連載・コラム
一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査 第1回
働く人の「モチベーション・リソース」を科学する
- 公開日:2023/11/15
- 更新日:2024/05/16
突然ですが、自分の「モチベーションの源泉」は何かを考えたり、自分と他者のモチベーションの源泉の違いはどこにあるかを意識したりすることはあるでしょうか。仕事のなかで、モチベーションが高まったり下がったりするのはどんなときでしょうか。 産業構造の変化や、少子高齢化、個人のキャリアに対する意識の変化など、企業の経営環境が大きく変わってきている昨今、変化が激しい時代に企業価値を持続的に向上させるのは人材であるという考えから、「人的資本経営」が注目されています。私たちリクルートマネジメントソリューションズは、60年以上にわたって人々の内面(性格、志向、価値観など)のデータを測定してきた技術を生かし、人材、つまり働く皆さんの意識・特性を多角的に捉えるチャレンジを始めました。このシリーズ記事では、その分析結果を広く公表し、個と組織を生かすポイントを多くの皆さんと一緒に考えたいと思います。
- 目次
- 調査の全体像
- 「安定と金銭がモチベーション・リソースだ」という人が比較的多かった
- 転職回数の多い人はプロフェッショナル志向が強い
- 現在の仕事の特徴も明らかにした
- モチベーション・リソーストップ3と現在の仕事がフィットしていない人が35.5%いる
- モチベーションが高まりやすい仕事に従事すると、仕事へのエンゲージメントが高まる
- 大事なのは、「仕事の意味づけ」や「活躍チャンスの提供」に力を入れることではないか
調査の全体像
まずは、働く皆さんのエンゲージメント意識・特性の関係を捉えるために実施した、オンラインアンケート調査『一般社員の会社・職場・仕事に関する意識調査』3708名をベースとした分析結果を2回に分けてご紹介していきます。第1回は、「働く人のモチベーション・リソース(モチベーションの源泉)」についての分析結果です。図表1のように、「モチベーション・リソース」「現在の仕事の特徴」「両者のフィット度」「フィット度と仕事へのエンゲージメントの関係」の順に説明していきます。
<図表1>調査の全体像
「安定と金銭がモチベーション・リソースだ」という人が比較的多かった
本題に入る前に、「モチベーション・リソース」について簡単に説明します。働く皆さんのモチベーションの源泉を調べるにあたって、私たちは働くうえで重視するもの、実現したいと考えること(志向・欲求)を「統率・挑戦・創造・専門性・貢献・親和・安定・金銭・承認・注目」の10種類に分類しています。(図表2)本調査では、この10要素の得点から回答者ごとにトップ3を算出し、その結果を元に分析を行っています。
<図表2>10種類のモチベーション・リソース
※本項目は、弊社「SPI3 for Employees」の志向・仕事観のアセスメント項目を利用しています
全体の出現率は図表3の結果になりました。
・「安定(53%)」と「金銭(41%)」の出現率が比較的高い。
特に、「安定」の出現率が高いのが特徴です。今回の回答者には、安定的な環境や処遇のもと、安心できる落ち着いた職場で無理をせずに働けることを重視している人が多いことが分かりました。
<図表3>モチベーション・リソーストップ3の出現率(回答者全体)
転職回数の多い人はプロフェッショナル志向が強い
もう少し細かな分析をしていきましょう。図表4は、年代別のモチベーション・リソースの出現率を示しています。年代と共に出現率が上がる項目、下がる項目があります。
・「創造」「専門性」は、年代が上がるにつれて、出現率が高くなる傾向がある。
・「親和」「承認」「注目」は、年代が上がるにつれて、出現率が低くなる傾向がある。
育った時代の違いなどもあるため一概には語りにくいのですが、全体的には、年齢を重ねるにつれて周囲からの承認・注目や、周囲との一体感を求める気持ちが減り、その代わりに自分なりの専門性を確立してクリエイティビティを発揮したい、という気持ちが強くなるようです。
<図表4>モチベーション・リソーストップ3の出現率(年代別)
図表5は、転職回数別のモチベーション・リソースの出現率です。転職回数が増えるにつれて、以下の変化が起こっています。
・「専門性」「安定」は、転職回数が増えるにつれて、出現率が高くなる傾向がある。
・「統率」は、転職回数が増えるにつれて、出現率が低くなる傾向がある。
特に注目すべきは「専門性」で、4回以上転職している人たちの出現率が跳ね上がっています。転職を重ねる人ほど、プロフェッショナル志向が高いことが明確に分かります。ただし、専門性を求める人たちが新たな環境を求めて転職しているのか、転職することで専門性の意識が高まっていくのか、その因果関係ははっきりしません。とはいえ、興味深い結果となっています。
<図表5>モチベーション・リソーストップ3の出現率(転職回数別)
現在の仕事の特徴も明らかにした
ここまでの前半では、モチベーション・リソースの出現率を分析してきました。後半は、「働く人のモチベーション・リソースと仕事の関係性」についての分析結果を紹介します。
モチベーション・リソースと仕事の関係性を知るためには、働く人たちの「現在の仕事の特徴」を明らかにする必要があります。今回の調査では、「あなたが現在担当している仕事が、図表6の項目にどれくらいあてはまると感じるか」について、5段階で回答を求めました。(1:あてはまらない ~ 5:あてはまる)
<図表6>現在の仕事の特徴に関する質問項目
