特集
WEBを活用した研修効果向上施策
「効果があった!」と言われる研修実施のために
- 公開日:2011/09/21
- 更新日:2024/07/08
近年、人材育成の目的やテーマが多様化・高度化する中で、1回1回の研修において、より具体的な成果が求められる傾向が確実に強まっています。また、単に研修を実施するだけでなく、事後のフォローアップ研修や複数回にわたるアクションラーニングといった集合的な施策や、コーチングやカウンセリングのような個人別のフォロー施策など、テーマや受講者の状況に応じて研修効果を高めるためのさまざまな取り組みも行われています。
背景には、「研修の費用対効果がより厳しく求められるようになった」、「研修の実施目的が知識付与や役割意識の醸成から、事業成果への貢献へとより実務に直結させることが求められるようになった」などさまざまな変化を挙げることができます。また、グローバル化、IT化の急激な進展の中で、従来の集合型研修に加えて、WEBを用いたセミナーやソーシャルネットワークなど、新技術の活用も多くの企業で検討されています。
弊社でも、さまざまな企業への研修サービスのご提供を通して、研修の効果・価値を高めるための施策の研究・開発を行ってまいりました。その内容を踏まえ、この度、集合研修と同時にセットすることで研修効果を高める新サービス「実践ナビ」をリリースいたします。
本特集では、研修効果を高めるための考え方や施策について新サービスのトライアル事例なども踏まえてお伝えします。
研修効果を高める鍵となる考え方とは(1)
(1)研修効果に対する問題意識が高まっている
研修企画担当者は研修効果向上に対してさまざまな問題意識をお持ちです。弊社が企業に対して研修サービスを提供している中で、具体的に以下のような声を伺います。
研修企画担当者の研修効果向上における問題意識(例)
・「現在は研修が“やりっぱなし”になっており、研修後の実践や変化の状況がわからない」
・「研修後の受講者の状況を把握した上で的確なサポートをしたいが、何をしたらよいのかわからない/なかなかうまく進まない」
・「事務局(人事)としても現場にも情報提供や実践のサポートをしたいが、マンパワーが足りない」
・「職場の状況はさまざまであり、かつ変化が激しいので、事務局としても把握しきれない」
・「研修現場に同席してみると、職場の実情は非常によくわかるのだが、その時からフォロー施策を検討しても間に合わない」
・「経営から、研修の投資対効果についての説明を求められることが多くなり、効果検証をしっかり行っていく必要が生じている」
・「ネットや携帯など新しい技術を活用して、効率的なフォロー施策を考えたい」
昨今の経営環境が変化する中で、人事・人材開発部門においても、経営からより高い成果やコストパフォーマンスが求められており、研修に対してもより一層「戦略性」や「実効性」が期待されているのです。その上で、研修後もフォローをしていきたいがなかなか難しい、具体的には何をすればいいか分からない、という研修を企画する側の実情が見えてきます。
冒頭に述べたように、複数回にわたる継続的な研修の実施や、個人別のコーチングは非常に効果的ですが、受講者を何度も集めたり、個別に対応したりすることには相応のコストや手間がかかることも事実です。その状況で1回1回の研修の効果を高めるためには、どのように考え、何を進めるとよいのでしょうか。
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研修効果を高める鍵となる考え方とは(2)
(2)3つの発想転換が研修効果を高める
まずは考え方です。研修効果を高めるためには以下の3つの発想転換が必要となります。
1.「研修での学習」から「職場における実践」へ
研修効果向上を考えるうえでは、まずは「研修での学習」のみではなく「職場における実践」に着目することが重要です。もちろん、職場実践を実現するためには、研修で担当トレーナーが、実際の職場の状況を踏まえたトレーニングを行うことが重要になりますし、受講者一人ひとりも職場の状況を整理した上で、研修に臨むことは前提となります。
しかし、受講者が研修で学んだことを自分のものとして体得するためには、学んだことをそのままにせず、研修後に活用するための計画を立て、実践し、その結果を振り返るというプロセスが不可欠です。また、それをサポートする仕組みづくりも研修企画担当者の重要な役割の一つだと考えます。
2.「意識・行動の評価」から「要因の分析」へ
研修の効果測定が目的であれば、「研修で学んだことを覚えているか?」「普段から意識しているか?」「どの程度行動に活かしているか?」を受講者本人に尋ねるアンケート調査は有効です。
