- 公開日:2023/05/22
- 更新日:2024/05/16
前回は、リモートワーク下におけるチームワークづくりについてお伝えしました。その核心は「マネジャー自身がチームワークを欲すること」、そして「重たい荷物を背負うときにはまず土台づくりから」ということ。そのためにも「メンバーの交流の欲求を感じたら即対応する」ということをお伝えしました。 本連載ではこれまで「安心感の土壌づくり」「メンバーの持ち味を味わう」「チームワークの土台づくり」について、その核心をお伝えしてきましたが、読者の皆様のなかには、「リモートワーク下においてはそういう機会が少なくなっているんだよ」と感じている方もいるのではないでしょうか? 確かに、メンバーと直に接する機会はかなり減っています。ただ、こういう環境であっても、原則に従い、マネジメントしているマネジャーもいます。 では、他のマネジャーができないことを実践できる人はどこが違うのでしょうか? それが今回のテーマです。 さて、今回もエピソードから見てみましょう。
“行動管理を徹底したら、雰囲気が悪くなった”
今回の舞台は、医療製品を作っている会社の営業部門です。これまでは病院に足しげく通うことで医師からの信頼を獲得し、売り上げを上げてきましたが、コロナ禍となり、営業成績が低下していきました(ちなみに、出社タイミングは自分の都合で決めるという出社形態です)。
もともと、この業界では、突発的な対応が常態である医師に事前のアポイントを取ることが難しいため、空き時間をねらって病院で待ち続けることが大事な営業行為でした。ところがコロナ禍になり、病院への訪問が原則禁止になります。そこで、電話やメールを送って情報共有・交換、アポイントを取ろうとするのですが、ただでさえ忙しい医師はメールに目を通すことすらないということが頻発し、営業メンバーの営業活動が停滞していったのです。
そこで、マネジャーAさんは、電話をかけた数やメールを送った数からチラシ配布数まで営業行為を細分化して各メンバーの進捗状況を見える化し、チェックすることにしました。メンバーもやり始めてはみるものの、現実にはメールを送っても返信すらない、電話しても常に留守電、もしくは「忙しいからメールでお願い」と言われ、メールしてもやはり返信がない……という状態が続きます。なかには医師から返信をもらえるメンバーもいますが、その内容は「今回は忙しいのでまたの機会に」というようなことが書かれていることが大半で、なかなか思うように進みません。Aさんはメンバーから、うまくいかなかった原因・理由を積極的にヒアリングし、改善策を一緒になって考え実践させることにしたのです。
では、この職場はどうなったと思いますか?
残念ながら、かえって職場の活力が低下しました。ひと言で言えば、「どんより」とした職場になったのです。オンラインでミーティングをしても誰も発言せず、Aさんから問われるまで返事がない。このような状態が続き、Aさんも何をどうすればいいか分からなくなり、途方に暮れてしまいました。
メンバーの立場で考えてみましょう
この期間のメンバーの状態はどう見ればいいでしょうか?
メンバーからすると、これまで通用していた方法が通用しなくなり、かつ、うまくいって当たり前と思っていたようなことですらうまくいかず、それだけでも意気消沈です。そのような状態のときに、マネジャーからはできない理由・原因を問われるのです。しかも、リモートワークですから、よくてもオンラインで画面越し、場合によってはメールでのやり取りを通してです。余程自分に自信がある人、もしくはマネジャーとの間に安心感が醸成されている人でなければ、問題を指摘され続けていると感じてしまい、自分は仕事ができないと思いこみ、手応えを感じられなくなってしまうでしょう。
では、マネジャーはどうすればよかったのでしょうか?
Aさんとしても、事業・職場での変化になんとか対応しようと手を打っています。そして、その手段が非常に悪かったというわけでもありません。では、どうして職場は「どんより」してしまったのでしょうか?
