厳しい環境下で高まるマネジャーへの期待 今、現場のミドルに求められること

執筆者情報
企画開発部
主任研究員
児玉 結

ミドルマネジャーの業務負担の過重が問題となる一方で、経営トップや人事がミドルに寄せる期待は大きい。現場を起点とした事業推進や事業変革において、ミドルはどのような役割や活動を担うべきなのか。また、そのような動きができるミドルをどう育てるのか。厳しい環境下で活躍しているミドルへのインタビューをもとに検討する。


厳しい環境下で、高まるミドルマネジャーへの期待

環境変化のスピードと複雑性が増している。2012年にインタビューしたある部品メーカーの営業マネジャーからこんな話を聞いた。彼の扱っている部品は折り畳み型の携帯電話(いわゆるフィーチャーフォン)に使われていたが、スマートフォンの急速な普及により、中期経営計画で見込んでいた売上目標の1割強しか達成できない見込みとなった。中期計画を決めた時点ではここまでフィーチャーフォンが劇的に減ることを誰も予測できなかった。とはいえ、それで目標数字が下がるわけではない。彼は、数年前からメンバーや関係者と共にこの兆候をつかみ、逆風のなかで目標数字を追うために、営業活動の重点領域を携帯電話以外の機器にシフトしていったという。

このように激しい環境変化にさらされている業界・企業においては、従来通りのやり方では思うように業績を上げられなくなっている。過去にこれほど急激な変化を経験していない経営陣にも、解が出せないことが多い。困難な環境下で業績を上げ続けるには、市場・顧客の動きを最も敏感に察知できる現場に権限を委譲し、新しいやり方の企画・試行をスピーディに行って活路を見出していくしかない。

経団連「ミドルマネジャーの現状課題の把握等に関する調査結果」( 2011)では、重要度が高いミドルマネジャーの役割を経営トップに尋ねている。自分自身がミドルの頃に重要度が高かったものと、現在重要度が高いと思うものを比較したところ、「経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みを自ら企画立案する」が最も増加(4倍以上)していた(図表1)。

さらに、ミドルマネジャーに求められる役割の達成状況を尋ねたところ、「現在、自社のミドルが達成できていないと思うもの」の1位に、同じ項目が挙がった(図表2)。

「新しい事業や仕組みを自ら企画立案する」というと、経営企画部門が行うような事業構想をミドルが担うのかと思いがちだが、あくまでも現場に求められているのは業績を上げるための具体的な動きであるはずだ。だとすれば現実的にミドルが担うべきは、市場・顧客の変化を捉えて柔軟に日々の判断を行い、成果に向けて現場を動かし続けること、少し先の顧客の動きを(正解でなくても)予測し、それに対応できる新しいやり方・仕組みの案をもち、試してみることだろう。

このような「先を読む」動きは、かつては研究開発など限られた部門で必要とされたものだったが、近年、市場・顧客に近い「現場」のミドルにも広く求められるようになっている。一方で、調査結果が示すとおり、これを実行できるミドルはまだ数少ない。私たちは、このような激しい変化にさらされている企業の現場において、実際に高い成果を上げているミドルへのインタビューを行い、彼らの具体的な活動を明らかにした。以下にその内容を紹介すると共に、このような役割を担えるミドルをどう育てるべきかについても考えてみたい。

変化のなかでも成果を上げる「現場から事業を動かすミドル」の4つの活動

インタビューからは、成果を上げているミドルが共通して行っている4つの活動が明らかになった。「変化を先読みする」「変化を取り込んで動く」「組織に変化を生み出す」「柔軟に変化し続ける」の4つである。これらを図式化したものが図表3である。

まず、「変化を先読みする」「変化を取り込んで動く」は、ミドルによる「事業への働きかけ」と位置づけられる。これらは、事業上の成果に直結する活動である。

このような「事業への働きかけ」を行うためには、その土台として組織がきちんと機能していることが重要となる。3つ目の「組織に変化を生み出す」は、多様な個性を生かした組織を作る「組織への働きかけ」の活動といえる。

そして、事業や組織への働きかけを行っていくには、ミドル自身が自己を内省して成長し続ける必要がある。そこで、4つ目の「柔軟に変化し続ける」活動を最も根本的な、「自己への働きかけ」の活動と位置づけた。

以降では、それぞれの活動について、具体例を交えながら説明していこう。

1つ目の「変化を先読みする」は、現場の最前線で入手できるさまざまな情報から環境変化についての仮説を立て、現場を方向づけていく活動だ。

例えば冒頭にご紹介した携帯電話の例は、事業上の成果に直接的なインパクトをもたらした「変化を先読みする」活動といえる。現場で日々情報を集めるなかで、早いうちから「フィーチャーフォンは当初の想定ほどには伸びない」という仮説を立て、別の領域へと方向転換した動きは、まさに変化の先読みだった。また別の部品メーカーの営業マネジャーは、さまざまなデータや顧客情報から、需要予測の仮説を立てることを重視していた。しかし、その仮説は「めったに当たらない」と彼は笑いながら語った。当たらないけれども、仮説をもたなければ投資もできないし、仮説から「これで行こう」と決めないと動き出せないと話す。このように、正解のないなかで仮説を立て、当たらなくてもそれを随時修正しながら、現場の進む方向を決めることが成果につながっているようだ。

2つ目の「変化を取り込んで動く」は、事業上の成果を、より直接的に左右する活動といえる。現場で起こる新しい出来事に対処し、時に変化そのものを機会として生かしながら、力強く迅速に現場を動かしていく活動を指す。