その全体の平均値が図表7です。このデータに関しては、「専門性」「貢献」「親和」「安定」の値が他よりも比較的高くなっていますが、これだけで何かを解釈するのは難しそうです。また、年代別(図表8)のデータもありますが、こちらも明確な差異を読み取ることはできませんでした。
<図表7>現在の仕事の特徴(回答者全体の平均値)[単一回答/n=3,708/平均]
<図表8>現在の仕事の特徴(年代別の平均値)
モチベーション・リソーストップ3と現在の仕事がフィットしていない人が35.5%いる
次に、「モチベーション・リソーストップ3」と「現在の仕事の特徴」を掛け合わせた分析に入ります。なお、以下の分析では、図表9のように、個人のモチベーション・リソーストップ3のそれぞれが、現在の仕事の特徴に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と答えている場合は、「フィット数1」と数えています。ですから、フィット数は最多3、最少は0です。
<図表9>フィット数の定義と例
図表10で明らかになったのは、次のことです。
・自分のモチベーション・リソーストップ3と現在の仕事がフィットしていない人(フィット数0個)が回答者の35.5%もいる。
言い方を変えると、回答者の35.5%は、自身が強くモチベートされる条件と現在の仕事の特徴があてはまっていないのです。35.5%が多いと感じるか少ないと感じるかは個人差があるかもしれませんが、それでも、この数字は大きいのではないでしょうか。
<図表10>モチベーション・リソースと現在の仕事の特徴のフィット数の内訳(回答者全体)
図表11は年代別の分析です。この図表からは次のことが分かります。
・フィット数3個は、20代(18.8%)が最も多い。
・フィット数0個は、40代(39.0%)、50代(37.7%)で多い。
このデータから推測できるのは、50代は、一般的に職業上のキャリアの観点から、難度の高い仕事を任されるなど会社内における期待が高くなっている年代であると想定されます。また、ライフキャリアの観点から、育児・教育・介護など家族のための支出が増えたり、健康面でも少しずつ衰えが見えてきたりする年代でもあります。そうした各種の制約も相まって、ご自身のモチベーション・リソースの実現よりも優先すべきことが多いのではないか、と考えられます。
<図表11>モチベーション・リソースと現在の仕事の特徴のフィット数の内訳(年代別)
モチベーションが高まりやすい仕事に従事すると、仕事へのエンゲージメントが高まる
最後に、モチベーション・リソースと仕事のフィット数が「仕事へのエンゲージメント」に与える影響を見ていきましょう。なお、「エンゲージメント」という言葉は、世のなかではさまざまな文脈で使われる言葉ですが、今回の調査においては、「仕事へのエンゲージメント」≒「一人ひとりが、仕事の意義を理解し、日々の仕事にやりがいや成長・貢献実感をもって働いていること」という内容で定義しており、具体的には以下の4項目を用いています(図表12)。
<図表12>仕事へのエンゲージメントに関する質問項目
※本項目は、弊社「エンゲージメント・ドライブ」より項目を抜粋して利用しています
※各項目に対して、5段階で回答を求めています(1:あてはまらない ~ 5:あてはまる)
各項目の合計値を「仕事へのエンゲージメント」とし、フィット数ごとに比較したものが図表13です。ここから明らかになったのは以下のようなことでした。
・フィット数が増えるにしたがって、仕事へのエンゲージメント得点が高くなる。
図表13は、モチベーション・リソースにフィットした仕事に従事していると、仕事へのエンゲージメントが高まる可能性があることを示唆しています。ただし、本調査の全体傾向からは、モチベーション・リソースそのものと仕事へのエンゲージメントの関係性は見られませんでした。つまり、モチベーション・リソースが仕事へのエンゲージメントを高めているのではなく、モチベーション・リソースと現在の仕事のフィット感がエンゲージメントを高めているのではないか、と考えられるのです。
<図表13>モチベーション・リソースと仕事のフィット数ごとの仕事へのエンゲージメント得点
この分析を踏まえると、メンバー一人ひとりのモチベーション・リソースにフィットした仕事を割り当てれば、彼らのエンゲージメントは高まるはずです。しかし現実には、誰もが望む仕事を得られるわけではありません。「モチベーション・リソースにフィットした仕事の割り当て」には限界があり、メンバー全員に最適な仕事を割り当てるのは困難であることも確かです。では、私たちは何ができるでしょうか。
大事なのは、「仕事の意味づけ」や「活躍チャンスの提供」に力を入れることではないか
例えば、一見地味な印象を与えるオペレーション業務のなかには、社会的・組織的に意義のある仕事が数多くあります。また、普段はルーティンワークに就いている従業員でも、現場起点で改善策を提案できる仕組みがあれば、改善策を主体的に提案・実行して、イノベーティブな活躍ができるかもしれません。上司が部下の仕事を適切に意味づけしたり、組織が従業員に活躍のチャンスを提供したりすれば、どのような仕事であっても、個々のモチベーション・リソースにフィットする可能性を秘めているのです。
最近は、社員のエンゲージメント向上を重要課題に据える企業が増えています。そのためには、経営・人事・上司がモチベーション・リソースの重要性を認識し、個々人のモチベーション・リソースを把握したうえで、仕事の意味づけや活躍チャンスの提供をもっと重視する必要があるのではないでしょうか。
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