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部下から見た上司の特徴について

アジア4カ国比較からみる「理想の上司」とは?

  • 公開日:2012/11/28
  • 更新日:2024/05/31
アジア4カ国比較からみる「理想の上司」とは?

弊社で行った、「RMS Researchアジア4カ国の上司像と働き方に関する調査2012」を使い、日本・中国・シンガポール・インドにおける、部下から見た上司の特徴について、日本と他3カ国を比較したポイントをご紹介致します。

有能な上司かどうかは国によって異なる
日本と、中国・インド・シンガポールでの違いを調査する
日本は計画も評価も柔軟に進めたい
インドは競争し合う職場作りを求める
モジュール型とインテグラル型どちらがいいのか

有能な上司かどうかは国によって異なる

突然ですが質問です。
ある部下が、仕事内容でわからないことがあり上司に尋ねました。すると、「私には分かりません。マーケティング部門のAさんに聞いてみれば分かるかもしれませんよ」と答えました。
この部下は、この上司を有能な上司だと思うでしょうか? それとも、頼りない上司だと思うでしょうか?

現在、多くの企業がグローバル戦略を掲げ、国を超えたマネジメントの必要性はますます高まっています。一方、海外現地拠点でのマネジメントに苦心する様子も散見されており、弊社の調査(グローバル人材マネジメント実態調査2011)では、現地の優秀人材のリテンションに取り組む企業のうち、約7割が「うまくいっていない」と回答しています。

なぜ日本企業は、海外現地拠点でのマネジメントに苦労するのでしょうか。理由の一つに、海外拠点に赴任した日本人マネジャーが、なかなか現地社員と理解し合えず活躍できない、という問題があるようです。弊社の調査では、海外で活躍できなかったリーダー人材の特徴として最も多く選択されたのが、「異なる考え方の人と理解し合えない」(61.9%)というものでした。

●マネジャーに期待する行動への考え方は国によって異なる

職場でのマネジャーの役割や行動に対する考え方については、国によって異なることが分かっています。ナンシー J. アドラーは、著書『チームマネジメント革命』の中で、アンドレ・ローレントが西欧、米国、アジアのマネジャーを対象に行った調査を紹介しています。その調査の中で、「部下が仕事について尋ねる質問に対し、上司がすぐに正しい答えを持っていることは重要であるか」と質問をしたところ、日本では78%が重要であると回答したのに対し、アメリカでは18%、スウェーデンではわずか10%に留まりました。

これはどういうことを意味しているのでしょうか。
冒頭の質問に戻って考えてみましょう。このケースは上記著書で紹介している事例を編集したものですが、もしこの部下が日本人であれば、「上司は業務を分かっていないから駄目だ」と不満に思うかもしれません。しかし、この上司がアメリカ人だった場合、「部下に適切な助言ができ、自分の務めは果たせた」と満足しているかもしれません。国によって上司が振る舞うべき行動の認識が異なっていることで、上司と部下との関係性に、すれ違いが生じる可能性があるわけです。

そこで弊社では、特に職場における上司と部下の関係性に着目し、部下から見た上司の特徴について、日本・中国・シンガポール・インドに対する定量調査を行い、日本と他3カ国の特徴を比較しました。
次ページより、その一部をご紹介します。

日本と、中国・インド・シンガポールでの違いを調査する

調査概要は以下のとおりです。

図表01 「調査概要」

図表01 「調査概要」

今回は、上記調査の中で特に一般社員が考える「理想の上司像」にフォーカスし、日本と他3カ国とを比較しました。
日本における理想の上司の特徴は、果たしてどの程度他国に受け入れられるでしょうか。

日本は計画も評価も柔軟に進めたい

●柔軟に調整しながら進める日本、詳細な計画性を重視する3国

上司の特徴について、具体的には【計画立案】、【評価】、【職場作り】という3つの場面から、アンケート項目を取り上げてみましょう。
以下のグラフは、各国の回答者が、自分の考える「理想の上司像」の特徴に近いと思う方を選択した結果です。

(A:「どちらかといえばAに近い」「Aに近い」「非常にAに近い」の割合の合計)
(B:「どちらかといえばBに近い」「Bに近い」「非常にBに近い」の割合の合計)

まずは計画立案に関する、図表02 「計画立案・遂行における理想の上司の特徴 計画性か、柔軟性か」の結果(画面下)をご覧ください。

日本の回答者は、どちらかというとB側、つまりおおまかな計画を示した後は、状況に応じて柔軟に進めていく上司を理想と考えているようです。しかし他の3カ国は共通して、詳細な計画や手順を明確にして、それを厳密に進めていく上司が理想だと考えている人の割合が多くなっています。