例えば現場の実態に合わない目標管理の仕組みに異を唱え、改善の提言を行うといった動きがこれにあたる。環境変化の影響で、従来の目標管理制度や評価の仕組みが急に現場の実態と合わなくなり、メンバーが動きにくい状態に陥るケースはよく見られる。このような場合に、現実に合わない制度を指摘するだけでなく、自らそれを上司に掛け合って改善しようとする行動には、メンバーの士気を高める効果もある。このように、変化によって起きた問題さえも梃子にしながら絶えず現場にドライブをかけ続ける活動が、大きな成果につながる。

3つ目の「組織に変化を生み出す」は、メンバーのもつ特性を引き出し、多様な個性を生かして組織成果とメンバーの成長を増幅させる活動だ。

この活動で重要なのは、個々の特性を見極めて指導や仕事の割り当て方を変えることだ。あるマネジャーはインタビューで、全員を同じように見て指導していたのではとても時間が足りないため、「ある意味割り切って、任せる人には完全に任せると決める」ことが重要と語った。また別のマネジャーは、異なる強みをもつメンバー同士を組ませるなど、課題に合わせて最適なフォーメーションを組むことが重要と指摘した。このような「組織への働きかけ」が、メンバーが自律的に動く状態を作り出している。

4つ目は、ミドル自身が慣例や過去の成功体験にとらわれず、新しい価値観を受け入れて学習・成長を続けていく「柔軟に変化し続ける」活動だ。インタビューしたミドルの共通点としては、自分自身を客観視し、経験から謙虚に学ぶといった、自己を高める動きが見られた。その源には、学習意欲や好奇心の旺盛さがあるようだ。

4つの活動を担うこれからのミドルをどう育てるか

では、どうしたらこのようなミドルを育てられるのか。4つの活動に必要なのは、ベースとしての学習意欲や好奇心の他に、情報を敏感にキャッチする力や、さまざまな可能性を踏まえて仮説を立てる力、目的を明確にして意思決定する力や、多様な関係者を動かす力などの能力だと考えられる。これらの能力を計画的に開発していくには、以下の3点が重要となる(図表4)。

【1】求めるミドル像を明確にする
【2】能力開発課題を特定する
【3】現実の仕事のなかで能力開発を行う

【1】は、現場から新たなムーブメントを起こすミドルを作るための出発点となる。自社のこれからのミドルに求めたい具体的な動き・活動内容を明確にするために、「4つの活動」が参考になれば幸いだ。【2】は、アセスメントなどを活用しながらOff-JTで行うのが望ましい。そしてポイントは、【1】、【2】を踏まえて【3】をどう設計するかである。

どんな力も身につくまでには時間がかかることを考えると、ミドルの育成は実際にミドルマネジャーに昇格する前の、中堅〜リーダークラスのうちから計画的に始めることが望ましい。早いうちに担当業務のなかで市場や顧客を見る目を養い、仮説を立てたり修正したりを繰り返すことで力を磨いておくことが重要だ。

実際に、インタビューに答えた複数のミドルは、現在の活動に必要な力は過去の仕事経験のなかで培われたと語っている。例えば管理部門から営業部門に異動したあるマネジャーは、若手時代に管理部門の仕事で鍛えられた仮説構築の力が、営業部門のマネジャーとして「変化を先読みする」ことに役立っているという。

このように、能力は現実の仕事のなかで鍛えられるため、チャレンジングな仕事の機会を与えることで能力開発を促すことが有効だ。

現在の仕事が十分にチャレンジングなものであり、能力が鍛えられるものになっていればよいが、そうでない場合は、チャレンジの機会を周囲が意図的に作り出す必要がある。これには2つのアプローチが考えられる。

1つは現在の職場で、上司が本人のためにチャレンジの機会を作るアプローチだ。例えば通常の業務では触れる機会のない自組織の中期計画の立案に、上司と共に取り組んでみることなどは、情報をキャッチする力や仮説を立てる力を鍛えるための絶好の機会となる。

こういった機会を上司が作り出すことに限界がある場合、2つ目のアプローチとして異動や配置転換を行うことも考えられる。現在の部署にいては鍛えられない力を、その力がより必要とされる部署・部門に異動させることにより、実際の仕事のなかで磨いていくことをねらうものだ。

いずれのアプローチをとるにせよ、重要なのは本人にその意図を明確に示し、能力開発目標を本人と合意しておくことだ。難しい仕事へのチャレンジや異動は、本人にとっては大きな負担になり得る。関係者間で目指す姿を共有し、それに向けた本人のチャレンジを周囲が支援することが成功の鍵となる。

終わりに

先行き不透明な経営環境を受けて、経営トップや人事がミドルにかける期待は大きい。一方で、ミドルに変革を担ってほしいという期待だけが先行し、実際に現場でどのような活動をしてほしいのかといった具体的な期待の中身は明確にされないことも多い。経営の視点から、ミドルに対し、なぜ、どのように活動してほしいのかを明示することは重要になるだろう。

また、当然のことながらミドルだけが変わればよいというわけではない。新しい事業や仕組みの提案を求めても現場から上がってこないとすれば、原因はミドルの能力不足だけではないかもしれない。適切な形で現場に権限を委譲し、試行錯誤を(ある程度の失敗も含めて)見守り続けること、新しい意見やアイディアをメンバーがミドルに、ミドルが経営層に提案しやすい組織にすることが重要だ。例えば、経営トップがビジョンを発信して期待する提案の外形を示す、提案準備がしやすい評価制度にするといったことが考えられる。そのような組織を実現するために、経営トップや人事が担う役割も大きい。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.41 特集2「今、現場のミドルに求められること」より抜粋・一部修正したものである。
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