しかし、これだけでは研修の結果評価に留まってしまい、受講者本人が研修効果をさらに高めるためのヒント・気付きを得ることはできません。研修効果の向上を狙うのであれば、「なぜ意識/行動できているのか」「なぜ意識/行動できていないのか」という要因分析に踏み込んで情報収集することが必要となります。
3.「研修単体」から「PDSサイクル」の実践へ
1.でも触れましたが、学習したことを実際に身につけるためには、受講者自身が計画(P:Plan)→実践(D:Do) →振り返り(S:See)というPDSサイクルを回していくことが大切です。具体的には、受講者が研修前に研修の受講目的を踏まえて臨むこと、研修受講後に実行計画をしっかり立てそれを実際に実践すること、一定期間後に実践内容を振り返りさらに実践を進めることです。以上のPDSサイクルを研修前後に埋め込むことが有効です。
このように、研修後の「職場における実践」を基点に考えることが鍵となるといえます。
職場の実践を支援する具体策(1)
(1)研修効果に影響を与える阻害要因・促進要因
「職場における実践」を基点に考えると、研修効果に影響を与える要因は研修自体の品質はもちろんのこと、研修前後の施策全体に見出すことができます。具体的には、以下の表にあるような内容があげられます。
【表1:受講者にとって職場実践の阻害要因・促進要因(例)】
これらの阻害要因・促進要因に働きかけ、実際に研修効果を高めるための仕組みとして、弊社ではWEBを用いた職場実践を支援するサービスの検討・開発を進めてきました。それが今回リリースした「実践ナビ」です。
本サービスは、研修の事前から事後にわたって、阻害要因を軽減し、促進要因に働きかけることで、研修中に得られた学びや意識、動機づけを持続させ、施策全体の効果の向上を目指しています。
ではどのようなアプローチをするのか、次章でお伝えします。
職場実践を支援する具体策(2)
(2)実践を支援するための具体的アプローチ
研修効果を高めるためのWEBを用いた実践支援サービスの研究・開発を通して、わかってきた有効なアプローチとしては、以下3点が挙げられます。
1.忘れないようにリマインドをはかり、最初の行動を促す
研修実施の数ヵ月後に実施した受講者のアンケートを見ていくと、「意識はあったが、忙しさにまぎれてなかなか行動に移せない」という声が非常に多いです。特に研修後の1~2ヶ月という、研修の記憶も残っているうちに、どれだけ行動に移せるかが勝負です。そのため、「研修の直後から間をおかずにリマインドする」「みんなが忘れそうなタイミングや、最初の行動を起こしていない人にリマインドする」「定期的にアプローチし続ける」ことなどが有効です。
2.実践の結果を振り返りPDSサイクルを回す
研修で学んだことの定着をはかるためには、一定期間ごとに実践の振り返りをする機会が重要です。その際、単純に実践ができているかどうかの有無を確認するのではなく、「何があったから実践が進んだのか?」「実践できない場合は何が難しいのか?」「どこがうまくいっているのか?」という観点で、本人の振り返りを促す聞き方が重要です。本サービスでは、研修後1ヶ月、2ヶ月のタイミングで受講者にアンケートを取り、実践状況を振り返る機会を設けています。
3.関係の力を活用する
集合研修の醍醐味であり、その効果に大きく影響する要素として、研修の中で形成された受講者同士の刺激や信頼関係があげられます。また研修後の職場においても、上司や周囲との関係が実践度を左右します。研修後の実践状況を受講者同士で共有できる仕組み作りや、上司が受講者の行動計画を理解した上で受講者の実践状況を確認するなど、関係の力を活用することで、職場に戻った受講者の実践促進を支援することができます。
以上、本章では3つの実践を促進するためのアプローチを示しましたが、次章では、実際の本サービスのトライアルで何が起こせたかを実例を通して解説します。トライアルのステップと実施内容は表2をご確認ください。
【表2:「実践ナビ」トライアルの流れ・実施内容】
お客様事例から明らかになる実践促進の効果
本章では最近(2011年5月~7月)に行ったサービスのトライアル結果を通じて、実践促進の効果をご紹介します。 今回のトライアルでは2社53名に対し、研修前に1回、研修後に3回(研修直後の計画策定・1ヵ月後の振り返り・2ヵ月後の振り返り)のアンケートに、WEBを通じて回答して頂きました。アンケートの間には週1回の定期メールを受講者全員に送信し、またアンケートの回答締切の直前には、未回答者に対して記入促進メールを送ることで、リマインドを狙いました。
そのアンケート結果から、多くの人事担当者の方から挙げられる疑問について検証します。
●アンケートには回答してもらえるのか?
