連載・コラム
新たなキャリア研修「キャリアアクションプログラム」
若手・中堅社員はなぜ「キャリア自律の第一歩」を踏み出せないのか?
- 公開日:2024/03/11
- 更新日:2024/05/16
2023年、弊社は、新たなキャリア研修「キャリアアクションプログラム」の提供を始めました。その背景には、多くの企業が社員にキャリア自律を求めている一方で、キャリアに対して不安を抱えながらも、キャリア形成につながる具体的な行動は起こせていない、といった若手・中堅社員が増えているという課題認識があります。なぜ今キャリア研修を刷新したのか。どのような特長があり、何を目指すプログラムなのか。キャリアアクションプログラム開発チームのメンバーが詳しく解説します。
対談者
●西山 浩次(にしやま こうじ)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
HRD統括部 トレーニングマネジメント部 特任研究員
●市橋 直樹(いちはし なおき)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
HRD統括部 トレーニングマネジメント部 研究員
- 目次
- キャリアに対する不安を抱えている若手・中堅社員が多い、 一方で具体的にキャリアのために行動している人は少ない
- 情報が多すぎるうえに変化が激しく不確実であることが、「キャリア」を考える際のハードルを上げている
- 充実したキャリアにつながる「行動の後押し」をするプログラム
- 「フォアキャスティングアプローチ」などの思考法・理論をちりばめている
- 「手近なチャンス」を生かして一歩を踏み出し、キャリア形成につなげる
- キャリア自律行動は組織コミットメントにもつながる
キャリアに対する不安を抱えている若手・中堅社員が多い、 一方で具体的にキャリアのために行動している人は少ない
近年、キャリアに関する情報がますます多くなっています。スマートフォンやPCを使っていると、日々さまざまな情報が目に入ってくるようになりました。例えば、SNSを見ているだけで、転職に関する情報や、友人たちのキャリア状況、理想的な働き方をしているインフルエンサーの投稿など数多くの情報が得られます。友人が転職したと聞けば、自分も転職した方がよいのだろうか、とつい不安に感じることも珍しくありません。
一方で、多くの企業が社員に「キャリア自律」を求めるようになりました。社員の主体的かつ自律的なキャリア形成を期待して、自己申告制度、社内異動公募制度や選択式研修制度などを整える企業も増えています。1on1などを活用して、マネジャーが若手・中堅社員のキャリア形成を支援する事例も多く見られるようになってきました。
そうした状況のなか、2023年にキャリア開発行動に関する調査(1711名)を弊社で行ったところ、自身のキャリアに関して不安を抱えている若手・中堅社員が多い一方で、具体的にキャリアのために行動している人は少ない、ことが分かりました。
また、多くの人事の皆さんからは、手挙げ式の社内異動公募制度や選択式研修制度などの機会を十分に活用してもらえないことに悩んでいる、ということもよく耳にします。
早期に見切りをつけるような離職が増えているといったことも伺います。人事として特に避けたいとよく伺うのは、本当は社内に魅力的な業務や機会があり、手を挙げればチャレンジしたり異動したりできる可能性があるのに、そうしたチャンスに気づかないまま離職してしまい、離職後に本人が転職を後悔してしまうようなケースです。私たちは、こうした離職を「もったいない離職」と呼んでいます。最近、もったいない離職は多くの企業で人事課題の1つになってきています。
2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第3回“もったいない離職”を引き起こす本人側の要因と対応策
情報が多すぎるうえに変化が激しく不確実であることが、「キャリア」を考える際のハードルを上げている
「キャリア」という言葉を聞くと、気が重くなる、キャリアを考えることは難しいと感じている、との声を若手・中堅社員から聞きます。
なぜそうなってしまうかというと、最大の要因の1つは「キャリアに関する情報が多すぎる」からです。情報が多すぎるために、今の仕事よりも良い選択肢があるように感じて集中できない、かといって失敗が怖くて数多い選択肢から選ぶこともできないままの若手・中堅社員が増えています。反対に、日常生活で「多くの情報から、最も良い選択肢を選ぶ」ことが当たり前になったために、より良く見える選択肢、を選んでしまい、実際に携わってみると、思うとおりにはならず、難しさを感じる人もいるようです。人によって行動のタイプは違いますが、どちらも情報過多、情報の扱いの難しさが大きな要因だと考えられます。
もう1つの大きな要因は、「社会・ビジネスの変化が激しく不確実」だからです。現代社会では近い将来に何がどうなるか、もはや誰にも予測できないほど、変化は激しく不確実です。そのため、キャリア上の決断はますます難しくなっており、将来のキャリア像を描いたり、自分のロールモデルを定めたりすることがしづらくなっています。
こうした社会的要因が、キャリアを考える際のハードルを上げています。つまり、社員にキャリア自律を求める企業が増える一方で、キャリアを考えることは難しいものと捉えられるようになっているのです。
充実したキャリアにつながる「行動の後押し」をするプログラム
そのような環境を背景にして、私たちは新たなキャリア研修「キャリアアクションプログラム」を開発しました。一言で言えば、若手・中堅社員の充実したキャリアにつながる行動の後押しをするプログラムです。「行動につながること」「次の一歩を踏み出すこと」を第一に重視しています(図表1)。
◆行動につながる若手向けキャリア研修 |キャリアアクションプログラム 若手向け
◆行動につながる中堅向けキャリア研修 | キャリアアクションプログラム 中堅向け
