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組織行動研究所セミナー開催報告

障害者雇用・就労から考えるインクルージョン 障害のある人と共に働くことから見えてくるもの

  • 公開日:2024/04/08
  • 更新日:2024/05/16
障害者雇用・就労から考えるインクルージョン 障害のある人と共に働くことから見えてくるもの

2022年の民間企業における障害者雇用者数は、過去最高を更新しています。一方で、法定雇用率を達成する企業の割合は5割を下回っており、その難しさを実感するところです。2024年1月18日の組織行動研究所セミナーでは、特例子会社をつくらず、会社全体で障害者雇用に臨んでいる日本IBMの鳥居由起子氏を招き、その方針を持つに至った背景や具体的な取り組みについて共有していただきました。また、古野からは、組織行動研究所が実施した「障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査」の結果をご報告し、障害のある人との協働が組織に何をもたらすか、組織全体の包摂性を高めるには何が必要かについてお話ししました。その内容を紹介します。

目次
第1部 障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査
第2部 IBMのDiversity & Inclusion~PwDA雇用について
まとめ

第1部 障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査

講師プロフィール
古野庸一
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長

1987年株式会社リクルートに入社。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、リクルートワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年より現職。著書に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)、『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書、共著)、『リーダーになる極意』(PHP研究所)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)、訳書に『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社、モーガン・マッコール著、共訳)など。


一般組織でも、さまざまな種類の困難を抱える人が働いている

古野:2023年4月の障害者雇用促進法の改正にともない、障害者の法定雇用率が現在の2.3%から、2024年度には2.5%に、2026年7月には2.7%に段階的に引き上げられます。特例子会社だけが肥大していくことが懸念される状況です。しかし厚生労働省は、この法改正で、障害のある人と共に働くことが企業全体に広がり、インクルージョンがより実践されていくことを意図しています。そのために、障害者雇用を促進する事業主支援の強化も同時に行われます。

この動きを踏まえて、私たちは2023年に「障害のある人と一緒に働くことに関する実態調査」を行いました(図表1)。現在の職場で、「障害のある人」と一緒に働いて、3カ月以上経過している人380名にアンケート調査を行いました。

<図表1>調査概要

<図表1>調査概要

最初に、どのような困難を抱えている人と一緒に働いているかを聞きました(図表2)。「特例子会社等」に所属する人の選択率が総じて高いものの、「一般組織」にも、さまざまな種類の困難を抱える人が働いていることが分かります。両群ともに、最も多いのは「対人関係や対人コミュニケーションに関する困難を抱えている人」でした。

<図表2>どのような困難を抱えている人と一緒に働いているか〈複数回答/n=380/%〉

<図表2>どのような困難を抱えている人と一緒に働いているか

企業は、このような人たちにどういった配慮を行っているのでしょうか(図表3)。当然のことですが、特例子会社等でも一般組織でも、「能力が発揮できる仕事に配置している」会社が60%ほどに上ります。他方で、いくつかの項目では、特例子会社等と一般組織で明確な差がありました。「支援スタッフを配置している」「職場でのコミュニケーションを容易にする手段を用意している」「働く場所に関する自由度を高くしている」「調子の悪いときに休みをとりやすくしている」の4項目です。特例子会社等には、支援スタッフの配置など、いくつかのメリットがあることが分かります。

<図表3>職場における配慮〈単一回答/n=380/%〉

<図表3>職場における配慮

障害がある人と一緒に働くことが「インクルージョン」を考えるきっかけになる

古野:次の3つの図表は、特例子会社等を除く、一般組織で働く人たちを対象にした調査結果です。一般組織の職場内で、障害のある人に対して個人的に働きかける人は、どのような人でしょうか。図表4から分かるのは、障害のある人と日常的な接点がある人や、自分自身が障害を理由とした配慮を受けて働いている人は、働きかける傾向が少し強いことです。しかしそれ以上に、人事や上司から障害特性や必要な配慮について説明を受けたり、本人と話し合ったり、職場で話し合ったりした経験のある人は、障害のある人に働きかける傾向が強まることが明らかになりました。やはり、職場内で説明会や対話の場などを用意して、一人ひとりが障害について学び、考えるきっかけを持つことが大事なのです。

