来している。そんなことをしないと成長しないのかと違和感をもつかもしれないが、それは時代の変化そのものであり、私たちも変化に適合し新人と共に成長していくスタンスで臨むことが必要だ。

2016年にはGoogle社からも「最高のチームにはpsychological safety(心理的安心感)がある」という研究レポートが発信された。チームメートから「バカにされないだろうか、叱られないだろうか」という不安がなく、「仕事用の自分ではない本来の自分」でいられるチームのパフォーマンスが高いことが社内の研究チームによって立証されたのだ。VUCAとミレニアルズという時代の変化は世界共通のものであり、今後のマネジメントやリーダーシップの方向性を示す証左といえよう。

おわりに

最後に、新人若手育成にあたり根底にもっておきたいスタンスについて考えたい。これまでの日本の伝統的育成の根底には、「若手は、まず上に従うべきである」や「上が下を教える」など、上下関係の価値観をもとにした一方向の関係がある。しかしVUCAの環境では、新たなトライやイノベーションが重要であり、そのためには年次や立場を超えてすべてのメンバーが自由に意見やアイディアを出し合い、学び合うなかで目的を実現していく組織づくりが必要だ。新人若手だからこそ新しい発想をもっていると捉え、その強みを最大限に発揮してもらい、さまざまな人が活躍するような組織づくりが求められる。

そのためには、一人ひとりの個を生かすスタンスで取り組むことが重要だ。弱みや課題だけに注目するのではなく、強みや持ち味に着目し、成長の可能性を最大限に引き出していく育成である。また個を生かすとは、弱みや課題も含めて存在そのものを1人の個性としてお互いに認め、受け入れ、生かし合うことを大切にするスタンスである。VUCAの環境ではうまくいかないことの方が多いため、成果や成功優位主義では「できない」という負のオーラや感情に支配されるようになる。すると自分の存在が脅かされ、自己への信頼が揺らぎ、結果として組織の相互信頼をも阻害し、本来もっている意欲と力さえ出なくなる。苦しい時代、大変な時代だからこそ、弱いところも含めてお互いの個を認め合うことで居場所ができ、相互の信頼が高まり、それぞれが最大限できることに取り組んでいくエネルギーが生まれる。

とりわけ、競争よりもお互いの個を尊重し力を合わせて何かを成し遂げることに価値を置く新人若手世代には、そうしたマネジメントは想像以上の効果を発揮する。暗黙の上下関係の価値観を捨てて1人の大人としてリスペクトし、個を生かすスタンスで取り組めば、私たちの期待を大きく超えて成長し、組織にも貢献するという、幸せな結果をもたらしてくれるだろう。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.46 特集2「今の時代の新人若手の生かし方・育て方」より抜粋・一部修正したものである。
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桑原 正義

1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。 営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て2015年より現職。 探究領域:VUCA×Z世代の新人育成のアップデート、“個を生かす”生成アプローチ NPO法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP兼任講師

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