キャリアアクションプログラムでは、若手・中堅社員の行動につなげるために、課題解決に役立つコンテンツを豊富に用意しました。特に、「自分の置かれた環境に機会を見出すためのコンテンツ」と「キャリアについての思い込みを見直すコンテンツ」に力を入れています。また、知識のインプットは事前に行い、研修当日は「対話を中心とした相互学習」を行うプログラム設計にしています。なぜなら、受講者同士の対話と相互学習こそが、次の一歩を踏み出すための原動力になるからです。
なお、キャリアアクションプログラムは、若手社員向けと中堅社員向けに異なるプログラムを用意しています。
<図表1>キャリアアクションプログラムの3つの特長
「フォアキャスティングアプローチ」などの思考法・理論をちりばめている
キャリアアクションプログラムには、今の時代に役立つ思考法・キャリア理論などを取り入れています。特徴的な思考法の1つが、「フォアキャスティングアプローチ」です(図表2)。これはキャリア経験を1つずつ積み上げていき、次の可能性につなげていく考え方のことです。反対の考え方に、将来の理想像を描いたうえで、計画的に進んでいくバックキャスティングアプローチがあります。
<図表2>フォアキャスティングアプローチとバックキャスティングアプローチ
従来のキャリア研修は、バックキャスティングアプローチに基づいてキャリアの理想像を描き、その理想に向けて計画を立てることをメインにする傾向がありました。今までは、このやり方でうまくいくことが多かったのです。しかし、変化が激しく不確実な現代では、コントロールできない変数が多すぎて計画を立てることも難しいと考えています。
そこで私たちは、現代に合わせたフォアキャスティングアプローチのキャリア研修を用意しました。小さな一歩でもよいから、具体的な行動を起こすことを最も大切にする研修です。具体的な行動を起こせるレベルの目標をセットすることで経験を得ることができ、その経験が次の新たな可能性につながっていくと考えています。私たちは、フォアキャスティングアプローチが個人の主体的・自律的なキャリア形成に効果的であると考えています。ここでは説明しきれませんが、本プログラムはほかにもさまざまな理論に基づいて開発しています。
「手近なチャンス」を生かして一歩を踏み出し、キャリア形成につなげる
若手・中堅社員の行動につなげるうえで、私たちが重視することの1つが、「手近なチャンス」を生かしてもらうことです。「手近なチャンスを生かすと、やりたいことが見つかったり、自分の強みを自覚できたり、人的ネットワークの拡大につながったりします」と伝え、自発的な行動を促すのが、キャリアアクションプログラムの目的の1つです。例えば、1on1で上司にキャリア相談をしたり、選択式研修を受講したり、社内公募制度に手を挙げたりすることを促すわけです。
加えて、中堅社員には、「隣の部署の上司や先輩など、社内の『斜めの関係』に魅力的な人がいませんか? その人と話す機会を設けることから始めてはどうでしょうか?」などとアドバイスしています。なぜなら、多くの会社の人事・経営層の皆さんが、中堅社員に「人的ネットワークを広く築いてほしい」と望んでいるからです。彼らに越境体験をすることで視野を広く持つようになることを期待しているのに、社員はそうした行動を起こせていない、と悩む人事の皆さんが多いと聞いています。社内の人たちとも狭い範囲でしか接点を築けていない中堅社員の事例もよく耳にします。
中堅社員の立場に立って考えると、誰もが自らの業務に忙しく、目の前の役割を果たしているだけで日々が過ぎ去っていきます。そのため、「自分のキャリアはこのままでよいのだろうか」と内心不安に感じていながらも、例に挙げた人的ネットワークの形成など、自分のキャリアのための行動をプラスアルファで起こせない人が多いのです。そこでキャリアアクションプログラムでは、中堅社員の背中を押す施策にも力を入れています。
こうしたアプローチを取った結果、これまでのプログラム受講者のなかには、受講後に下記のよう行動を起こす人がいました。
・受講後に上司・周囲に自分の強みをヒアリングする
・社内外の人たちとのネットワークを築く機会を設定する
・社内の公募情報やキャリアパスを確認して活用する
・社内で積極的にアイデアを提案する
・自分の専門性を磨く機会への参加を始める
こうした第一歩を踏み出すことが、キャリア形成につながっていきます。
キャリア自律行動は組織コミットメントにもつながる
さらに、キャリアアクションプログラムには、組織コミットメントを高める効果も期待できます。それはこのプログラムが、受講者が今の仕事や環境の捉え方を変え、自律的にキャリアを形成していくために、社内にある多様な機会や制度を積極的に活用していくことをねらいとしているからです。人事の皆さんからは、「キャリア研修を行うと離職が増えるのではないか」と躊躇する声を伺うこともあるのですが、実際は逆なのです。
弊社の調査研究でも、キャリア自律行動は、組織コミットメントやパフォーマンス発揮や職場適応にプラスに働くことが分かっています(図表3)。キャリアアクションプログラムを活用すると、受講者の職場適応が高まって離職が減ったり、組織コミットメントやパフォーマンスが高まったりする可能性がおおいにあるのです。
<図表3>キャリア自律行動と組織コミットメント・パフォーマンス発揮・職場適応との関係
出所:リクルートマネジメントソリューションズ(2021)「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」
以上、「キャリアアクションプログラム」のポイントをかいつまんでご説明してきました。もっと詳細を知りたい人事の皆さんは、ぜひお声がけください。
◆行動につながる若手向けキャリア研修 |キャリアアクションプログラム 若手向け
◆行動につながる中堅向けキャリア研修 | キャリアアクションプログラム 中堅向け
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