<図表4>障害のある人に対する個人的な働きかけ〈単一回答/n=302/%〉

<図表4>障害のある人に対する個人的な働きかけ

障害のある人と一緒に働くことで、多くの人が学びや気づきを得ています(図表5)。一緒に働く経験が、障害者の就労や活躍に対する理解を大きく促進することが分かります。最も多かった回答は、「仕事や環境を整えれば、障害がある人も十分に職場の戦力になると感じた(78.5%)」ことで、実に80%近くの人があてはまりました。また、本調査では自由記述回答も求めたのですが、印象的だったのは、「できないことを補いさえすれば、仕事の質に差はないと分かった」「熱心に仕事をする姿勢は、とても尊敬している」など、障害のあるなしの垣根を越え、共に働く仲間として刺激を受けている人が多かったことです。共に働けば、障害は関係なく仲間になれるのです。

<図表5>一緒に働くことで学んだこと・気づいたこと〈単一回答/n=302/%〉

<図表5>一緒に働くことで学んだこと・気づいたこと

職場への良い影響に関しては、「お互いの個別事情への配慮が高まった(53.6%)」と回答した人が最も多くいました(図表6)。自由記述回答でも、「障害のある人だけでなく、全員への配慮が増えた」「必然的に休暇をとる人がいることで、他の人も休暇をとりやすい雰囲気が生まれた」といったコメントがありました。障害のある人が加わることで、職場全体が良い方向へ変わる効果があるようです。

<図表6>職場への良い影響〈単一回答/n=302/%〉

<図表6>職場への良い影響

調査結果をまとめると、障害がある人と一緒に働くことによって、「障害がある人も十分な戦力になる」と感じた人、「自分のなかにある偏見」に気づいた人が多いことが分かりました。また、うまくできないことは誰にでもあると、寛容になれた人も多くいました。障害のあるなしに関係なく、個人にはさまざまな事情があり、その事情への配慮が高まる効果も見られました。職場全体のコミュニケーションや仕事設計が改善される傾向もありました。実は、本調査では困っていることや要望についても質問したのですが、ネガティブな話はほとんどなく、前向きな意見が多数でした。つまり、障害がある人と一緒に働くことは、個人がインクルージョンを考えるきっかけになるのです。

インクルージョンは極めて大事なコンセプトだが、実現は難しい

古野:ところで、「インクルージョン」とは何でしょうか。新しい言葉で、広辞苑第6版には見当たりませんでした。学術的には、「社員が仕事を共にする集団において、まわりのケアによって、その個人が求める帰属感と自分らしさが満たされ、メンバーとして尊重されている状態」と定義されています(Shore氏らの定義)。より一般的には、「それぞれの価値観、意見、考え、性、国籍、能力などの違いが理解され、一人ひとりが尊重され、互いに支え合い、共生すること」といってよいでしょう。

インクルージョンのカギは「寛容」です。世界でも日本でも寛容度は高まっており、マイノリティの権利が認められつつあります。インクルージョンを目指す動きも活発になっています。例えば、2019年のダボス会議では、障害者が活躍できる改革を世界の500社で起こす組織を発足しました。日本からは50社ほどが参加しています。一方で、障害者は増加傾向にあり、日本の場合は国民の約1割といわれています。その背景には、高齢化や障害に対する認識の深まりなどがあると考えられます。

しかし、インクルージョンには技術が必要で、時間もかかります。さらにインクルージョンを妨げるものがいくつもあります。例えば、他者の視点から見ることの難しさです。また、よそ者嫌い、内集団びいきの心理的傾向や、カテゴリー化、マッチョイズム、同調圧力などの悪影響もあります。インクルージョンは、社会にとって極めて大事なコンセプトですが、実現はとても難しいのです。こうした困難を乗り越えて、インクルージョンを実現するためにはどうしたらよいのでしょうか。日本IBMの事例をヒントにしながら考えてみましょう。

第2部 IBMのDiversity & Inclusion~PwDA雇用について

日本アイ・ビー・エム株式会社 Diversity & Inclusion Lead 鳥居 由起子 氏

講師プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社
Diversity & Inclusion Lead 鳥居 由起子 氏

日本IBMのコンサルタントとしてキャリアをスタート。人事へ異動後、新卒採用担当として、日本IBMおよびグループ会社の選考をリード。役員のPromotion/Development担当を経て、2022年8月よりDiversity & Inclusion Leadに着任。障がいのある次世代向けのインターンシップ Access Blueプログラムのオーナー。社員一人ひとりが自分らしく輝き続けられるよう、D&Iの文化醸成について、考える日々を送る。


