- 公開日:2023/04/17
- 更新日:2024/05/16
前回までは、「マネジャー対メンバー」の1対1の対応についてお話ししてきました。その核心は、「マネジャーとメンバーである前に、人と人としてのコミュニケーションを楽しんでほしい」ということです。リモートワークになり、メンバーと接する機会は目に見えて減っています。貴重な接点を生かすうえでも、マネジャーの方々があらかじめメンバーと関わる際の姿勢を固めておいていただきたいと思います。 さて、今回のテーマは「チームワーク」です。第1回でお話ししたように、リモートワークが増えた職場においてもっとも失われたものが横のつながりです。メンバー同士がつながる機会が減るなかで、チームワークについてどう考えていけばいいのかを見つめてみたいと思います。
“業務分担したら、つながりも分断された”
今回の舞台は、あるメーカーの商品マーケティングを担うチームです。メンバーは5人、全員が入社3~5年目と若手です。商品ごとの販促策のコンセプト原案づくりから営業への発表・共有、施策の実施支援までが仕事です。
コロナ禍と同時に原則リモートワークとなったので、これまでの案件ごとに担当者をアサインしていく方式から、商品ごとに担当者を明確に決める形にしました。業務分担がはっきりしたこともあり、比較的順調に業務は回っていました。
想定外のことは、メンバー同士の関わり合いが減ったことです。これまでなら、メンバー同士で自然と“あの案件のこと教えて”とか“あの資料見せて”といった関わりや、納期が遅れそうになったらお互いのフォローなどがあったのですが、そのような動きが見られなくなりました。そして、そのしわ寄せがすべてマネジャーに来たのです。お互いの案件の状態が分からないので、マネジャーとの1on1で他の人の状況を伝えたり、現状を共有したりしなければなりませんでした。
それだけでも大変でしたが、頭が痛いのは、メンバー同士の不満や文句などを聞かされることでした。「Aさんはちゃんと仕事をしているのですか?」が一番多い不満でした。Aさんは入社3年目でこの部署に異動してきたばかりの人で、以前から業務の進め方が多少おぼつかないところがあり、メンバーの皆さんにとっても不安の種だった人です。
マネジャー・メンバー それぞれの立場に立って考えてみましょう
このエピソードでは、これまで行われていたメンバー同士のフォローが減り、負担がマネジャーに集中しています。
メンバーの立場に立って考えたときに、何を感じられるでしょうか?
やはり、リモートワークになったことで、“他のメンバーが何をやっているか見えない”、かつ“声をかけるタイミングがない”ということでしょうか。私がメンバーなら、あまり他の人のことに意識・関心が向かないと思います。在宅で自分の担当業務を進める限り、他の人がどうしていようとあまり関係ありませんので、不満をマネジャーに訴えることもないでしょう。そうやって考えると、このメンバーはなぜ不満を口にしたのでしょうか? もしかしたら、他の人はどうしているのだろうかという興味や1人で業務を進めることへの不安の表れかもしれません。
では、マネジャーはどうしたらいいのでしょうか?
先ほど私が想像したことは、正しいかどうかは分かりません。でも、他のメンバーに不満を感じているということは、メンバーはお互いに関心があるのかもしれないと感じられるようであれば、そこを信じて関わってみるのはいかがでしょうか。
エピソードの顛末
まず取り組んだのは、全員が集まる時間をつくり、お互いの案件の進捗状況などを共有したことです。それだけでもメンバー同士の関わりが生まれるようになりました。各自の案件の進捗状況が共有されるようになり、資料の共有なども行われるようになりました。ただ、まだお互いの案件にアドバイスやフォローをするという状態ではありませんでした。
そこで思い切って、Aさんの担当商品の販促策に関する営業へのプレゼンについて、その資料とプレゼンの内容をメンバーみんなで考えてほしいと全員に依頼してみました(このような仕事は、これまではすべてマネジャーが担当していました)。
反対されると思っていましたが、メンバー全員が快諾してくれました。
その日から、メンバー全員がオンラインで時間をつくってプレゼン内容やその発表の仕方・話し方を考えるようになりました。お互いの案に厳しい意見を伝えたり、なかなかうまくプレゼンできないAさんにも率直に指摘をしたりとこれまでとは打って変わった雰囲気で進んでいきました。
見ているうちに、企画を立てるのが上手な人、資料づくりが上手な人、重くなりがちなミーティングのときに皆を盛り上げるのが上手な人など、これまで何となく感じていたメンバーの持ち味にあらためて気づくこともできました。周りのメンバーにこれ以上迷惑をかけたくなかったようで、Aさんからの申し出がありメンバーには内緒でプレゼンの練習にも付き合いました。Aさんの向上心というか、諦めない思いにも気づくことができました。
結果、プレゼンもそれなりに形になったのですが、それよりも、メンバーのそれぞれの持ち味を感じられ、その後も他のメンバーの案件に対してアイディアを出し合ったり、プレゼンも自分たちで実施しようと提案してきたりと、全員で動いてくれるようになったことが大きな成果です。
さて、このエピソードから何を学びますか?