実践ナビはWEBを用いたサービスであり、受講者が自発的にアンケートに回答することが前提となります。しかし多忙な業務の中で、本当に回答してもらえるのか?という懸念の声をいただくことも多くあります。
そこで、まず各アンケートの回答率をご紹介します。表3にあるように、どの段階のアンケートに対しても、90%前後の受講者の方に回答していただけています。これは、毎週のメールおよび未回答者への記入促進メールによる効果が大きいと考えています。
また、送信するメールの内容も、どのようなものが効果的であるか、これまでのトライアルを通じて明らかになってきました。
毎日多くの業務メールをやり取りする受講者にとっては、
1)メールの目的
2)自身はいつまでに何をすればよいか
が端的に書かれていることで、そのメールに対するアクションの優先度が高まるということがわかっています。
今回のトライアルでは、「現在の進捗状況」「次に回答すべきアンケート」「回答締切の日程」がダイレクトに伝えられるよう極力シンプルな文面にすることで、リマインド効果を高め、高い回答率と確保することができたと考えます。
●職場での実践は促進されるのか?
アンケート回答を促進することができても、行動計画を実際に職場において実践しなければ、意味がありません。受講者が研修1ヵ月後・2ヵ月後に回答する振り返りアンケートでは、研修直後に策定した自身の行動計画について、どの程度実践できているか、また実践によって自身や周囲への変化は起こっているか、という主旨の設問に回答していただきました。これにより、行動計画(P:Plan)の実践状況(D:Do)を振り返り、そこから見えてきたことを踏まえて、次の実践行動につなげていく(S:See)、という受講者のPDSサイクルを促進するのことを狙っています。
それぞれの振り返りアンケートにおける回答内容のうち、実践率(1ヶ月後:「実践してみたか」/2ヶ月後:「実践を続けているか」に対してYesと回答した受講者の割合)と変化認知率(「実践による変化を感じているか」にYesと回答した受講者の割合)が、表4になります。
いずれも80%以上と高い数値になっており、受講者の方々の多くが自身の立てた行動計画を実践し、またそれを通じてさまざまな変化を実感しながら、PDSサイクルを回していることがわかってきました。
研修の2か月後においても、1か月後と同程度の実践率・変化認知率となっています。このことより、最初の1か月の実践を通じて何らかの手ごたえを感じた受講者が、その後のさらなる実践に取り組めているということは、実践ナビが継続的に受講者の実践プロセスを支えている、ひとつの裏づけであると考えています。
●実践行動はどの程度成長を促進するのか?
上記のように「実践している」「変化があった」と答えている受講者が、具体的にはどのようなことを実践し、どのような変化を感じているのかについても、フリー記述という形で回答していただいています。表5でその一部をご紹介させていただきますが、いずれもの受講者も、ただ実践するだけでなく、実践したこと・変化したことを振り返ることで、さまざまな気付きにつながっていることがうかがえます。
このように振り返りの機会を提供する目的は、自身の実践内容をチェックするだけではないと考えています。これまで取り組んできたこと、そしてそれによって起きたことを改めて文章化することは、自分にとってどのような価値・意味があったのかを整理し確信することにつながります。それが、上記の事例のように、受講者にとって視点・視界の変化という形で現れるのです。つまり、振り返りの機会は、受講者の成長をも促すといえます。
今回のトライアルのような高い回答率・実践率および変化認知率は、受講者一人ひとりが研修で得たものや、研修で向上した意欲を職場に戻った後も持続し、そして日々の多忙な業務の中であっても、勇気を出して最初の一歩踏み出した結果といえます。
そのような受講者の行動・意識に対し、アンケート回答を通じた振り返りの機会や、メールによるリマインドを提供することで実践に向けた後押しをするという実践支援サービスの提供価値が、トライアル結果からも改めて明らかになったと考えています。
さいごに
研修効果を高めるというテーマはまだまだ発展途上の分野であり、今後も引き続き研究を重ねることが必要と考えています。例えば、一緒に研修を受けた受講者同士で実践状況を確認し合えるという現段階の機能に留まらず、SNSのような相互コミュニケーション機能を搭載した場合に、受講者同士や上司・職場まで巻き込んで活発な行動を起こすことができるのかどうか、その場合の効果はどれほどのものかなど、私どもは関心は尽きません。
ただ、一方で、私どもが大事にしたいことは、あくまで主体は対面コミュニケーションであるということです。研修の場での受講者同士やトレーナーとのやりとり、職場に戻ってからの受講者と上司・周囲との率直な会話が重要であることは、これまでと何ら変わりありません。これらを補完、推進するものとして、WEBの有効活用を考えていきたいと思います。
今後も研修の効果を高めるための施策の研究・開発を行い、効果の高い研修実施のお役にたてれば幸いです。
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