1953年、IBMは機会均等に関するポリシーを他社に先駆けて打ち出した

鳥居:「PwDA」。IBMでは、障がいのある⽅をこのように呼んでいます。「People with Diverse Abilities」の略です。IBMでは、PwD(People with Disabilities)とは呼びません。障がい(Disabilities)ではなく、多様な能⼒(Diverse Abilities)にフォーカスしているのです。

PwDAを支えているのが「PwDA Community」です。この「+」は、Communityの⽬指すものを応援する社員(アライ)を指します。PwDA社員とアライが、お互いに良い影響を与え合えるコミュニティになっているのです。2024年1月時点で、PwDA Communityでは276名のアライが活動しています。

全世界のIBMでは、長年にわたり世界に先駆けてダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを実践してきました。約100年前、IBMはニューヨーク北部のアーモンクという小さな村で、ベンチャー企業として始まりました。創業者トーマス・ワトソン・シニアは、当時就職が困難だった黒人、女性、移民、障がいのある人たちを積極的に採用しました。彼らの実力をいち早く見出して、多様性を推し進めたのです。IBMは、こうした人たちの成長とイノベーションによって発展してきました。

IBMのダイバーシティ&インクルージョンの歴史で最も画期的な出来事は、二代目のトーマス・ワトソン・ジュニアが1953年に発行した「Corporate Policy Letter 117」です。「採用、昇進、処遇などの活動は、人種、肌の色、宗教、性別、ジェンダー、性的指向または表現、性自認、国籍、遺伝子、障がい、年齢による差別を行うことを禁じます」という機会均等に関するポリシーを打ち出し、社員との共有を始めたのです。アメリカで公民権運動が起こる前のことで、極めて先進的な取り組みでした。

それ以来、Corporate Policy Letter 117は、新CEOが就任する際にアップデートしたうえで署名し、社員全員が閲覧可能な場所に掲載しています。例えば、現CEOのアーヴィンド・クリシュナはインド系ということもあり、カースト制による差別もあってはならないと明文化しました。このCorporate Policy Letter117が、70年以上にわたるIBMのダイバーシティ&インクルージョンの礎となっています。

特例⼦会社はつくらず、社内のさまざまな組織でPwDAが活躍している

鳥居:IBMは、あらゆる組織で、誰もが⾃分らしく働き、輝ける職場環境がIBMにはあるべきと考えています。ですから、特例⼦会社はつくりません。社内のさまざまな組織にPwDAを配置しています。

加えて、私たちはPwDAに関して3つの大きな活動を展開しています。1つ目は、先ほど紹介した「PwDA Community」で、このコミュニティは定期的にお話会を開催して、PwDAのことを知ったり、PwDAと一緒に働くことについて考えたりしています。社内外への発信・コラボレーションも積極的に行っていて、例えば2022年からは、複数のイベントを集中的に開催する「PwDA Week」を設けています。2023年には、PwDA Weekで他社の人事を招いて対話イベントを開催しました。

2つ目は、「ACE(Accessibility Consortium of Enterprises)」です。日本語では、一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアムです。2013年9月、「障がい者雇用の新しいモデル確立」を目指し、業種・業態を超えて志を1つにする大手企業20数社が集まり設立した団体で、人事担当者や障がいのある社員向けセミナー、ワークショップ開催、教育冊子発行などを通じ、当事者への啓発活動、ロールモデル輩出、経営者や社会への提言を実施しています。2023年9月1日現在、39社が参加しています。教育機関と連携したり、官庁とのリレーションを深めたりできるのが、ACEの強みです。1社では難しくても、39社が集まれば実現できることがたくさんあるのです。

「Access Blue Program」で障がいのある人たちに仕事経験を積んでもらう

鳥居:3つ目が、2014年から始めた「Access Blue Program」です。これは障がいのある⽅を対象にした6カ月間の「有給インターンシップ・プログラム」です。お金をもらって働きながら、ビジネス・ITスキルの基礎を⾝につけていただくことができます。図表7が、プログラムのおおまかな流れです。基礎研修、応用研修を受けて、仮想プロジェクトを実施した後、終盤には2週間ほど、実際の職場でのOJTも体験してもらいます。

<図表7>Access Blue Program

Access Blue Programは、障がいのある人たちの就労の壁を少しでも低くするために始めました。障がいのある人たちは、アルバイトなどの就労経験が少なく、働くことに対する具体的なイメージを持てない傾向があります。そのために、自分には限られた仕事しかできないのではないかと考えてしまったり、働くことを過度に恐れてしまったりすることが少なくありません。そこで、障がいのある人たちに仕事経験を積んでもらい、ITスキルや社会人基礎力を身につけて、IBMのような会社でも十分に働けるイメージをもってもらうために始めたプログラムです。最近は、Access Blue ProgramをきっかけにIBMグループへ就職する人も増えています。