リモートワークが増え、チームワークづくりは本当に難しくなりました。それでもこのエピソードのようにチームワークをうまくつくれた職場もあります。そのポイントは何でしょうか?
情報共有の機会をつくる、みんなが関わるような仕事機会を作り出す……今回、マネジャーが行った“行為”はそれになりますが、単にその行為をやればいいというわけではなく、その手前の姿勢にポイントがあります。
(1)マネジャー自身が、チームワークがある職場を欲する・志す
メンバーから出た他のメンバーへの不満を、文字通り不満と捉えるか、交流できていない不安と捉えるかによってその後の対応は全く異なります。その分かれ目はマネジャー自身がチームワークある職場を志しているかどうかに尽きるでしょう。チームワークをつくりたいとも思っているからこそ、メンバーの一言に反応できるということです。
(2)マネジャー自身が、メンバーの交流を楽しむ・味わう
マネジャー自身が、プレゼンがうまくいくかどうかよりメンバーの持ち味を味わったり、練習に付き合ったりと一緒になって楽しんでいる様子が目に浮かびます。マネジャー自身が交流を楽しむ姿勢で接しているので、メンバー同士もお互いの考え方・持ち味を味わうことができたのでしょう。
(3)メンバーの交流の欲求を感じたら即対応する~機会はいくらでもある
リモートワーク時代となり、これまでのように何かあったらすぐに顔を合わせて、という対応はなかなか取れません。その点ではチームワークづくりは非常に難しくなったように思います。一方で、このエピソードのようにマネジャーが意識すれば実は機会はまだまだあります。
以下に、私が実際にお聞きしたマネジャーの方々の実践事例を掲載しておきます。
参考にしてみてください。
・メンバーと1on1をしているときに、別のメンバーのことについて話してくれたら、まず“他の人のことをよく見ている”とほめる。その後、話に上がった人にもフィードバックしてあげる。続けていると、メンバー同士で話すようになった。
・月2回ほど出社日を設け、その日のランチはみんなで一緒に行って雑談することにした。メンバーからは好評で“ちょっとしたことで電話やメールをしていいのかが分からなかったので、こういう場が欲しかった”と言われた。
・Teamsのチャネルに業務用とは別に雑談チャットをつくって、とにかく何でも書き込めるようにした。
・“いいこと報告チャット”グループをつくって、どんな些細なことでもいいので良いと思ったことを報告してもらった。それを見たメンバーが、お互いに賞賛したり、アドバイスしたりし始めた。
・オンラインミーティングの最初の30分はメンバーに内容・進行をすべて任せた。“全員が参加できることをやる”ことを唯一のルールにしたら、ゲームをやったり真面目な討論になったりと担当するメンバーによって内容が変わるのが、個性が出ていてまた面白い。
(4)徐々にチームワーク機会の難度を高めていく
最初から「Aさんのプレゼン資料のレベルとプレゼン力の向上」を依頼していたらメンバーは賛同したでしょうか? おそらくNoでしょう。“それはAさんの仕事ではないですか”といった反応が返ってきたと思います。情報共有から始めていったことで“一緒にやるのは面白い”とチームワークの効力を実感し、“もっと難度の高いテーマに取り組んでみたい”と感じ始めたタイミングだったので賛同が得られたのだと思います。
(5)チームワークは土台づくりから
いきなり重い荷物は載せられません。まずは土台をつくることが大事になります。
下図では、チームワークの段階を3つに分け、その内容をまとめてみました。
<図表>チームワークは人間レベルの土台づくりから
この図に照らしたときに、皆さんの会社・職場のチームワークはどのレベルにあるか、一度確認してみてください。
こういう環境変化の時代です。お互いが感じていることを話し合える、レベル3のチームワークを目指して取り組んでみてください。
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※本稿は、オフィスのミカタへの寄稿記事より転載・一部修正したものです。
バックナンバー
第1回 リモートワーク下の“職場” 変わったこと/変わっていないこと
第2回 安心感の土壌をつくる
第3回 メンバーの持ち味を味わう
第4回 メンバーの持ち味を味わう -ベテラン社員について考える
執筆者
コミュニケーションエンジニアリング部
エグゼクティブコミュニケーションエンジニア
河島 慎
1975年生まれ、三重県出身、 1998年、電機メーカーへ入社、人事・総務を約8年経験。
2004年、リクルートマネジメントソリューションズへ入社。以降、コミュニケーションエンジニアとして、人材価値経営(人・組織のもつ潜在的な可能性の最大化による事業価値最大化を図る経営)実現を支援している。
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