厚生労働省が行った、日本企業に勤める外国人に対するアンケートでは、「上司が仕事の指示をするときに、何をすればよいのか不明確でわかりにくい」と回答したのは50.7%、そのうちそれが「不満である」(不満なので改善を求めたい、転職したい、など含む)と回答したのは74.4%に上りました。この結果は仕事の計画性について直接指摘したものではありませんが、日本人のおおまかな計画に基づいた曖昧な指示や、状況に応じた柔軟な仕事の進め方が、現場でのすれ違いや不満に繋がっている可能性があります。

さて、このような特徴は、実は上司が部下を評価する場面に対する考え方にも表れているようです。次に、部下への評価を行う際の理想的な上司の特徴を見てみましょう。

●評価も柔軟に運用したい日本、厳格に運用すべきと考える3カ国

図表03 「評価は具体的で厳密か、曖昧で柔軟か」の結果(画面下)をご覧ください。ここでも、日本の理想の上司の特徴は、3カ国とは異なる結果となりました。

日本では、どちらかというと、評価基準をおおよそ提示したら、状況に応じて柔軟に運用していく方が理想的な上司だと考える人が多いようです。一方で他アジア3カ国では、共通して、何をすれば評価されるのかという評価基準を具体的に示し、そのとおり厳格に運用していく方が理想的な上司であると考える人の割合が多くなっています。

前述の厚生労働省の調査では、評価・処遇の仕方について、日本企業に勤める外国人が「どのようなことができれば昇進できるのか、明確な基準が分からない」と回答した割合が63.7%、うち、それを「不満」と感じている割合は72.2%に上っています。
ここでも、理想のマネジメントに対する考え方の違いが、メンバーの不満足につながっている可能性が示唆されています。

日本は計画も評価も柔軟に進めたい

最後に、さらに【職場作り】に関する考え方について触れていきます。

インドは競争し合う職場作りを求める

●人間関係やチームワークを重視する上司を求める日本

図表04は、上司がどのような職場風土を作るべきか、について調査した結果です。
中国、インドは競争し合う風土を作る上司を理想とする人が多い一方、日本は協力する職場風土を作る上司を理想と考えていることがわかります。さらに図表05では、仕事の完遂と人間関係のどちらを重視するかを質問していますが、日本以外の3カ国は仕事の完遂を重視すべきと回答する人が多い一方、日本はABどちらも同程度の割合です。

日本は、職場作りの面でも3カ国と比較して、特に職場での人と人との関係性や協力を重視する上司を理想と答える人が多いことがわかります。

インドは競争し合う職場作りを求める

●日本の理想の上司は擦り合わせ型、だが3カ国とはギャップがある

ここまで論じてきた特徴をまとめると、日本では、仕事を始める段階では、いったんおおまかな計画を置き、仕事を進める過程で状況に合わせて達成基準や評価基準を柔軟に調整していく上司を理想と考えている人が多いようです。また、職場ではチームワークや人間関係を意識しながら、物事を動かしていく業務の進め方を理想としているようです。

この特徴は、職場の社員同士の強いチームワークの中で、小まめに擦り合わせを行いながら柔軟に物事を進めていく「インテグラル型(擦り合わせ型)」の仕事スタイルに適した上司像といえるのかもしれません。

一方で、同じアジアとはいえども、中国・インド・シンガポールでは、そのような特徴の上司像は、必ずしも理想的な上司像ではないことが見えてきました。
では、わたしたちはこのギャップをどのように考えていけばよいのでしょうか。

モジュール型とインテグラル型どちらがいいのか

●あるべき仕事の姿から考え、対話の中でコンセンサスを生み出す

これらのギャップを埋めるために、単純に現地国に合わせるべき、日本に合わせるべきとは一概にはいえないでしょう。また、仕事の進め方が、理想の上司のマネジメントスタイルを形作る要因の一つとなっているのであれば、あるべき仕事の進め方に応じて、マネジメントスタイルもまた異なってくるものといえます。

例えば「モジュール型(組み合わせ型)」の仕事の進め方が不可欠な企業や職場であれば、日本の企業であっても他3カ国のような上司像を求められるかもしれません。一方で、やはり「インテグラル型(摺り合わせ)」が事業推進上の不可欠な要素なのであれば、そのスタイルでマネジメントを行うべきとも考えられるわけです。

いずれにせよ、日本人マネジャーが他国の部下に対して、彼らの理想とは異なる働き方を求めなければならないことはあるでしょう。その際、こちらの考え方を無自覚に押し付けてしまうのではなく、その特徴や違いを自覚した上で、あえてそれでもなぜそのマネジメントが必要なのか、という合理性をしっかりと言葉にして伝え、対話する中でコンセンサスを作り出していくことが重要となるでしょう。

※参考・出典
・『チームマネジメント革命 ―国際競争に勝つ経営戦略』ナンシーJ.アドラー著 小林規一訳 (同友館、2009年)
・Laurent “The Cultural Diversity of Western Conceptions of Management” 1983
RMS Research 「グローバル人材マネジメント実態調査 2012」
・厚生労働省「高度外国人材活用のための実践マニュアル」

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