他方で、このプログラムはインクルーシブな職場環境の構築にもつながっています。職場の皆さんが障がいのある学生たちを受け入れることで、職場や部門の方も変わっていくのです。私たち事務局は受け入れ部門を最大限サポートし、体制を整えてもらっています。

Access Blue Program参加者の感想をいくつか紹介します。「人生を変えるインターンシップ(人間総合科学研究科・体幹機能障がい)」「なんでもチャレンジできる実験場(文学部・発達障がい)」「社会人への滑走路でした(文学部・四肢障がい)」「失敗を許された環境でできる、実践的な訓練の場(教養学部・発達障がい)」「7カ月間が人生で一番短く感じました。毎日パソコンに向かうのが楽しみでした(学芸学部・精神障がい)」「参加しない理由がないように感じます。大変なことや辛いこと、失敗してしまうこともたくさんありましたが、そのなかで得られるものはリアルな就業体験だからこそだと感じております(経済学部・視覚障がい)」。圧倒的にポジティブな声が多く、良い意味で驚くほどでした。

OJTを受け入れた部門の人たちも、様々なことを感じています。「障がいの有無にかかわらず、配慮が必要な時期は誰にでもあるので、常日頃から誰にとっても働きやすい環境づくりを考えることは大事と感じました」「経験を通して、さまざまな境遇の人が会社で能力を発揮できる、ということの素晴らしさを感じました」「インターン生の受け入れで気づかされたことが多くありました。これから受け入れを検討されている方には、ぜひOJT受け入れをお薦めしたいです」。これらは、PwDA Communityのお話会で話してもらった感想です。私は、受け入れ部門の人たちがこのようにPwDAへの理解を深め、コミュニティの味方になってくれたことを一番嬉しく思っています。

PwDAへの合理的配慮は行うが、特別扱いはしない

鳥居:最後に、労働環境や支援制度の整備について簡単に説明します。合理的配慮として、情報保障ツールの貸与、手話通訳、要約筆記、自家用車・事業所駐車場の利用許可、事業所バリアフリー整備など、身体の障がいで不利が生じないように環境を整えています。障がいのある社員が安全に勤務できるよう事業所内をツアー(チェック)し、問題があれば改善する取り組み「BUILDING ACCOMMODATION ASSESSMENT TOUR(BAAT)」をしたり、入社・異動・新規障がい登録のタイミングで「障がいのある社員のための緊急避難安全チェックリスト」を詳細に作成し、緊急時の避難に備えたりもしています。

さらに、社内産業医・社外契約の医療・心理専門職など相談窓口を設置しています。ハイブリッド&パーソナライズされた新しい働き方も導入しています。ただ、この2つはPwDAだけでなく、全社員に向けた制度です。私たちはPwDAへの合理的配慮は行いますが、特別扱いはしません。それがIBMらしいチャレンジであると考えています。

【text:米川 青馬】

まとめ

何かができない人を障害者というのであれば、手話ができない人やロシア語ができない人は障害者です。しかし、一般的には、そのように呼ばれません。つまり、障害はその人に原因があるのではなく、社会がそう規定しているのだということが分かります。また、健常といわれている人のなかには、介護、家事、育児、自分自身の病気などの事情で、100%仕事に向き合えない人もいます。そのような方々に活躍してもらおうと思えば、障害者同様に、配慮が必要になります。そのような配慮ができる職場は、障害者だけでなく、健常者にとっても働きやすい職場です。

今回のセミナーは、障害者の就労という話が中心でしたが、最も伝えたい話としては、誰もがそれぞれの事情があり、誰もが違う能力や価値観をもっており、それらに配慮していくことで、組織としての能力を高めていくことになるということです。日本IBMでは、そのことを創業時から意識しており、それぞれの人が持っている能力や価値観を認め、それを生かした経営を行っているということです。そのことを今でも徹底し、インターンシップを開催し、障害者にもその可能性を拓く支援をしていることにあらためて感銘を受けました。多様性を生かすことは、極めて難しいことだと思われますが、誰もが少しでも生かされる社会は、私たちが実現したい未来ではないでしょうか。

【組織行動研究所 所長 古野庸一】

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