これが“リモートワーク時代”の落とし穴です。
これまでであれば、電話をするのも、メールを送るのも「職場」です。当然、その行為も結果も皆の知るところになります。ということは、うまくいったことも職場の人に知られることになります。例えば、電話やメールをして医師とうまく意思疎通ができたら、「すごい!」とか「どういうメール送ったの?」といった自然なフィードバックが得られ、その結果、自然と手応えや成長実感を得ることができていたのです。
しかし、リモートワーク時代には、この「自然と仕事の手応えや成長実感を得る機会」が非常に少なくなりました。メンバーは自己肯定感を持てず、不安状態にあるといえます。そのような状態のメンバーが、できない原因・理由を聞かれれば、「問い詰められている」と感じ、「自分はやっぱり仕事ができないんだ」という負のスパイラルに入ってもおかしくはありません。
エピソードの顛末
悩みに悩んだAさんは、同僚マネジャーに相談しました。そこで言われたのは、「俺はとにかく褒めまくっているよ。例えば、電話で医師と話しただけでも、わざと『すごい!』と大きな反応を示して、ミーティングでも殊更持ち上げて。こういう環境だからこそ、あえて盛り上げないと」
そこで、Aさんも「どんな小さなことでも褒めようと考えました。とにかく、お客様からメールの返信が来ただけで喜ぶことに決めました」と言います。
「しばらく続けていたら、メンバーから『メールの返信が来た!』とか『自分はこんな相談をもらえた!』という話が上がるようになって、少しずつお互いがやっていることが話されるようになりました。そこで『みんなの“小さな工夫”をチーム内で共有しようよ』と話してみたところ、『こんなプレゼン資料を作ったら、担当医師が○○で悩んでいることが分かった』というような報告がされるようになり、そのうち『だったら、こんなミニ展示会をやってみたらどうだろう?』といった提案も出てくるようになりました。来期から『メンバー発の企画を1カ月に1つ、みんなでやる』ことがメンバーの発案で決まりました」
さて、このエピソードから何を学びますか?
<図表>マネジャーの現実前提
リモートワークになり、メンバーと会う機会は相当減っています。
元来、マネジャーには時間の限界×能力の限界×認識の限界があるといわれています。そして、この限界はリモートワークになったことにより、ますます大きくなってきています。
そうした限界を補う1つの工夫が「定点観測―予め見つめる場面を決めておく」ことです。
先程のエピソードでも、Aさんは「メールの返信」だけは見逃さないと、着眼する場面を予め明確に定め、そこを起点にメンバーの動きを認めることにしました。その結果、徐々にメンバーからも発言が出てきて、最終的にはチームで難度の高いテーマを実践しようというチームワークまで生まれることにつながりました。
予め定点を決めておくことで、
・忙しいマネジャーもメンバーの小さな変化に気づき、その変化を見逃さなくなります
・そうした行為の積み重ねが、メンバーにとってマネジャーに見てもらえているという安心感を生みます
・また、定点を起点にしたフィードバックをもらうことで、メンバー自身が自分の行動を定点観測できるようになっていきます
・そうなると、定点を起点に、自らの小さな成功/成長に自ら気づくことができます。これは自律的な成長につながる好循環を生む最初の一歩です
・さらに、この定点がメンバー同士のなかに浸透すれば、チーム内で相互研鑚のサイクルを回すことにつながります
下記は、リモートワーク下で観測する定点の例です。参考にしてみてください。
・オンラインミーティング/1on1での最初に、言葉を発してもらえるか(営業部門)
・オンラインミーティングの長さ(営業部門)
・日報を書かせたときのその内容(営業部門/開発部門)
・ミスをした直後のミーティングの様子(開発部門)
等々
忙しく、空間的にも一緒にいられないリモートワーク時代だからこそ、予め見つめるべきところを定めておく―定点観測をマネジメントの中心に置いてみませんか?
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※本稿は、オフィスのミカタへの寄稿記事より転載・一部修正したものです。
バックナンバー
第1回 リモートワーク下の“職場” 変わったこと/変わっていないこと
第2回 安心感の土壌をつくる
第3回 メンバーの持ち味を味わう
第4回 メンバーの持ち味を味わう -ベテラン社員について考える
第5回 チームワークは土台づくりから
執筆者
技術開発統括部
コミュニケーションエンジニアリング部
エグゼクティブコミュニケーションエンジニア
河島 慎
1975年生まれ、三重県出身、 1998年、電機メーカーへ入社、人事・総務を約8年経験。
2004年、リクルートマネジメントソリューションズへ入社。以降、コミュニケーションエンジニアとして、人材価値経営(人・組織のもつ潜在的な可能性の最大化による事業価値最大化を図る経営)実現を支援している。
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